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Gehenna-ゲヘナ-  作者: Filmrêve(フィルムレーヴ)
鬼が住むか、蛇が住むか
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余談

悪魔課は他の課からの評価が悪い。


『入ったら二度と抜け出せない』

『仕事の量が他の課よりも多くて厳しい』

『理不尽なルールに縛られ続ける』

『一週間生き延びればマシな方』


根も葉もない噂が独り歩きをして、異動してくる人間が最も少ない課として有名となった。


しかし、実際は全く違う。


届出を出せば、勿論他の課に異動もできる。

仕事の量も他の課と変わらず、特段厳しくもない。

ルールと言っても、本部存続のための必要最低限のものしかないし、一週間そこらで死ぬような呪いも存在しない。

むしろ、天使課よりも緩くて自由度が高く、人間課よりも真面目で平和的な者が多い。

私もそんな悪魔課の一員であり、真面目で平和的に仕事をこなす事務員だ。


カザミという悪魔課の代表である悪魔に連れられて、私はこの本部に入ることとなった。

本部では大きく分けて実戦と事務が存在して、静かで平凡な生活を望んでいた私は、勿論事務に所属した。

時に真面目に、時に同僚と悪ふざけをして、危険の伴う仕事の中、それなりに楽しく過ごしていた。


そうして今日も事務室で仕事をしていると、部屋の前で何やら怪しげな素振りを見せる悪魔が目についた。

私はデスクの上のパソコンに顔を向けたまま、視線だけをゆっくりとそちらに動かして確認すると、その悪魔の手には小瓶が握られていた。


ただの小瓶なら何も問題はない。

しかし、彼の持っていたその小瓶は、明らかに魔力が込められた悪魔グッズであることが目に見えてわかった。

私はそれを確認すると、その悪魔に近づいた。

そして、彼の肩を掴みながらドスの効いた声で話し掛けた。


「...おい、それどうする気だ?」

「...ひっ...!」


悪魔は私の顔を見て情けない声を上げると、凄まじい勢いで私の元から逃げ去ろうとした。

私はそれを逃すまいと同じように、凄まじい勢いで彼のことを追いかけた。


長い廊下を二人の悪魔が走り抜ける。

それを見て廊下にいた他の悪魔や人間は手伝うようなことはなかったが、廊下の隅に寄って、巻き添えを喰らわぬようにと道を開けた。


悲鳴を上げて必死に逃げ惑う悪魔だったが、鬼の形相で追いかける私には叶わず、そのスーツの襟元を掴まれてしまった。

しかし、その拍子に彼は後ろへと倒れ、つられて私も前のめりにバランスを崩した。

そして、彼の後頭部と私の頭が思い切りぶつかり合った。


「ギャアッ!!」


耳を塞ぎたくなるような悪魔の悲鳴が響く。

それは彼の後頭部に私の頭についた角が、思い切り突き刺さったために発せられた悲痛な叫び声だった。


「...うるさいですね、私も痛いんですけど...」

「...うぅ...」

「...そもそも、あなたが悪いんですよ?大方、悪魔グッズを違法に売って小遣い稼ぎでもしようとしたのでしょう?」


私はやれやれと言わんばかりに痛がる彼の首根っこを掴むと、そのままズルズルと引きずった。


悪魔課の悪い噂はこのせいでもある。

悪魔は人間よりも体が丈夫で治りも早い。

そのため、こうした過激なじゃれあいが悪目立ちしてしまっているのだろう。


私は悪魔を引きずりながら、上司のいる部屋へと足を運ぼうとしたが、ふと前方から歩いてくる男に目が止まった。


白髪に眼帯をした高身長で顔立ちのいい男。

ガラス玉のような透明の瞳をした彼は、飄々とした態度からは想像もつかない凄まじいオーラを放っていた。


私は直ぐに彼が上官であると悟り、廊下の端によって道を開けた。

彼はその真ん中を肩で風を切るように堂々と歩き去って行く。

そして、彼の数歩後ろをもう一人の男が歩いていることに気がついた。


長い黒髪に切れ長の目をした同じく高身長で顔立ちのいい男。

どこか艶やかな雰囲気をまとう彼は、私の方を見て何故か足を止めた。


二人の間に妙な沈黙が流れる。

私が首を傾げていると、前方を歩いていた白髪の男が立ち止まる彼に話し掛けてきた。


「おい、ガラク!早く行くぞ!クロコがブチ切れる3秒前だってさ」


黒髪の男はそれを聞くとゆっくりと歩き出した。

そして、私のことを横目で見ながら、彼が見せたのは、どこか見覚えのある不敵で怪しげな笑みであった。


その瞬間、私の身体のどこかで鎖のような音がした。

そして、いつか上司を殴った時のような謎の怒りがフツフツと湧き上がってきたのだ。


...いや、いけない...人を殴っては...悪魔は人に危害を加えてはいけない...何よりあの人に怒られるのは面倒だ...。

しかし、この怒りはなんなのだろうか...?

彼とは初めて会ったはずなのに...。


そんな疑問を抱いていたが、手元にいる悪魔のことを思い出し、あまり深く考えることをやめて、再び廊下を歩き出した。

私の後方では二人の男が何やら話をしていた。


「あいつ知り合い?」

「さぁ、どうだったかな...」

「はぐらかすなよ」

「ふふっ、すまない。うーん、そうだな...知り合い()()()...かもね」


黒髪の男はそう言って、切れ長の目をさらに細くして、艶やかな蛇のような笑みを浮かべた。

ご覧戴き、ありがとうございました。


〜鬼が住むか、蛇住むか〜章

はこれにて完結です。


『Gehenna』はまだまだ続きます。


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