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本の紹介14『虚無への供物(上・下)』 中井英夫/著

作者: ムクダム
掲載日:2025/10/06

謎を求めることの意味を突きつける反推理小説

 日本推理小説における三大奇書の一つに挙げられる作品で、「アンチミステリィ」や「反推理小説」とも称されています。読む前はメタフィクション的、楽屋落ち的な作品かと思っていましたが、いざ読んでみるとその予想は外れました。読了後に、確かにこれは「反推理小説」だと得心がいきました。

 本作の言わんとしていることは、普段あまりミステリィを読まない人にはピンと来ないかもしれません。ある意味では至極真っ当な感覚が描かれているからです。ミステリィにどっぷり浸かり、ミステリィ的なお約束ごとに慣れ切ってしまった人ほど、冷たく鋭い刃を突きつけられたような気持ちを味わうことになるかなと。

 私はミステリィ小説を読むのが好きで、一時期は他のジャンルに見向きもしないほど熱中していました。ただ、色々な作品を読み進めていくうちに、名探偵が出てきて鮮やかに事件を解決するようなタイプの作品に苦手意識を持つようになりました。呪われた一族やら、大掛かりなトリックが用意されていたり、一般社会から隔絶された場所を舞台に事件が起きたりするようなタイプの作品ですね。わざとらしさが鼻につくようになったのです。海外作品だとあまり感じないのですが、国内作品でそういったタイプの作品に出くわすと途中で挫折することもしばしばでした。

 とは言いつつも、ミステリィ的な作品は定期的に読みたいという欲求もあり、「反推理小説」と呼ばれる本作なら普通のミステリィとは違った満足感が得られるだろうと期待していました。

 しかし、読み始めるとこれがあまり面白くない。ある一族に起きた連続不審死について、素人探偵を気取った歌手とその友人があれこれ推理合戦をするというストーリーで、まさしく私が苦手とするタイプの作品だと感じたのです。途中、海外から帰国した探偵役の聡明な青年が蘊蓄やら推理やらを披露し出した時は、結末前に挫折するかもという不安が過ったほどです。

 どこが「反推理小説」なのだろうという思いを抱えたまま読み進めていたのですが、終盤になり一気に評価が変わりました。個人的な感覚では全体の8割はつまらない話だと感じていたのですが、それは残り2割を際立たせるの布石だったと理解しました。作者の計算通りに読書を進めていたと言っても良いでしょう。いかにも作り物めいたストーリーや芝居がかった登場人物の造形は、違和感を作るためにあえて選択されたものだと思います。

 事件が起きて、被害者がいて、そこに何らかの不審な点がある。となれば、ミステリィの登場人物たちは謎を解こうと推理を始め、読者も一緒になってあれこれ考え、最後には謎が解き明かされる。多くの作品はそういうお約束ごとを前提に作られていると言って良いでしょう。そのお約束に慣れ切ってしまっているため、何か大切なことを忘れていないかという問いかけが本作の肝かなと思います。フィクションに浸かっている人に横から冷水を浴びせかけるような所業と捉えられかねないものですが、作者の明確な問題意識が終盤の説得力を生み出し、ウケ狙いの出オチ的な作品とは一線を画す出来になっていると言えるでしょう。何はともあれ、まずは読んでみてくださいとしか言えません。終わり


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