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Gehenna-ゲヘナ-  作者: Filmrêve(フィルムレーヴ)
蛇念
81/104

3話

身を包むほどの激しい煙が治まり、目を開けると、そこには謎の空間が広がっていた。


紫とピンクが混ざったような艶やかな印象を受ける空に、高々とした灰色のビルがいくつも建ち並び、色とりどりの電飾が案内板をしていたが、文字の様な形をしているだけで読めるものは一つもなかった。

先程までいた場所とは大違いなのは勿論、こんな現実離れした場所を見たのも生まれて初めてだった。


何が起きたのか分からず、困惑して辺りを見回していると、少し先で誰かが叫んでいるのを見つけた。

私は咄嗟にその声がする方へと駆け寄ったが、それが誰かを理解して直ぐに後悔した。


「だぁー!もう!最悪なんだけど!」

「...何だ...君か」

「あー!お前!おい、これ閉じろよ!」

「閉じろってどういう...ここが何か知っているのか?」

「は?お前が開いたドリームワールドじゃないの?」

「ドリームワールド?」


首を傾げて聞き返す私を見て、白髪の男は面倒くさそうに頭を搔いた。

そして、しゃがみこんでいた彼は勢いよく立ち上がると、何やらブツブツと言いながら歩き出した。


「...こいつじゃないなら、あの場にいたのは...いや...学校規模で考えた方がいいかもな...だとすると...誰かと言うより混じりあったのか...」

「ちょっと、どこへ行くんだい?」

「ここから出るんだよ」

「出るって...まずはこちらの質問に答えてくれるかな?」

「うるせぇな、お前のことなんか知るかよ。向こうに行くなり、突っ立てってるなり、好きにしろ」


男はそう言って、苛立った様子で再び歩き出した。

それを見て、彼との会話は不可能だと直ぐに悟った私は、問い掛けることを諦めて、無言で彼の後をついて行った。


しばらく歩くと、男が歩みを止めて口を開いた。


「...何でついて来んだよ」

「君の言った通り、『好きにしている』だけだ」

「は?」

「どうやら君はここに詳しいみたいだ。私に構わず、好きに出口を探していればいい。私はそれに便乗してここを出る」

「何でお前のいいように使われなきゃなんねーんだよ!」

「いいようになんて使ってないさ。どちらも『好きにしている』だけなんだから」

「お前嫌いだわ!」

「奇遇だね、私も君が嫌いだ」


言い合う二人の間にバチバチと火花が散る。

出会って間もないというのに、ここまで不仲になるのも中々珍しいものだ。


そうして睨み合っていると、突然視界のすみに一人の女性の姿が映った。


金髪の派手な長髪をクルクルと巻いた女性。

彼女は目元が隠れてよく見えなかったが、ふっくらで真っ赤な唇をした絶世の美女そのものであり、体付きのよく分かる、下着のような服装をしていた。


愚かな男二人はその胸の膨らみに目を奪われ、言い合いなど忘れて黙り込んでしまった。

女性はこちらに向かって艶やかに微笑むと、二人の腕を掴んでグイグイと引っ張った。


私達はそれに促され、満更でもない様子でついて行くと、建ち並ぶビルの中へと誘われた。

そして、扉を開いた先に広がる景色を見て、私達の腑抜け顔は一瞬にして凍りついた。


部屋の中には、腕を引かれた女性と同様、美しい見目に、際どい服装をした沢山の女性達が私達を出迎えてくれていたのだが、その口は大きく裂けていて、獣のような鋭い牙が涎でギラギラと輝いていた。


