20180528_南伊豆03
3話目です。
地元の静岡県や隣の愛知県ではなく、南紀へ泊まりがけの遠征に出た時の話です。
もう秋だというのに急激に入道雲が発達して空が暗くなり、雨が降り注いできました。慌てて雨合羽をかぶり、釣りを中断。天気図を読んでいたからにわか雨だと思って、岩影でやり過ごしたかったのですけれど、頭上が垂直の崖で隠れようもなく、嫌な予感もしたので道具を片付けました。
中学の時、引け際を誤って、頭皮に傷を残した嫌な思い出があるから。
背負子にクーラーボックスと磯バッグ、タックルボックスを縛り付けている間に、小降りが本降りになってしまったのです。
嫌な予感は当たり、遠くの空まで真っ暗になっていました。危険と判断して撤退。どんどん雨足が強くなり、足元と岩の上を流れる川に神経を集中。
この時の船の着け場が、大きな岩を回り込んだ場所だったから、ひどい足場を何とか乗り越えてたどり着きました。
渡船に電話すると迎えにいく途中だと言われ安心したのですが、あっという間に風まで強くなって、波も高くなっていきます。
あたしも小型船舶免許持ち。海の様子は、荒れ具合は、まだ許容範囲。
だけど、あたしは朝、最後に渡礁しました。つまり、渡船が拾いに来るのも最後です。
渡船が来てくれた時は既に、船着き場が高波で洗われていて、まともに接岸できない状態でした。舳先を守る古タイヤをガリガリ削りながら、衝突するような勢いで接岸してきました。
時を失うわけにはいかない。背負子をはじめとして、全部の荷物を乱暴に投げ込み、勢いで奥へと追いやります。タイミングを見て、ミヨシに飛び乗りました。
朝のメンバーは全員乗船済みですね。今ならまださほど苦労せずに帰れるでしょう。
「おい待て~」「乗せ、て、くださーい」
直後、オッサンとジーサンが、もとい中年男とお爺さんが荷物を抱え、あたしが釣っていた場所と反対側からやって来たのです。どうやら別の渡船の客らしく見覚えがありません。でも、他に船は見えません。
「荷を捨てて、この船に乗れ」
船長が叫びました。
お爺さんは素直に荷を捨てました。ところが、中年の釣り師は荷物を捨てません。片付けもしていなかったのか、伸ばしたままの竿もタモもむき出しで、ふたの開いたバッカンは中の混ぜられた大量のコマセが見えています。大荷物を抱えヨタヨタ歩く中年が前を塞いでいて、お爺さんもなかなかこちらに来られません。
やっとたどり着いたと思ったら、オッサンは何考えてんだか、あたしに向かって竿を投げつけてきました。
「落とすんじゃねえぞ」
受け取らないで避けて海に落としてやろうかとも思いましたが、オッサンが次々に荷を投げつけて来るので、場所塞ぎにならないよう後ろに流すしかありません。
で、オッサンが荷を投げている間、お爺さんが乗り移ろうとしたのですが、オッサンが手で邪魔しやがった。
「俺が先だ」
マジ殺すぞ。
船長も後ろにいる船客もオッサンに早く乗れと叫んでいるんですが、オッサンは必死の形相でクーラーボックスを頭上に掲げ、投げつけてくる始末でした。
船が揺れているのにタイミングを間違えてやがります。舳先にぶつかって跳ねたクーラーを今度こそ避けました。クーラーを投げつけられるのにトラウマがありまして。
クーラーがミヨシのあちこちにぶつかりながら転がって、オッサンが怒鳴り散らす。
「高いんだぞ。買ったばっかりなんだぞ。弁償しろ」
口開く時間があんならとっとと乗りやがれ。
怒鳴り返しても仕方ありませんよね?
