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最悪最凶の失敗作⑬

「それでアリシアとはゼメツの街で別れたということで良いんですか?」

「うむ、その通りだ……多混竜と言う脅威を排除し、その犠牲者を減らすためにと駆けつけてきたのだそうだ」

「そして、お世話係と言う名目で……実際には生贄用として粗末な建物に隔離されていた私たちを救助したのですが……」


 少しでも情報を集めようと訊ねた俺に向かい、協力的になったアリシアの御両親は素直に答え始めた。

 それを見て他の人達もまた不安そうにこそしているがこちらを敵視するのを辞めたようで、二人に続くように口を開き始めた。


「え、ええ……当時は第二王子のガルフ様と婚約して以来、王宮に引きこもってしまったアリシア様がこの場に現れた事実に驚いて……しかも髪の色も違い声も出せない様子から何事かと思ったが……」

「アリシア様の背中に背負われているアイダと言う少女が事情を説明してくれて……アリシア様本人もメモ書きで肯定して……その際に魔獣の化けている偽物が居ると知らされたが、正直半信半疑だった……ましてレイドがレイドがと二人して折に付けて語る姿はどうにも……」

「も、尤もそちらのマリア様……の格好をした魔獣を見る限り本当に化けられるみたいだが……ちなみにそいつとはどういう関係なんだ?」

「彼女はル・リダ……まあ俺たちからしたら良い魔獣……と言うべきかは分からないが、とにかくこの状況に心を痛めている協力者だ……」


 何と紹介すべきか迷ったが、こうして顔を合わせている以上は彼女への敵意も解いてもらわなければならない。

 だからこんな説明の仕方になってしまったが、特にル・リダは嫌な顔をすることなく洞窟を掘り進めながらも慌てた様子で頭を軽く下げて見せた。


「ど、どうもル・リダです……ちょっと本当の姿は見られたものではありませんので、余計な混乱や恐怖を与えないようにこの方の姿を借りさせていただきております……ちなみにこっちの子はドラコちゃんと言いまして……魔獣達の心無い実験のせいでこんな見た目になってしまいましたがドラゴンの子供です……」

「……?」


 そして彼女は俺の背中に庇われるように立っているドラコも紹介するが、こちらはいつも通りあらぬ方向を見つめるばかりだった。


「ど、ドラゴンのっ!? そ、それは一体っ!? 多混竜と関係があるのかっ!?」

「多混竜は魔獣達がドラゴンの力を手に入れようと実験した結果生まれた失敗作なんだ……彼女は反対派だからこれ以上、多混竜のような脅威を生み出されないようこの子を連れ出して、今は親の元へと返そうとしているところだ……」

「なっ!? じゃ、じゃあ今はその親の……ドラゴンの元へと向かってるのかっ!?」


 怯えたように叫ぶ人達に向けて、一応頷いて見せながらもう少しだけ説明を続ける。


「ドラゴンはお互いに居場所がある程度わかるらしい……特に血が近い者同士の居場所は遠くに居ても……だから自分と同じものが混ざっている多混竜の居場所も大体把握できるし、特に大きな反応に対しては遠くに居ても探知できるようだ」

「ええ……だから多分、この子がずっと見ている先に親のドラゴンさんがいるはずです……それでそっちに向けてこうして移動して……それが終わり次第、レイド様のいうアリシア様を探しに行こうと思っていたのですが……」

