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こんなに釣れません  作者: 咲多紅衣(さきたこうい)
2/12

20180528_南伊豆02

予約投稿してみました。


2022年3月27日 ライフジャケットの規制について誤解していた部分を修正しました。

 夜明けから30分ほど。早朝5時に出港。

 先に大きい岩につけ、3人組が下りていきました。この岩は何回かあたしも乗ったことがあります。場所にもよりますが、良い型のイシダイが釣れました。遠投カゴ釣りでもシマアジを何尾か。

 一度、真冬の根魚(ねぎょ)狙いで渡り、マハタやアカハタ、カサゴにウッカリカサゴ、その他諸々と、クーラーボックスを満杯にするほどの釣果を得られた良磯です。

 他の渡船(とせん)の客が何人か別の場所で釣っているけれど、ここは大きい岩だから後から別の船で人が来ても場所争いは起きないでしょう。まだ別の良い釣り場が空いていようでした。

 場所取り争いは醜い。ダッシュで場所取りに動いて転び、そのまま渡船に戻され病院送りという人を今までに2回見たことがあります。テレビで見た福袋狙いのオバサン達よりもひどい。

 渡船同士が船をぶつけ合う勢いで着き場への先着を争う光景も数年前まではよく見ました。船長をせっついていたのが伯父、いえ師匠だったのはまあ、置いておくとして。沖釣りでも遊漁船(ゆうぎょせん)が我先に動いて港内でぶつかったり。最近は事故を防ぐために協定を結んでいる所が多い。

 まあ、場所によって釣れるかどうかが決まることも多いから、争いが起きること自体は理解できるのです。中には人の釣り座を奪い取るような、もっと迷惑な釣り人がいないでもないから。だけど、まっとうな釣り人なら「他人に迷惑をかけない」を第一に考えて欲しいと思います。

 遠ざかる大きな岩を見ていると、先客達もルアーロッドを振っていました。子供の頃に比べると地磯も沖磯もルアーをやる人が増えたものです。あたしもルアー釣りをやるけれど、磯で振ることは少ない。

 ヒラメやマゴチはサーフ(海岸)かボート。青物(ブリの仲間やロウニンアジの仲間)は護岸かボートからが多い。スズキ、チヌ、キビレは地元猪鼻湖(浜名湖の枝湾)や河口などで、陸からかボート。

 堤防や消波ブロック、護岸でのメバリングやアジング、つまりメバルやアジのルアー釣りは誘われなければしません。メバルはブラクリ釣り、アジは遠投やサビキが多いです。

 タイラバ、つまりはマダイのルアー釣りも誘われて数度やったことがあるという感じですね。マダイは普通、磯や堤防では遠投カゴ釣りか投げ釣りで狙いますし、沖釣りではサビキやテンヤに誘われるほうが多いです。

 イカの餌木(えぎ)釣りもルアー釣りかな? エギングというからそうなんでしょう。あたしも高校からはルアーロッドでやっているし。好きな友達がいるから釣行回数はかなりあります。

 疑似餌は全部ルアー? そうすると、イカ角を使ったヤリイカやスルメイカ釣り、弓角を使ってマダカやスズキを釣るのもルアー釣りか。あたし、結構経験ありますね。

 ああ、スズキと言えば、ルアー釣りだとスズキはシーバスと呼びます。ただ、英語でsea bassと名前に付く魚は、スズキの仲間ではなく、ハタ科やニベ科に分類される別の魚です。ハタ科のKelp bass(Calico bassとも)、ニベ科のWhite seabassなど多種います。

 Branzinoという魚が、北イタリア料理屋に行った際にスズキとして出てきたのですが、正体はEuropean seabassとも呼ばれる地中海とかにいるモロネ科の魚だそうです。日本で特定外来生物になっているStriped bassの仲間ですね。

 日本のルアー釣りで言うシーバスは和製英語になります。アメリカあたりでsea bassを釣ろうとしてスズキじゃないと戸惑う人がいるかもしれません。bassfishingのtourならブラックバスを釣りにいくと思いますが。