怒鳴り合うわずかな間に波は更に高くなり、船が着け場から離されます。お爺さんの顔色が悪い。船長が必死に操船し、再度を寄せます。
あたしは、お爺さんへ手を伸ばしました。
で、オッサンが、受け止めろと言わんばかりにあたしに向かって飛び込んできたんです。
もちろん避けます。
床に身体を打ち付けたオッサンが苦痛にうめきますが知ったことじゃありません。
けれども、舳先を塞いでいるため、お爺さんが乗り移る機会を逃しました。
どけ、オッサン。
ちょっと昔のあたしの声で怒鳴り付けると、オッサンではなく後ろにいた同乗者が動いてくれました。適当に手足を掴み、オッサンを引きずって場所を開ける。
もう、接岸できません。舳先がつぶれます。揺れで下がった瞬間に飛び込むしかなくなった。
でも、お爺さんは大揺れする船に怖じ気づいてしまっています。
仕方ねえ。
重心を落とし、下半身に力をためて、舳先の上昇に合わせて解き放つ。
コン。
岩に着地すると、お爺さんをお姫様だっこ。
チク。
半回転して向きを変え、船の下がりつつある舳先、というかミヨシへ、とんぼ返りの全力ジャンプ。
ショッ。
ガンという着地音と共に足裏から伝わる衝撃が。
・・・痛い。
「でかした、兄ちゃん」
船長、あたしの性別知らないの? 結構な回数使っているよね。師匠がキミハルキミハル呼ぶからか?
胸を見て判断したのなら、覚悟してもらおう。
いやあ、あれは大変でした。お年寄りでも男の人は重い。2人分の体重で船に着地した衝撃は、磯靴のスパイクには耐えられません。何カ所も壊れ、裂け目の入ったソールごと張り替えるはめに。
ベテラン船長は座礁することなく沖磯から後退。横波や縦波をかわしながら、海を突き進みました。
天候は更に悪化していき、港に戻る頃には嵐になっていました。ゲリラ豪雨ではなく、嵐に。
雨の壁で完全に視界が塞がれる直前、湾内に逃げ込めました。ギリギリセーフです。
荒天から回復したのは帰還から2時間後。天気図を読み違えたつもりはないけれど、あたしの予測は大外れ。夕方のニュースで、想定外の爆弾低気圧が発生したと言っていました。
ちなみに、迷惑オッサンは、回状が出て付近の渡船では出禁になりました。お爺さんに万が一のことがあったら、出禁じゃすまされなかったでしょうね。
そんな出来事の後、荷物の数を少なくしたいと強く思うようになりました。大きさは良いのです。問題は数。多いと大変。
磯釣りでは、ここで釣るのか? どうやって行くんだ? 頭おかしいんじゃないの? という地形、ルートを辿る場合もあります。
例えば岩の反対側へ行くのにも、わずかな足ががりを頼りに岩肌にしがみつくようにして回り込むとか。
フリークライミングみたいに崖をよじ登る所もあります。
背負子を使うにしても、たくさんの荷物のままでは怖い。
背負子に登山やボートに使う太いザイル(尻手ロープではない)を結びつけておいて、上に引き上げたり、下ろしたり。何往復も必要になることもしばしばです。行きだけではありません。納竿して帰る時も同様です。
ちなみに、これは極端な例だというのは言っておきます。あたしもここまでの経験は少ないです。基本的に「釣り禁止」、「立ち入り禁止」とあったら、そこへは行きませんから。
渓流釣り好きな人に聞いたら、彼らは同じようなことを雪山でもやるそうです。あたまおか・・・。
荷物の数が少し多くても、一つ一つを軽くすれば投げるにも運ぶにも楽だ、との持説を展開する人もいます。重いと動きづらいし投げられないからと。あたしは荷物の数を少なくするほうが忘れ物対策や片付けなど簡単で良いと思います。たかだか10㎏の荷物を投げられないとは思えませんし。
米一俵、60㎏を投げろと言っているんじゃりません。JA規定の米袋、30㎏を投げるのでもありません。スーパーマーケットで売っている米の大袋が10㎏です。重すぎるってことはないでしょう?