「ゼメツの街に居るって分かった以上、俺はこの進行方向がそっちからズレ始めたらその時点で別れて向かうつもりだ……尤も今のところ完全に重なってるみたいだけどな……」

「「「っ!!?」」」


 俺の言葉を聞いてドラコを除いたこの場に居た皆が……それこそル・リダまでもが驚いた様子を見せた。


「れ、レイド様っ!? それは危険ですよっ!? 貴方様の実力は高いのはわかりましたけれど、幾ら何でも一人で多混竜が飛び交っている中を進むのは危険すぎますっ!?」

「だけどそれはアリシア達も同じだ……むしろ四体もの多混竜が居るであろう場所で孤立している二人の方がずっと危険なんだ……一刻も早く合流してあげないと……」

「で、でも……ですがっ!?」

「いや、その心配はあるまい……恐らくは其方が思って居るよりずっと危険な状況ではあるが、同時に逃げに徹している以上はまだ何とかなっておるはずだ」

「そ、それはどういうことですかっ!?」


 俺たちのやり取りを聞いていたアリシアの父親の言葉は、いまいちよく分からなくて逆に困惑してしまう。

 そんな俺に向かって彼らは改めて口を開き、説明を再開した。


「うむ……まず多混竜のことだが……其方らが語っていることが正しければ……この上空を別の二体の多混竜が飛び交って居るというのならば、アリシア達のいるゼメツの街には一体しか残っておらぬことになる……尤もあれを一体と呼んでいいのかは分からぬが……」

「えっ!? で、ですが多混竜は全部で六体……ここにいる二体を除いても残りは四体居るはずなのですが……っ!?」

「それなのですが、私たちの元へ来たアリシア達はその道中で……街中に休眠中の一体を見つけて既に始末したというのです」

「なっ!? た、多混竜をっ!?」

「ふぇぇっ!? ま、魔獣が総がかりでも結局傷つけるのがせいぜいだったのに退治しちゃったんですかその人っ!?」


 驚く俺たちに向かい、公爵家の二人だけでなく皆が揃って頷いて見せた。


(は……ははっ!! 流石アリシアだっ!! やっぱり桁が違うっ!! この剣抜きでも多混竜を退治できてたのかっ!?)


 休眠状態とは言え、俺があれだけ全力の攻撃を叩き込んでなお傷をつけるのが精いっぱいだった多混竜を退治できるという事実に興奮とアリシアへの尊敬が高まっていく。

 恐らく彼らもそうだったのだろう、アリシアの活躍を語る彼らはどこか誇らし気で……逆に彼女のことを良く知らないル・リダは少しだけ引き攣ったような表情で乾いた笑みを浮かべていた。


「えぇ……そ、そんな凄まじい強さの人がまだいたなんて……魔獣の間ではそれこそレイド様こそが一番の脅威だと認識されていたんですけど……」

「ふふ……アリシアに比べたら俺なんか雑魚だよ……まだまだ全然及ばないんだから……」


 そんなル・リダの反応を見て、俺もまた自分のことのようにアリシアのことを自慢するように語ってしまう。


「はぁぁ……えぇ、でも……そこまで強い人ならレイド様が助けに行かなくても何とかなるのでは?」

「いや、流石のアリシアでも多混竜を複数同時に相手にしたら難しいだろうから……それに休眠中だったって言うし……」

「その通りだ……その際にアリシア本人も他の魔獣達が動きを封じていたから何とかなったのだと言って居った……そ奴らを倒した上で多混竜が動き出す前に襲い掛かり……それでも頑丈過ぎる身体故に倒すのには時間がかかったらしい」

「ええ、ですから全滅させるのは後回しにして先に私たち生存者の救助に当たったそうです……そして警備している王都から派遣された人々、に化けていた魔獣を倒しながら私たちを誘導して共に避難しようとしたのです」

「そして何とかしてお前と……レイドと合流した上で改めて多混竜を殲滅すると言って……何でそこでお前の名前が出るのか訳が分からなかったが、俺たちが何を言っても……むしろあのアイダという子と一緒になって、お前の凄さを喚き立てて……ここに戻ってくるわけがないと言っても私たちの危機には絶対に駆けつけて助けてくれると力説して……正直、全く信じられなかったが……お前いつの間にそんな強く……」


 先ほどの多混竜との戦いを思い出したのか、さっきまで見下していた俺に脅威を感じているかのような声で呟く奴らに苦笑して見せる。


(物理的な強さは当時とそこまで変わってないんだけどな……ただ自分に自信がついて、新しい攻撃魔法を開発したぐらいなんだが……だけどアリシアもアイダもそこまで俺を信じてくれてたなんて……こんな状況でも嬉しいって思ってしまうな……)


