歌歌う歌歌い
歌歌う歌歌い、俺の声
優しさも怒りも全部のせ
音の中で生きていく
俺はラッパー、叫びながら歌う
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あの夜から数週間。
響は地下室に戻らなかった。
代わりに、スタジオに通い詰めていた。
プロのエンジニアとともに、《叫歌》シリーズを正式な音源として再構築していた。
ラップとメタル。
語りと咆哮。
優しさと怒り。
すべてを混ぜた“響の音楽”が、ついに形になろうとしていた。
タイトルは《歌歌う歌歌い》。
それは、響が自分自身を肯定する言葉だった。
ラッパーでも、メタラーでもない。
ただ、歌を歌う歌歌い。
叫びながら、誰かの心に触れようとする者。
リリース当日。
SNSは騒然となった。
「ついに正体を明かした」「あの声はやっぱり響だった」
賛否はあった。
「裏切られた」と言う者もいた。
でも、それ以上に多くの人が、彼の“矛盾”に共鳴した。
そして、ライブの日が来た。
場所は、あのスタジアム。
かつて“仕事”として笑顔を貼りつけていた場所。
今度は、“自分の音”で立つ。
ステージに立つ響は、マイクを握りしめる。
観客は静かに彼を見つめていた。
イントロが流れる。
ギターの歪み、ドラムの鼓動、そしてラップのビート。
そのすべてが、ひとつに溶け合っていく。
「Yo、俺はラッパー、でもそれだけじゃねぇ」
「叫びたい夜も、優しい朝も、全部俺だ」
「歌歌う歌歌い、ここにいる」
「ジャンルじゃねぇ、これは俺の命だ」
観客が一斉に拳を突き上げる。
涙を流す者、叫ぶ者、ただ黙って聴き入る者。
そのすべてが、響の音楽を受け止めていた。
ライブの最後、響はマイクを置かずに語った。
「俺は、ずっと自分を分けてた。昼と夜、ラップとメタル、笑顔と叫び」
「でも、もう分けない。全部、俺だ」
「音楽って、そういうもんだろ?」
「誰かの心に届くなら、それが正解だろ?」
拍手が鳴り止まなかった。
その音は、かつての“沈黙”を塗り替えるように、響の胸に響いた。
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数ヶ月後。
響は音楽学校の講堂で、後輩たちに向けて語っていた。
「君の声は優しい。だからこそ、叫べることがある」
「音楽は、誰かの期待に応えるものじゃない。君自身を生きるためのものだ」
講堂の片隅で、かつての自分のように俯いていた少年が、そっと顔を上げた。
響は笑った。
もう仮面はいらない。
彼は、歌歌う歌歌い。
叫びながら、歌い続ける者だ。