 ルアーフィッシングのメインといえば淡水のブラックバス。ブラックバスはオオクチバスやコクチバス、フロリダバスなどサンフィッシュ科オオクチバス属の日本における通称です。

 だけど、あたしはブラックバスやブルーギルも含めて淡水釣りは滅多にやりません。汽水湖の猪鼻湖が地元なのにと言われれば何も言えないですけれど、真水域では誘われて何回か経験したという程度です。

 国内だと・・・、餌釣りでニジマス、コイ、アマゴ。ルアー釣りでのブラックバスやブルーギル、ライギョ。・・・くらいかな? ああ、猪鼻湖で結構釣れるニゴイも淡水魚か。一応、ウナギも川魚ですね。だから、全部合わせても、釣った淡水魚の種類は両手の指に足りません。

 海外だと淡水魚を釣りに行った回数はもっと少ない。海外旅行には何度か行きましたけれど、ほとんどの釣りは海でしかしませんでした。

 中学3年の9月には、兄とその友達に連れられカナダ旅行に行った際、キングサーモン、つまりマスノスケを川で釣りました。チヌでしか経験がないfly fishingという毛鉤釣り。川へ連行されての結果です。しかも、淡水の川で釣ろうとも、鮭だから海の魚。マスノスケって遡上の時は腹が真っ赤になるんですね。知りませんでした。

 あたしを連行した人は、どうやら兄に気があって妹から繋げようとしたようですけれど、勝手に連れ出したと兄に怒られていました。あたしも彼をかばいませんでした。兄と同性なのはどうでも良かったけれど、遊漁券買ってくれても、道具を貸してくれても、気が利かない人は兄に相応しくないと思ったから。

 美味な魚なのに放流しなければ駄目な釣りだったし。釣れたマスノスケは1メートル以上あったから、色んな鮭料理が作れたのに。

 他にも、去年の初夏までLos Angeles市に1年留学していて釣りもよく行きましたけれど、淡水釣行は付き合いで、ほんの少しだけ。

 向こう特有の変わったGolden trout(マスの一種)をfly fishingで1回。Blue Catfish(ナマズの一種)を餌釣りで1回。そして、ルアーのBassfishingでLargemouth bassが1回。

 Largemouth bassはオオクチバス、こっちでのブラックバスと同じ魚だから、Blue CatfishにGolden troutを加えて、淡水魚はやっと10種です。海で釣った種類は軽く3桁超え。釣行回数だと比較にもなりません。

 留学中、海ではFlounder(ヒラメの一種)やYellowtail amberjack(ヒラマサの近似種)などなど、ルアー釣りもよくやっていましたけれど。

 それこそ向こうの海のBassgameもやりました。White seabass(ニベ科)、Striped bass(モロネ科モロネ属)、Kelp bassにBarred sand bass、Spotted sand bass(いずれもハタ科)などなど。

 向こうの釣りは海でも遊漁券というか許可証が必要で、車とバイクのCaliforniaの免許を取ってすぐ、ライセンスを買いました。

 あ、留学生は居住者となるので、州の免許を持たずに運転すると州法違反です。あたしの場合、車通学だから免許必須となります。まあ、国際免許だからと留学生や赴任会社員が捕まった話は聞いたことがありませんけれど。

 一発試験で取得したら、二輪の実技試験が日本より厳しくてビビりました。留学で調べるまで、アメリカはアクセルとブレーキの違いがわかれば免許が取れるイメージでしたから。

 ・・・というのは関係ないですね。

 それから1年、外国に住むなんて一生に一度だと思って、ちょっとした休みでもハンドルを握って釣りに。住み処のSanta Monica市も大学があるLos Angeles市も州の南寄り。しかも海岸があって、釣り場には事欠きません。連休なら車で半日かかるくらい遠い北寄りのSan Francisco市にも行きました。

 船でなら、沖に半日離れて数日釣り尽くし。果ては飛行機に別の州でも釣り。Alaska州南部Alexander諸島Baranof島のSitka市郡まで行ってNorth Pacific oceanで釣りをしていました。

 Los Angelesは雨が少ないから、休日の予想天気図とにらめっこしなくても予定は取りやすかったです。ある意味、行きたい時に行ける場所でした。でも、Americaは大きい。California州を釣りきるだけでも、1年程度じゃ足りませんでした。

