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Gehenna-ゲヘナ-  作者: Filmrêve(フィルムレーヴ)
蛇念
82/104

4話


「ドリームワールドとは、その名の通り、夢の世界。特殊な石の力によって開かれる異空間だ。自分の思うがままに夢を描くこともできれば、トラウマや恐怖などの悪夢に狂わされることもある。夢と表現したけど、ここでのことは現実にも作用する。怪我を負ったり死んだりすれば現実でも同様になるし、惑わされたり、自分を見失えば一生出ることはできない」

「特殊な石の力って?」

「その説明がめんどいからそう言ったんだけど」

「あのねぇ...君、本当に説明する気あるのかい?」

「うるせぇな、お前が質問多過ぎんだよ」

「仕方ないだろう、私はここについて何も知らないんだから」

「俺だって全部分かるわけじゃねぇし!っていうかここどこ!?出口どこだよ!!」


文句を垂れながら不機嫌そうに前を歩いて行く白髪の男。

私はそんな彼を見てため息をこぼしながら、窓の外に広がるあやめ色の空を見てポツリと呟いた。


「本当に...どこなんだろうね...」


女の姿をした化け物達から逃げおうせた私達は、一時の協力を交わし、再び歩き出した。

しかし、飛び込んだ扉の先にはまた別の空間が広がっていた。


先程のビル街とは打って変わった開けた場所。

同じものと言えば不思議な色の空ぐらいで、果てしなく広がる砂地に、チラホラと置かれた遊具、真ん中には大きく不気味な校舎がそびえ建つ、学校のような場所だった。


分かりやすいほど誘い込もうとするその校舎の存在に、私達は初めそれに入らずに出口を探そうと思ったのだが、どれだけ歩いても校舎から離れることができず、仕方なくその中へと入ったのだった。