「そ、そうだよ何でお前そんな急にっ!? 軍学校の試験にも受からない俺以下の雑魚だったのにどうしてっ!? おかしいじゃないかっ!? どんな卑怯な手を使ったんだっ!?」

「悪いなヤナッツ……それ逆なんだよ……俺は卑怯な手を使われて試験に落ちたらしい……詳しくは知らないけどな……」

「っ!!?」


 対抗心でも燃やしているのか、或いは格下だと思っていた俺が予想以上に強かった事実に悔しさでも感じているのか……噛みついてきたヤナッツに呆れながら言い返してやると途端に皆の顔色が変わっていく。

 特にアリシアの両親は驚きに目を見開いたかと思うと、気まずそうに口を開いた。

 

「……それも知っておるのか」

「その……アリシアは私たちの娘とは思えないほど優秀で……だからこそご先祖様の約束などに縛られて欲しくなく……」

「もう今更です……気にしてませんよ……そんな過去の事に拘るより、今アリシアの力になりたいんです……だから続きを話してください……それから何があって、アリシア達がどうしているのかを……」


 本当は全く気にしてないわけではないし、未だに思うところもある。

 何せあの試験にさえ受かっていれば……成果を出せていれば当時ボロボロだった俺の気持ちも少しは前向きに成れたはずなのだ。

 そして何だかんだでアリシアとは両想いであった以上は、それから共に居る時間が増えれば間違いなく関係は改善されていただろう。


(だけどその場合はこの魔獣事件に関われなくて……多分秘密裏に事が運んでもっと厄介な状況になっていたかもしれない……何よりあのタイミングで俺が未開拓地帯をうろついていなかったらアイダは守れなかった……ライフの町に行くこともなく、仲間達とも出会えなかった……だからこれでいいんだきっと……)


 それでも今の自分と、それを包む環境を考えればこれでよかったのだと思うことができる。

 だから自分を嵌めた彼らに対しても、そこまで怒りを覚えず話の続きを促せるのだった。


「そうか……とにかくそうして我々は共に避難しようとアリシアの庇護のもと街の中を走り抜けておった……その最中、唐突にとある建物が大爆発を起こしたのだ」

「それは普段、王都から派遣された人々……魔獣達が集まっていた建物でした……そして爆発と同時に複数の魔獣に囲まれるようにして、特に悍ましい見た目をした魔獣が二体ほど飛び出してきました」

「それは……恐らくエ・リダにテ・リダですね……確か多混竜を抑えるために援軍として少し前に呼ばれて行ったと聞いてますから……」


 アリシアの両親の言葉を聞いて、補足するようにル・リダが語った内容は首都でメ・リダから聞いた話と一致していた。


(そうだ、確かそいつらも送って……それでも連絡が取れなくなるほどの事態だから俺に協力を申し出るほど焦ってたんだよな……だけど確かその時に何か……多混竜の数を減らせるとか言っていたような……?)


 そこでふとメ・リダの言葉を思い返していた俺の前で、アリシアの両親を含む皆はどこか怯えた様子を見せ始めた。


「詳しくは知らぬが恐らくはそ奴らこそ魔獣達の元締めであったのだろうが……奴らはとんでもないことをしでかしておったのだ……」

「と、とんでもない事とは?」

「……慌てた様子で飛び出してきた彼らから少し遅れて……爆炎を切り裂くようにしてあいつが……あの化け物が……あぁ……」

「ば、化け物……多混竜のことですか?」


 当時を思い返しているらしい彼らは身体を震わせながら、俺の疑問に各々首を縦にも横にも振って見せた。


「多混竜ともいえるし違うともいえる……あれは……あの生き物には三つの頭が付いていたのだ」

「っ!?」


 そして彼らが語り始めた特徴は驚くべきものであった。


「う、腕も足も……背中から生えている翼も……まるで全てが多混竜が三体分混ざったかのような……」

「胴体こそは一つだったけど、その大きさは俺たちを見下すほどの巨体で……」

「出てきたそいつを見て魔獣達は互いに責任を押し付け合うように貶し合いながら……俺たちにも聞こえる声で大失敗作だと……こんな最悪最凶な失敗作を作ってどうするんだと……」

「な……なっ!?」


 話を聞いてその姿を想像しただけで、俺もまた恐怖とも驚愕ともつかぬ声を洩らしてしまう。


(た、多混竜が三体分くっ付いたような……か、数を減らせるってまさかっ!?)