けれど、そんなに便利なバッグやロッドケースは売っていません。せめて、大型で頑丈で、もちろん水に浮く、長尺物に使えるロッドケースがあれば。ついでにポケットが多くてタックルボックスも兼用できて、小物や衣類をまとめられる磯バッグも兼ねられれば。そういう、ロッドケースと磯バッグを兼用できる品がないかと、インターネットで色々調べても、良さそうなものは出てきません。振出竿や4本継竿を収めるのに適したロッドケースは幾らかあるのですけれど。
まあ、水に浮くとか、頑丈とか、そういう条件は無理を承知で言っていますから、見つからなくても当然です。でも、長さは条件として外せません。
困っていたら、姉が当てを思い付きました。
「ねえさまだったら、何とかしそう。聞いてみるね」
作れそうな人に頼んでくれたのです。その人は姉のパートナーさんのお姉さんでした。姉から見れば義姉。あたしにとっても親戚になります。
それが2年ちょっと前のこと。ちょうど留学準備中で忙しく、細かい注文がありながらメールという失礼な頼み方だったのだけれども、その人はたったの3週間ほどで作ってくれたのです。洋裁が趣味らしいのだけれど、普通は趣味で作れません。仕事が終わった後や休日のわずかな時間で作れるような条件でもありません。
しかも、完成品は要望の数段上。
内側と外側の布の間に、筒型の浮力板が挟まれているセミハードケース。大きなサイドポケットもが4つもあり、ポケット部も同素材の浮力板入り。外布は撥水能力と丈夫さを兼ねたバリスティックナイロン製。
浮力板を特殊素材で形成してくれていて、放り投げられても大型トランクの下敷きになっても安心だそうです。実際に強くて曲がりにくい。椅子同士の上に渡した状態で55㎏あるあたしが座れるのですから。
内側も凝った作りになっています。竿同士が触れ合わないよう、メインポケットの内周部に竿の大部分が収まるインナーポケットが6つ。つまり、4セットの竿、玉の柄、長いピトンか三脚を別々のインナーポケットに入れられます。
竿や玉の柄はカーボン素材だから、マジックテープを巻いてまとめておけば多少のことでは折れません。金属製のピトンや三脚は言わずもがな。怖かったらタオルをクッションにすれば互いを傷つけません。だから、内ポケットの要望は出していませんでした。
メインポケットやサイドポケットのファスナーを全開にして、内布の隠しホックを外すと、外布、内布、中間の特殊浮力材の板が数枚に分割できて、しかも丸洗い可能。外側も内側も布は大型ネットにぶちこめば洗濯機で回せるんです。浮力板も洗車のようにホースとブラシを使って洗えます。お陰で2年たってもカビや腐敗臭は一切ありません。
出来上がりを見せてもらい、想像を遥かに超える完成度に驚きました。
仲介してくれた姉とパートナーさんに、これだけの品を作ってもらって材料費だけではさすがに不味いと、御礼を相談しました。
そうしたら、姉のパートナーさんに笑われた。
「あくまでも趣味の範疇だから。ねーさんは好きでやっているだけ。メールで熱く語ってくれたら満足するよ」
「ねえさまは、久々に一から作れたから面白かったって言ってたわ」
姉達の言葉を鵜呑みにするのも不安だったから、工業系大学出身の兄に見せて意見を聞きました。
「・・・もし量販品だったとしても、5桁じゃ買えないね」
やり取りのメールを見せたら、材料工学という専門知識による説明が混じっていると。
「これを作るには、応力とか構造強度とか荷重を計算して、外、内張り、中板、部品類を選び、設計しなくちゃ」
裁縫なのに設計?
「浮力板とあるこれ、潜水艇に使うような素材だね。サイズや形状からして、専用成形だろう。外布の縫い糸、接着剤もか。色々な細かい材料からしても、普通の洋服作りには使わないだろうね。チタン製のファスナーって、あるんだなあ」
桁が変わるくらいなの?
