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Gehenna-ゲヘナ-  作者: Filmrêve(フィルムレーヴ)
Con amore nella notte di luna
69/104

4話

部屋の中に流れる異様な空気。

組織のトップが使うその部屋に集ったのは、ヴァレリオ家の若いドン、その顧問である私。

そして、見知らぬ一人の青年であった。


フワフワとしたブラウンの髪に、歳の割には男前で美しく甘い顔立ち、新緑のように透き通った緑の瞳を持った一人の青年。

彼はまだ自分の状況を理解できていないのか、放心した様子で真っ直ぐとドンを見つめている。

私はそんな彼を見て、直ぐにマルコとの話を思い出した。


あいつ...私に相談する前から手配してやがった...。

私が承諾する前提だったのか?

あいつの中では決定事項だったのか?

とはいえ急すぎる...やはりアホなのか。

どうする...この状況...どうする!?


必死に思考を巡らせる私だったが、その耐え難い沈黙を先に打ち破ったのは、痺れを切らした様子のドンだった。


「おい、このガキを連れてきたのはお前か?」


冷ややかなその声からは慈悲など感じられず、『直ぐにでも殺してやろう』という意思だけが伝わってきた。

それは目の前の青年だけでなく、彼を連れてきたであろう者に対しても同様に。

私は心の中で遺書を綴る思いで、ゴクリと唾を飲み込んでから口を開いた。


「...私の責任です」

「答えになってねぇだろうが。連れてきたのは誰かと聞いている」

「...それは...」


口ごもる私とそれを睨みつけるドン。

そこへ何の事情も知らない一人の男が、空気も読まずノックをして入ってきた。


「失礼します。ドン、お話が...」


そう言って入ってきたのは、このおかしな状況を生み出した元凶でもあるマルコであった。

私が一瞬驚いて彼の方を見ると、ドンはその視線を見て直ぐに状況を理解したようで、胸元から銃を取り出した。


「なるほど、お前がこのガキを連れてきたんだな?」

「え...あ...っと...」

「理由を聞こうじゃねぇか。どうしてこのガキを連れてきた?」


ドンに問い詰められたマルコは、どう返せばよいのか分からず困惑した様子で、上手く話せないでいた。

しかし、そんな彼を急かすかのように、ドンは向けた銃の安全装置を外す。

それを見てマルコは慌てて話し出した。


「っ...か、影武者を!ドンの影武者を用意しようと!そう思って部下に引き取らせました!」

「影武者?こいつがか?」

「はい!」

「ぶっ...はははははっ!」


命からがら威勢のいい返事をするマルコを見て、ドンは思い切り吹き出した。

そして、ひとしきり笑い終えると、流れるように銃の引き金を引いた。


...ドンッ!パリンッ!


銃弾はマルコの頬をかすめて、その背後にあった花瓶へと当たった。


「...っ...!」

「お前は家人の許可なしに子供こさえるのか?ドン()に許可なく構成員を増やすのか?」

「...あ...いや...」

「何故お前が今撃たれずに済んだのか分かるか?」

「...えっと...」


しどろもどろと話すマルコの言葉を遮り、ドンはため息混じりに話を続けた。


「フェデリコがお前をかばった。責任の所在は自分にあると言ったんだ。この意味が分かるか?」

「...あ、いや、その...」

「幹部を管理すべき顧問として考えた結果、お前の肩を持ったんだ。部下を守ることが己のすべきことだと判断したんだ。後先考えずに軽率な行動をとるお前とは違ってな。お前が昇進できない理由はそこなんだよ!」

「...っ...」

「お前の首の皮が一枚繋がっていられるのは、紛れもないこいつのお陰だ。そういう時は何て言えばいいんだ?」

「...感謝します...」

「聞こえねぇよ、もっと大きな声で話せよ!」

「...か、感謝します、顧問」


マルコはドンに促され、苦渋を舐めるかのような表情を浮かべながら、私に向かって感謝を述べた。


恐らくドンはマルコという人物の性格も、何を欲しているのかも、何を一番嫌うのかも、全てを見通し、このような茶番をしているのだろう。

お優しいのか、意地が悪いのか。


そんなことを思いながら、ホッと胸を撫で下ろそうとした私は、突然向けられたドンの鋭い視線に背筋を伸ばした。


「顧問として素晴らしい判断だった...が、二度と俺に隠しごとをするな、いいな?」

「...かしこまりました」


私の返事を聞いて、ようやく納得した表情を浮かべるドン。

しかし、まだ大きな問題を一つ残していることを思い出したようで、再び顔を曇らせた。


「ったく、どいつもこいつも馬鹿ばかり...で、このガキはどうするつもりだ?まさか、このままノコノコお家に返すって言うんじゃねぇだろうな?」

「...始末します」

「おいここで殺るんじゃねぇよ。この前、絨毯をダメにしたばかりだろうが」


それはドンが構成員を撃ったせいです。

...という言葉を私は当たり前のように飲み込み、チラリと縛り上げられた青年の方へと視線を向けた。

彼は一連の流れを見ても尚、顔色一つ変えることなく、ただ呆けるかのようにドンを見つめていた。


...こいつもしかして、英語が分からないのか?

顔立ちからしてイギリス人ではなさそうだ。

まさか耳が聞こえないなんてことはないだろうが、自分の状況分かっているのか?

まったく...一体どこから拾ってきたのやら...。


そんなことを考えながら、私は万が一に言葉が伝わっていないことを考慮して、青年に向かって顎先でついて来いと指示をした。

彼はそれを見ると、縛られた体をふらつかせながら立ち上がり、大人しく私の後についてきた。

これから殺そうという相手が、ここまで大人しかったことがなかったので、私は少々戸惑ったが、顔には出さないようにと、血で汚れてもいい部屋まで彼と共に歩いた。


沈黙の中、廊下を歩いていると、私達の元へ慌てた様子の構成員が数名現れた。

彼らは口々に話をするが、勿論その全てを聞き取ることなどできず、ましてやスラム生まれの早口英語など、聞き取れたとしても意味が分からない。

私は少し大きな声を上げて、その中の一人から話を聞き出す。


「...全員黙れ!何言ってるのかさっぱりだ!まず...お前!お前から話せ!」

「ジ、ジャコモ家が!話があると...げ、玄関前に!」

「...何だと?」

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