不本意ながらも協力することとなった白髪の男カラレスは、知れば知るほど謎めいていて、腹立たしい人物であった。

歩く途中、彼のことやこの場所のことについて色々と尋ねてみたが、返答はどれも適当かつ意味不明なものばかりで、全く何の役にも立たず、苛立ちばかりが募っていった。


口を開けは双方噛みついてしまい、会話のほとんどが成立しない。

私は彼との協力が本当に必要であったか、少し懐疑的になりつつも、しばらく様子を見ようと大人しくしていた。

そして、それは彼もどうやら同じのようで、彼は時折、片目でこちらを刺すように睨んでいた。


そんなぎこちない雰囲気が続く中に、長い長い廊下を延々と歩いていると、ふと、男のこぼした愚痴が耳に入ってきた。


「事務も適当な仕事ばっかしやがって!何で俺がこんな『お荷物』と一緒にいなきゃなんねーんだよ!」

「聞き捨てならないね、誰が『お荷物』だい?」

「あ"?お前以外に誰がいんだよ」

「化け物には捕まって、ロクな情報も提供できなくて、口を開けば文句と愚痴しか吐けないような人に『お荷物』なんて言われる筋合いはないけど?」

「...やっぱお前嫌いだわ!」

「私も大嫌いだよ、君のように野蛮な人間は特にね」

「俺のどこが野蛮なんだよ。部屋に死体置いたり、化け物相手に肘鉄したり...お前の方が余っ程おっかねぇじゃん」

「失礼、君は野蛮なだけじゃなくて無神経だったね」

「はぁ〜??」

「何にせよ、彼のことを虐めた君は大嫌いだよ」

「彼ってあの蛇のこと?やっぱりあれお前が飼ってんの?」


カラレスという男はそう言いながら、持っていた携帯を取り出して操作を始めた。

その姿は明らかに人の話を聞くような態度ではなく、私はそんな彼に対して呆れた声で返事をした。


「...別に飼ってるわけじゃない」

「は?じゃあなんで怒る必要あんだよ。お前のペットじゃないなら関係ねぇじゃん」

「ペットなんかじゃない、彼は私の...」


そう言いかけた時、私はピタリと歩みを止めた。

前を歩いていた男は手元の携帯に気を取られ、しばらくそのまま進んでいたが、口篭る私に苛立ち始めたのか、ため息混じりに振り返った。


「蛇はお前の...何?そのさ、言いかけてやめるのマジでウザイ!言うならハッキリ最後まで言えよ」

「...ま...前...」

「あ"?」

「...前を見ろ...」

「前ってなん...」


そう言って前を向いた男は、廊下の先に見えた光景に、私と同じように言葉を失って固まった。


半袖を着た腕白そうな男の子。

昔ながらの戦隊ヒーローの描かれたTシャツに、膝小僧に貼られた絆創膏、少し汚れた上靴を履いた、どこにでもいる普通の小学生。

しかし、その頭は普通とはかけ離れていた。

少年の頭部は人間の頭の形をしておらず、頭の代わりに大きな口が乗っかっていて、ビル街で見た女性たち同様の化け物そのものであった。


口に見つめられるというおかしな状況に硬直していると、カラレスという男が恐る恐る口を開いた。


「...おい、ゆっくり後ろに下がるぞ」

「下手に動かない方がいいんじゃないかな?」

「じゃあここのまま一生あの口とにらめっこするのか?俺は絶対嫌だからな」

「...分かったよ...このまま静かに下がってみよう」


そうして声を潜めて話をすると、私と男はゆっくりと一歩後ろに下がった。

声も揃えていないのにピッタリと同じ動きをしながら。

しかし、それに合わせて口の頭をした男の子も、同じように一歩私達の方へと進んできた。


私達はそれを見て今度は話し合うこともせず、直ぐさま後ろに振り返ると、勢いよく走り出した。

その瞬間、廊下に並んだ教室の扉が一斉に開き、中から沢山の生徒らしき少年少女が出てくると、廊下に立っていた男の子と一緒になって追いかけて来た。

勿論、彼らの頭部は人間のそれではなく、異様な大きさの口だけが乗っかった化け物であった。


「ふざけんな!多過ぎだろ!」

「口より足を動かせ!追いつかれるぞ!」

「うじゃうじゃ湧いてきやがって!ゴキブリかよ!」

「ゴキブリの方がまだマシだよ!」


逃げ惑いながら私達は飽きることなく言い争う。

しかし、そんなことをしている暇などは当然なく、逃げれば逃げるほど化け物達は数を増やし、廊下が彼らに占領されるのも時間の問題であった。

そんな絶望的な状況を打破するために、隣を走る男がある賭けを提案してきた。


「おい!この先の階段で二手に別れるぞ!」

「何か策があるのかい!?」

「この数を一気に片付けるには分が悪過ぎる!俺が上!お前が下!二手に別れて数を減らす!」

「その後は!どうする気なんっ...」

「階段来たぞ!お前下な!間違えんなよ!」


男の曖昧な作戦に異議を申し立てようとしたが、そんな時間もなく、あっという間に階段までたどり着いてしまい、大きな不安を抱えたまま、私は男の提案通りに動くしかなかった。


廊下の突き当たりを曲がり、階段を前にすると、私達はこれまた息ぴったりとなって二手に別れた。

しかし、化け物達も頭が悪くないようで、大群となった彼らも同じく二手に別れて追って来た。

お世辞にも状況が良くなったとは言えず、どうするつもりかと叫ぼうとしたその時だった。


...ガシャンッ...ガダンッダンッ!


突然、上の階から大きな物音が鳴った。

それと同時に化け物達が上から雪崩のように落ちてきて、よく見ると彼らと共に椅子や机が上から降っていた。


何が起きたのか分からず、止まりそうになったのも束の間。

上から落ちてきた化物達はムクリと立ち上がると、今度は私の方へと向かってきた。


「...っ...!」


私は息をつく暇もなく、一目散に階段を駆け下りた。

そして、階段上から響き渡る笑い声に気がつき、ふつふつと怒りが湧いてきた。


「負ける賭けなんかするわけねぇだろ!このバーーーカ!精々頑張って外まで逃げるこったあな!」

「...このクズ野郎が!!」


悪態を吐きながらも、男の言う通り外に向かう他なく、私は湧き上がる怒りを足の力に変えて、全力で走り続けた。

しかし、外に出たところで解決策など勿論なく、果てしなく広がる校庭に化け物達と共に絶望が押し寄せる。


走っても走っても前に進めない無限地獄。

私は意を決して振り返り、化け物達相手に一矢報いようと腹を括った。

すると、校舎の屋上に立つ一人の男の存在に気がついた。


あやめ色の空を背に目を見開いて立つ男。

彼が手をこちらに向けた瞬間、大きな衝撃音と共に化け物達が一斉に倒れていった。

突如として放たれた不思議な力。

よく目を凝らすと透明な結晶のようなものが煌めいていて、それらは化け物達の全身に突き刺さっていた。


「負ける賭けなんかしねぇって言っただろ?」


ポカンとする私に白髪の男は得意げにそう言った。

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