2話
基地に戻ると、多くの兵がこちらを見て、機敏な動きで敬礼をする。
それを見て俺も同じく敬礼を返した。
兵員達は張り詰めた空気をまとっていて、こちらの一挙手一投足に注目をしていた。
俺が敬礼を解くと兵員達も一斉に敬礼を解き、直ぐに業務へと戻って行く。
俺は兵員達が去っていく姿を見届けると、とある一棟の建物の中へと入って行った。
そして、数多くの部屋が立ち並ぶ中で、一番大層な扉をした部屋を二度ノックした。
「バートラムです、入ります」
そう言って扉を開くと、そこには椅子に座る一人の男がいた。
俺はその男を見て少し驚いたが、直ぐに足を揃えて敬礼をした。
「楽にしろ」
男にそう言われて敬礼を解く。
「お久しぶりです、グスタフ中佐」
「あぁ、本当に久しいな、バートラム。お前とは入れ違いが多くて中々会えなかったからな」
「はい、あの、大佐はどちらに?」
俺の問い掛けに中佐は笑顔を浮かべながら椅子から立ち上がった。
「...大佐は急用が入ったらしくてな。しばらくだが、留守の間の指揮官は俺となった」
「そうでしたか」
「あぁ、だから、この椅子に座ってみたが...やはり慣れんな!」
そう言って中佐は腹の底から声を出して笑った。
俺は表情一つ変えることなく中佐を見続ける。
「それで、偵察の方はどうだった?」
「敵軍の拠点の捜索途中に見張りと思われる部隊と交戦。殲滅に成功しました」
「流石だな、軽い偵察でも成果を上げるとは」
「恐縮です」
「お前がこの部隊に所属されてから、他部隊からのウチの評価が嘘のように高い!兵員の教育もお陰で上々!本当に優秀な人材だよ」
「俺だけの力ではありません」
その言葉を聞いて中佐は再び笑う。
「お前のその謙虚な姿勢のお陰で、俺はここに立っているのだから感謝せねばな!」
「どういう意味でしょうか?」
「おいおい、言わせる気か?お前の蹴った推薦が俺に回ってきた。有難いお情けだよ」
「中佐がその地位に立っていらっしゃるのは他の誰でもなく中佐自身の力です。俺が推薦を断ろうと受け入れようと、大佐はいずれ必ずあなたに任されたと思います」
俺は真っ直ぐと中佐を見て言い切った。
すると、中佐は少しとぼけた顔をしてから、再び大きな声で笑って俺の肩を叩いた。
「お前は本当に良い奴だな!どおりで配属早々に少佐に選ばれたわけだ」
「ありがとうございます」
「おっと、話が逸れたな。拠点は交戦地付近との見解で間違いないな?」
「いえ、違います」
俺は中佐の手から離れて、壁に掛けられた地図を指差しながら答える。
「交戦地はここ。敵が密集しておりましたので、拠点はこちらの川辺付近と推測されますが、あまりにも見晴らしが良過ぎます」
「ほぉ?」
「恐らく目眩しか、あるいは誘い込むためのブラフ。他に陣を張れるような場所はこの付近では...」
俺はそう言いながら、腰からナイフを取り出し、地図上のとある場所に向かって勢いよく突き付けた。
「拠点はこの岩場付近の荒野かと」
「...おぉ!確かにそこならテントも張れるな」
「はい」
「よし、ならまた作戦を練って突撃を...」
「明日、俺が率いる精鋭部隊で突撃します」
その言葉に中佐の顔から笑顔が消える。
「...それはあまりにも無謀ではないか?ロクに調査もせずに飛び込むなど...」
「先の交戦で部隊は殲滅致しましたが、見張りが長い間帰って来なければ、敵も勘づいて本陣を別に移すかもしれません。最短で奇襲をかける方が確実です」
「だが...」
中佐はそう言って顔を曇らせたが、変わらず真っ直ぐと見つめる俺を見て、腹を決めたように頷いた。
「よし、ならお前に任せよう。必ず拠点を見つけ、敵軍を抹殺せよ!」
「了解!」
中佐の命令に俺は威勢のいい返事と共に敬礼をした。
それを見て中佐の顔には先程の笑顔が戻った。
「じゃあ、任せたぞ!俺は無線で大佐に現状を報告してくるな」
そう言って中佐は勇み足で部屋を出て行った。
俺も彼の後に続き、自分の部屋へと向かう。
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先程の部屋から少し離れた場所にある一つだけ孤立した部屋。
開くとそこには最低限の家具と目を引くほど大きな箱が置いてあった。
俺はジャケットから武器を取り出して箱を開く。
すると、中には大量の武器がしまわれていた。
銃は便利だが、リロードが面倒だ。
ナイフならその間に二人の首を落とせる。
いやしかしナイフは脆すぎるな。
俺の腕なら錆びたり折れたりはしない。
「...とは言っても、素手では流石に限界があるしな」
そう呟いて所持していた武器をしまう。
武器庫にも武器はあるが、常に直ぐ攻撃態勢に入れるように、自分専用に武器を調達しておいたのだ。
いつここが戦場になるか分からない。
他の部隊にいた時は当たり前のように、部屋に銃が乱射されるような無法地帯だったからな。
それに、日常が壊される事態など突然として訪れるのだから、手元に武器は常に持っておきたい。
そんなことを考えながら、俺は椅子に腰かける。
机の上には地図と書類とペン、花の入っていない小さな花瓶が置かれていた。
ふと俺はその花瓶が目に入り、何の気なしにそれを指で軽く突いて音を出した。
ーーーコンッ。
この花瓶は近くの村で売られていたもので、ボロボロの服を着た女の子から買ったものだった。
とは言え、戦地に花が咲いているわけもなく、こうして持て余してしまっている。
こんなものを買ったところであの子は救われない。
せいぜい一日の食を満たせるかどうかだろう。
花も飾ることができない俺が花瓶を買うのも全くもって意味がない。
それでも気づくと俺はこれを買っていた。
分かりきった理由に目を背けるようにして。