 もっと釣りたかった。

 留学中の休日の過ごし方は、おわかりだと思いますが、とにかく釣り。Los Angeles近郊は割りと水質汚染がひどいから、安全に食べられる魚を釣ろうと思うと移動時間が掛かります。だから準備はちょっと開いた時間に行いました。

 勉強の合間に大学のベンチで仕掛けを作ったり、プランを立てたり。料理の合間に道具の手入れ、仕入れ。論文執筆の息抜きに、現地の天気図を書いて。いや、これは休日の話ではありませんね。

 休日にすることは、次には料理です。手のかかる料理の材料に釣果が多いのは、肉の国Americaでも変わりません。

 向こうで知り合った友達に日本料理を振る舞ったり。留学生仲間にお国料理を習ったり。そう言えば、せっかく外国に住んでいたのだから、もっと外食に行けば良かった。学食と幾つかの料理店をぐるぐる回っていただけでした。

 三つ目がバイクでちょっとお出掛け。盗まれやすい釣り道具をバイクで持ち歩くことは滅多になかったです。走って、帰って、少し整備して。ただそれだけ。スピードを出す趣味はないし、改造する趣味もない。もちろん向こうでも整備はきっちりします。走る前に目で点検するし、オイル類やチェーンの交換くらいは自分でしました。

 休日を勉強して過ごすことは少なかったと思います。平日は丸一日大学の講義や予習復習論文でつぶれることも少なくはなかったですけれども。

 休日の比率は釣り5、料理2、バイク1、その他家事2。うむ、日本での生活と変わらなかったか。

 家事2という割合は多くありません。掃除と洗濯は平日の朝や夕方にチャチャッとできますけれど、買い物や近所付き合いは時間がかかります。

 観光へ行こうとは思い付きませんでした。例外は兄弟が来た時だけ。

 兄は仕事で訪米し、そのついでに休暇を取ってくれたから、車の長旅でArizona州のGrand Canyonに行ってきました。

 いやあ、地球の光景ではなかった。

 姉は最初はHollywoodに来て、市内でのレッドカーペットを終えて、あたしと観光をしてくれました。遊園地なんて日本でも滅多に寄らないのに、Univers○l Studios HollywoodとDisne○landをはしごです。

 姉は別の時も来てくれて、この二度目は一緒に暮らしている人との旅行中に立ち寄ってくれました。

「せっかくの留学なんだから、もっと見聞を広めないとだめよ」

「せめて近くの名所くらいは味わったほうが良いぜ」

 釣りと勉強ばかりだと言ったら、姉達2人がかりで叱られてしまいました。そして、3人でDeath Valley National ParkとYosemite National Parkに。

 うん。Americaは地球じゃないと思った。

 弟も来ましたよ。大きな大会に負けて団体レギュラーから外されたと、憂さ晴らしに来訪。あたしの住処を基点に色々とAmericaの温泉に行っていました。弟に聞いたらAmericaでは温泉プールが多くて、日本の風呂のように入れる温泉は少ないそうです。

 そう聞いていたからこそ、あたしが付き合った会員制の温泉で、男女混浴なのに皆さん自然な格好なことに驚きました。あそこは、どちらかというとヌーディスト施設に近いのかな? ああ、もちろん姉弟ですから恥ずかしがる必要はありません。思春期なんて遥かな過去。

 老若男女、スッポンポンのポンで過ごす光景に、やっぱりAmericaは地球じゃないと確信しました。

 そういえば、姉達は、そのSierra hotspringsへ寄ってから帰ったそうです。

 姉は別に温泉好きではないのだけれど、裸族だから。

 あ、alphabetが多くてすみません。仕事でも英語を使うことが少なくないから、向こうの地名が頭の中でなかなかカタカナにならなくて。

 馬鹿な上に切り替えが下手なんです。

 そうだ。観光と言えば、一度、 Nevada、ナァヴァダァ? ・・・州の、Las Vegas、ラス、ヴェガス?

