メタルの夜、ラップの朝
夜は地下でギターが唸る
叫ぶ俺に誰も気づかぬ
朝になればDJブース
「盛り上がってこうぜ!」ってスムース
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風間響の夜は、誰にも知られていない。
地下室の扉を閉めると、彼はもう“ラッパー”ではない。
ギターの歪み、ドラムの爆撃、マイクに乗る咆哮。
それは、昼間の笑顔とは正反対の“本音”だった。
響は、音楽を使って自分を分裂させていた。
昼はラップ。明るく、軽快に、観客を盛り上げる。
夜はメタル。怒りと孤独を吐き出す、誰にも見せない叫び。
その二重生活は、彼にとって“生きるための手段”だった。
《叫歌》という名でネットにアップした音源は、思いがけず反響を呼んだ。
再生数はじわじわと伸び、コメント欄には「この声、刺さる」「誰だか知らんけど天才」といった言葉が並ぶ。
響は震えた。
誰かが、自分の“叫び”に共鳴している。
でも、それを“自分の声”だとは言えない。
言った瞬間、昼の自分が壊れてしまう気がした。
翌朝。
スタジアムのDJブースに立つ響は、いつも通りの笑顔を貼りつける。
「Yo!今日も最高の一日にしようぜ!」
観客は歓声を上げ、子どもたちは手を振る。
響はその中心で、完璧な“陽キャ”を演じる。
でも、心の中では《叫歌》のコメントを何度も読み返していた。
その日、スタジアムの控室で、同僚DJのリョウが話しかけてきた。
「なあ響、《叫歌》って知ってる?最近バズってるメタル音源。あれ、マジでヤバい」
響は、喉の奥が詰まる感覚を覚えた。
「…知らない。メタルはあんまり聴かないから」
そう言って笑ったが、心臓はバクバクと鳴っていた。
リョウは続けた。
「俺、あの声、どっかで聴いたことある気がするんだよな…」
響は、笑顔を保ったまま、視線を逸らした。
その瞬間、スタジアムのスピーカーから《叫歌》の一節が流れた。
観客の誰かがスマホで流していたのだ。
「ぶっ壊せ、燃やせ、黙るな」
その叫びが、昼の世界に侵入してきた。
響は、DJブースのマイクを握りしめた。
「さあ、次の曲いくぜ!盛り上がってこう!」
声が少しだけ震えていた。
その夜、響は地下室で新しい音源を録音した。
タイトルは《叫歌・弐》。
前よりも、少しだけラップのリズムを混ぜてみた。
叫びと語りが交差する、新しいスタイル。
それは、響自身が“自分の声”を探す旅の始まりだった。




