最悪最凶の失敗作⑤
「ひぃっ!? ど、どうなさいましたかっ!?」
「っ!!」
怒りのあまり目を見開いて手を壁に叩きつけた俺を見て、話しを終えた男は恐怖に顔を歪めて悲鳴じみた声をあげる。
かなりの大声で周りに聞かれないよう諫めるべきなのだろうけれど、そんなこともどうでもよくなるほどの激情が湧き上がっていた。
(俺の生まれ故郷をっ!! アリシアの居場所をっ!! アリシアと出会って思い出を積み上げ来たあの場所をっ!! くそっ!! よくもやってくれたな魔獣共っ!!)
ライフの町に受け入れてもらえた俺は、あの街のことなど思い返すことはなかった。
それこそもう二度と戻るつもりはなく、愛想を尽かせたぐらいのつもりでいた。
しかしこうして故郷をグシャグシャにされたと聞かされると、まるでアリシアと培ってきた思い出までもが滅茶苦茶にされたような心境に陥ってしまう。
だからこそ俺は今すぐにもそんなふざけた真似をしてくれた魔獣共を殲滅させてやりたくて仕方なくなる。
(待ってろよ魔獣共っ!! 俺が今からお前らを皆殺……っ!?)
感情のままに部屋を飛び出そうとしたとき、右手に付けて置いた指輪が光を反射して俺の視界へと入って来る。
反射的にその指輪へと視線を投げかけて、同時にこれをくれたランド達のことを思い返す。
(……ああ、そうでしたねランド様……落ち着いて冷静に行動しないと……わかってますよアンリ様……くそっ!! )
何度も心中で毒づきながらも彼らの心配そうな顔を思い浮かべながら深呼吸を繰り返し、何とか感情をなだめて今すべきことを考え直す。
そしてすぐに今度はアイダとアリシアの顔が浮かんできて、次いで失敗作である多混竜とやらの脅威を思い出す。
(今俺がすべきことはただ一つだろ……俺にとって何よりも大切なあの二人を守り切ること……いや一緒に生き残ることだ……だからこんな怒りの感情に囚われて復讐なんかしてる場合じゃない……そうだろ俺っ!!)
未だに感情が収まり切ったわけではないが、あの二人と比べれば何もかもがどうでもよくなる。
「……失礼、予想以上の状況に感情が昂りました……色々と丁寧にありがとうございます……では失礼」
「あ……は、はい……どうぞ行ってらっしゃいませ……」
改めて男にお礼を言うと、彼を置き去りに転移魔法陣の部屋を出てそのまま管理人室のドアを開き廊下へと移動する。
そしてアリシア達と合流するためにゼメツの街へと向かおうとして、左右に広がる廊下をどちらに向かって進むべきか早速迷ってしまう。
(ああもう、王宮ってのは厄介な……こんなところで迷ってる場合じゃないのに……仕方ない、突き当りまで進んでまだ出口が見えないようなら壁を壊して脱出しよう……)
少しでも時間が惜しく感じられて、そんな決意を固めながら右に曲がりまっすぐ進んでいく。
そうして曲がり角の手前まで近づいたところで、向こう側から何やら話し声が近づいてくるのに気が付いた。
「……から…………う少し、俺と……」
「すまな…………から、今は…………」
(ちっ……こんなタイミングで誰かに会ったら面倒だ……どこかに身を潜め……この声はっ!?)
隠れてやり過ごそうとした俺だが、その僅かに聞こえてきた会話を交わしている声の持ち主に覚えがあった。
考えるまでもなく即座に気が付く……気づかないはずがない、俺がアリシアの声に。
「だが、君はここのところずっと父上とばかり……それどころか兄上とも……なのに俺の相手はちっともしてくれないのはおかしいじゃないか?」
「何度も申し上げておりますが、今はそれどころではございませんのよガルフ様……ご安心くださいませ、私の身も心も貴方様だけのものでございますわ……うふふ……」
「っ!!?」
同時にその口調からこれが間違いなく偽物であることも看破できてしまう。
(アリシアはこんな話し方はしないし、こんなこと恥ずかしがらずに素で言えるものか……一緒にいる奴はそんなことにも気付かないのか?)