 日本で人に聞いたのに覚えていない。だって、子供の頃から地名は結構覚えたけれど、外国の地名と日本語表記が違うなんて知らなかったから。もちろん、言い訳です。こんな適当なのは兄妹であたしだけ。

 ・・・えー、確か、賭場で世界一有名な所に旅行しました。有名観光地のはずです。留学生仲間のインド人とシンガポール人に誘われて、1000ドルすってきました。

 インド人の彼女は50ドルを87000ドルにまで増やすという強運の持ち主でした。

「これは神の加護。もう一生賭け事は行いません」

 何とかいう神様に誓い、留学費用の自己負担分をどこかに返していました。

 シンガポール人の彼女は、120ドルを最終的に300ドルにして、「楽しかった」と笑っていました。

 あたしは、100ドルをスロットマシーンとバカラで15000まで増やして、ポーカーとブラックジャックで1000ドル赤字を出すまで負けました。

 あたしは賭け事は向いていない。表情には出ないけれど、雰囲気でカードが良いかどうか丸分かりだそうな。

 ・・・どこから留学の話に? 

 ああ、淡水魚の。違う、ルアー釣りか。

 えー、前は沖磯でルアーの人は少なかったと思います。この下田沖磯も伯父に連れられ2010年くらいから来ていますけれど、その頃は餌釣りの人ばかりだった気がします。

 あれ? 神子元島って沖磯か? あれは灯台もある島だから別勘定ですね。あそこは、あたしが渡り始めた頃にはもう、海のルアー釣りの聖地扱いでした。


 渡船の両舷をこちらも乗ったことがある岩が通りすぎて行きます。沖に見える平たいほうの岩は行ったことがありません。地方(じかた)、陸に近いほうの岩は自分記録で上位のイシダイを釣った場所です。

 そのまま走り続け、渡船は本日のお薦めの沖磯に到着。

 この岩は初めてです。思ったよりも小さい。凸型をした岩礁(がんしょう)で、肩というか下部分はうねりが強いと波を被るため、基本的には高い所に上って竿を出すようにとのこと。

 見る限り、高い部分というのは東西両側が切り立った、ほぼ崖。上は歩ける程度の幅があるそうです。

 底物は地方(じかた)(陸地側)を右側にして、石廊崎方面、つまり西に向かってを勧められました。

 波の具合からすると低い肩の部分でも良さそうだけれど、あまり降りないで欲しいと言われました。

 海では、たまに遥か遠方で起きた高波を食らうことがあるからです。更に、今日の風速は3~4メートル程あるからベタ凪とは言えません。突風一発で高波が生まれる可能性があります。

 法改正で今年、2018年の2月から、乗船時のライフジャケットの着用が義務化。船釣りでは強制的に着させられます。ライフジャケット着用違反の責任は船長に行くから当たり前ですが。

 落水事故が多発していることもあって、渡船でも着ない人間は乗せません。磯に渡るにせよ、防波堤に渡るにせよ。今時ライフジャケットを持っていない釣り師はいないでしょう。

 船釣りに使うライフジャケットには桜マークという印が必要となります。「国土交通省型式承認試験及び検定への合格の印」です。

 種類は、すべての小型船舶に使える「A」、陸岸から近い水域のみ航行する旅客船と漁船を除く小型船舶で使える「D」、「D」と同じ水域の水上バイクなどで使える「F」、湾内や河川での水上バイクなどで使える「G」。

 お分かりでしょうが、船で釣りをするには「A」か「D」のライフジャケットが必要となります。

 渡船の場合、この「桜マーク」が、実は()()()()()()()

 あたしが今日着ているライフジャケットも桜マークなしです。浮力材が入っていて、前側に小物のポケットが付いたタイプ。肩を覆っていて、首や頭を守る枕も付いています。

 おニイさんのライフジャケットは、ええと、ルアー釣りをしている人がよく着ているフィッシングベストを思い浮かべて下さい。肩部分がベルトになっていて、ルアーケースが丸々入る巨大なポケットが付いているあれです。

