集合・対決③
俺の攻撃魔法は想像以上の威力を発揮していたようで、ル・リダの言葉が大げさに思えないほど遥か彼方まで続いていた。
そこを最低限崩れないように固めつつどんどんと走り抜けていくと、途中からドラコの反応が激しくなってくる。
「ぁ……っ……ぁぁ……ぅ……?」
頭上を見上げて瞳をキョロキョロと動かして、また時には首をも傾げて何かの動きを目で追っているかのような仕草を見せるドラコは間違いなく探知している存在が近づいていることを現していた。
(未だに方向はゼメツの街と一致して……いや下手したらもうそろそろゼメツの街に到着してもおかしくないぐらいだ……やっぱりこの子が探知しているのは……しかしそれよりも、こんな風にずっと反応されていたら多混竜の接近が全く分からない……)
尤もあれから多混竜が戻ってくることはなく、やはり最後に見たあの姿は何か目的があっての移動だったのだろうと思われた。
「レイド様……これだけ移動すればそろそろゼメツの街に辿り着いてもおかしくはないと思いますが、私はこの国の出身ではないので詳しくなく……その辺り、どうなのでしょうか?」
「ああ、確かにそろそろ見えてきてもおかしくないぐらいのはずだけど……一応辺りを確認しておこうか?」
「ええ……ドラコちゃんがこの調子だと多混竜の居場所もわかりませんから、そう言う意味でも気になりますし……お願いしてもいいですか?」
「お任せを……じゃあいつも通り出入り口をお願いします」
俺と同じ様なことを考えていたらしいル・リダの言葉に頷きながら、自分たちの居場所の再確認と周りへの警戒を兼ねて地上へと顔を出す。
そして軽く辺りを見回そうとして……それは聞こえてきた。
「「「ドゥルルルルルルっ!!」」」
「なっ!?」
「ひぅっ!?」
遠くの方から轟いているであろう咆哮が、それでもなお俺たちの身体を震えさせるほどの大音量で届いてくる。
慌ててそちらへと視線を向けたところで、俺は信じられない光景を目の当たりにして固まってしまう。
(な、何だあの場所はっ!? あんな風に盛り上がった丘が続いている地形なんかこの領土にあるはずが……何よりその中から伸びるあの三本の蛇みたいに揺れ動く物体は……ってまさかあれがっ!?)
遅れてその地形が爆発か何かの余波で大地に広がったクレーターのような大きな穴であると悟り、そして同時にその中から伸びているのが何かの生き物の首であると理解できてしまう。
三つの首と言う時点で既に俺にはその条件に似合う生き物は一体しか心当たりがなかったが、何よりあの地形の中心にいるということはあいつが地形をこういう形に変えた可能性が高く、それほどの攻撃が出来る生き物もやはり一体しか思い浮かばなかった。
「あ、あ、あれはまさか……だけどあんなに大きいなんてそんな……っ」
余りの咆哮に洞窟内に居たル・リダも気になったのか顔を出してきて、すぐそいつに気付くと俺と同じことに思い当たったようで怯えたような声を洩らし始めた。
「……ですがあんな生き物は他に……三つの頭からしても、恐らくは想像通り……あれこそが多混竜が三体混ざった……っ!?」
「「「ドゥルルルルルルっ!!」」」
唖然としながらもそんな会話を繰り広げている俺たちの視界の中で、そいつは何かを睨みつけながら再度咆哮したかと思うと大きく口を開いた。
そして三つの口から凄まじい勢いで炎と雷、そして毒液と思わしきものを吐き出したかと思うとそれらが絡み合い……大爆発を引き起こした。
「うおぉおおっ!?」
「ひゃぁあっ!?」
余りにも激しい爆発がそれを放った自信すら飲み込むほどの激しい爆炎を上げながら、その場にあるあらゆるものを吹き飛ばしていく。
更に少し遅れて俺たちのもとにまで、空気が震えるほどの余波が届いてくるほどだ。
吹き荒れる風圧に顔を押さえながらも、なおも観察を続けていた俺はそこでその爆風を切り裂くように小さい何かが飛び出すのを確かにとらえた。
いったい何がと目を凝らそうとしたところで、上空に待機していたらしい多混竜二体がその小さい何かに向かって飛び掛かっていくのを目の当たりにする。
しかし襲われているそいつには防御魔法が掛かってるようで、ぶつかる直前で二体の動きが僅かに落ちた。
それでも攻撃自体は止まらずにそいつの身体にぶつかった……と思った次の瞬間、多混竜は二体ともあらぬ方向へと吹き飛ばされていく。
(攻撃を喰らう前に反撃したのか……いや、その前に多混竜の勢いを押しとどめるほどの防御魔法の使い手なんか数えれうほどしか……ましてあんな風に戦えるのなんか一人しかいないっ!! アリシアっ!!)