「軽自動車の座席の調達価格で、F1のシートをオーダーメイドしたようなものだからね」
例えがわかりません。
3週間で作ってくれたん。材料費だけしか払ってないし。
「最低でもお菓子くらいは贈っておきなさい」
2万円渡されました。実家ではなく、母方の親族が使うようなお店のものにしなさいとも。お礼にそれだけのお菓子が必要なのだそうです。
ただ、正直に言えば、お菓子程度では感謝の気持ちが伝えきれない夢のような道具です。有名釣具メーカーの最高級ロッドケースも、これに比べれば模造のパチモノ程度に思えてきます。
それまで使っていた長尺ケースはというと・・・。
ワンピース(継ぎなし)で7フィートや8フィート(213~243㎝)という長いルアーロッドがあって、それを入れる樹脂製のケースが市販されています。基本的には樹脂の長い筒です。ビルなどの設計図を入れる筒、いや、卒業証書を入れる筒のスケールアップ版とイメージしてもらえばわかるでしょうか。
前まで使っていたのはこの筒でした。適当に買ったら、使い勝手も仕上げも悪く、持っている筒は両方とも、火であぶって曲げたり、外のバリを削ったりと、調整が必要でしたね。とてもではないですが、お義姉さん特製品とは比較になりません。
名人が丹精込めて作った最上級の竿と、釣具屋でカゴに差してある980円初心者セット釣竿ほどに違います。
何しろ、師匠や先生が、特製ロッドケースを見て、どこの工房の製品か熱心に聞いてきたくらいです。長年釣り師をしている2人から見ても素晴らしい出来なのです。
ちなみにバイクに付けているロッドホルダーは自作品です。樹脂製ルアーロッドケースを参考に塩ビパイプを金属と糸で加工した物。2台の愛馬のタンデムステップに取り付けつけている受け金も自作になります。ケースも受け金も、小さい頃から何度も何度も作り直し、やっと満足いく出来にまで仕上げ、自画自賛していました。
よく釣り場のバイクに見かけるルアーロッド1本のホルダーではなく、釣竿2本~3本を入れられるように拵えた太いパイプにです。なお、3本というのは振出竿の場合になります。今では近場への釣行にしか使用していないけれど、長距離走行であっても振動で竿が壊れるようなチャチな作りにはしていません。ちゃんとクッション材を内張りしてありますし、竿はそれぞれベルトで固定し、内張りクッションの径に合わせて布を巻いたりしていて、パイプの中で大きく動くことはない。
そんな自画自賛のロッドケースだけれど、お義姉さん特製ロッドケースと比べるとみすぼらしい代物に思えます。走っている最中に飛んだり、枝に引っ掛からないことだけは評価できるかな。
お義姉さん、ではない、パートナーさんのお姉さんには、贅沢すぎる注文を全部叶えてもらえました。
このロッドケースは非常に使い勝手がよく、ほぼ同型の物をもう1つ作ってもらっています。その時、実は当初渡していた材料費だと足りなかったことも判明。せめて差額を払いたいのに、彼女は受け取ってくれません。
今度は姉にアドバイスされ、○mazonギフトカードを差額兼お礼に渡ししたら、逆に丁寧なお礼を返されたのは笑い話です。
まあ、事情があって、彼女とはケース製作依頼の時よりもっともっと親しくなっています。それこそ、身内として。師匠や先生用の特製ケース作成までも依頼できるくらいに。
彼女は平均よりもすごく小柄だけれど、脚が長く、乳も結構大きい。女らしいとは、ああいう人のことをいうのかな。
背の高さが全然違うけれど、雰囲気で祖母を思い出します。
バイクの引き起こしでの「どっこいしょ」という掛け声が可愛いんです。
うん? 寒気が。
脱線ばかりですみません。
今回の沖磯についての話に戻ります。
見渡した感じ、この岩の高い部分は狭くて小さいけれど、同じ向きに並んだとしても3人は大丈夫でしょう。凪なら肩の部分にあと4人はいける。けれどあたしは2本出しの底物師。ポイントへの投げの余裕、崖の高さと魚の取り込みを考えたら、凸部分は2人で限界になります。おニイさんが、イシダイの釣り方の一種、南方宙釣りを使うとしても半分を譲れば十分でしょう。