 桜マークに関しては誤解している人が多く、あたしの師匠でもある伯父もそうでした。

 伯父から聞かれたことがあります。

「俺は十何枚か釣りベストを持っているんだが、輸入物が多くて桜マークが入っていないんだ。もう捨てたほうが良いのか? 見に来てくれ」

 言われた通り、伯父のライフジャケットを全て確認しに行きましたよ。わざわざ名古屋まで。

 そんなことで姪を呼びつけるなと伯父を叱ってもらえたので、もう何も思うところはありません。

 せめて新幹線の切符代くらいは出してもらえませんか、伯父さん。

 ではなく、古いモデルは調べにくかったのですけれど、判断はできました。

 伯父さんは底物釣りしかしないから、大体使えます。だけれども、この大昔の膨張式は無理。元々、膨張式は岩にこすって破れたら意味がないし。

 自動膨張、手動膨張とも、ガスで膨らんで浮き袋となるライフジャケット。基本は船釣り用です。磯で使っている人をたまに見かけますけれど、破れたら終わりなので念頭に置いておいてください。

 あたしが持っているライフジャケットは、陸っぱり用も船用も、ほとんどが浮力材タイプです。

 釣り船での沖釣り用に、マフラーをぶら下げたような肩がけの膨張式タイプを3着持っているだけです。特に乗り合い船だと厚みのある浮力材のジャケットは邪魔になります。遊漁船は通路が狭いのです。体重が5割増しになった自分を想像してください。引っ掛かるでしょう?

 ライフジャケットの有無に関わらず海が荒れていたら渡礁自体できない岩は少なくありません。それでも魚影が濃ければ良いと強引に乗る人は後を絶ちません。そして、事故も。

 この南伊豆の話ではないですが、無理を通して荒れた日に渡りにくい岩に向かわせ、とんでもなく上下する舳先から飛び移ろうとして、落水したオッサンがいました。2月の夜明け前のことです。船長も残っていた乗客も、大騒ぎでオッサンを救助するはめに。

 船で港に戻る間、落水したオッサン、もとい中年男性は毛布に包まって縮こまっていました。彼が低体温症を起こしていたせいで、急遽出てきた港へ戻ることになったのです。おかげでこちらは無駄な往復をさせられ、引き渡しも含めれば磯へ渡るのに1時間以上無駄にさせられました。

 もう一度言いますが、水温が低い日の貴重な夜明け前後の1時間を失いました。

 朝まずめって知っていますか?

 それはさておき、この凸型岩礁だと、先に2人入っていたら他の渡船は来ないと思う。高い部分はどうにか3人が限度だろうから。

 事前情報や偏光グラス越しに周囲を見てきた感じ、釣り座争いする必要はないでしょう。

 船着き前ですがジャンケンはしません。移した荷物の前でじっと接岸を待ちました。

 おニイさんの揺れに対するバランスの取り方、上級者です。先に渡ってもらいました。

 2人分のロッドケースやバッグ、活かしバッカン、磯バッグを手渡して行く。下は凹凸が激しいけれど、上はどうなのだろう? 置き場があるかな? チャランボ(荷物掛け)いるかな?

 おニイさんのクーラーボックスが巨大だ。衣装ケースを思わせる大きさ。

 あたしのクーラーより二回り大きい。メートルクラスの青物でも入りそうです。青い箱に白いふたという昔懐かしい色合い。

 片手持ちで渡すと少しきつい重さでした。軽く20㎏以上はあると思う。

 まあ、あたしのクーラーも容量が35リットルあって、保冷剤、氷、ペットボトル、冷凍餌と、中身入りでは12㎏は超えている。大きさに比例するとおニイさんのクーラーは軽いのかしら?