唖然とする私の腕に先程の女性が絡みついてくる。

私はそれに動揺して咄嗟に彼女を突き飛ばすと、彼女の髪が揺れて、その下の顔がハッキリと見えた。


何もかも完璧な美女...しかし、その顔には目がないのだ。

彼女はそれを見られると、部屋の中の女性達と同様に、小さな口を耳まで裂いて、ニッコリと恐ろしい笑みを浮かべた。


出会って直ぐに犬猿の仲となった私と男だったが、その時ばかりは二人とも仲良く同じ考えだったようで、私達は同時にクルリと向きを変えると、勢いよく逃げ出した。


「やっば!なんだよアレ!」

「なんだよって、君ここに詳しいんじゃなかったのかい!?」

「知らねぇーよ!あんなもん見たこともねぇわ!!」

「はぁ!?」


言い合いをしながらも素早く走り抜ける二人組。

その直ぐ後ろを化け物達が恐ろしい唸り声を上げて追い掛けてくる。

化け物はビルの中から止むことなく出てきて、あっという間に大群となり襲いかかってきた。


その群れから必死に逃げていると、隣を走っていた男に化け物が飛びかかってきた。

彼女達はバランスを崩して倒れ込んだ男を抑え込むと、ズルズルと扉の中へと引きずり込もうとした。


「ちょっと待って!ちょっと待って!何で俺!?」

「さぁ?顔がいいからじゃないかな?」

「冷静に言ってんじゃねぇよ!助けろ!!」

「君のことなんか知らないよ。自分でなんとかしたらどうだい?」

「集中しないと無理なんだってば!」

「じゃあ、死なないようにせいぜい頑張るんだね」


必死に暴れる男の努力も虚しく、化け物達は次々に増えて、彼の身体は容易く扉の前まで運ばれた。

私はそれを横目に今が好機と言わんばかりに全力で逃げ出した。


女達が彼ばかりを狙うのは何だか癪だが、気を取られている今なら逃げられるはずだ。

...いや、逃げるって、一体どこへ?

ここがどこかも分からないというのにどこへ行こうと言うのだ?

あんな化け物がはびこっているかもしれないのに、私一人でどうしようというのだ?


そんな考えが頭を過り、思わず足を止める。

ゆっくりと振り返って男の姿を確認すると、彼はまだ扉の前で何とか抵抗して、生き延びていた。


...どちらにしても無謀...ならば、少しでも可能性のある方を選ぶべきか...。


そう思い立つと、私は意を決して男の元へと戻った。

そして、男を囲む化け物達を勢いよく蹴り飛ばした。


「...っ...!」

「ほら!早く行くぞ!」


私はそう言って、倒れていた男を起こし、再び全力で駆け抜けた。

勿論、そんな私達を化け物達が見過ごす訳もなく、恐ろしい唸り声と共に鋭い牙で襲いかかってくる。


片方が掴まれたら片方が援護する形で、何とか逃げ続けていると、道の先に扉が見えた。

建物も何もない、道の真ん中に扉だけがあるおかしな状況だったが、それを見て何故か『あそこに入れば助かる』と思った。


私達は無我夢中でその扉に向かって勢いよく飛び込むと、迫り来る化け物達を拒むかのように力強く扉を閉めた。


鍵のない扉はただ閉じるだけでは心もとながったが、どれだけ経ってもそれが開く様子はなく、静寂に包まれた様子に、ようやく私と男は胸を撫で下ろした。


「...はぁ...あんなキモイ女初めて見たわ」

「確かにキモかったけど、助かって第一声がそれかい?」

「お前、結構強いじゃん。格闘技とかやってた?」

「...かじっている程度だけどね」

「ふーん」

「提案なんだが、ここを出るために協力しないか?」

「は?何で...」

「さっきの奴らは明らかに君ばかりを狙っていた。他にもいないとは限らないし、そうなったら君はまた為す術がないだろう?」

「...」

「私はここが何かも分からないし、互いに不本意だと思うが、協力する他ない。それに君には私に助けられた貸しがあるはずだ」

「だぁー!もう!分かったよ!本っ当に嫌だけど今だけね!」


そう言って二人して嫌味を吐きながらも、協力するしかないこの状況に妥協して、手を取りあった。


「...カイだ」

「カラレス」

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