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Gehenna-ゲヘナ-  作者: Filmrêve(フィルムレーヴ)
Blood Berry
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2話

暗殺者のための酒場『Blood Berry』


特別なバッジを持つ者だけが入れる完全会員制のバー。

暗殺者の登録は相当の腕利きであることと、会員からの紹介がなければできない。


ここではターゲットのことをイチゴと呼んでいて、価格や内容によって自ら仕事を選ぶこともできる。


顧客は待機登録依頼と直接依頼の2種類から選ぶことができる。

待機登録依頼とはその名の通り、自分の依頼が選ばられるまで待たなくてはならないが、その分安く暗殺を頼めると好評だ。

直接依頼では顧客は暗殺者を自ら指名することも、期限やその他のオプションを頼むことも可能だが、その分莫大な金額の報酬が必要となる。

そもそも暗殺者の情報を持っていないと指名もできないので、直接依頼はあまりない。


依頼は全て足のつかない公衆電話からのもので、店主が仲介人となって受け答えするので、暗殺者と依頼主が会うことは殆どない。

報酬も前払いで店主が管理しているため、暗殺者が仕事を終え次第支払われる。


トラブルやリスクの少ない暗殺ビジネス。

一流と呼ばれる暗殺者は皆、ここに登録しているという。


「ねぇ、この前の依頼、変なオプション付いていたけど、報酬交渉はした?」

「...勿論です」


そう言うと、店主はカウンターの下から分厚い茶封筒を出してアタシに手渡した。


「...追加報酬の支払いです」

「ありがとう」

「...あと、宜しければこちらも」

「これは?」

「...こちらは不要だったそうです」


そう言って店主が差し出したのは、灰皿に乗せられた幾つかの指輪だった。

アタシはそれの中から一つ掴むと、指輪についた光り輝く宝石を眺めた。


「女の嫉妬って怖いわよね。何股もかける男も愚かしいけど、それだけで人殺しを頼んでしまうんですもの」

「...我々の業界は人の愚かしさの上で成り立っていますから」

「それに加えて男に渡した指輪を取り返して欲しいだなんて...愚の骨頂ね」

「...思い入れですかね」

「さぁ...何なのかしらね」


そう言ってアタシは指輪を落とすように灰皿の上へと戻した。


「アタシも要らないわ。こんな悪趣味な指輪」

「...かしこまりました」


私の言葉に店主は指輪を灰皿ごとカウンターから下げると、輝かしい宝石の数々をまるで煙草の吸殻を扱うかのように躊躇なく近くのゴミ箱へと捨てた。

アタシはそれを見てクスリと笑い、カクテルを一口飲んだ。


店ではいつも蓄音機から静かなクラシックが流れていて、アタシは密かにその優雅さを楽しんでいたのだが、今日は何故だかアップテンポなジャズが流れている。

嫌いではないが、何だか調子が狂う。


アタシがそれを言おうとした時、お店の扉が勢いよく開いた。

そして、二人組の高身長でガラの悪い男達が入ってきた。


「何か飲む?」

「いや、私はいいよ」

「あっそ、じゃあ俺は...何にしよっかな〜?ねぇ、何かおすすめない?」


そう言って一人の男が突然話しかけてきた。

アタシは流し目で男を一瞬見てから、直ぐに視線を外してお酒を飲み続けた。


「おい、無視かよ」

「やめな。それに君、飲めないだろ?」

「うるせーな、酒なんて不味いもん誰が飲むんだよ」


じゃあ、なんで来たのよ。

という言葉を飲み込んで、席を外そうと鞄を持った。

すると、男が再び話しかけてきた。


「コードネーム“魔女”ってお前のこと?」


その言葉に思わず視線を向ける。


男は白雪のような髪に整った顔立ちをしていて、片方の眼帯が不格好で目立っていたが、もう片方の目は澄んだ透明色をしていて、宝石よりも美しい瞳がこちらを見つめていた。


「...ご指名かしら?」

「あれ?男なの?てっきり女かと思ってた」


ニヤニヤとしたふざけた笑みを浮かべて白髪の男がそう言うと、もう一人の男が割って話し掛けてきた。


「魔女は何も女のことを指しているんじゃないよ。男だって魔女と呼ばれることもある」

「へぇ、そうなんだ」

「ふふっ...興味なさそ」


白髪の男と親しげに話すその男は、彼とは反対に真っ黒な髪に切れ長の目をしていて、日本人だと直ぐに分かった。

まぁ、それ以前に日本語を話していたのだけれど。


「...直接依頼の指名でよかったかしら?」

「あぁ、“魔女”ご指名だ」

「どこで聞いたのか知らないけど、アタシの指名は他よりも高いわよ?」

「へぇ、幾ら?」

「そうね、相場の6倍は考えておいて」

「じゃあ、10倍出す」


白髪の男の即答にアタシは少し驚いた。

計算ができないのか、ホラでも吹いているのかと思ったけど、迷いのないその青い瞳に何故だか確証を感じた。


「いいわよ、どんなイチゴがご所望なの?」

「悪魔」

「...何ですって?」

「だから、悪魔を殺して欲しいの」


その言葉にぽかんとしていると、黒髪の男が仕方ないと言わんばかりにため息をつき、アタシに向かって話し掛けてきた。


「君の母親ダリアは、ある悪魔と契約をした。その悪魔が今、悪事を企んでいると情報があってね。私達はそれを止めるために来たのさ」

「...どうしてアタシの母を...というかどうしてアタシに?」

「どうも隠れるんぼが上手な悪魔みたいでね。捜索が難航しているんだよ。だから、君の力を借りたいんだ」

「...あんた達一体何者?」


アタシがそう言うと、涼しげに話していた黒髪の男が少し口篭る。

そして、そんな様子に痺れを切らした白髪の男が声を大きくして話し出した。


「本部...オルドの人間だ。オルドとは世界の秩序を保つために存在する。いわゆる、裏組織さ」

「おい、カラレス」

「この酒場も本部の監視下で経営を許可されている。うちのブラックリストもたまに流したりしてるしね」

「もうやめな」

「そうだね、話が逸れた。お前の母親が悪魔と繋がって悪さしてんだよ。しかもどういう訳か魔力も感知できない。捜査難航で何故か全然違う俺達の部署まで駆り出されてんの!」

「まだあのパフェのこと根に持っていたの?」

「期間限定だって言ってんのに!最終日まで忙しくしといてそれすら任務って、マジでどういう神経してんのさ!」

「本部はいつでも人手不足だからね」

「そういうことで俺は今とっても不機嫌。だからさっさと協力しろよ。それとも何だ?お前もダリア達のグル?」


白髪の男はそう言ってアタシを睨んだ。

アタシは話に置いてかれそうになりながらも、何とか理解しようと頭を回していた。


「ちょっと待って、()()()()って...あんた達は悪魔だけじゃなくてダリアも処分しようとしてるの?」

「まぁ、そんなとこかな」

「無理よ」

「おや、一流の殺し屋でも流石に自分の親は殺せないのかな?」

「そうじゃないわ。女、子供だろうがアタシには関係ない。でも、彼女は殺せないわ」

「と言うと?」

「もう死んでるもの」

「「は?」」

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