 そこで気付く、メ・リダ達からは数を減らせるとは聞いていたが多混竜を殺せるとは一言も言っていなかった。

 つまりそれは……一体にまとめることで、お世話の手間を減らそうという計画だったのだろう。


「そ、それで……そいつは……その化け物はどうしたんですかっ!?」

「ああ……出てきた化け物は建物一つを完全に吹き飛ばすほどの爆発を受けてなお傷一つ付いておらず、目の前にいる魔獣達へと襲い掛かったのだ……」

「その際に中心にいた魔獣が凄い大きさのファイアーボールを叩き込んだが、それですら足止めすらできず……一瞬で殲滅されてしまった……そ、そして少し鼻を鳴らしたかと思うと……お、俺たちの方を見、見て……そ、それで……っ!!」

「そ、即座にアリシア様が囮になると宣言して飛び出そうとして……背中にくっついているアイダという少女を下ろそうとしましたが彼女はレイドが来るまで絶対に離れないと……」

「時間がないと判断したのかアリシア様はそのまま我々に今すぐレイドを呼んできてくれと叫びながら凄まじい勢いでその化け物へと向かって行き……その後は我々の目では追えない速度で戦いながら少しずつ距離を取り始めて……その隙に我々は逃げ出してきたのです」


 何度も息を整えながら何とかそこまで話し終えた彼らだが、俺はもうそんなこと気に掛ける余裕もなくなっていた。


(リダ達の魔法攻撃を受けてビクともしないだってっ!? そんな馬鹿なっ!?)


 先ほどル・リダの攻撃魔法を受けた多混竜は怪我こそしなかったが、多少は影響を受けて足止め程度の効果は発揮できていた。

 しかしそれを二体分正面から受けてなお、足止めすらできないとなるとその強さは素の多混竜以上ということになる。


(ただでさえ強い多混竜が……それも三体分混ざったような姿……もしもその強さも三体分合わさったものだとしたらっ!?)


 実際にアリシアは動きを制限されている単独の多混竜を倒すのにも手こずったというぐらいだ……そんな化け物に敵うはずがない。

 それこそこの剣でもなければ……そこまで考えた時点で俺の身体は動き出していた。


「そして逃げた先で其方と合流したわ……れ、レイドっ!?」

「はぁああああっ!!」

「れ、レイド様何をっ!?」


 叫ぶ皆の言葉を無視して、俺は壁を蹴って飛び上がると洞窟の天井を切り裂いて強引に出入り口を作る。

 そして着地した後で、今度こそその穴から飛び出していこうと再度跳躍しようとして……ル・リダの背中から伸びる手に服を捕まれた。


「だ、駄目ですよっ!! 外に飛び出したら危険ですってっ!!」

「離してくれっ!! そんな化け物に襲われてるならそれこそ一刻の猶予も無いっ!! 早くアリシア達と合流しないとっ!!」


 チマチマと洞窟を掘り進むのに付き合っていたら、ゼメツの街に付くのがいつになるか分かったものではない。

 だから俺は自らの身の危険をも顧みず、地上を一気に走り抜けようとするのだがル・リダは離してくれなかった。


「そ、そんなことして多混竜に襲われたらどうする気ですかっ!? それこそレイド様がやられたらその方たちを誰が助けに行くんですかっ!?」

「くっ!? け、けど俺は……」

「我々が言うべきではないかもしれぬが、落ち着くがいいレイドよ……考えても見よ……多混竜は全てで三体……そのうちの三体がその化け物になったとして、残る三体の内一体はアリシアが退治済みなのだぞ……そして残りは我々の頭上を飛び交って居ると聞く……ならばアリシアの相手はその化け物一体だけなのだ……あのアリシアが単独の敵を相手に後れを取ると思うか?」

