余談
「人の部屋でくつろぎ過ぎだと思うぞ」
「あら、好きにくつろげって言ったのはあなたでしょう?」
そう言ってアタシはクロコの部屋のベッドで、おやつに用意した苺を食べながら資料を眺めていた。
彼も持っていた資料の確認作業をしていたが、ふとアタシの方へと視線を移して問い掛ける。
「そう言えば、事務になったらしいな?」
「ええ、そうよ」
「君ほどの実力があれば実戦で役立つと思うが...理由を聞かせてくれないか?」
不思議な顔をして聞いてきたので、アタシは苺を食べる手を止めて、彼の方を見て答える。
「別に...死ぬ気のない奴に、人を殺す資格なんてないってだけよ」
「そうか」
彼はそれを聞いて少し満足気な顔をして、アタシの寝転んでいるベッドに腰掛けた。
そして、再び資料へと視線を向けて、ペラペラと確認作業を始めた。
アタシはそんな彼の横顔を見て、寝返りを打って近づき、同じく問い掛けた。
「...ねぇ、あなたって本当に人間?」
「そうだと言っただろう」
「いや、いくら死なないとはいえ、あの神経毒で動けたのはあなただけよ?」
「軍人時代に鍛えていただけだ」
「あら、軍人さんだったの?」
「...退役したがな」
「怪我でもしたの?」
その質問に彼は再び手を止め、こちらを見ながら話し出した。
「質問が多いな」
「あら、あなたのことを知りたいと思うのはいけないこと?」
「...いや、そんなことはないが...」
「それにあなたが先に聞いてきたんじゃない」
「そうだな」
「軍人時代の武勇伝とかないの?」
アタシの言葉にクロコは考える素振りを見せると、絞り出すように話し出す。
「...武勇伝かは分からんが、地雷を食らったことはある」
「...え...」
「あとは、飛行機からの潜入のために、パラシュートなしで降下着地したこともある」
「...は...?」
「いや、これは事故の話か...。暴走した戦車を素手で止めたことは...これも事故か」
「...」
あれやこれやと悩むクロコからは、到底人間業とは思えない伝説が語られ、アタシは驚きと恐怖で黙り込んでしまい、思わず彼から距離をとった。
「...あまり武勇伝と言えるものはないな」
「...いえ、十分よ...」
「そうなのか?」
「...えぇ、もはや凄いを通り越して恐ろしいわ」
「俺からすれば君の方が凄いと思うぞ」
「あなたの話の後だとお世辞にも聞こえないわね」
「君は本部に所属して間もないというのに、今やエースと呼ばれるほど腕利きの事務として上り詰めている。これは凄いことに含まれると思うが?」
クロコはそう言ってどこか誇らしげに微笑む。
アタシは不覚にもその表情に喜びを感じてしまい、悟られぬようにと手にあった資料で口元を隠した。
「...当たり前でしょう、目指すは一流。ただ一つよ」
「是非ともその技術と考え方を増やしてほしいものだ」
「どういうこと?」
「本部はいつも人手不足だ。優秀な人材が増えれば仕事も効率的だろう」
「...まさかアタシに教育係でもしろと?」
「人に教えるのは苦手か?」
「そんなんじゃないわよ。でもそうね、好き好んでしたくなんかないわ」
アタシの言葉に彼は仕方なさそうにため息をこぼし、資料を指先でめくりながら問い掛ける。
「ならどんな人間になら教えられるんだ?」
「そうね...アタシの扱きに付いてこられる人が現れるっていうのなら育ててやってもいいわ。甘ったれの下卑た奴なんてお断りよ。勿論、見目も美しくなきゃ教える気なんてないわ」
「基準が厳しいな」
「当たり前でしょう?」
アタシはそう言って起き上がり、机の上に置かれた苺を齧る。
アタシほど優秀な人材...そんな奴いるわけないじゃない。
ご覧戴き、ありがとうございました。
〜ブラッドベリー〜章
はこれにて完結です。
『Gehenna』はまだまだ続きます。




