表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Gehenna-ゲヘナ-  作者: Filmrêve(フィルムレーヴ)
鬼が住むか、蛇が住むか
54/104

2話

学校の授業が終わると、私は直ぐに荷物をまとめて帰宅を始める。

広々とした運動上の片隅を門へと向かって歩いていると、部活動に勤しむ友人の一人が声を掛けてきた。


「堂角〜!もう帰るの?」

「...はい、帰宅部ですので」

「そんなにガタイいいんだから何か部活入ればよかったのに」

「...苦手なんですよ...部活特有のあの団結感が」

「何だよその理由!」


彼はそう言って私の肩を軽く叩いて笑った。

そして、後輩に呼ばれた彼は急ぎ足で戻って行った。


高校三年生。

今更部活に入ろうと思っても、直ぐに引退となってしまう年齢。

進路についても考えなくてはならず、少しばかり先が不安だ。


私の家に向かう道は大きな道で人通りも多く、高校生の帰り道としては比較的安全かつ便利だ。

しかし、私は学校を出て直ぐに道をはずれ、その道ではない別の道へと向かった。


それは人通りなど一切ない、山の方へと繋がる細く暗い道。

どちらかと言えば遠回りになってしまうのだが、たまに私はこの道を使う。

隠れた場所にあるこの道の途中には、何故か一つだけ公園に置かれているような、木製のベンチが置いてあり、そこに座って過ごす時間が好きなのだ。


人目につかない道へと入り込み、そのベンチを見つけると、私はその特等席に座って本を読み出した。

木々に囲まれたこの場所は誰からも見られることもなく、風が心地よく吹き通り、日陰にもなっているため、夏でも十分快適に過ごせる。


勉強も学校生活も嫌いというわけじゃない。

むしろ学生の本分として努力していきたい所だ。

しかし、私だって一人で過ごしたい時もあれば、読みたい本の一つや二つもある。


もうすぐ夏休み。

受験期の夏は戦いとも言われているし、それなりの大学に行くのなら頑張らなくては...。


そんなことを考えながら、私は一人本を読み進める。

誰にも邪魔されずに過ごせるこの場所では、思わず時間を忘れてしまうことが多々ある。

今日も長い時間本を読んでしまったようで、気づけば辺りには夕陽が差し込んでいて、ひぐらしの声が帰路を急かすように聞こえ始めた。


「...あ...しまった...もうこんな時間だ」


そう呟き、急いで帰り出した。

この細道から帰ると丁度、家の裏側に帰ることができる。

まるで悪さをしてこっそり帰る不良のようだが、私は決してそのようなことはない。


「...ただいま」


そう言って家の裏口の扉を開けると、部屋からは美味しそうな夕飯の匂いと共に、ありふれた家庭でよく見るエプロン姿の母が私を出迎えた。


「おかえり、遅かったね」

「...少し寄り道をしてきたから」

「そう。もうご飯だから、早く着替えといで」

「...はい」


私はそう返事をすると、二階にある自分の部屋へと上がっていった。

そして、荷物を置き服を着替えて、食事の用意された居間の方へと向かった。


居間には食事を用意する母と、黙って椅子に座る父の姿があった。

私は置かれたコップにお茶を注いで、丁度配膳を終えた母と共に椅子に座った。

そして、全員で手を合わせた。


「「...いただきます」」


たった三人の家族とは言え、年頃の男の子がいるにも関わらず、そろって仲良く食事の挨拶なんて、少し珍しいものだと思う。

しかし、私の日常にとっては普通である。


「ねぇ、あんた受験生だけど勉強いいの?」


食べ始めると、ふと母が私に尋ねてきた。

私が寄り道をして勉強を疎かにしてないかという、心配からの質問なのだろうか。


「...それなりにしてる」

「何かいるようだったら早めに言ってよ」

「...今のところは大丈夫かな」

「あんたは父さんに似て無口なとこあるから、ギリギリで言ってこないでよ?」

「...はい」


釘を刺す母に素直に返事をする私、そんな会話に一切参加しない父、いつも通りの食卓風景だ。

そして、食事を再開する私に再び母が話し出した。


「そういえば、今度あんたに弟ができるから」

「...は?」


突拍子もない母の発言に私は思わず声を漏らし、持っていた箸を落とした。


「ちょっと、落ちたよ」

「...え、は?」


困惑する私とは反対に落ち着いた様子の母は、説明よりも先に床の箸を拾い始める。

私はそんな母の姿を懸命に目で追い、ゴクリと唾を飲み込みながら恐る恐る問い掛けた。


「...で、できたの...?」

「違うわ」

「...ふっ...」


真剣な眼差しで問い掛ける私に、漫才芸人並みのキレのあるツッコミをする母、その様子にたまらず無口な父も吹き出した。

そんな一連の流れに母は呆れた様子でため息をこぼすと、不足した言葉を補い出した。


「遠縁の親戚なんだけど、事故で家族全員亡くなっちゃってね」

「...それは...ご愁傷さまです...」

「それでね、その家に預けられてた子がいるんだけど、幸いその子だけは助かって」

「...良かったですね...」

「親戚同士の話し合いの時にタライ回しみたいになってて、何か可哀想に思えてきて...」

「...それで...?」

「それで家においでって言ったの」


そう言って母は食卓に並んだ漬物を食べた。

そのようにまるで軽く言い放つ母に私は酷く驚いた。


「...いや、結構大きな選択だと思うのだけど...」

「一人育てるのも二人育てるのもそう変わらん」

「...強者の発言じゃん...」

「歳が近いから仲良くしてあげて」

「...まぁ...仲良くはするけど...」


私は納得のいかないような返事をしたが、実は内心、少しだけ楽しみであった。

小さな家庭の一人っ子であったため、遊び相手に困ることや退屈な時間を持て余すことなど、日常茶飯事だった。

そのため、兄弟というものへの憧れを抱くのは、当然のことだった。

まさかこの歳になってできるとは想像もしていなかったので、少しというか大分驚きはしたが、何はともあれ家族が増えるのは喜ばしいことだ。


「...それで...いつ来るの?」

「明日」

「...は?」

「明日ぐらいには荷物まとめてこっちに来ると思うよ」

「...もっと早く言ってよ」

「早く帰って来ないあんたが悪い」

「...いや、もっと前々から...というか、母さんの方がギリギリじゃん...」

「...ふっ...」


私の呆れ声に父が再び吹き出す。


というかこの重要な会話に一度も参加してきてないが、父はそれでいいんだろうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