「そ、それは嬉しいかぎりだが……アリシア……せっかくこうして婚約者となったのだから、忙しいのはわかるがせめてもう少し共に居る時間を増やしてだな……」
聞こえてきた内容から恐らくは婚約したという第二王子とでも会話をしているのだろうが、そいつはアリシアと共に居れない不満を語るばかりであった。
偽物と入れ替わっているなどと言うことには欠片も気づいていないのだろう……俺が一瞬でこれだけ違和感を覚えるというのに、仮にも愛する女性の違いに気付けない時点でこいつはどうしようもなくアリシアに相応しくない男だと思ってしまう。
(だけどそんなことより……こんな態度でアリシアを演じたつもりでいる魔獣が……アリシアの名前を汚しまくってるこいつは許せねぇっ!!)
愛する女性を汚されている事実に我慢できなくなった俺は、スキャンドームを発動させながら曲がり角を飛び出した。
「ですか……えっ!?」
「なっ!? だ、誰……っ!?」
思った通り曲がった先に居た男女のうち、アリシアにそっくりな方だけはスキャンドームに反応して輝きに包まれていた。
そいつは飛び出してきた俺を見てアリシアの顔で呆気にとられたような間抜け面を晒している。
おかげではっきりとアリシアとは別人だと頭だけでなく心でも理解できて、俺は容赦なく飛び掛かることができた。
(アリシアは急に人が飛び出してきたぐらいでそんな顔しねぇよっ!! そしてこの一撃だって……対応できなきゃおかしいんだよっ!!)
「……消えろ、偽物っ!!」
「な、何……っ!?」
感情のままに飛び掛かった俺は、変身を解くことは愚か何の反応も出来ずにいる偽アリシアをあっさりと十字に切り裂き頭と心臓を切り裂いた。
「な、な、な……何……なっ!?」
悲鳴を上げることすらできずに崩れ落ちた偽アリシアを見ても、ガルフは何が起きているのか理解できないようで情けない声を洩らすばかりだった。
しかもそんな彼の前で床へ崩れ落ちた偽アリシアが魔獣としての本性を現し、彼は更に混乱したように引き攣った表情で大口を開けたまま固まってしまう。
(やっぱり全く気付いてなかったんだな……自分が騙されていることにも……しかし、やっちまった……)
ガルフの余りの愚かさに見下すことを通り越して哀れみすら感じながらも、偽物を倒したことである程度感情が収まった俺は逆にこの短絡的な行動を後悔し始めていた。
ここで手を出してしまった以上、このまま王宮を立ち去ろうものなら魔獣達が警戒して厄介なことになりかねない。
(無視してまっすぐゼメツの街へ向かうべきだったのに……だけどアリシアを侮辱するような真似されたら我慢できなかった……くそっ!! 仕方ないこうなったらさっさと魔獣を倒せるだけ倒して……最低でも王族に化けている奴だけでも全滅させないと……っ!!)
そう覚悟を決めた俺は、さっさと王宮内を巡るためにも案内人が必要だと判断して……目の前で呆然としているガルフへと話しかける。
「おいっ!! 国王はどこにいるっ!?」
「あ……な、何を……と言うよりお前は何だっ!? 何しにここへ……うぐっ!?」
「時間がないんだよっ!! 見ろっ!! この国はもう人に化ける魔獣に侵略されかけてるっ!! 今すぐに正体を見分けて処分して行かないと大変なことになるっ!! 俺はそのために来たんだっ!! だから早く案内を……っ!?」
俺の質問に答えず逆に尋ね返してくるガルフの首根っこを掴み、乱暴に説明しながら改めて聞き返す。
時間が惜しいからこその行動だったが、むしろこれは失敗だったようで向こうははっきりと俺を睨み返しながら横に振って見せた。
「そ、そんなこと信じられるかっ!! 貴様みたいな怪しい奴の言葉をっ!!」
「ちっ!! この馬鹿がっ!! これを見てもまだそんなこと言ってるのかっ!?」
「……っ!?」
叫ぶそいつの顔をアリシアへ化けていた魔獣の遺体へ突きつけてやると、流石に黙り込むがそれでも応えようとはしなかった。
(駄目だこいつは……こうなったら他の誰かを……おっ!?)