底物釣りではなく、メジナ狙いでウキフカセ釣りをする場合も2人でしょうね。ここは押し寄せる潮もぶつかって流れる潮も速い。ウキもその下も流れますし、コマセに合わせて流したほうが釣れます。3人だと互いの流す範囲が重なって喧嘩です。
ただ、反対側の東向きも実績があると釣り場ガイドで読みました。東、つまり渡船で先に寄った小島の方向です。10時半頃の干潮が過ぎたら、当然、満潮への上り潮になります。
2人が互いに東西に向くのもありと言えばありです。いえ、おニイさんも右利きみたいだから、真ん中寄りで互い違いに投げると、仕掛けが絡まるか、相手の身体に引っ掛けるかも。
第一、狙うべきと船長から言われたのは、石廊崎方面の西向き。そしてあたしの鼻が獲物の匂いを嗅ぎ付けているのも西側。
・・・そんな鼻を持っていたらボウズにならないだろうなあ。
もとい、最悪、潮向きの逆転までボウズだったら、おニイさんに東向きを提案してみよう。
船長さんから教えてもらったポイントは4つとも西側。
岩の頂上から見て右手、地方(陸地)に向かった側に海底から一段上がった高根がある。高根とは海中の高い岩。今いる岩の横に線を引いて、そこから直角に真っ直ぐ続く海の中の丘と言えばイメージできるでしょうか。こちらの高根の途中にある段差がお勧めらしい。あそこの白波の辺りかな。
岩の頂上からだと50~60メートル右斜め前。高根の根肩に寄せる感じの場所を探ったあたり。高根は水深が浅くて潮の流れが速く、仕掛けを留めるのに苦労するということです。けれど、大型の実績があります。上り潮で石廊崎方向へと流れが変わっても潮の速ささえ何とかすれば狙えるそうです。
ここが第1ポイント。投げる人用のポイントです。
続いて、高根の左。つまり、この岩から石廊崎方面に向かって正面側。
海面下10~15メートルくらい下まで急深な落ち込みがあって、一度平坦になる。この駆け上がりというには急な斜面、言わば海の中まで続く崖の底。ここは何十年も釣り人に狙われているのに、コンスタンスに良型が上がるそうです。
第2ポイントは一般的な底物釣り向き。
お次は、岩から20~25m先、駆け上がりから続く平坦部が段になって落ち込む。この段差、根肩。
ここが第3ポイント。たいした距離ではなくて正面だから、一番釣りやすいと思う。
そして、第3ポイントから先がまた10メートルほど平坦になっていて、もう一度段差があって海底に落ちる。崖上から30~35メートル先の段差部、根肩。
第4ポイントも釣りやすそうだけれど、釣りやすいからこそ場が荒れている気もします。
実績としては、第3、第4ポイントの根肩はかなりの大物が掛かるらしい。
ただ、あたしが見る限り、西右側から真っ正面、80メートルくらい沖で潮が曲がっています。隠れ根でしょう。もう少し明るくなったら、幾つかシモリが見つかるかもしれません。本気で大型の匂いがする。
第5ポイントとしましょう。
この沖のシモリは、潮目によるけれど、遠投カゴ釣りやルアーのロングキャストなどで回遊魚を狙うポイント。カゴ釣りは時期としてはイサキかな。アジやサバも好みそうなシモリだから、アジやサバをを食うブリやヒラマサを狙っても良い。同じフィッシュイーターのヒラメも行けそうです。
この岩の周辺はオナガメジナ(和名はクロメジナ)が良いとも聞きました。まあ、下田沖磯はすべてそうです。磯釣りでは一番人気のある釣りですけれど、あたしはメジナは専門に狙いません。
他の外道は、この海域にある他の岩の経験から、ブダイ、アオブダイ、サンノジ(ニザダイ)などがいることでしょう。遠投カゴ釣りだとサンノジの入れ食いもあります。
南伊豆は底物釣りで来ることが多い所です。少し西伊豆寄りにある沖磯への渡礁が多く、下田沖磯の情報はあまり仕入れていません。別の渡船で渡った分を入れても、大きめの岩2つに15回です。同じ下田沖でも、更に沖にある神子元島という「島」にはよく行きますけれど、凪いだ日にしか渡れないというこの岩は初めて。情報が少ないと妄想だけがふくらみます。
