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Gehenna-ゲヘナ-  作者: Filmrêve(フィルムレーヴ)
最強の戦士
29/104

10話

あの後、中佐の部屋から敵軍に関する資料と、連絡を取っていたと思われる無線機が見つかった。


中佐は我が軍の指揮官として君臨しながら、敵軍にその情報を売っていたようだった。


俺はと言うと、全身に爆弾を浴びて、二度と戦場へは戻れないと言われるほどの重症を負ったが、凄まじい回復力を発揮して、包帯がまだ取れない部分もあるが、以前と同じように動けるようになった。


しかし、彼女のことがどうしても頭から離れず、掴み損ねた己の手を憎むように強く握り締め続けていた。


負傷した足など気にせず駆け出していたら、千切れかけた腕など気にせず伸ばしていたら...いや、あの時、迷いさえしなければ...。


あの日もそうだ。

父と母を助けに戻っていれば、弟の手を引かずに前を走らせていれば、守ることができたかもしれなかった...救えたかもしれない。


後悔ばかりが募り、記憶の中に眠る悔いまでもが思い出される。


そうして呆然と座り込む俺の背後に、突然、誰かが音もなく現れた。


その気配に驚いて振り返ると、そこには弟と同じく10歳にも満たない見た目をした、不格好な軍服に身を包んだ少年が立っていた。

可愛らしい顔つきの少年は俺の顔を見ると、その見た目にしては艶やかな笑顔を浮かべた。


俺は彼を見ると直ぐに立ち上がり、両足を揃えて勢いよく敬礼をした。

少年はそれを見て片手を軽く上げた。

『楽にしろ』という意味のその手を見て、俺は直ぐに休めの姿勢をとる。


「怪我人が無理をしてはならんよ」

「お戻りになられていたのですね、マダラ大佐」

「あぁ、つい先程な。それにしても珍しい、少佐が怪我をするとは」

「...実力不足です」

「そんなことはないさ。君は充分、我が軍のために戦ってくれている。エラい、エラい」


大差はそう言って、胸元から星の形のシールを取り出して俺の胸に貼った。


「...恐縮です」

「中佐の件は驚いたな。まさか君が裏切り者の彼を殺しただなんて」

「申し訳ありません、尋問の前に殺すなど...」

「いいんだよ、どの道もう彼は必要なかったしな」

「どういう意味でしょうか?」

「...彼はブラックリストに載ってたのだよ」

「ブラックリスト?それは...一体何のリストでしょう?」


大佐は俺の問い掛けに再び笑みを浮かべ、クルリと反対を向くと近くの木箱に乗り上げた。


「バートラム少佐...いや、アッシェル・ルドヴィッグ。どうやら君は我ら本部の一員に相応しいようだ」

「...何故俺の本名を...!」

「我々、本部に知り得ない情報はないのだよ」

「我々...?本部...?」

「そう、本部...オルドだ。オルドとは世界の秩序を保つために存在する。公に平和を守る我々軍人とは異なり、オルドは闇から世界を操り均衡を保つ」

「...裏組織...でしょうか?」

「簡単に言えばそうだな」

「...なるほど」


着々と理解する俺を見て、大佐は何やら満足気な表情を浮かべていた。


「本部には山ほどの情報がある。例えばグスタフが裏切り者だったということや、君が身分を詐称して軍に入隊したこととか」

「...」

「君、本当はもっと若いだろう?大丈夫だ、実は私も年齢を偽っている。本当は成人もしていない。見た目通りの年齢なんだ」

「...そうですか」

「あれ?あまり驚かないな」

「お言葉ですが、その見た目で成人しているという方が理解に苦しみます」

「そうか、やはりこの見た目ではダメか。しかし、中身は成人以上だぞ?」

「...意味が分かりません」

「私のことについてはまた後ほど...君は本部に来るべきだ。我々よりも先にブラックリストの人物を抹殺した。その観察眼と類まれなる身体能力を上は大いに評価している。勿論、私もな」

「...」

「戦闘狂と呼ばれる君に相応しい世界だ。共に世界の平和のために戦おう、少佐」


その言葉を聞いて俺は彼女の言っていたことを思い出した。


『あなたはもうすぐ別の世界に足を踏み入れるわ』


あの言葉はこのことを言っていたのか...。


「お言葉ですが、大佐。俺は決して戦闘狂などではありません。 しかし、平和のためというのであれば、俺は喜んでそれになりましょう」

「...ほう、随分可愛らしい野望だな」

「俺の目指す世界です」

「...その信念が、長く続くといいな」

「...」


その意味深な言葉に俺が口を閉ざすと、大佐はあどけなくも不気味な笑みを浮かべた。


「では、早速本部へと向かいたいのだが、それに際して君には死んだ人間となってもらう。アッシェルという名もバートラムという名も捨てることとなるが、コードネームに何か希望はあるか?」

「...いえ、特に」

「そうか、因みに私は惚れた女に因んだ名前なんだが...今はそんな話はいいな」


そう言って大佐は咳払いをした。

そして、何やら可愛げに考える素振りを見せると、何かを閃いたのかようにポンと手を叩いて、明るい表情を浮かべた。


「君の倒したことのあるもので決めよう。戦車とかならヴァンツァーとか、熊ならベアーとか」

「...は、はぁ...」

「今までで一番デカい獲物は何かな?」

「...一番デカい獲物...ですか。それなら海軍の時に仕留めた10m超のクロコダイルですかね」

「...え...」

「あの時は流石に驚きました。持ち上げたら大分デカくて...」

「ま、待て待て。素手か?」

「はい、弾もナイフも効かなかったので...」


俺の言葉に大佐は少し顔を歪めたが、直ぐに気を取り直し、小さな手で勇ましい敬礼をした。


「改めて、私はマダラ。オルドの実戦にて指揮官を務めている。少佐、今日から君の名前はクロコだ。本部のため、引いては世界のため、その身を差し出す覚悟を示せ!」

「...Yes, sir!」


俺は威勢のいい返事と共に、背筋を伸ばして胸を張り、大佐同様に勢いよく敬礼を返した。


本部と言う名の無慈悲で残酷な世界で今度こそ俺はこの手で守り抜いてみせる。

掴めなかったものを掴んでみせる。

まるでそう誓うかのように。

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