女子高校生探偵と警察犬
麻布十番で殺人事件。
普段はアレなマダムでザマスな住宅街に、ポリスなパトカーが詰め寄せた。
捜査一課課長の山下は『KEEP OUT』の黄色のテープをくぐり、ガイシャの傍へと屈んだ。
「お疲れ様です課長」
「うん」
シートをめくる。死んだ女性の顔がそっと現れた。
「後は任せた」
「は?」
来たばかりの課長から放たれた一言に、思わず声が上ずった。
「これからさ、これなんだ」
「あー」
玄関の靴置きにかけてあった傘を逆さに持ち、静かにスイング。課長のイメージではボールはきっとグリーンの上だろう。
「あのー」
「?」
KEEPOUTのテープの向こう。事件現場とは無縁そうな可愛らしい女子高生が覗き込んでいる。
「探偵、呼んだから。今話題の女子高校生探偵ってやつ」
「ヨロピー」
「…………」
課長が「じゃ、後宜しく」とその場を去ると、女子高生探偵は名刺を一枚取り出した。
「山中やまり」
「はぁ……」
現場からはため息が漏れた。
「で? 詳しく」
「はぁ」
その場を任されていた新人が困惑気味に資料をめくる。
「ガイシャは花村花子25歳。近くのスナックで勤務。ナイフで正面から腹部を一突き。死亡推定時刻は今朝の六時ごろ。服装から見て勤務を終えて帰宅したところを殺害されたと思われます」
「ふぅん……」
シートをめくると、鮮やかな衣装の腹部にドス黒いなにかが見えた。腹部を覆うシートはナイフで盛り上がっており、否応無しに惨劇を想像させてくれた。
「そう、ですか。では警察犬を使いますね」
「?」
やまりがKEEPOUTの向こうへ手招きをした。
「こっちこっち」
地面を擦っていたリードを掴み、現場へと導いた。
「あ、あのー……」
首輪には『チャッピー』と書かれてはいたが、そいつはどう見ても男だった。
「ワンぬ! ワンぬ!」
「よしよし、お座り」
チャッピーと呼ばれた男がピシッと座った。頭を撫でられ喜んでいる。
「チャッピー」
やまりがシートをめくった。犯人の匂いや痕跡を警察犬に探らせるためだ。
「好みです」
「聞いてないから! それと『ワン』を付けろ!」
怒られしょぼくれるチャッピー。
「で?」
圧。パない圧。
「駅前のスナック『バタフライ』で働くマリちゃん! 二年目で常連が三名付いてますワン!」
「よーし、いい子だ」
ド〇ーマンとおぼしきおやつを投げられ喜ぶ男。現場はその光景から目をそらしながらも、男が話した内容に耳を傾けている。
「この服が好きなオヤジは田中直光(48)! 近くの工場で働くサラリーマンですワン!」
「だ、そうです」
警察が田中の自宅に向かうと、直光の様子は明らかにおかしく、警察はすぐに事件との関連を疑った。
そして当日のアリバイや交友関係を捜査すると、あっと言う間に花村花子と繋がったため、任意同行へと至った。
「私がやりました……」
直光はすぐに犯行を認めた。
「よくやったぞ」
「ワンぬ! ワンぬ!」
こうして、日本の警察犬は高い能力を持ってして、日々現場で活躍をしている。