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Gehenna-ゲヘナ-  作者: Filmrêve(フィルムレーヴ)
最強の戦士
20/104

1話

オルドの記録書

コードネーム:クロコ

ある日、黒い大きな鳥が空を舞った。


鳥は騒がしい羽音を轟かせながら、大量の黒い卵を地上へと落とした。

それは地上に落ちると同時に、激しく破裂した。


一つ落ちれば道が割れ、一つ落ちれば建物が消え、一つ落ちれば沢山の人が死んだ。


俺は家にいた父と母を置いて、脇目も振らず逃げていた。


足の不自由な父と厳しくも優しい母。

何故、戻って助けに行かなかったのか。

酒も飲めない年齢だったが、それでも何かできることがあったはずだ。


しかし、俺は二人を見捨てて走った。

それは俺の手を握って必死に走る、10歳にも満たない弟がいたからだった。


混乱し逃げ惑う人の波に押されながらも、俺は弟を連れて走り続けた。

大人達が怒号を上げて我先にと逃げる中、足を踏まれ、体を押され、顔を殴られ、それでも俺は走り続けた。

すぐ背後から聞こえる爆発音と、上から落ちてくる瓦礫や黒い卵から逃げるために。


街の人々が目指すのは皆同じ、防空壕だった。

そこにさえ入れば助かると、弟を守ることができると思っていた。


恐怖の中、防空壕の姿がまるで希望の光のように見えた。

俺は思わず笑顔を浮かべて向かって弟に話し掛ける。


「あそこに入るぞ!助かるんだ!」


そう言って振り返ると、弟の姿はなく、俺の手には小さな子供の手が握りしめられていた。


必死に走り続けていた足も、切れていた息も止まり、俺だけが別世界にいるような感覚になった。

まるで時が止まったかのように思考が遅くなり、爆発音も周囲の怒号も耳から遠のいていった。


そう言えば、弟の声が聞こえなくなったのはいつからだっただろうか?

俺の手を握る力が解けたのはいつからだっただろうか...?


気づくと俺は近所のおじさんに抱えられて防空壕に入っていた。

中では人々の怯える声や咽び泣く声が響いていたが、俺は一言も発さずにただ目を見開いて、腕の中の小さな手を見つめていた。


しばらくして爆発音が止んだ。

一人が恐る恐る防空壕の扉を開けて見てみると、空を舞っていた黒い鳥は去って行ったようで、外は先程とは打って変わった静けさに包まれていた。


皆がゆっくりと外へ出ようとしている中、俺は一人飛び出して駆け出した。

向かったのは先程、背を向けて振り返らなかった家の方角だった。


庭に母が世話をする花々が咲き誇り、料理好きな父の美味しい料理の匂いと、可愛い弟の無邪気な笑い声の聞こえる我が家に。


しかし、家があった場所には、そんな建物などなかった。


庭の花は瓦礫の山となり、料理の匂いは硝煙の匂いとなり、無邪気な笑い声はけたたましいサイレンの音となっていた。


俺はその場に崩れ落ち、天を仰ぎ、叫んだ。


空はもういつかの青さなどなく、煙と共に灰色に染っていた。

瓦礫の街で残った人々は、元に比べればほんの僅かで、その誰もが悲しみに暮れていて、もういつかの笑い声など聞こえやしなかった。


俺の腕に残ったのは、見るも無残な弟の一部だけ。

たった数分の出来事で俺は何もかもを失った。


身寄りも金もない俺は誰にも助けてもらえず、死んだ方がマシと思うぐらい酷い、ドブネズミのような生活をしばらく送った。


そして、全てを失い絶望を味わった末に、俺は銃を取ることを決意した。


戸籍は街と共に燃え去ってしまったため、身分を偽り、年齢を誤魔化して、軍隊に入隊した。


厳しい訓練に無慈悲な突撃。

血反吐を吐いて逃げ出す者もいれば、戦場の恐怖に精神を病む者もいたが、俺はこの場所に残り続けた。


鍛え上げ、戦い抜き、掃討する。

上り詰めて上り詰めて、成果を上げ続け、その部隊で士官の将官にまで推薦された。


しかし、俺は推薦を全て断り、様々な部隊を転々としていった。

他部隊からの協力要請や引き抜かれなどで陸海空の軍に行き、他にも情報部隊や特殊部隊と、常に前線を突き進んだ。


戦場は至って分かりすくシンプルだ。

生きるか死ぬかの二択、それだけ。

人として持つべき倫理観がここでは全て邪険にされる。


そんな中で気づけば俺は、周りに戦闘狂と呼ばれるようになっていた。


片手にライフルを装備して敵陣を狙い、弾がなくなれば腰からナイフを取り出して、敵の首を狩りとっていく。

それを相手に投げつけて丸腰になれば、素手で敵の頭をかち割る。


奪って、奪って、奪って、奪い続けた。

いつか見た黒い鳥と同じように。


何のために戦うのか、何のために奪うのか、血に塗れた己の手を見て考える時がある。

しかし、そんな考えもここではあっという間に蹴散らされる。


「死ね!」


突然、敵の残党が俺に向かって撃ってきた。

俺はそれを見切って、かわす。


その様子に驚いて敵は続けざまに何発も撃ってきたが、俺は走りながらそれらを全て避けて相手に近づいて行く。


「く、来るな!!」


敵は叫んで銃を撃ち続けようとするが、引き金を引く音だけが無常に鳴り、弾が出なくなった。

恐らく弾切れだろう。


俺はそれを見計らって一気に距離を詰め、片手で敵の首を掴んで持ち上げる。


「残弾数も把握していないのか?俺を殺したいのなら機関銃でも持ってくるんだな」


そう言って相手の首をへし折ろうと、手に力を込めた時だった。


「...この...“怪物”が...!」


そいつは最後にそう言い、まるで人形ように脱力して息絶えた。


俺は死体を手から離し、天を仰ぐ。

空は仄暗い灰色をしていて、地面は多数の死体で真っ赤に染められている...これが俺の世界だ。

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