「うぅ……あっ!? や、やっぱり多混竜もここに……えっ!?」
「ル・リダさんっ!! ここまでありがとうございましたっ!!」
隣で見ていたル・リダは多混竜が吹き飛ばされるところを見て驚愕していたが、既に何が起きているのか理解していた俺はお礼を口にしつつ今度こそ洞窟を飛び出した。
(やっと見つけたよアリシア……アイダもそこに居るんだよな……今助けに行くぞっ!!)
「あっ!? だ、駄目ですよレイド様っ!! あんな化け物が居る場所は危険すぎますよっ!!」
「わかってるっ!! だけど俺はその為に来たんだっ!! 何よりあそこには俺の大切な女性が居るんだっ!! 行かないわけにはいかないんだっ!!」
「えっ!? じゃ、じゃああそこで戦っているのは……あっ!? れ、レイド様ぁっ!?」
「本当にありがとうっ!! 大丈夫っ!! 約束は守るからっ!! また後で会いましょうっ!!」
俺の身を案じて引き留めようとするル・リダを振り切る様にして走り出した俺は、最後にもう一度だけに改めてお礼を口にした。
そして今度こそ振り返ることなく、まっすぐにあの化け物を睨みつけながら彼女たちの元へと駆け出していく。
(だけど実際どうする俺っ!? 俺が駆けつけてもあんな化け物相手じゃ時間稼ぎすらおぼつかないっ!! それでもこの剣を届けるだけじゃなくてアリシアとアイダを守るために何かしないとっ!! しかしあんな化け物じゃ……っ!?)
彼女たちの元へと向かいながらも俺は自分に何が出来るか必死に考え続けたが、ここまで圧倒的な力差のある相手を前に思考は堂々巡りするばかりだった。
それでも彼女達との合流だけは果たそうと近づく俺に、まだ距離がある時点で三つ首の一つがこちらに視線を投げかけてきた。
遠くに居ながらも感覚が鋭いためか俺の接近にいち早く気付いたようだ。
「フォォオオオオっ!!」
「なっ!?」
しかし俺など歯牙にも掛けぬとばかりにすぐ視線を戻すと、今までとは違う咆哮を高らかに上げ始めた。
それが魔獣達が魔物を操る際に発していたものと遅れて気が付いたが、その時点で二体の多混竜がこちらへと向かって来ていた。
(こ、こんなことも出来るのかっ!? くそっ!! 合成された魔物の能力なんだろうけど魔獣みたいに使いこなしてやがるっ!! ドラゴンの知性の高さを引き継いでるからかっ!?)
「ドゥルルルルルルっ!!」
「ドゥルルルルっ!!」
「ちぃっ!!」
舌打ちしながらも一瞬下がってル・リダの居る洞窟へ逃げ込むことも考えたが、こうして多混竜を引き付けるだけでも多少はアリシアが楽になると判断して踏みとどまる。
一体だけでもあれだけ苦戦している多混竜を二体同時に相手にするなど、自殺行為も良いところだ。
(それでもあの三つ首の化け物と向き合うよりはずっとマシだっ!! あれと戦ってるアリシア達の負担を思えばこれぐらいやってのけなきゃ駄目だっ!!)
自分にそう言い聞かせて気力を奮い立たせながら、とにかく迎撃しようと剣を構えようとしてすぐに考え直す。
実力差のある相手を同時に相手取るというのに、接近しての戦いなどに持ち込んでも意味はない。
むしろ二体の攻撃を捌くためにも、距離を保ち向こうの攻めるタイミングをずらすようにしなければとても持たないだろう。
何よりも剣での攻撃では今まで一度も向こうの行動を押しとどめることすらできていないが、攻撃魔法ならば直撃させれば動きぐらいは止められるのだ。
(尤も魔力の消費量がシャレにならないから後々のことを思えば……いや、この実力差を前に先のことを考えてる場合かっ!! とにかく全力で今を乗り切るんだっ!!)
「はぁああっ!!」
「ドゥルっ!?」
凄まじい勢いで迫る多混竜達をとにかく押しとどめようと、まずは無詠唱で攻撃魔法を放ち迎撃を試みる。
すると俺との交戦経験のない多混竜は警戒することなく正面から魔法へとぶつかったかと思うと、目に見えて動きが鈍り始めた。
恐らくは今まで大抵の攻撃を喰らってダメージを受けてこなかったため、この魔法も大したことがないと思い込んでいたのだろう。
(よし、これでこいつは押し止められるっ!! だけど問題はもう一体の方だっ!!)