「っ!?」


 アリシアの父親が諫めるような言い方をしてきて、反射的に怒りが込み上げて叫び返したくなる。

 しかし俺は冷静に勤めるよう自分に言い聞かせながら、頭の中でその言葉を反芻する。


(アリシア……ああ、アリシア……俺よりずっと強くて頼りになるアリシア……アイダも傍に居ることだし無理はしないはずだ……きっと俺とは違い対面した時点で力の差も理解しているはずだ……俺を呼んできてくれってことは多分剣を持ってきてくれってことだろうし……それまでは守りに徹するはずだ……例え敵わなくても、たった一体を相手に逃げと守りに徹しているならアリシアならきっと……アリシアっ!! アイダっ!!)


 そしてその言葉が正しいと理解する……だからル・リダの言う通りこのまま地下を進んでいくのが一番なのだと頭ではわかってしまう。

 それでも感情は収まらない……あの二人が自分達より強い化け物に襲われていると思うと、どうしても今すぐ駆けつけてあげたくなる。


「れ、レイド様っ!! 何でしたらゼメツの街へと先に向かわせてもらいますからっ!! だからどうか落ち着いてくださいっ!!」

「くっ!! だ、だけどそうしたらその間に親ドラゴンがどこかに飛んで行ってしまうかも……」

「今のところ全く動く気配がないからきっと大丈夫ですよっ!! それよりレイド様を見殺しにするわけにはいきませんっ!! さっき自分で言ったじゃないですかっ!!」

「っ!!?」


 必死に俺に縋りつき語るル・リダの言葉を聞いて、ようやく頭が冷えてくるのを感じた。


(そうだよ、俺が言ったんじゃないか……手を差し伸べられるところに死にそうな人がいるのに、無視できるわけがないって……くそっ!! 落ち着け俺っ!! 落ち着くんだっ!! 相手は俺どころかアリシアですら苦戦する化け物なんだぞっ!! こんな取り乱した状態じゃ足手まといにしかならないじゃないかっ!!)


「はぁ……ふぅ……済まないル・リダさん……そうだな……その通りだ……誰かを助けようと無理をして俺が心配をかけてたら本末転倒だもんな……」

「そ、そうですよレイド様っ!! 無理は厳禁ですよっ!?」

『無理は駄目、だよレイド?』


 ル・リダの言葉にアイダが口癖のように言っていた言葉が重なって聞こえてくる。


(ああ、そうだったな……無理しちゃ駄目だよな……落ち着け俺……アリシア達なら大丈夫だ……これまで一緒に生き抜いてきた仲間を信じないでどうするんだ……)


 何度も深呼吸を繰り返しながらようやく気分が落ち着いてきた俺は、改めてル・リダに頭を下げるのだった。


「済まない……本当に済まない……もう大丈夫、落ち着いたよ……」

「そ、そうですか……ならいいのですが……じゃあこのままゼメツの街へと向かって掘り進めますね?」

「……ドラコには悪いが、そうしてくれ……頼む」

「……?」


 チラリとドラコに視線を投げかけると、この騒動の中でも変わらず呆然と中空を見つめていた。

 そんな彼女に申し訳なさを感じてしまうが、それでも俺にとって一番大切な二人を想えばこれだけは妥協できなかった。


(済まないドラコ……代わりにもし親ドラゴンがこの場を去ったとしても俺が責任を持って送り届けるから……例えこの大陸に居なくて、それこそ魔界に戻ったとして……あれっ?)