5つのポイント。どれを重点において狙うかは好み。あたしが師匠から教わった釣法は手持ちをしないので、宙釣りと呼ばれる探りながらの釣りが向く第2ポイントは狙わない。一番あたし向きに面白そうなのは、第1の高根、第5のシモリかな。
おニイさんが狙うポイントによるけれど、正面から左にかけての第3や第4ポイント狙いになったら少し困るかな。根掛かり(海底の窪みや岩の突起などに引っ掛かること)前提の捨てオモリ仕掛けは使いたくない。一応、オモリにはゴムを被せたりして根掛かりを少なくしているのですけれど、底物釣りで完全に根掛かりをなくすことは不可能に近い。
鉄製のオモリは鉛に比べて比重が小さくて容積が大きくなるから、慣れるまで苦労したことを思い出します。
あたしは、オモリも金具も針も鉄だから、時間経過で錆びて分解されるとはいえ、簡単にオモリをなくすことを計算に入れては駄目です。海に残されるオモリも糸もゴミ。それを忘れてはいけません。大学で経営を学んだせいか、損切り思考が強くなりました。趣味と仕事は違うのに。反省です。
遠投だと道糸が途中で瀬擦れ(岩に擦れて糸が傷つくこと)します。巻き上げる最中の糸スレの確認は必須。底物釣りでよく使われる瀬擦れワイヤーは使いません。遠投では基本、途中に岩や起伏を挟むことが多いため、糸擦れする場所が仕掛け近くとは限らないからです。道糸はナイロン愛用だから水に沈みますし。
マナーの良い釣り師に聞こえるでしょうが、あたしが環境にうるさくなったのは最近です。昔は何も考えていませんでした。
右側から攻めるなら第1ポイント。この高根だったら、潮の速さに対抗した大きいオモリにして、いつもの半誘導の天秤仕掛け。
左寄りに座っても右寄りに座っても、第5ポイントは問題なく狙える。あちらの仕掛けは取り合えずいつもの仕掛けにして、潮の流れと底を探ってから変えるか決めれば良い。
おニイさんが見定めているのと同じ方角に向く。前から潮という名の河が押し寄せてくる印象が強くありますけれど、実際はそれほど速くはない。波が渦巻いているが荒れるというほどでもない。
おニイさんが釣り座を左寄りに決めた。見つめていた部分から第3か第4ポイント、2つの根肩を狙うことにしましたか。少し投げる釣りなのですね。船で話した感じ、こちらか関東の人っぽかったから、置き竿でやるのではないでしょうか。
イメージだけど、底物釣りでは、紀伊から西は手持ち、伊勢から関東は置き竿の人が多いと思います。去年、長崎の先にある有名な群島に行ったら、あたしのいるグループは全員置き竿で、他の岩の西日本グループのおじさん達が全員手持ちで笑った。
さて、釣り座が右側だと自由度が増します。狙えるなら第1は外せない。予報は曇りで水温上昇に期待できないから、本当なら第5より第3、第4。でも、面白さ追求で第5にしましょう。それに、おニイさんには悪いけれど乗っ込みが終わるこの時期、第2から第4の近いポイントはすでに荒らされて、魚が疲れている気がします。
第1ポイントの高根を狙うとなると、高台の右端に寄って、地方を向くくらいのポジションからですね。2本とも第1ポイント狙いだと潮の流れに仕掛けも流されて、余計な手間が増えそうに思えます。
正面方向のシモリ、沖の第5ポイントはどうとでも狙える。第1狙いの場所からそう間を開けない場所が取り込みもしやすそうです。2本とも第5もありですね。どうしても釣りたいリベンジ戦でなければですけれど。
あたしは高台の右端を釣り座に定めました。竿同士は扇に広がってしまうけれど、竿置き同士が離れすぎることがない。船着きの近くに置いていた荷物を取りに戻りましょう。
あたしが右端に寄ったからか、おニイさんは左端に寄らず、中央からやや左に釣り座を構えた。多少の距離はあるけど、おニイさんと大声を出さずに会話できる距離。やっぱりこの高台、左端にもう1人乗れる。いや、間が詰まると身動きが取れなくなりますか。磯釣りでそれは命取り。文字通りの意味で。
