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Gehenna-ゲヘナ-  作者: Filmrêve(フィルムレーヴ)
Blood Berry
9/104

1話

オルドの記録書

コードネーム:ルアンダ

都市部の大通りの裏の道。

不気味で暗いそこは治安が悪く、飲んだくれやホームレスが座り込んでいたり、ゴミが散乱したりしていて、ネズミの姿も数匹確認できる。


商店街のはずなのにその殆どがシャッターで閉ざされていて、そこには色とりどりの落書きがされている。


その中に赤いスプレーで小さく描かれた、イチゴの落書きを見つけたらノックしてみて。

もしあなたが胸に特別なバッチを着けていたのなら、小さなそのシャッターは不思議と開くでしょう。


そこには地下への道が続いている。

小さな電球が数個あるだけの薄暗い階段を降りると、看板の無いお店が現れる。

中に入ると地上の治安の悪さなど微塵も感じさせないほどお洒落で静かな酒場が広がっている。

雰囲気漂う仄暗い灯りに、蓄音機からは小さくクラシックが流れていて、店主のお酒を作る音と共にその酒場を飾っている。


注文は全てカウンターで受け付けていて、席に着くと店主がメニューを一枚持ってくる。

様々な種類のお酒があるけれど、その中でイチゴのカクテルがあるのならそれを注文するといいわ。

そして、こう言うのよ。


「ストロベリーモヒートくださる?」

「...かしこまりました」

「それと、苺の種類は選べるかしら?」

「...はい」


すると、店主は番号のついた小さな鍵を持ってくる。


「...8番の部屋へどうぞ」

「ありがとう」


それを持って奥の部屋に行くと、数字の書かれた部屋が幾つかあって、渡された鍵の番号と同じ数字の部屋もある。


鍵を開けて入ると部屋の真ん中に電球が一つだけついていて、それに照らされて机とその上に一つのファイルがある。

ファイルを開くと沢山のページがあるけど、どのページも白紙で何も書いていない。


しかし、部屋の電球を消して、専用のライトを当ててみると、白紙のファイルに文字が浮かび上がる。

そこには様々な人の名前と詳細、他にも数字と金額などが書かれている。


その中をペラペラとめくって確認していき、気に入るものがないか探す。

金額の大きさに伴って内容も難しくなっていて、失敗は決して許されない。


あら、これ中々良い報酬じゃない。

内容も...アタシなら余裕ね。


気に入ったものがあれば、その数字を確認して部屋を出る。

先程のカウンターへと戻り、店主に鍵を返しながら伝える。


「85番の苺で」

「...かしこまりました」


すると、店主は慣れた手つきでカクテルを作り、出来上がると、封筒と一緒に差し出される。


「...85番のストロベリーモヒートです」

「ありがとう」


飲まずに封筒だけ取っていく人もいるけど、マナーとして飲んだ方がいいわ。

それに、ここのカクテルは最高に美味しいからね。


飲んだら代金は要らないわ。

長居もここじゃ野暮だから、封筒を持ったら直ぐに出ることね。


「ご馳走様」

「...またのお越しを」


店を出て封筒の中身を確認すると、先程のファイルよりも更に詳しい情報と、数枚の写真が入っていた。


『Blood Berry』

殺し屋たちの集う酒場。


ここは物騒な国よ。

だから、月も隠れる夜には出歩かない方がいいわ。

特に暗い道や人通りのない道なんかわね。

あなたがもしイチゴとして登録されていたのななら、たちまち狩られてしまうわよ?

あら、噂をすれば...。


酔っ払ってふらつく男が一人。

ご機嫌そうに鼻歌を口ずさみながら、街灯に向かって寄りかかっている。


これが大手企業の重要取締役員?

スーツも縒れて台無しじゃない。

でも、これなら下調べの時間もいらないわね。


男が楽しそうに街灯相手に歌っていると、暗闇に佇む一人の女の姿に気がついた。

目を擦り再び確かめると女はやはりそこにいる。

どうやら幻覚ではないようだ。


視線に気づくと女は艶やかな笑みを男に向かって浮かべた。

男はそれに気分を良くして女の方へと近づくが、女は弄ぶかのように高らかとヒールの音を鳴らして、暗闇の方へと姿を消す。

それを見て逃してなるものかと男も慌てて暗闇へと入り込んだ。


「かわい子ちゃ〜ん、どこ行ったの〜?」


ふざけて歌うように呼びかける男。

酒の次は女を引っ掛けるつもりだろうか、ニタニタと下心丸出しの笑顔で女を探す。

しかし、いくら探しても女の姿はどこにもなく、先程のヒールの音もすっかり消えていて、沈黙だけが男に答える。


千鳥足で覚束無い男の歩くその道は街灯一つもない暗い細道で、人の気配もなく、不気味な雰囲気が漂っている。

男は少し怖くなったのか引き返そうとしたが、その背後に音もなく先程の女が姿を現した。


女は片手で男の口を塞ぎ、もう片方の手に握られたナイフで男の首を掻き斬った。

男は声一つ上げることなく息絶えると、そのまま地面へと倒れ伏した。


「ほら、言った通りでしょう?」


女は死体に向かってそう言った。

その声は紛れもない男性の声だった。


アタシは夜の暗殺者。

その美貌で人を誘惑し、騙し、殺す。

アタシが踊る夜には月さえ恥じらいその姿を隠す。


ふと倒れ込んだ男の指を確認して何もついてないことに気がつくと、コートや鞄の中を漁った。

すると、ジャケットの内ポケットに幾つかの指輪が入っていた。


呆れた...こいつ何股してるのよ。

酔っ払って美人について行っちゃうような男に惚れる女達って一体どんな子なのかしら?

まぁ、知れているでしょうけど。


アタシはそれらを全て取り上げると、自分のポケットへとしまった。


これで依頼完了ね。

新作のヒールでも見てから帰りましょうか。


そんなことを考えながら、アタシは再び高らかにヒールの音を鳴らし、夜の闇へと姿を消した。


この暗闇こそがアタシの生きる世界だ。

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