「今の声は何だっ!?」
「ど、どうかしま……えっ!? が、ガルフ様っ!?」
「な、何がどうなって……こ、この死体は……し、侵入者っ!?」
そこへ俺たちの騒ぎを聞きつけた奴らがわらわらと駆けつけてきた。
もちろんまだ発動中のスキャンドームの効果により、その中に混じっている数体の魔獣が即座に浮き彫りになる。
冷静にそいつらの位置を確認しながら、俺は他の奴らを巻き添えにしないよう角度を調整しながら指先を突き付けた。
そして無詠唱で突きつけた指先から攻撃魔法を代わる代わる放って行き、そいつらの額をうち貫いていく。
「な……あ……っ!?」
「えっ!? な、何……っ!?」
「お、お前は……っ!?」
無詠唱でなお剣により威力が強化されていることもあり、俺の魔法は何の抵抗もなく魔獣が化けている人間の頭部を穿ち崩れ落ちさせる。
「えっ!? あ……きゃぁあっ!?」
「ひぃっ!? な、何が起き……ええぇっ!?」
「こ、これはっ!? な、何がどうなってっ!?」
途端に床に倒れた魔獣達は頭を貫かれたためにか、自己修復機能により回復魔法の光に包まれながらも正体を現してしまう。
「見ての通りだ……この王宮には人に化けた魔獣が入り込んでいるっ!! だから今すぐ見分けて処分して回る必要があるっ!! そのために俺はここに来たっ!! 分かったら早く国王の居場所を……っ!?」
「何の騒ぎだっ!?」
「退け退けお前らっ!!」
そこへ今度は正規兵と思しき格好をした軍団が群れ成してやってきた。
しかしこいつらは全員がスキャンドームに反応している……だから問答無用で同じように攻撃魔法でまとめて貫いてやった。
どいつもこいつも魔獣の正体を現しながら崩れ落ちていき、後は止めを刺すだけとなり俺は追撃の魔法を放とうとして魔力が半分ほど消費していることに気が付いた。
(本当に燃費悪いなこの魔法っ!? だけど威力は十分すぎる……魔力の回復手段がある今、本当に心強い……)
荷物からマジックポーションを取り出し飲み干すと、指輪の効果と合わせてあっという間に魔力が補充できてしまう。
これならば当面の間は使い放題だ……改めてこの道具を用意してくれたランド達への感謝の念が溢れてくる。
(これが無かったら小まめに休むか、この魔法の封印すら考えなきゃいけなかった……本当に頼りになる人だ……同じ王族でもこいつとは偉い違いだな……)
「……」
次から次へと目の前で魔獣が本性を露わにするところを見て言葉を失っているガルフを見下しながら、俺は剣で片っ端から魔獣へと止めを刺していく。
(ランド様ならすぐ冷静に現状を把握して対処してくださったのに……しかしこれ、下手したらルルク王国以上に魔獣が入り込んでいるかも……援軍とやらで呼び出されたのがかなりいるのかな?)
尤もドラゴンの襲撃への対処で魔獣達の本部が壊滅状態である以上は、今ここにいる奴らを倒し終えれば後から新しい個体がやってくることはないと思う。
だからこそ早く倒して回りたいのに、誰一人として動こうとしてくれない。
「こ、こんなことが……多混竜から生存した正規兵が全員魔獣だったなんて……」
「も、もしかしてアリシア様も……だとしたらここの所ずっと彼女と共に行動していた国王陛下と第一王子様も……」
「だ、だからあんな人を犠牲にするような命令を……てっきりあの魔物が危険すぎて感情が高ぶっているのかと……」
「……ここに居たアリシアなら偽物でしたよ……だからもう退治しましたが……そうですよね、ガルフ様?」
「っ!?」
集まってきた人たちの呟きに答えるようにガルフへと話しかけるが、彼は声を詰まらせたまま首を必死に横へと振り始めた。
「貴方は見ていたじゃないですか……まあいいや……それより皆さん、何度も言いますが時間がないのです……国王陛下たちがどこへ居るか……ついでに入れ替わっているかもしれない心当たりのある人がどこに居るか教えてください……見分けて処分なり保護なりしないといけませんから……」
「あ……そ、それならこの場に居る人以外で残っているのはあちらの部屋におられる錬金術師連盟から来られた技師の方と、それこそ国王陛下と第一王子様だけでございます……」
再度問いかけた俺の言葉に女中と思しき女性が恐る恐る応えてくれる。
(これだけ大きな王宮に今この場に居るだけだって? だけど嘘ついているようにも見えないし……転移魔法陣の管理人が最初死んだ目をしていたのは……そしてあんなにもお世話係になるのを怯えていたのはひょっとして王宮からも選出されていたのか?)
