7話
昔、俺が住んでいた町には沢山の子供達がいた。
その中には勿論、俺の友達もいて、一緒に広場や商店街を駆け抜けて遊んだものだ。
あの日の戦火によって全員死んだと思っていた...。
「やっぱり!アッシェルだよな!」
「ラーセン...生きていたのか?」
「それはこっちのセリフだ!お前はてっきり死んだとばかり...」
そう言って彼は安堵するような表情を浮かべて、目に涙を滲ませた。
そんな彼を見て俺は何も言わずに抱き締めた。
ラーセンは近所に住んでいた友人で、やんちゃな彼にいつも強引に引っ張り出されて、共に町中を駆け回った。
俺の幼馴染であり親友だった。
「しかし、見違えたな!体つきもこんなに良くなって...一瞬誰か分からなかったぞ?」
「お前は変わらないな、相変わらず騒がしい奴だ」
「なんだと、この野郎!」
ラーセンはそう言って軽く俺の肩を殴ったが、俺の固い体に拳を痛めたようで、笑いながら労わるように自分の拳を撫でた。
「こんなところで何をしているんだ?」
「俺は今日からあそこの軍隊に配属されたんだよ。あ、そうだ!お前さ、バートラム少佐がどこにいるか知らないか?その人を探してここに来たんだ。というかお前こそ何して...軍隊にいるのか?」
首を傾げる彼にどう説明しようか少し悩んだが、いずれ明かさなければいけないことだと腹を括り、正直に話すことに決めた。
「...俺がバートラム少佐だ」
「へ?」
動揺する彼にこれまでのことを話した。
家族が死んだこと、軍隊に入隊したこと、その後進んだ道のりなど...。
彼は段々と理解をしていく内に、信じられないという表情を浮かべていった。
「お前...身分詐称って...下手したら捕まるぞ...」
「何も残っていなかったんだ」
「アッシェルで入ればよかっただろう?どうしてバートラムなんて...」
「...」
表情を曇らせる俺を見て、ラーセンは頭を掻いて、仕方なさそうにため息をこぼした。
「分かった、深くは聞かないさ。お前が生きてる、それだけで今は十分だ」
「...ありがとう」
「そうか...少佐にまで昇級したのか...すごいじゃないか」
「気がついたらな」
「ははっ!マニーが見たら大喜びだろうな!」
「...」
「おいおい、何だよ、弟の話もしちゃいけないのか?」
「いや、そういう訳ではないが...」
「忘れたいのか?」
「そんなわけないだろう」
「なら、話してやろうぜ、マニーのこと。あいつだって寂しいだろ、兄貴が自分のこと話したがらなかったら」
「...そうだな」
俺が渋々そう言うと、ラーセンはにっこり笑って、近くの岩に腰掛けて、ポンポンと叩いて隣に座るよう促した。
俺はそれ見て少し微笑みながら、大人しくそれに従い座った。
「あいつ小さいクセして、一丁前に皆の前を走ってさ。お前の心配そうな顔が今でも目に浮かぶよ」
「目を離すと直ぐにどこかへ行ってしまって...。危ないからいつも手を繋いでいたんだ」
「そうそう、俺よりもやんちゃ坊主でさ!特に兵隊ごっこが大好きだったよな!撃たれたフリして倒れたら、声上げて笑ってよ!」
「あぁ、そう言えば、そうだったな」
「それなのに虫も殺せないお前が軍隊の少佐なんて、今でも信じられない!」
「言い過ぎだ」
「だってそうだろ?覚えてないか?兵隊ごっこしてた時にさ、お前が何もない所で突然、派手に転けたかと思ったら花を避けてたなんて...俺達大笑いしちまったよ」
「...そんなこともあったな」
俺は笑ってその言葉に答える。
そんな俺を見てラーセンも満足げに笑う。
「本当に信じられないよな。走り回ってただけの俺達が軍人になるなんて」
「...お前はもう戦場に出たのか?」
「あぁ、でも、一回だけだ」
「一回だけ?」
「...情けない話、怖くてさ。あそこでは人の命がまるで軽い。隣にいた奴が次見た時は死体になって転がってる」
「...」
「殺さなきゃ殺される...そんなこと分かってるけど、俺は...人なんて殺せない...!」
ラーセンはそう言って手で顔を覆った。
その声は悲しみと恐怖に満ちていて、俺は何故だかそんな彼に安堵した。
「...ラーセン、お前は“人”なんだな」
「...どういう意味だ?」
「人を殺すなんて...人がしてはいけないことだ。お前がそう思うことは間違いじゃない」
「...アッシェル」
「命を奪わずに命を守れたらいいのにな...今の俺達にはそれしか術がない」
「...そうだな」
「お前はやはり変わらないな。強引だけど根は良い奴で誰よりも優しい。だが、戦場では生きるか死ぬかだ。お前のその優しさが仇にならないようにな」
その言葉はまるで自分に向けられた言葉のようで、自分で言っておいて耳が痛くなった。
「...ははっ!いかにも少佐らしい言葉だ」
「一応そうだからな...そろそろ戻るか」
「おっとそうだった!少佐を呼んで来いって言われたんだ。早く戻らないと、皆が待ってる」
「あぁ、急ごう」
そう言って、立ち上がろうとした時、ふと傍に咲く一輪の小さな花の存在に気がついた。
荒野に咲く不自然なその花に、俺は彼女の言葉を思い出した。
『お花を踏まないで』
妙に引っかかる言葉だった。
今こうして小さな一輪を見つけたが、荒野に花が咲くわけがないと言ったはずなのに、どうして彼女はありもしない花の心配をしたのか。
そう言えば、初めて会った時も、同じようなことを言っていたような気がする。
何故そんなにも花を注視する?
可哀想だから...にしては念を押しすぎだ。
じゃあ、一体何故?
長年の戦場経験により、俺の勘が鋭く反応する。
あの花は踏んではいけないと。
踏んだら大変なことが起きると。
しかし、そんな疑念など露ほども知らないラーセンは、小さな花の存在に気がつくことなく、急ぎ足でその花の方へと向かって行く。
「ラーセン!その花を踏むな!!」
「え?」
俺は咄嗟に叫んだが、その時には既に遅く、ラーセンはその花を勢いよく踏みつけてしまった。
...カチッ...ドガァン!!!
その瞬間、大きな音ともに爆発が起こった。
踏みつけた彼は勿論、近くにいた俺も正面からまともにその爆撃を食らった。




