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Gehenna-ゲヘナ-  作者: Filmrêve(フィルムレーヴ)
雨垂レ師ヲウガツ
51/104

12話

先生とタッグを組んでいたユウナギという女性の死。

それはあまりに突然で不明瞭なものだった。


調べてみるとどうやら任務による死亡ではないようで、本当に突如として彼女は亡くなった。

全く何の予兆もなく...。


俺は勢いよく椅子から立ち上がると、大急ぎで事務室から出ていった。

そして、先程話しかけてきた男の元へと向かった。


「...あ!あの!」

「っ!え、な、何?」


男はまだ事務室の近くにいた。

音一つ立てることなく、突然話し掛けてきた俺に向かって驚いて振り返り、少し腹立たしそうに返事をした。


「さ、さっき“ドク”って人を探してるって...」

「え、まぁ、そうだけど?」

「あ、あなたはその...じ、実戦の...“ドク”って人を知っているんですか?」

「知ってるも何も...一応先輩だし」

「せ、先輩?」

「あぁ。あの人は俺のこと後輩なんて思ってなかっただろうけど」

「あ、あの、詳しく教えてくれませんか?」


その言葉に男は一瞬嫌悪の表情を浮かべたが、俺の必死な姿に圧倒されたのか、声を潜めて仕方なさそうに話し出した。


「あの人さ俺と同じ部署にいたんだけど、とんでもなく腕が立って、尊敬してたんだよ。だから、“ドク”さんが戻ったって聞いて、見に行ったんだよ...まぁ、人違いだったみたいだけど」

「...そ、その人...もう...亡くなってましたよ...」

「あぁ...やっぱり?そうだよな〜、あんなことあっちゃな...」

「あんなこと?」

「“ドク”さんの相棒のユウナギって人知ってる?」

「あ、はい、実戦にいた女性ですよね?」

「そう。あの二人...実は付き合っててさ」

「へ?」

「ウチの部署じゃ専ら有名だったんだよ。それである日、ユウナギさんにメールが届いて...」

「...メール?」

「まぁ、簡単に言うと、上からの解雇通知だよ。それに心を病んで自殺したって聞いたけど...“ドク”さんがキレて上に反抗して、消されそうになったから本部を出たんだ」

「...」

「そうして“ドク”さんは裏切り者認定。ブラックリストに載ったってわけさ」

「...ブラックリスト...」

「もう一回会ってみたかったんだけど...仕方ないよな。本部を裏切ったんだから当然だ」

「...」


俺は言葉を失っていた。

先生の言っていた言葉の全てがスルスルと頭に入ってきて、理解していく。


『まだ諦めていない』

『死んでいない』

『地獄に叩き落とす』

『殺しに行く』


走馬灯のように蘇る先生の言葉。

それらに絶句する俺を見て、男は怪訝そうな表情を浮かべて、逃げるように去って行った。


俺は...一体何を見てきたんだ?

いつも優しくて穏やかで...そんなことしか知らないじゃないか。

あの笑顔の裏に何を隠していた?

恋人を失って何故笑顔を浮かべることができた?

...いや、違う。

先生は笑っていたんじゃない...堪えていたんだ。

湧き上がる憎しみを笑顔で隠していたんだ。


復讐のためとはいえ子供達を殺したことや、俺にしたことが許される訳ではない。

そう思っていたが、本当は違うんじゃないか?


本部はいつだって人員不足。

そのため聞くところによると、選ばれる人間の中には、殺人犯や精神異常者、親に捨てられた孤児などもいるそうだ。


先生は捨てられた俺達を本部に拾われる前に隠したのではないか?

理不尽な本部に殺されるぐらいならと...そう思ったのではないか?


どうして気がつかなかったんだ?

あの人の秘めた苦しみに、憎しみに。

どうして気がつけなかったんだ?

誰よりも見てきたはずなのに...誰よりも近くにいたはずなのに...。


「...ははっ...やっぱり俺は...“能無し”だ...」


俺は自分のしたことの愚かさと、全てが遅すぎたという事実への虚無感に苛まれ、涙を流しながら笑っていた。

治ったはずの心臓...胸の辺りが締め付けるように痛み出し、呼吸も浅くなって、北風のような音が鳴る。


ここにはもう、『大丈夫だよ』なんて言ってくれる人はいない。

手を差し伸べ抱き上げて、微笑みかけてくれる人はもう...。


俺はギュッと胸の辺りを、震える左手で握り締め、ゆっくりと深呼吸をして息を整える。


もう引き返すことはできない。

後戻りすることなんてできない。

戻れない現実からは目を背けて、前を向かなくてはならないんだ。

そう思いを固めて俺は歩き出した。


“能無し”でも生きていかなくては...弱虫の俺には自死を選ぶことだってできない。


先生、俺はまだ生きているよ。

“能無し”らしく、邪魔にならないように足音も身も潜めて生きてるよ。

先生が託した復讐をやり遂げる自信なんてないけど、先生が最後に何て言おうとしたかは今なら少し分かる気がする。

だから、“能無し”なりに...俺なりに頑張るよ。

そのために先ずはこの事務という

高く険しい山を生き残っていかなくては...。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


俺の名前はドク。

とはいえ、実戦で活躍した“ドク”ではなく、

事務で役立たずとして身を潜めるドクだ。


一体いつ俺のパソコンに解雇通知が来るのか。

きっとそれはそう遠くない未来のことだろう。

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