 あたしの荷物の中では、ロッドケースが非常に長くて大きくて重い物になります。

 高さ2メートル以上という電車には持ち込みにくいサイズです。ふくらんだ4つのサイドポケットも大きい。しかも1回に最低でも竿3本は持ち込むから、全体も幅広く作ってあります。

 底物(そこもの)釣りを始めた中学生の頃はまだ、竿は1本だけ持ち込んでいました。師匠抜きで単独で行くと、狙うべきポイントがよくわからず、地磯を歩き回って探していたから、できるだけ荷を軽くして移動したかったからです。

 中学生の頃は師匠と一緒の時しか沖磯には渡りませんでした。さすがに女子中学生を1人で渡してくれる渡船はありません。お金もありません。

 荷を軽くしようとするのは、2本の置き竿を出すようになっても変わりませんでした。ところがある時、1本が早々にへし折られ、残った1本だけで殆どの時間を過ごすはめになってしまいました。周りが爆釣(ばくちょう)となっている中、半分量も釣れずに納竿(のうかん)

 具体的な釣果でいうと、本命イシダイは2尾だけ釣れました。外道にしたってアカハタ3尾、ウマヅラハギ2尾。逃がしたのもチビイシやイシガキダイ、ウツボほかくらい。一番多い人は、そこそこの本イシだけで8尾も釣っていたのに。

 誰とは言わない師匠ですけれども。

 その次から予備セットを持ち込むようになりました。多少重くなっても釣れないよりは良いとスタイルを変えたのです。人が多くて竿が1本しか出せないと予想されても、可能なら3セット持ち込むスタイルを通しています。

 竿は折れると学んだのです。更に、竿のトラブルは折れるだけでなく、ガイドがいかれる、穂先がへたるなど色々あります。

 振出竿が固着してしまって片付けられない、というのもよくあるトラブルですけれど、これに関しては釣りができないわけではありませんから含めません。

 もちろんリールだって壊れる。故障しなくてもバックラッシュという糸絡みを起こしてしまい、パーマネントを解す時間が惜しいこともあります。最近は覚えがありませんけれど、入手したリールに慣れない内や普段と違う糸を巻いた場合などに何度も起こしたことがあります。

 だから3セット持ち込み。同時に他の道具類も予備が増えました。ハンマーやフィッシュグリップなど小道具は海に落とす恐れがありますから。つまり、重量増加もすごいことに。でも、重い分には力をつければ何とでもなります。重さよりも数、体積が問題です。

 この愛用の巨大ロッドケースは市販品ではありません。専門職人のオーダーメイドでもありません。個人制作の品です。釣り道具のプロではなく、釣りをしない人が趣味で作ってくれた物になります。

 昔から愛用している石鯛竿が、560㎝を3本に分けていて、仕舞寸法(分割状態)で2メートル近くあるのです。他にも何本か長い竿、道具を使っています。市販品では中々まかなえません。

 予備持ち込みを始めた頃から2年前までは、長い竿をルアーロッド用の樹脂ケースに納め、市販の布製ロッドケースに他の2本や玉の柄と網、長尺ピトンを入れていました。

 これで荷物が2つ。そして、他の荷物も大量。

 まずタックルボックス。自作の多種多用な仕掛け、ナイフも含めた神経締(しんけいじ)め道具セット、剣鉈(けんなた)、釣った魚を泳がすストリンガー、ハサミやプライヤー、ハンマーにハーケン等々、小物が色々。これらを全部入れられるタックルボックスは大きな物です。

 更に、磯バッグ。大きなリール3個、防寒具も兼ねた雨合羽(あまがっぱ)、落水に備え簡易な着替え一揃い、色々使える大小のビニール袋、折りたたみとはいえ水汲みバッカン(バケツ)、冷凍餌しか手に入らなかったら解かすためにスカリ(魚籠(びく))もあると便利です。(おか)からの泳がせ釣りにもスカリは使います。

 釣果(ちょうか)を入れるクーラーボックスかフィッシュキャリーバッグ。クーラーボックスも大物を釣るなら今日のような大きさになります。フィッシュキャリーバッグというのは、簡易的な熱遮断能力を持つ袋です。簡易的だから夏場には使いません。締めるまで生かしておいたとしても、車に戻ってクーラーに収めるまでに痛んでしまいます。まあ、夏に底物釣りをあまりしないから大概はクーラーボックスです。

 活き餌の時は活かしバッカン。熱帯魚の水槽でブクブク泡を出すエアーポンプはわかるでしょうか。あれを付けられるバッグやバケツです。釣果を生かしておくことに使う人が多いと思いますが、活き餌を生かしておくことにも使います。底物釣りの活き餌は、サザエ、トコブシ、サルボウ貝、ヤドカリ、カニ、ウニなどなど。