「ドゥルルルルっ!!」
「くぅっ!?」
しかし既に俺と何度も戦っていた方の多混竜は手を向けた時点で過剰に反応を示し、大げさに躱した上で攻撃を仕掛けてきた。
それでも回避行動をとったせいで攻撃のタイミングが遅れていて、おかげでもう一体の多混竜への魔法攻撃を止めることなくギリギリで躱すことに成功した。
(滅茶苦茶警戒されてる……しかもこの殺意を込めた目……あれだけ戦って、毎回傷つけられた上で逃がしてるもんだから意識してるのか俺を……ちぃっ!! これじゃあ油断しそうにないっ!!)
この調子ではこっちの個体に攻撃を当てるのは至難だろう。
「ドゥル……ドゥルルゥ……っ」
「こっちもかっ!?」
更に魔法を当てている方も熱線をじわじわと強引に進んで俺に迫ろうとしている。
やはり無詠唱で威力を増幅せずに放った程度では多混竜に傷をつけることは敵わないようだ。
それでも動きは鈍らせれるし、何より一瞬で魔力が尽きたりしないことを思えば十分すぎる効果を出せている。
(だけどやっぱりこの魔法は消耗が激しすぎる……これでもそう長くは持たないよな……しかももう一体を捌きながらじゃマジックポーションを飲む暇もないし……どうする俺っ!?)
このままでは魔力が尽きたところで二体掛かりで襲われて殺されるか、あるいはその前に自由に動ける奴の攻撃を捌ききれずに殺されるかの二択だろう。
だからこそ今何かをしなければいけないのだが、俺に出来る選択肢はそう多くはなかった。
(こうして居る間にも魔力がどんどん減っていく……そして魔力が尽きたらお終いだ……その前に出来ることをするしかないっ!! このままじゃ無駄死にだからなっ!! せめてこいつらにダメージなり何なり残していかないとそれこそここに来た意味がないっ!!)
ある意味で死ぬことすら覚悟した俺は、改めてこいつらに少しでもダメージを与えてやれる行動を考え始めた。
そしてすぐに答えは出る……前と同じで、最大の一撃を叩き込むしかないと。
(さっき洞窟を掘る時に見つけた新しいやり方……同じ魔法の重ね掛け……あれは長々と詠唱した一撃よりずっとすさまじい威力を誇っていた……あれならひょっとしてこいつらにも……だけど間違いなく魔力は尽きるだろうな……そしたら俺は死……いや、まだそう決まったわけじゃないっ!! それにこのまま無駄死にするよりはずっとマシだろっ!! やってやるっ!! 見てろ多混竜共っ!!)
「我が魔力よ、この手に集いて……っ!?」
「ドゥルルルルっ!!」
そう判断した俺が二重で同じ魔法を発動させるために詠唱を始めるのと同時に、先ほどの攻撃をかわされた多混竜が振り返るのと同時にまっすぐこちらめがけて突っ込んできた。
(手のひらを向けてるのに警戒してる様子がないっ!? 知性が高いからあっちの奴が魔法を喰らってる間は放てないと判断してるのかっ!? その勘違い自体はありがたいが……今だけは厄介過ぎるっ!!)
無警戒で一心不乱に俺へと迫る多混竜の勢いは余りにも早すぎて目で追うのも難しい。
しかも振り返ると同時に俺へと突っ込んできたせいで、向こうがどの辺りを狙っているのかもわからない。
恐らくはこれもまた俺との交戦経験を活かしての行動なのだろうが、これでは俺の詠唱が完成するより早く向こうの攻撃が届いてしまう。
(この一撃だけ何とか凌がないとっ!! だけど狙いが分からない以上は、あの速度の攻撃を躱し切るのは不可能だっ!! くそっ!! せめて狙いが分かればっ!!)
反射的に剣を縦のように構えながら迫る多混竜の攻撃を捌こうと身を固くした俺は、ふと先ほど此奴が見せていた殺意を思い出した。
そして知性の高さも……その二つを考えた瞬間、俺は向こうの攻撃がどこを目指しているのか限定することができた。
(間違いないっ!! こいつは俺を一撃で仕留めようとしているはずだっ!! 今までも仕留めきれなかったせいで手酷い反撃を喰らってるからなっ!! つまり狙うのは急所……頭か心臓だっ!!)
