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ノリでROM専からめもちょに。
「俺は…」
記憶を思い出そうとすると、頭が痛む。
目の前に映る景色は無機質に白い、ただ白い世界に寝そべっている。
「ここはどこだ?」
答えを探しながら起き上がる。
見渡す世界は変わらずに距離感を掴めないほどに空白が広がる。
「5分前まで…そうだ、少し前までは、誰かと話をしていた」
ここでは無い自分の部屋で、興味もさほど沸かない、誰かと…。
ふと視線を上げると、そこには大きな目があった。
とても大きな「眼」がこちらを見ている。
「やぁ、こんにちは?おやすみなさい?」
声とは思ない音が頭に伝わってくる。
「君はこれから死ぬ、今も死んでいるのと変わらないけれど、確定した報われない死を迎える」
目の前に映る巨大な眼が、俺の終わりを告げて行く。
人事尽くして天命を待つとはこの事だろうか。
「俺は死んだのか?」
思いもしないが、疑問には疑問を掛けて答えを引き出してみようと考えた。
「そう、君はこれから死ぬんだ」
伝わる音からは、変わらずに死亡宣言を降される。
「けれど、君には選ぶことが出来る」
続けて放たれる言葉には首を傾げた。
「君には空いた席に魂の輪廻として、とある令嬢の幸せを見つけるために尽力をして貰いたい」
何を言っているのか、わからない。
「君が住んでいた地球と違う世界であり、私が管理する世界へと、死んだ魂の君が迷い込んできたのだ」
続けて眼は話し続ける。
「本来であるならば、君の精神や知識などは一度この世界で全てを消し去りただの魂へとなり、この世界の次なる生命へと転生していくのだ」
「しかし、私は自分の管理する世界で生きる、ただの人間の娘に目を取られてしまったのだ」
まるで恋をするかのように、と。
「救われる事も無いままにその命を終わらせて、ここで会いたいとは思わないほどに、な」
瞼を少しだけ閉じながら、眼は語る。
「その世界は、そんなにも生きるのが過酷な世界なのか?」
地球とは全く違うのだろうか。
大なり小なり、自我を持って生きて行けば報われなくとも、なんらかの幸福は得られると思うのだが…。
「彼女は生まれた時から、心がとても虚にしか存在していないのだ」
見切り発進よろしく。
応える事が叶うのかはわからない。
それでも俺は答える。
「それも幸せに生きて、死ぬことの一つじゃないのか?誰もが、この世に産まれてきて幸せだと願うのは、自己の押し付けでしか無い」
願う事もあれば、それすらを見つけられずに潰える人生もあるだろう。
人の営みは我を通して進もうと、何も持ち得なくとも、終わるものは終わる。
「今この時に、まさにこれから自分が消えるかの選択であろうとも、俺の答えは変わらない」
決して誰かの為になんて生きるのは馬鹿らしい。
「お断りだ、死にたいなら死ねばいい、消えたいなら消えればいい」
もしも、その人が生きたいと願うなら。
理不尽に飲み込まれてながらも天にも手を伸ばし、掴み取ろうとするのなら。
「心の在処が無いのなら、それは悲しいことだ」
終わる事さえも、自分の意識に刻み込まないのならば。
「救い出してやりたいと願うのは、烏滸がましい事か?」
報われない人生も、救われない人も、寄る辺も無い世界も、飽きるほど見てきた。
どれも手を差し伸べる事も出来ずに、夜には自己嫌悪に陥っては、起きて消えてしまう残りもしない偽物の悲しみばかりだった。
しかし女の子が泣いているのは、許せない。
幸せであって欲しいと、ただ生涯に一つだけ願った相手が、女の子ってだけなんだが。
「君は彼女の事を知りもしない。人形のように言葉を発する事も無い、操られるままの彼女を」
真っ直ぐに単眼と視線が合う。
「初めに、彼女の生きる世界を覗いてみてはくれないだろうか」
「もしも君が声を届ける事が出来たならば、君が望む願いを叶えよう」
こうして俺は彼女とやらの心の中に飛ばされる事になった。
こうして始まる“派遣された人生の幕引きに“侯爵令嬢を報われる旅路にする旅を始めた。
目が覚める前に見た景色を思い浮かべた。
一面に水平線が広がっている、とても美しい世界だ。
妹が、海の中に居る。
まだ私の目に届くところに は、浮かんでいる。
この声が届くかは、わからない。
どうなったって構わない。
喉が痛もうが、呼吸が出来なくなるほど叫び、血の味を口の中で感じる。
手が届く場所が、とても遠い。
走ればまだ届く。
駆け出した足は縺れながらも砂を蹴り上げて、愛おしい一つへと向かう。
水面へと辿り着く頃には、影も見えなくなってしまっていた。
「確かに、この先に はいたんだ、近くにまだいるはずだ」
凝らした景色を、一つも見落とさずに探し続ける。
見つけた。
「沈んでいってる…」
早く引きあげないと…。
もがく様子も無く、ただ沈んで行く だけを見つめ乍、大きく息を吸い込んだ後に海へと潜る。
もう少し、後ほんの少しで手が届く。
…
「あの子だけでも、助けてください」
沈み行く を目に焼き付けながら泳ぎ続ける。
「 が居なくなったら、本当に一人になっちゃう…」