7話
事務室にいた男...彼はあの部屋の局長だったらしい。
彼は直ぐに事件のことを調べてくれたようで、多数のパーティーの内の6件の死亡事件は全て主催者が既に死亡している人間だった。
しかも、その人達は全員偽名であったそうだ。
悪魔が死んだ人間を操ってパーティーを開き、姿を変えて自らも参加して事故を起こして、それで死んだ人間の魂を集めている...と推測される。
そして、新たに開かれる多数のパーティーの中で4件が主催者の不明となっているものがあり、その内の一件に今回、アタシとクロコが参加することとなった。
「春先に船上パーティーって...タイタニックかしら?」
「不吉なこと言うな」
彼はそう言ってネクタイを締め直し、アタシも手袋を直しながらため息をついた。
「何でアタシもスーツなのかしら?」
「パーティーに参加する正式な格好だ」
「どうせなら気分の上がるヒールが良かったわ...」
そんなアタシの文句を無視して、彼は案内係からネームプレートを受け取っていた。
アタシも彼からそれを受け取ると、二人で船へと乗り込んで行く。
船には富裕層から田舎の子供達まで様々な階級の人達が乗っていて、いかにも慈善活動らしい光景だった。
「悪魔はどこにいるか分からない。ダリアの姿であれば見つけやすいが、そうとは限らないだろう。俺達の他にこの船に本部の人間は関わっていないから、気を引き締めておくように」
「あんまり堅物過ぎると、ここじゃ返って目立つわよ?こういう時は深く考えずお酒でも飲んでいた方が溶け込めるもの...ほら、飲みましょ」
「任務中だぞ」
「あら、飲めないのなら別に無理しなくていいわよ?でもカモフラージュとして持っておいてちょうだい」
そう言ってアタシはボーイの運ぶお酒を手に取り、軽く一口飲んだ。
そして、それをクロコにも手渡した。
彼はそれを受け取ると仏頂面のまま勢いよく飲み干した。
「...いい飲みっぷりね」
「別に酒が苦手な訳ではない、むしろ好きな方だ。これが任務でなかったらもう一杯もらうところだ」
「いいんじゃない?あなた酔わなさそうだし...」
アタシはグラスを持ちながら、人が多く賑わうダンスホールの方に向かった。
ドレスを着た貴婦人も縒れた服を着た子供も、男女構わずペアを組んで下手くそなワルツを踊っている。
勿論、下級層の人々は踊り方なんて知らず、千鳥足のステップは見ていて滑稽だ。
しかし、皆同じような笑顔を浮かべていて、なんとも楽しそうに踊っていた。
...あの監視カメラの映像。
何度見直してもやっぱり彼女だった。
でも、歩き方とか仕草が何だか違う。
彼女はもっとこう...。
アタシは外側からホールを眺めながら考え事をしていると、ふとあるものに気が付いて、隣に立つ仏頂面の彼に提案した。
「アタシ達も踊りましょう?」
「何?」
「カモフラージュよ。こんな厳つい男、ダンスでもしないと疑われるわよ」
「...俺と君でか?」
「男同士のペアなんて誰も気にしてないわよ。どうやら下手でも大丈夫みたいだし」
アタシは少し馬鹿にするようにそう言うと、クロコに向かって手を差し伸べる。
すると、彼は少し苛立ちの表情を浮かべて、強引にアタシの手を取ってリードした。
「ふふっ、あなた何でもできるのね」
「君も同じだろう?事務室でのこと聞いたぞ」
「別に殺し屋ならできて当然よ」
「格闘技術も悪くないしな」
「...それ馬鹿にしてるでしょ?」
アタシが不機嫌そうにそう言うと、珍しく無愛想な彼の口元が少し綻んだ。
演奏者達の奏でる心地よい音楽、天井で光り輝く美しいシャンデリア、幸せそうな笑顔に満ち溢れたダンスホール。
そんな中で踊る黒いスーツの二人組。
人より少し背の高いアタシをも上回る大柄な男。
大きくて逞しい体付きに仏頂面を浮かべた彼にリードされて踊るワルツは、正直言ってスマートとは程遠かった。
強引で不器用で、ステップの調子も合わない。
しかし、手だけは優しく握られていて、まるで花でも持つかのような優しい彼の握り方に思わず笑ってしまう。
ふと彼と目が合い、真っ直ぐとした彼の瞳に写ったのは、しばらく忘れかけていた感情に浸る美しい姿のアタシだった。
そんな風にしてダンスを続けていると、突然彼が問い掛けてきた。
「...先日、実戦の訓練生が数人死んだ」
「突然何の話よ?」
「急用と言った時だ。呼ばれて向かってみたが、奇妙な遺体が転がっていた。...全員自分で自分の目をくり抜いて死んでいたんだ」
「大胆な自殺方法ね」
「気になって本部の監視カメラを見てみたら、奴らは直前に君と口論をしていたな?」
「...」
「奴らが君のヒールに傷をつけた時、君は何かを言った。カメラには聞こえないほど小さな声で...。その直後に奴らは自分の目をくり抜き始めた」
彼は踊りながらこちらを問い詰めていく。
アタシはそれを黙って聞いていた。
「何をした?」
「...何って?勝手に目をくり抜いたんでしょう?」
「あの訓練生はG上がりの不良共だ...自殺するようなタマじゃない。それに、どんな会話の流れになったら、あんな突然自殺をすると言うんだ?」
「知らないわよ」
「この件は君のコードネームと何か関係はあるのか?」
「...それってどういう意味かしら?」
そう言って鋭くクロコを睨むと、彼は何かを言いかけたが、アタシの胸元を見て止まった。
「それは何だ?」
「...これ?アタシの私物よ」
「数字の刻まれた金色の苺型...『Blood Berry』の会員バッチだろう?」
「あら、よく知ってるわね」
「何故こんなところに着けてきたんだ...!」
「何よそんなに慌てて...必要だから着けてきたに決まっているでしょう?」
「この存在を知る人間がいたらどうする気だ!」
「大丈夫よ、あなただってさっきまで気づかなかったじゃない」
「そういう問題じゃ...」
クロコはそう言いかけると、突然、アタシに寄りかかりながら崩れ落ちた。
「...なっ...何だ...体が...動かな...」
「あぁ、やっぱり。さっきのお酒、毒が入ってたみたいね」
アタシがそう言った途端、周りにいた人間も次々と倒れていった。
その様子に叫び声を上げる者が大勢いる中、数人が呆然と立ったまま、まるで人形のようにそれを見ていた。
「...どういう...こと...だ...」
「あなたやっぱり凄いわね、この神経毒に意識を保っていられるなんて...」
「...君が...やったのか...?」
「違うわよ、殺し屋に大抵の毒は効かないってだけ。でも、この毒を盛ったかもしれない悪魔をさっき見かけたから行ってくるわ」
「...待...て...!」
「ごめんなさいね、これはアタシの依頼よ」
アタシは毒に苦しむ彼を置いて、先程見かけた男の元へと向かった。




