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Gehenna-ゲヘナ-  作者: Filmrêve(フィルムレーヴ)
最強の戦士
24/104

5話

軍人の朝は早い。


俺は早朝から動き出し、業務を遂行し、サンネのいる部屋へ向かった。


本来ならば、先日の敵軍の行方を追うのだが、中佐の意見を仰ぐ方が先決と思い、一旦捜索を中止して兵員の訓練に専念するべきだと判断した。

加えて、あの不思議な少女サンネは、捕虜とはいえ敵軍にいた身だ。

万が一を考慮しなくてはならないため、こうして急いで向かっているのだ。


しかし、そこにはガランとした部屋の風景しかなく、彼女の姿はどこにも見当たらなかった。

とある場所に心当たりのあった俺は直ぐに部屋から出た。

向かった先は先日と同じく、広場に張られたテントの下だった。


近づいて見てみると、やはり彼女はそこにいた。

無表情に虚ろな目をして広場を眺めていたのだ。


「...なるべく部屋から出ないようにと言ったはずだが」

「聞いていたわ」

「あまり不用意に徘徊しないでもらいたい。君の存在は公に認められている訳ではないんだ」

「部屋にいると息が詰まるの」


サンネは目も合わせずそう言った。

俺は仕方なしにため息をこぼしてテントの下に入り、彼女の隣に立った。


「ここには気性の荒い奴も多い。危ないから一人で来るな」

「あなたって戦闘狂なの?」


俺の言葉を聞きもせず、突然サンネはそう問い掛けた。


「誰から聞いた?」

「さっき色々な人と話したの。そのとき皆が口を揃えて言っていたわ」

「訓練時間に私語とは...あいつらもいい度胸だな」

「本当なの?」

「...周りが勝手に言っているだけだ。俺は別に自分を戦闘狂いだとは思っていない」

「そうよね、お花好きな戦闘狂なんて、私も聞いたことないわ」

「...」


俺はサンネを呆れた様子で見るが、彼女は相変わらずこちらを見ようとはしない。


「小さい頃からお花が好きなの?」

「そういう訳ではないが...母の影響で少し詳しいだけだ」

「家族は、お母様だけ?」

「...あまり詮索するな」

「あなただって沢山聞いてきたじゃない」

「君は敵軍にいたんだ。そういう行動は慎んだ方がいい」


俺の言葉にしばらく沈黙が続いたが、ふとサンネが口を開き始めた。


「私ね生まれてからずっと一人だった。他の天使は空を知っていて私だけが知らない。羽根がないってだけで迫害されたの」

「...」

「でもね、一人だけいたの。私のこと気味悪がらないおかしな天使が。いつも私の傍を離れなくて、お節介で、優しくて、意地っ張りで、ちょっと頭の悪い子。私の唯一のお友達」

「おい、悪口が混ざってるぞ」

「...本当に頭の悪い子なのよ。私が悪魔達に捕まったとき、あの子...臆病な癖に、助けに来て一人で立ち向かったの。そして、悪魔達に片羽根を奪われた」

「...片羽根を奪われた天使は生きられるのか?」

「生きられるわ。でも、二度と飛べない。魔法も上手く使えなくなる」


サンネの表情が少しだけ曇る。

そして、静かな声を更に小さくして呟いた。


「悪魔に羽根を奪われるって教えたのに... 来ないでって言ったのに...」


そう言ってうつむくサンネに、俺は黙ったまま近づいて、そっとハンカチを差し出した。

彼女はそれに気がつくと、ハンカチを受け取って目に当てた...と思いきや、額に当てて汗を拭い始めた。


「ありがとう、日陰でも暑いのね」

「...」

「本当に愚かな子だった。誰よりもお空が好きなのに、私とお揃いだとか言って強がっていたけど、それ以来、悪魔が怖くて仕方なくなって、もっと私から離れなくなった」

「いきなり何故そんな話を?」

「私のこと話したらあなたも話してくれるかなって...」

「...どうしてそんなに知りたがるんだ」

「知りたいから?」


俺は再びため息をこぼしてサンネを見る。

すると、彼女も拭い終わったハンカチを返すと、同じようにこちらを見つめた。


「...あ」

「何だ?」

「見えたの」

「何が?」

「未来が」

「既に見えているのだろう?」

「私にも見えてない未来の断片はあるのよ。でも、それらも日が近づけば見えてくる。それで、今あなたの未来が見えた」

「...どんな未来だ?」

「あなたに恋人ができる未来」

「...は?」


突拍子もない返答に思わず口悪く聞き返してしまう。

しかし、サンネはそんなこと気にもせず、首を傾げてこちらを見る。


「気にならない?」

「...どういう意味だ」

「どんな人か」

「そんなものまで分かるのか?」

「ええ、分かるわ。知りたい?」


彼女はからかう訳でも冷やかす訳でもなく、俺の意見を尊重するかのように聞いてきたので、俺も素直に答える。


「...どうせなら聞いておこう」

「綺麗な金髪の髪に紫色の瞳をしていて、黒いスーツに高いヒールが良く似合う、美人で艶やかな男の人」

「男か」

「あまり驚かないのね」

「恋に決まりはない。好きの対象も性別は関係ない」

「...きっとそんなあなただから好きになったのね」

「どういうことだ?」


サンネは俺の問い掛けに答えることなく、無表情だがどこか暖かい目をして話し出した。


「あなたの前に現れるのは、美しくて少し危険な...そんな人。あなたのことを正してくれる心強い人。女性にも負けないとても素敵な人よ。だから...どうか迷わないでね」


彼女は俺の目を真っ直ぐ見てそう言った。


迷うとはどういう意味なのか、この時の俺には聞けなかった。

彼女が向けた不思議な色をした瞳に、言葉を遮られてしまったからだ。

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