それにしても高台の幅が狭い。まさしく蟻の門渡り。あたしの靴を縦に並べたらほとんど余裕がない。50㎝と少しかな。このわずかな部分の前後、東西は切り立った崖になっていて、調子に乗ると前か後ろに落水が間違いない。また、あちこちに鳥の糞が固まっていて、汚いと言えば汚い。
面白い岩です。あたしの狙い目だと、下に降りて釣ったほうが安心してポイントへ投げ込めるでしょう。中級者以上でないとここは怖い。
とすると、他の釣り人はあまり乗らないと思う。なら、近くでも魚が思ったよりすれていないか。そして、大物が釣り尽くされているということもないでしょう。そう思えば、どこもかしこも良ポイントに見えてしまう。
イイネ! ではなく良い根です。
・・・・・・すみません。聞かなかったことにして下さい。
竿や仕掛けを用意。
・・・する前に道具類を固定しておきましょう。ロッドケースのサイドポケットからハーケン(岩の隙間に打ち込む金具)とハンマーを取り出した。
移動の邪魔にならない場所に良さそうな割れ目を見つけてハーケンを打ち込みます。今度は落水防止用の尻手ロープを4本取り出して、打ち込んだハーケンのお尻に付けたリングにカラビナ金具で装着。
尻手ロープの反対側をそれぞれクーラーボックス、活かしバッカン(バッグ)、ロッドケースに装着。残りの長い1本は今は遊ばせておきます。
普通は、よほど波が高くて水を被る可能性がなければ、こんなに全部固定しません。片付けが面倒だから。岩の上を転がってケースが傷付いても中身が無事なら問題ないし。
でも、この岩は幅が狭く、平坦な部分がほとんどない。ちょっとした弾みで岩から転落です。そのまま落水して流されてしまう怖さがあるから、わざわざやっています。荷物を落とした経験は誰しもあるでしょう?
・・・あるわよね?
左を見ると、おニイさんも落下防止処理をしていました。
ロッドケースの脇ポケットからピトン(上に竿置きを取り付ける細い杭)と竿置きを取り出します。今日は竿置きに高さはいらないから50㎝の短いピトンを使う。ちなみに、よく竿置きとセットになっている30㎝くらいのピトンは、竿を扱う際に屈みすぎて腰を痛めると思います。
準備用に一度竿置きを地面に臨時固定。竿の準備や底取りの間だけ置きます。なお、これは一般には必要ない作業です。あたしは直に竿を置くと危ない場所、つまり、こういう狭い所などで行います。予備を持ち込むからと言って、道具を乱暴に扱うわけでも大切にしていないわけでもありません。
長いピトンは、波がたまに足元を洗うような低い磯の時、岩の凸凹でクーラーやバッカンなどをまともに置けない時、荷物掛けの土台として使うことが多いものです。荷物掛けと総称してチャランボ。中には荷掛部分と一体になっている専用のチャランボ、「荷掛けピトン」と呼称する商品もあります。
あたしはピトンとハーケン、竿置きなどの金属道具類は高価でもチタン製を使っています。丈夫だし軽い。合わせて1㎏も軽くなれば長距離を歩く時の負担が違う。
と、偉そうに言っていますが、実はチタン製道具は去年の誕生日に兄に買ってもらった物です。歩く負担が違ううんぬんを釣りを知らない兄に講釈たれたら買ってくれました。人から聞いた知識をひけらかしたかっただけなのに。
後に知ったことになるけれど、まとめて買ったので支払い総額がすごいことになっていました。チタンなんて焼き入れ鉄の倍値くらいだと思っていたのに。まあ、それは別の話。
さあ、石鯛竿の登場です。
ロッドケースのメインポケットを開けて、内面のスリットから、ファスナー近くまで届いている長い竿袋を抜き出します。「石竿2号」というワッペンを縫い付けてある袋です。
袋の中身を取り出し、分かれた竿を束ねているマジックテープを外し、3本の竿を継いだ。ガイド(糸を通す輪)がずれないように継ぐのは目をつむってでもできます。
できないことはありません。
できると思います。
・・・手探りならできるのだから、見栄を張っても良いじゃないですか。
