表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Gehenna-ゲヘナ-  作者: Filmrêve(フィルムレーヴ)
Blood Berry
16/104

8話

アタシはこの世の全てを母から学んだ。

字の書き方や読み方、計算の仕方やその他の知識教養、パソコンの使い方から人の殺し方まで...。


母は誰よりも美しかった。

その美貌で人を誘惑し、騙し、殺した。

彼女が踊る夜には、月さえ恥じらいその姿を隠した。


彼女は言った。


『あなたは世界一美しい私の子。立派な殺し屋になって、私にその姿を見せてね』


そうしてアタシの頭に優しくキスをする。

世界一美しい...アタシの母。

アタシは彼女に問い掛けた。


「どうしていつも僕の名前を呼ばないの?」

『他の人に名前を知られてはいけないからよ』

「どうして?」

『名前はねとても大事なものなの。うっかり悪魔なんかに知られたら大変』

「じゃあ、どうして名前なんか付けるの?そんなもの初めからない方がいいじゃん」

『ふふ、そうね。でも、名前がないとあなたの魂は直ぐに悪魔に食べられちゃうわ。名前はあれば盗られるかもしれないけど、それと同時に自分自身を守るものなのよ』

「ふーん」

『それにね、名前がなかったら、愛しい我が子のことを呼べないでしょう?』


母は自分の名前を使って悪魔と契約した。

彼女がそれを望んだのだ。

アタシが何かを言うのは間違っている。

...でも、渡すのは魂だけのはずでしょう?

その姿まであげるなんて彼女は言ったのかしら?


そんなことを考えながら、アタシはある一人の男の姿を追った。

先程遠目で見たが、あれは恐らく男ではない。

髪を結ってスーツを着ていたが、確かにあれは、あの日、最後に地下室で見た...。


「ちょっと、そこのあんた、止まりなさい」


アタシの言葉に振り返る男、それはやはり男装をした一人の女であった。

月よりも美しいアタシの母...ダリアの姿をした女。


彼女はアタシの方に振り向くと、目を見開いてあるものを見ていた。


「そのバッチ...13の数字...」


そう言って彼女はゆっくりとこちらに近づいてきた。

何だか苦しそうに頭を抱えながら...。


「...うぅ...返せ...返せ...それを...返せ...」


彼女の声が段々と不気味な低い声へと変わっていく。

まるで何人もの声が混じったような...悪魔のような声。


「...うぅ...返せ...それは...彼女のものだ!!」


彼女がそう叫ぶと船が大きく揺れた。

それと同時に彼女の結っていた髪が解けて、着ていたスーツは彼女が生前着ていた深紅のドレスに変わっていった。


そして、呆然と立ち尽くした人間達が、突然目の色を変えて叫び出し、逃げ惑う人間に向かって襲いかかる。

一瞬にして船上が混乱の渦へと変わったのだ。


「ちょっと、嘘でしょ...?」

「返せ!!」


悪魔はこちらの声が聞こえてないようで、問答無用でこちらへ襲いかかってくる。

アタシはひとまず人の少ない甲板の方へと向かって走り出した。


あの暴れ回ってる人間...あれも悪魔が操っている人間なのかしら?

ちょっと多過ぎるんじゃない?

いや、今そんなこと考えてられないわね。

できれば穏便に殺したいのだけど。


周りの見えていない悪魔は沢山のものを破壊して、暴れる死体共も吹き飛ばしながら、アタシ目掛けてとんでもない勢いで追いかけてくる。


「ちょっとは人の話聞きなさいよ...!」

「返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ!!」

「それしか話せないの?」

「返せ!!」


悪魔がそう言って手を振りかざすと、黒い煙のような力が放たれて、こちら目掛けてとてつもない速さで向かってきた。


すんでのところでしゃがみこんで避けたが、それは遠くにあった大きな岩場の方まで届いていた。


あれ当たったら一発アウトね...。

話もできないってなったら、近づいて殺すしかない。

まったく...戦闘はしないなんて大見得張っといてこのザマ...情けないわね。


アタシは低めの靴で勢いよく踏み切り、悪魔へと素早く近づく。

そして、その首元にナイフを当てようとした時だった。


『××××、世界一美しい私の子、愛しているわ』


頭の中に声が聞こえた。

目の前に立つ女性と同じ姿をした彼女が、アタシの名前を愛おしく呼ぶ声が...。


ほんの一瞬、ナイフが止まる。

悪魔はそれを見逃さず、容赦なくアタシのことを吹き飛ばした。


幸い船から落ちることはなかったが、勢いよく船のマストに体を打ち付けられてしまった。

直前に少しかわすことはできたが、どうやら腹部を掠ったようでそこから血が溢れ出て止まらなかった。


「...っ...ゴホッゴホッ...あぁ...アタシらしくない...」


血は頭部からも流れていて、遠のく意識から再び声が聞こえ始めた。


『いかなる相手でも3秒以内に殺しなさい』


分かってるわ。


『血を流すようじゃ三流以下よ』


分かってるってば...。


『武器を使って殺すのよ...その力は...』


「うるさいわよ...悪魔と契約なんかしといて...あんたにだけは言われたくない!」


口から血を吐きながらアタシは叫んだ。


目の前には自我を失った悪魔...いつかの美しい殺し屋ダリアの姿などもはやなく、髪は乱れて逆立ち、ドレスは黒く変色して破け、その醜い顔は正しく悪魔そのもので、トドメを刺そうとゆっくりこちらに近づいて来ていた。


もう彼女はいない...美しい彼女は...もう...。

その現実を...


「...あんたに教えてあげるわ」


アタシはそう呟くと、胸元のバッチを外し口付けをした。

そして、それを悪魔に向かって勢いよく投げつけた。

バッチは悪魔の足元に転がり、それを見て悪魔は立ち止まった。


「...あぁ...ああ...ダ...リア...」


悪魔は咽び泣くように呟き、ゆっくりとそのバッチを拾い上げた。


アタシはそれを見て悪魔を指を差しながら唱える。


「魔女のバッチを盗んだ愚か者に罰を。彼の者の体はアタシの言葉に逆らえない」


その言葉に悪魔の身体はピタリと止まり、膝から崩れ落ちた。

同時に拾い上げたバッチが衝撃でその手からするりと落ち、今度はアタシの足元へと転がって来た。


アタシはそれを拾い上げて再び胸元に着ける。


「さぁ、今度はアタシの番よ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