そこまで理解したところで、何故か俺の身体は即座に心臓を守ろうと動き出した。
「ドゥルルルルルっ!!」
「っ!!?」
本能なのか、もしくは今まで何度も戦ってきた中で向こうの攻撃の癖を見抜いていたのだろうか。
多混竜の一撃は俺の左胸へと伸びていき、その手前で構えてあった剣にぶつかり激しい金属音を奏で始めた。
それでも伝説の剣は見事に多混竜の攻撃を受け止めて見せて、その上で伝わる衝撃に身を震わせる俺。
しかし予めこの衝撃は想像できていたために、自ら後ろに跳んでいたおかげもあってそこまでダメージを受けることはなかった。
「ドゥルルルルルっ!!」
「す、全てを焼き尽くす閃光と化し我が敵を焼失させよっ!! ファイアーレーザーっ!!」
「ドゥルっ!?」
だからこそ詠唱の続きを唱えて魔法を完成させることができた。
そして攻撃を受け止めた反動で中空にいる俺に追撃を放とうと迫る多混竜に向けて、もう片方の手から攻撃魔法が放たれた。
向こうからすれば想定外の一撃だったがためか、多混竜は今度こそ避けることも敵わずに正面から魔法を受け止めることになる。
当然こちらも熱線に抑え込まれて動きが鈍る中で、俺は二体の多混竜を見回してどちらに最大の一撃を叩き込むべきか一瞬だけ悩む。
(こっちだっ!! 俺と戦い慣れてるこっちの奴をどうにかしないとっ!!)
そしてすぐに答えは出て、俺は最初に発動していた攻撃魔法を手首を曲げてこちらへと向けて熱線を重ね合わせた。
「ドゥルル……っ!!?」
「くたばりやがれっ!!」
果たして先ほどと同じ様に攻撃魔法は一気にその威力を増して、多混竜の鳴き声ごとその身体を飲み込んでいった。
しかしただでさえ消費の激しい魔法を二重に発動したことで、すぐに俺の魔力は枯渇して数秒ほどで俺の攻撃は止まってしまう。
(ど、どうだっ!? これで駄目ならもう……えっ!!?)
熱戦が晴れてその内側に隠れていた多混竜の姿が露わになるが、それを見て俺は一瞬あっけに取られてしまう。
何故ならその身体は……半分以上が溶けていて、残っている部分も完全に炭化しているようで風にあおられるがままにボロボロと崩れ落ちているからだ。
そして力なく地面へと崩れ落ちた多混竜は、その残っていた部分も崩壊していきまるでゴミの山のようになってしまう。
もちろん起き上がる気配などまるでなかった。
(あ……や、やったのか? 今度こそ本当に……やったんだよな……ははっ!! やったっ!! ついに俺が多混竜を倒し……っ!?)
「ドゥルルルルっ!!」
「あっ!? くぅっ!?」
ようやく一体の多混竜を倒せたことに喜びを感じる間もなく、最初に魔法を受け止めて動けずにいたもう一体の多混竜が間髪入れずに迫ってきた。
必死に迎撃しようとするが魔力が尽きた反動もあり、その速度には対応しきれない。
(だ、駄目だっ!! 殺られ……っ!?)
どうしようもない状況に絶望しながら多混竜の攻撃を無防備に受け止めそうになった……そこへ一陣の風が吹き抜けていく。
「っ!!?」
「ドゥル……ドゥウっ!?」
「えっ!? あぅっ!?」
駆け寄ってきた何かが俺に迫っていた多混竜をその勢いのまま殴り飛ばし、その勢いを殺すどころか逆に吹き飛ばして見せた。
それでも素手で殴ったためか、あるいは元から傷がついていたのかその拳から血液をまき散らしていて俺の顔へと降り注ぐ。
しかしそんなことを気にもせず、そいつは俺を強引に掴み上げると多混竜にも負けない速度で走り出した。
もちろんそんな真似ができるのは俺の知る限り一人しかいない……だからようやく会えた喜びに安堵すらしながら顔を向けて話しかけようとした。
「た、助かったよアリシ……っ!!?」
「……っっ」
「わ、我が魔力よ……我が意志に従い癒しの祝福を……ヒール……はぁ……我が魔力よ……我が意志に従い……」
「あ、アイ……っ!?」
思った通りそこに居たのは俺が心の底から会いたいと思っていた二人だったが、しかし余りにも酷い状態だった。
全身傷付いていない所がないかように全身が鮮血で染まっていて、左手は指の骨が全て折れているのかグチャグチャになっているアリシア。
それに対して背中に背負われているアイダはまだ怪我こそ少ないがあちこちが火傷しているようで、足の先などは炭化しかけているようにも見えたがそんな状態にもかかわらず少しでもアリシアを癒そうとしているのか自分ではなくアリシアへ向けて回復呪文を唱え続けている。
そんな惨状を目の当たりにした俺は、二人が今までどれだけの地獄を乗り越えてきたのかを知り衝撃を受けて固まってしまう。
(こ、こんな状態になるまで……俺が来るまで踏ん張ってたのか……ごめんよ二人とも、もっと俺が早く来ていれば……いや、単独行動するなんて言い出さなければっ!! くそっ!!)
