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Gehenna-ゲヘナ-  作者: Filmrêve(フィルムレーヴ)
最後のディナーは舞台のあとで
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4話


【アルバ・サルダーニャ 舞台女優】


私は再び検索をかけた。

今度はママのフルネーム、“アルバ・サルダーニャ”という文字を加えて。


今度の検索結果には須らく彼女のものと思われる内容がズラリと並んでいて、私はその一番上に出てきたページを開いた。


そこにはアルバという女性について、とても詳しく書かれており、これまでの彼女の功績や苦労、舞台の内容など私の知らない彼女のことを細かく知ることができた。


そのページには写真も多く記載されており、十人十色を演じ分ける舞台女優としての彼女の姿や、私生活で幸せそうに笑う彼女の姿など、私が知りたかった様々な顔をする彼女の姿があった。


私はその一枚一枚を愛おしく眺めた。

それは会いたかった母への想いというよりは、美しい彼女のファンのような気持ちであり、実の子供までも虜にする彼女の魅力については、語るまでもなかった。


そして、ある一枚の写真に目が止まる。

それは産まれたばかりの赤子を、まるで聖母のような表情で抱き上げる彼女の姿だった。


その写真を見て私は思わず笑みがこぼれた。

感動とも安堵とも言える感情が湧き上がってきて、なんだか涙が出てしまいそうだった。


ママからの愛を疑ったことは一度もない。

親が子を愛するというのは当然のことだと思っていたし、そう信じていたかったから。

しかし、やはりどこかでママに嫌われていたらという不安が私の心の中で巣食っていたようだ。


ママは私に会いたくなくて病気だと嘘をついているのでは無いのだろうか。

会うことも話すこともない私のことなど、遠の昔に忘れ去ってしまっているのではないか。

そんな不安があったのに、見て見ぬふりをし続けていた。


しかし、その写真に移る彼女の姿は、正しく聖母マリアのようで、小さな赤子に向けるその眼差しは疑いようのない愛情に満ち溢れていた。


私は泣くのをグッとこらえて、写真の下に書かれた文章に目を通す。


『産まれてきた我が子を抱きしめるアルバ。一般男性との間に産まれた第一子は、めでたくアルバと同じ女の子であった。彼女が母と同じ舞台女優としての道を歩む未来に期待の声が続出した。名前については近日公開される予定で...』


...え...女....の子...?


私が困惑して固まっていると、突然扉の方からノックの音がした。

驚いて扉の方に視線を向けると、いつも通り低めで落ち着いたパパの声が聞こえてきた。


「...夕食だよ」


あら、もうそんな時間だったのね。

あまりに夢中だったから気がつかなかったわ。

でも、いつもより若干早い気もするけど...。


扉に近づくと、それを見計らって小窓から食事が差し出される。

私はそれを受け取って机の上に置いた。


今晩の夕食はビーフシチューだ。

暖かい湯気と共に、上品なワインの香りがほのかに漂っている。

私はそれをスプーンで掬い食べようとしたが、どうしても先程の文章が頭から離れなかった。


見間違い...かしら?

いや、ハッキリ女の子って書かれていたわ。

私の体は男の子のはずよね?

どうして女の子なんて...。

私にお姉ちゃんがいるってこと?

そんなのパパから一度も聞いたことがないけど...。


色々な考えが頭の中でグルグルと渦を巻き、スプーンを持つ手がゆっくりとしか動かない。

そして、やっとシチューが口に運び込まれたかと思われたが、あまりの違和感にすぐに吐き出してしまった。


何これ、牛の肉...じゃないわよね。

生臭いというか物凄い嫌悪感がする...。


お皿に乗せられた肉入りのシチューは、ソースの誤魔化しがきかないほど肉の味が酷く、とてもじゃないが食べることができなかった。


一瞬、トイレに流してしまおうかとも悩んだが、食材を無駄にするのは何だか憚られる。

せっかく用意してくれたのにパパの料理に文句を言うのも忍びない。

そう思って、私は仕方なく残った食事を持って扉の方へ向かった。


「あの、パパ?」

「...どうした?」

「ごめんなさい。今少し...お腹がいっぱいなの。だから、その、これ、パパが食べてくれる?」


少しドキドキしながらそう言った。

食事を残すのはこれが初めてであった。


「...わかった」


パパはただ一言だけそう呟くと小窓を開け、残った食事を受け取った。

私はなんだか申し訳ない気持ちがして、思わず口数が少なくなっていた。

しかし、そんな気まずい空気の中、突然パパが口を開いた。


「...レイタオン」

「え?」

「...レイタオン。お前の名前だ」


あまりに急な話に困惑して言葉の出ない私を置き去りに、パパはいつも通りの足取りで扉の前から去っていった。


...怒っていたのかしら?

だとしてもあのタイミングで名前教える?

もう、何がなんだか訳が分からないわ。


私は少し頭を抱えてから、意を決して再びパソコン画面に向き合う。


【アルバ・サルダーニャ 子供】


確信に迫るため限定した検索をする。

もしかしたらという恐怖などはもう無く、むしろ今まで抱いていた違和感を早く解消したいとさえ思っていた。

しかし、検索結果には目を疑うような記事が載っていた。


『舞台女優 アルバ・サルダーニャ 行方不明』


私は画面の一番上に出てきた記事を、震える手で恐る恐るクリックした。


『○○○○年○月○日未明。舞台女優のアルバ・サルダーニャの夫であるベン・サルダーニャが自宅で遺体となって発見。アルバとその娘であるソフィアの行方が分からず、警察は誘拐及び殺人事件として捜査を...』


随分昔の記事だった。

記事には荒らされた自宅の写真が生々しく掲載されており、今回の事件の凄惨さを物語っていた。


私は混乱しながらも、そのまま記事を読み進めていった。


『遺体には複数の刺傷が残されており...』

『金銭などが盗られた形跡はなく...』

『数日後、自宅付近で幼児の白骨遺体を発見...』

『遺体のDNAがソフィアのものと一致...』


何これ、どういうこと?

私はソフィアなんて名前じゃない。

じゃあ、この子は誰なの?

殺された男は誰なの?

ママはどこに消えたの?

誰がママを誘拐したの?


『自宅からアルバのものと思われる日記を発見』


とあるページにあった記事を見て、私の手がピタリと止まった。

そこにはいつだって幸せそうに笑う彼女のものとは思えない弱々しい文字で、恐怖に満ちた内容の日記が綴られていた。


『○月〇日、今日もあいつが私を見ていた。どうやって入って来たの?舞台袖で不気味な表情を私に向けていた。お願いだから早く消えて。私の幸せを奪わないで』

『○月〇日、家の前に肉でできたブーケが置かれていた。きっとあいつの仕業に違いない。警察に相談したけどだめだった。証拠不十分だって...ふざけるな!こんなことあのイカレ男の仕業に決まってる!』

『○月〇日、お願い 誰か助けて あいつに殺される。あいつは人間じゃない!化け物よ!殺される。絶対に殺される。助けて。お願い。誰か』

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