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Gehenna-ゲヘナ-  作者: Filmrêve(フィルムレーヴ)
最強の戦士
22/104

3話

早朝、静けさに満ちた薄暗い荒野を進む。

目的地は勿論、敵軍が潜む拠点と思われる場所。


俺は厳選した隊員、数十名を引き連れて、辺りに注意しながら敵軍の姿を探していた。

そして、ある違和感に気づき始めた頃、前方にいくつかのテントの屋根が現れた。


後ろを歩く隊員に合図を出して低姿勢となり、ゆっくりと近づいて行った。

すると、遠くにあるテントの入口に敵軍のシンボルが描かれているのが見え、それをハンドサインで後ろの隊員に知らせる。


『敵軍の拠点を発見。警戒態勢、及び応戦準備』


俺の動向に視線を集めていた隊員達は、ハンドサインを見て直ぐに銃を右手に構えた。


音一つ立てることなくじわじわと敵軍のテントに近づくと、そこにはおかしな光景が広がっていた。


敵軍のマークがついた沢山のテント。

しかし、その中にも外にも、人の気配など微塵もなかったのだ。

辺りには散乱した荷物に食べかけの食事が転がっていて、慌てて出て行った様子が伺える。


「少佐、これはどういうことでしょうか?」


疑問を抱いた隊員の一人が戸惑った声で問い掛ける。


「我々に気がついて逃げたのでしょうか?」

「いや、それにしては辺りが静かだった。食事の乾き具合からして遅くとも、昨日時点にはここを立ち去っている」


俺は少し考えてから隊員に指示を出す。


「罠かもしれない。フォーメーションDで各テントを調査せよ」

「「了解」」


そう言って隊員達は迅速に数人の部隊に別れると、各方面に向かって散らばった。


人もいないのに沢山のテントが残され、戦場では貴重とされる食料まで放置されている。

一体何があったというのか。


そんな疑問を抱きながら俺は一人でテントを一つ一つ確認していく。

そして、中でも一際大きなテントの中に入ると、明かりもなく暗いテントの奥に檻のような物が見え、よく目を凝らすと誰か人が閉じ込められている。


俺は警戒しながらも直ぐにその檻に近づいた。

敵軍に捕らえられた民間人かもしれないと思い、少し足早に近づこうとすると、戦場では聞き慣れない、落ち着いた鈴の音のような声が響いた。


「お花を踏まないで」


それは少し大人びていたが、紛れもない女の子の声だった。


その言葉にピタリと歩みを止め、足元を確認すると、地面に咲く小さな花があることに気がついた。


俺がその花を避けるように移動すると、女の子は再び話し掛けてきた。


「あなた“やっぱり”軍人らしくないのね」

「“やっぱり”とはどういうことだ?俺は軍人だ」

「軍人は皆、お花なんて気にせず踏んで行くわ。綺麗なお花には毒がある、傷つけたらその毒を喰らうことになる」

「...この種類の花に毒性はない」


俺の言葉に少女は少し黙り込んだ。


「お花に詳しいのね」

「そろそろ俺の質問にも答えてもらおう。君は何者だ?」


そう言って少女の方へ近づく。

すると、暗いテントの中が昇る朝日によって照らされ始め、檻の中にいる少女の姿が見えてきた。


幼顔に白金の長髪がよく似合う、不思議な瞳の色をした少女。

しかし、どこか大人びた雰囲気をしていて、黒い洋服がまるで喪服のようだった。

少女は無気力な表情でこちらを見ていて、檻に入ったその姿は芸術作品を思わせるほど美しかった。


「私はサンネ、天使よ」

「天使?」

「ええ、そうよ、羽根はないけれど」

「...羽根のない天使はただの人間じゃないのか?」

「いいえ、私はマリア様から羽根の代わりに別のものを授かった天使よ」

「別のもの?」


俺が問い掛けるとサンネと名乗る少女は、不思議な色の瞳をこちらに向けた。


「シナリオを見る力...未来を見る力よ」

「...未来だと?」

「そうよ」

「到底信じられないな」

「いいの、今のあなたにはどう説明しても信じてくれないことは知ってるから」

「...」


このサンネという少女が何を言っているか、ほとんど理解ができなかった。

ただ、頭のおかしい子供が夢を語っているだけだとそう思っていたが、ふと檻に入る少女を見て思ったことがあった。


「君の言っていることが本当なら、俺達がここに来ることを敵軍に教えたのは君か?」


そう言って俺は少女を見つめた。


この子の言っていることの真意は今はどうでもいい、重要なのはこの少女が敵か味方か。

それにこんな子供を檻に入れておく意味が分からない。

捕虜にするなら精神異常者は避けるはずだ。


「以前に教えたことはあるけど、あの人達、私の言葉なんて信じてないわ。それが昨夜、突然最低限の荷物を持って出ていったの」

「...そうか」

「そろそろここから出してもらえない?地面にずっと座ってるとお尻が痛いの」

「敵かも分からない君をここから出すと?」

「ええ、そうよ」

「何故...」

「見えたから」


俺の言葉を遮って少女はそう言った。


「あなたは檻に入った女の子を無人の荒野に置き去りにする人じゃないでしょう?」

「...それは未来予知ではなく脅しだ」

「じゃあ、するの?」

「...」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


各テントを探索していた隊員が一斉に散らばった場所へと戻ってきた。

どの隊員も成果はないようで、敵軍の姿も、どこへ行ったかも分からなかった。


「何かあったか?」

「いや、だが、武器はほとんど残されてなかった」

「なら、体勢を整えるために移動したのか?」

「それにしては慌て過ぎじゃないか?」

「やはり我々の動きに勘づいたのでは...」

「一体どうやって?」

「おい、少佐がお戻りだ!全員注目!」


隊員達は列を正して一斉にこちらを向く。

そして、俺とその後ろを歩く女の子を見て、数名が首を傾げた。


「...あの、少佐、そちらの女の子は?」

「一度帰還するぞ」


俺は質問に答えることなく、少女を引連れて足早に基地へと戻った。

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