次はロッドケースのサイドポケットから大きく「石04」とワッペン付けした巾着袋を抜き出しました。スプール(糸を巻く部分)の端から金色が見えている両軸リールを取り出して、竿にセット。
今日の石鯛竿は、10年以上のベテラン選手と入手したばかりの新人の2本。
こちら「石竿2号」はベテラン選手。山口県のメーカーZ社の品で、古いモデルになります。底物釣りの師匠である伯父から譲られた1本です。全長は長目の560㎝。本来投げるのに向いていない柔らかな元調子だけれど、慣れているので一番正確に投げられる竿です。風が穏やかなら150m先のポイントにも打ち込んでみせましょう。
嘘です。いくら慣れていても、石鯛竿で打ち込めるのは100mが限度です。
以前、打ち込みを誉められた勢いでうそぶいた時、師匠から「やって見せろ」と言われて、引っ込みがつかなくて本当に150m先へ打ち込むはめになりました。成功させても安堵の汗が止まらくなったものです。その後で師匠自身は出来ないと知った際のあたしの気持ちは・・・。
この古い竿が、仕舞寸法が198㎝もある例の3本継の長い竿。製品名は、鳴っちゃう瀬のイシダイでL。数回修理していますけれど、竿本体に大きな傷はありません。でも、塗装はあちこち剥げていて少々ボロい。更に言えば、カーボン素材の寿命が心配になってきています。同程度に古い遠投カゴ釣り竿がこの前へたってしまったので心配です。
少し振って調子を見る。うん。変わりなし。臨時竿置きに設置します。
リールの止めテープを剥がし、腕時計に貼ります。ナイロン糸をリールから丁寧に繰り出して、ガイドを潜らせていく。これだけ狭いと竿の横を移動するだけで危険を感じます。
竿の一番先のガイドまで通して折り返し、またリールまで持ってきます。リールをロックして、腕時計から剥がしたテープで糸を仮留め。
ちなみに、分離状態のパーツそれぞれのガイドに糸を通してから竿を継ぐ方法もあります。あたしはまず継いでから軽く振って、運搬中に不具合が出ていないか確認する癖があるため、並継竿ではいつもこちらのやり方です。こんな狭い足場でも。
手順を変えると大物が釣れないジンクスがあるから仕方なし。
船竿やルアーロッドでも並継ぎ竿を使っていますけれど、そちらでも継いでから道糸を通します。
ちなみに、磯竿や投げ竿は、振出竿(伸縮式の竿)ばかりです。こちらは逆に全ガイドに道糸を通してから竿を伸ばします。
次は仕掛け。ロッドケースの4つあるサイドポケットの1つから小物入れを取り出します。中にはぎっしり小さなビニール袋が詰まっています。小分けにした仕掛けです。
今日使う天秤仕掛を選んだ。
次いでオモリ。鉄製で、鉛製の六角(小田原)型やナス型とは違う流線型。根掛かり防止のために生分解ゴムのチューブを被せてあるから、見た目は釣りのオモリっぽくはありません。普段は30~40号だけど、今回の流れが速い高根には、倍の重さ80号を使います。
あたしはこの底物釣りや遠投カゴ釣りで、重い仕掛けを投げ慣れているから躊躇なく使いますけれど、実はお勧めできません。
オモリ1号は1匁、3.75g。つまり80号だと300g。カレイの投げ釣りで遠投に使うオモリが20号から30号と言えばわかってもらえるでしょうか? 半分ほどに中身を減らしたペットボトルのほうがわかるかな?
下手に投げると穂先が折れます。両軸リールのスプールの回転速度が上がり過ぎてバックラッシュ(糸絡み)を起こします。当たりも取りにくくなります。
自分が使う代表的な仕掛けと道糸を使い、すべての竿とリールで5号ずつずらして投げる練習をしておかないと、正確な打ち込みはできません。
この感性は、ルアー釣りをする人ならわかるかしら? 新品のルアーを試し投げもせずに使わないでしょう?
釣りを知らない人だと、うーん、初めて乗るバイクでいきなりアクセル全開にしないでしょう、でわかりますか? お散歩くらいなら可愛いもので、新車がそのまま廃車という悲劇を生むかもしれません。
リールに貼り付けていた道糸を天秤仕掛けのサルカン(連結具)に結びます。オモリを天秤に連結。まだハリス(釣り針につながる部分)は付けません。