 渡船か、そのごく近くの餌屋で売っていれば別ですけれども、渡船は早朝に出るから、なかなか直前には手に入りません。数時間から丸一日、針に付けるまで生かしておくには必要なものです。

 数年前、買ったムラサキイガイ(カラス貝)を網に入れて一晩バケツに突っ込んでおいたら、半分くらい酸欠で死んで師匠にどやされました。イガイが酸欠になるとは思わなかった。

 沖磯でも地磯でも、底物釣りの荷物は「念のため」「こんなこともあろうかと」を実践すると大荷物になります。様々な後悔の結果、荷物が増えるのです。

 非常に多く感じると思いますが、他の釣りでも結構な荷物量になることがあります。

 子供時代から慣れ親しんだカレイの投げ釣りでは、投げ竿を3~5本持ち込みます。それを支える三脚に物干し台が付いたようなロッドスタンド。竿の仕舞寸法(短くした時の長さ)が短いから、大きめのロッドケースに詰め込んでいました。ゴルフバッグを開けた時のイメージでしょうか。

 投げ釣り用スピニングリールは石鯛用両軸リールに比べて多少軽く出来ていますが、替えのスプール(糸を巻き付ける部分)も持ち込むので、結局は同じかそれ以上の重量になります。

 磯釣りと違いハンマーやハーケン、磯シューズがないにしても小物は少なくない。ナイフやハサミはどの釣りでも使います。

 磯だろうと浜だろうと防波堤だろうと、外道対策でトングも必要。ゴンズイやヒトデ、海毛虫など毒のある外道。メゴチやアナゴ、キュウセンのようにぬめりが多い外道もいる。掛かったカレイにサメやエイ、マゴチが食いつくことも。他に、セイゴやチンタ(チヌの幼魚)、シロギス、ハゼなど、小さい外道を弱らせずに海へ帰すなら素手で掴まないこと。

 カレイの投げ釣りは数を釣る上、美味しい外道もお持ち帰りするから、クーラーボックスは底物と同じ大きさ。容積で30リットルは欲しい。

 ・・・すみません。見栄を張りました。カレイはよほどのことがなければ数釣りなんてできません。

 でも、投げ釣りなら、カレイ狙いじゃなくても、例えばニベやシログチ(イシモチ)狙いでも、マダイや青魚、コロダイ狙いでも、竿とリールのセット数が変わるだけ。ロッドケースの数は減りません。

 シロギスなら竿一本で移動して引きずる釣りだから、スタンドも要らない。高校の頃まではバイクで気軽に行っていました。

 投げ釣りを底物と比べて減るのは、餌がアオイソメやジャリメだから餌用の活かしバッカンが要らない。油断しなければ波を被ることもないから着替えはない。

 浜でずぶ濡れになったことがないとは言いませんけれども。

 まあ、中には浜のど真ん中にテーブルや椅子やビーチパラソル、飲食用の大きなクーラーボックス、コンロまで持ち込んでバーベキューを始める人たちもいますが。スピーカーから大音量を流して踊り、大騒ぎし、誰も真面目に釣りをしていない人たち。

 叫びながら投げているけれど、全然飛距離が出ていない。チョイ投げでシロギスのたまりに届くから元々力一杯投げる必要はないし。でも、あいつら何が楽しいのか大笑いしている。シロギスが1尾掛かったと大声で男を誉める。釣った男は自画自賛。