今更ながらに二人をこんな状況へ追いやる元凶を作ってしまった自分の判断が恨めしく思えてくる。
「ふ、二人と……っ!?」
「ドゥルルルルっ!!」
「「「ドゥルルルルっ!!」」」
それでも何か話しかけようと口を開こうとしたところで、背後から絶望的な咆哮が聞こえてきた。
アリシアに運ばれるままに其方へと視線を向ければ、普通の多混竜を従えるようにして三つ首で尻尾が二股に別れている巨体の化け物が迫ってきているのが見えた。
(な、何で速さだっ!? アリシアですら振り切れないなんてっ!? あっ!?)
「「「ドゥルルルルっ!!」」」
そして三つ首の化け物は俺たちを追いかけながらも憎々し気に睨みつけたかと思うと、三つの口を開き始めたではないか。
(ま、またあの爆発を起こす気かっ!? アリシアは耐えられるのかっ!?)
「あ、アリシアっ!?」
「っ!!?」
俺の呼びかけにアリシアはちらりと後ろを見るが、苦しそうに顔を歪めると力なく首を横に振って見せた。
見れば先ほどはその身体を包んでいたはずの防御魔法が解除されていることに気が付いた。
(あ、アリシアも魔力が尽きてるのかっ!? 今日まで戦い続けてきたんだから仕方ないけど……不味すぎるっ!!?)
恐らくは移動力強化の維持を優先しているのだろうけれど、こんな状態であの爆発を受けたらもはやどうしようもない。
だから必死に荷物からマジックポーションを取り出そうとするが、これを手渡して飲み干す頃には向こうの攻撃が届いていることだろう。
(ど、どうすれば……せめて安全な場所に避難でも……あっ!?)
「る、ル・リダっ!! 聞いていたら地下への……あっ!?」
「み、皆さぁああんっ!! こ、こっちですぅううっ!!」
「っ!!?」
こちらの様子を観察していたのか、俺が叫ぶ前にル・リダが近くに入り口を開いて俺たちを招いてくれる。
それにすぐ気が付いたアリシアはその地下への入り口にすかさず飛び込んだ。
「っっ!!?」
「あぅっ!?」
「ぐぅっ!? だ、大丈夫か二人と……っ!?」
「ドゥルルルルっ!!」
疲労からか、洞窟内に飛び込んだアリシアは着地の衝撃に耐えきれなかったようで俺たちを取り落として崩れ落ちた。
そうして地面に転がる二人を介抱しようと身体を起こし近づいたところで、多混竜達の咆哮が聞こえてきた。
翼のせいで洞窟の入り口に引っかかっているようで入って来れないでいる多混竜が暴れていて、しかもその後ろからは洞窟の入り口を睨みつけながら口を開いている三つ首の化け物の姿が見えた。
(だ、駄目だっ!! 幾ら大地が盾になるとはいえあの爆発は防ぎ切れるかどうか……い、いやそれ以前に崩れ落ちるかもしれないっ!! も、もっと奥へ避難しないとっ!!)
「れ、レイド様っ!?」
「は、話は後だっ!! あの凄い爆発が来るっ!! もっと奥へ避難しようっ!!」」
「ふぇええっ!? は、はいぃいいいっ!!」
そう判断した俺は今度は逆にアリシアとアイダを両腕に抱きかかえながらル・リダへと叫び、ドラコを抱えた彼女と共に全速力で洞窟を逆に辿り始めた。
「「「ドゥルルルルっ!! シャァアアアアっ!!」」」
「く、来るぞ……くぅっ!!?」
「ひぅうううううっ!!?」
「ヒール……あぅぅ……あぁあああっ!?」
「っ!!?」
「……?」
そこへ三つ首の化け物のあげる咆哮が聞こえたかと思うと、想像していた以上の大爆発が発生した。
多混竜ですらすぐには壊せないほどの強度を誇っていたル・リダの固めた洞窟の天井をもあっさり崩してなお、こちらにまで衝撃が届いてきて俺たちはまとめて吹き飛ばされていくのだった。
(ぐぅぅっ!! な、何だこの威力はっ!? く、くそっ!! せめて二人だけでもこの身体を盾にしてでも庇って……ぐはぁっ!!?)