 そこで何かが引っかかるような気がして、反射的に口を開こうとしたところで他の人達の声が聞こえてきた。


「そ、そう言えばお前らはそっちに向かってるんだったな……」

「ま、またあそこに……うぅ……だけど外は……」


 ゼメツの街から逃げてきただけあって、俺たちの目的地を知った彼らは目に見えて落ち込んでいるようだった。


(そりゃあ嫌だろうなぁ……命からがら逃げてきた場所に戻るなんて……それに俺としてもこいつらを連れて行っても足手まといにしかならないし、何とか避難させたいところだけど……)


「ル・リダさん……この洞窟を逆に辿ったらどこに付くんだ?」

「え……ええと、私たちはこの国の首都の傍から穴を掘り進めてますので……尤も出入口は土で塞いじゃってますけど……」

「逆に言えば突き当りまで戻ったところで何とか地上まで掘り進めば首都の傍に出れるわけだよな……そして多混竜の残りはこの辺りにしかないし、首都に居る魔獣は俺が全滅させた……本部は壊滅状態だし、何やら混乱もしてるみたいだから多分援軍を寄こす余裕もないだろうし……」

「そ、そうなのかっ!? じゃあ俺たちはこのまま戻れば安全な首都までたどり着けるんだなっ!?」


 俺たちの会話を聞いていた人々がどこか嬉しそうに叫ぶのを肯定するように頷いて見せる。


「まあ絶対に安全かと言われれば断言はできないけど、比較的マシな場所だと思う……何よりこれから俺はアリシアと協力してその化け物と戦わなきゃいけないからな……悪いけど足手まといになりそうだから先に避難しておいてくれると助かる……」

「あ……そ、そうか……そうだよな……レイドはアリシア様を助けに行かないといけないのか……」


 先ほどまでの視線とは一転して、どこか縋るような目で俺を見つめてくる奴らに内心苦笑してしまう。

 恐らくは多混竜や魔獣の脅威を見て怖気づいていて、護衛代わりに俺に付いて来てほしいと思っていたのだろう。


「……俺はアリシアとアイダのためだけにここに居るんだ……これ以上お前らの面倒を見る気はない」

「っ!?」

 

 そんな奴らの希望をばっさり切り捨てるように言い切りながら、聞くべきことを聞き終えた俺は今度こそ皆に背中を向けるとル・リダへと向き直るのだった。


「ただ……まあ多混竜だけはアリシアと協力して何とか処理してやるよ……その後は魔獣事件の解決のために本部へ乗り込まないといけないしな……」

「レイド……いやレイド殿っ!!」

「っ!?」


 しかしそこでアリシアの両親が俺を丁寧に呼ぶ声がして、思わず肩越しに振り返ると改めて二人が深々と俺に頭を下げてくる。


「今までの無礼を許していただきたい……そしてどうか、アリシアのことを……よろしくお願いいたします」

「アリシアのことをお頼み申し上げます……レイド様……」

「……っ」

「さあ行こうではないか皆の者っ!! 彼らの邪魔になってはいかぬっ!!」

「首都まで避難しましょうっ!! さあ急いでっ!!」


 まさかあれほど嫌われていた公爵家の二人からこんな真剣な態度を向けられる日が来るとは思わなくて、面食らう俺の前で彼らは頭を上げると他の人達を伴って洞窟を引き返していった。

 そうして遠ざかる背中を見つめていた俺は……気が付いたら叫んでいた。


「あのっ!! この国の国王と第一王子は既に命を落としていますっ!! 残っているのは第二王子様だけですが……そのフォローをお願いしますっ!!」

「承ったっ!! こちらのことは任されよっ!!」

「レイド様はアリシアの救助に専念してくださいませっ!!」


 そんな俺の言葉に力強く頷き返してくれた二人を見送りながら、俺もまたはっきりと頷いて見せるのだった。


「ええ……絶対にアリシアは俺が助け出して見せますっ!!」

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― 新着の感想 ―
[一言] いやまあ、確かに数は減るだろうけれど… 解決にはなっていないわなあ。それでも、アリシアにとっては、一体から身を隠せばいいのだから、ありがたかったのか。 しかし、出来上がったのがキングギドラ……
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