 そういう楽しみ方の違う連中がどれだけ荷物を持ち込むかなんて知りません。鬱陶しいから離れるだけです。

 ただ、ビキニやブーメランパンツで釣りをしたら危ないと思うだけです。一応一言。

 おい、そこ、遊泳禁止。離岸流がある。危ねえぞ。

「大きなお世話よ」「何あれ、マジ釣りじゃん」「ボッチで釣りとかウケル」「グラサン掛けて鮎川○紳かよ」

 声を掛けて言い返されるのは一度で十分。

 落ち着けあたし。ここは目撃者も多い。日暮れを待て。

 何て犯罪者な発想もしない。

 決して、ビキニ女たちの胸をみて親近感を覚えたわけではありません。

 しょせんはシロギス。わざわざ釣りに来ることもねえな。そう思うようになったきっかけの一つにはなったけれど。

 ・・・荷物の数についてだったでしょうか。

 港や波止場、防波堤、磯での竿1本勝負。遠投カゴ釣りも好き。これは予備セットを入れても竿やリールの数が減ります。活かしバッカンもなし。

 だけれど、撒き餌分が増えます。狙いによってアミエビ、集魚練り餌、オキアミ、イワシミンチ等々。何度かカゴだけ打ち込んで魚を寄せたり、グレ(メジナ)釣りほどではないにしろ馬鹿にならない重量になります。

 付け餌も虫餌やアキアミ、エビ、カニ、青魚の短冊、キビナゴ、サバ等々と色々ありまして、物によってはそこそこの重さに。ただ、基本的にクーラーボックスに突っ込みますから、荷物の数はバイクに積める程度に減ります。

 船釣り(沖釣り)。これも陸釣り同様色々です。一番行くヒラメ釣りは、活き餌を釣る道具とヒラメ釣りの道具が別です。でも、まとめるから荷物数は多くなりません。

 深海釣りは荷物がかさばるし重い。深海まで早く流されずに沈めるため、オモリに鉄筋とか使います。リールやバッテリーも重くてかさばります。自作の仕掛けも、投入できる回数によるけれど、やたら長くてハリスも多く、重くなるのは間違いありません。でも、沖釣りは基本、車と船の往復だけだから苦にはならない。

 荷物が少なくて物も軽いという釣りもあります。

 身体一つで行って、道具はレンタル、餌はその場で買うのが一番楽でしょうか。休日に子連れで楽しむ。釣り施設や乗り合い五目釣りでよく見かけます。けれど、これは例外ですね。

 ルアー釣りも基本は竿1本なので意外と軽い。遠投カゴの次にバイクで行く回数が多いでしょうか。

 ヒラメ狙いで浜をrun&gunする時は、動き回るから出来るだけ荷物を軽くします。それこそ、ルアーロッドとリール、ライン数種、ルアーを数個、ナイフ、プライヤー、フィッシュグリップ、フィッシュキャリーバッグ。

 ちなみに、あたしのルアー釣りはCatch&Eat(キャッチアンドイート)です。食べられない魚、極端に不味い魚、寄生虫が多そう、病気、サイズ規制に引っ掛かる、狙いより小さすぎる等、理由がなければリリースしません。

 病気や寄生虫に関しては、数をこなせばわかるようになると思います。目の濁り、体色がおかしい、身がグズグズなどが主な特徴です。

 まあ、ルアー釣りでも荷物が重くなる人もいます。数百個のルアーをいくつものタックルボックスに詰め込んで持ち込む人。様々な調子のロッドや大小リールをどっさり持ち込む人。浜に基地みたいな荷物置き場を構築し、ロッドやタックルボックス他を置いて離れる人は、盗まれても知りません。

 こんなこともあろうかとが信条のあたしでも、せいぜいロッド2本にリール2個、替えスプール程度です。もちろん、使わない物は車に置いて行きます。流石に車まで10分20分かけて戻るのが面倒だとは言いません。車上荒し対策は元々付いている警報装置とドラレコ撮影中のステッカーくらいです。

 一番簡単な装備を言うなら、あたしの場合はハゼ釣りですね。竿はのべ竿かコンパクトな振出竿。糸とウキと針、わずかなオモリと針外し、パック入りのアオイソメくらい。クーラーボックスの大きい役目は椅子です。漫画に出てくる釣竿を持った田舎の子供を想像してくれれば大体合っています。のんびり釣ります。

 話を戻すと、底物釣りでは渡船で磯に渡ることが多くなります。船から磯に荷物を渡す際、船に戻す際、放り投げるように扱うこともよくあるのです。

 だから十代の頃は、投げても落ちても中身が壊れなければ何でも良いと考えていました。

 経験で言うと、急な天候悪化で沖磯から撤退した時は、本当に荷物を船に投げ込みました。

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