俺の生まれ故郷といい、どうやら魔獣達は自分たちの化けた人間が所属している場所から優先的に生贄を出しているようだ。
あるいは正体がバレるのを防ぐために、違和感を覚えそうな親しい人間を次から次へと送り出しているのかもしれない。
(そう考えれば納得は行く……これだけ犠牲が出てるだなんて……だけど今は好都合だと思うしかないっ!!)
後は国王陛下と第一王子さえ判別できればこの場を離れても問題は無くなるのだ。
そう割り切ると俺は改めて、この場に居る皆に向かって語りかける。
「技師の方ならば既に判別済みです……そうなると残りは国王陛下と第一王子ですが……どちらにおられるか心当たりのある方は?」
「そ、そのお二方ならば恐らく今も王座の間で何かを話し合っているはずですわ……」
「そうですか……なら早速其方へと向かいたいところですが俺は王宮内に疎くて……その部屋はどの辺りにあるか教えていただけませんか?」
「それは構いませんけれど、お二人とも大事な話だとかでそこへ繋がる扉には鍵が掛けられていて王族の方しか開けることは……」
困惑した様子ながらも返事をしてくれた人達は、そう言ってガルフの方へと視線を投げかける。
しかし早く終わらせたい俺としては、未だに沈黙を保っている彼の協力を待とうとは思わなかった。
「いえ、時間が惜しい……俺が強引に打ち破りますから、行き方だけ教えてくれれば……」
「ふ、ふざけるなっ!! いきなり現れて人の王宮で好き勝手してっ!! お前は何様のつもりだっ!?」
そこで急にガルフが叫び出すと、俺に向かって手を伸ばしてきた。
尤も魔獣と戦い続けてきた俺の目には見え見えで、逆にさっと躱しながら足を引っかけて転ばせてやる。
そして床に寝転がったガルフが起き上がる前にその眼前に剣を突き付けて動きをけん制した。
「っ!?」
「いい加減にしろよお前、時間がないって言ってるだろ? 俺はさっさとこの場を収めて、多混竜とやらが居る場所へ向かなきゃいけないんだよ」
「えっ!? あ、貴方様はそれも倒してくださるのですかっ!?」
仮にもこの国の王族に対して無礼を働く俺の行動を見ていた他の人達だが、ガルフを庇うどころか俺の言葉を聞くなり嬉しそうな声を上げた。
どうやら彼女たちもあの転移魔法陣の技師と同じく、多混竜の脅威に怯えていたらしい。
「倒せるかはわかりませんが、今ごろ俺の仲間たちも向かっているはずです……特にその中の一人は俺より遥かに強いので、その人と協力できればきっと……だけど逆にその人が一人で突っ込んでやられたらお終いなんです……だからどうか、この場をさっさと収めるために皆さんも協力してくださいっ!!」
「くぅっ!! し、信じられるものかっ!? あのアリシアですら捕獲するのが精いっぱいだった多混竜をお前如きが倒せるはずが……」
「だからそれは偽物だと言ってるでしょうが……第一、もしもそこに倒れているのが本物のアリシアだとしたら……俺が不意を突いたとしても勝てるはずがないでしょうが……」
「そ、それは……」
流石にアリシアの能力は知っているらしいガルフは、反論も出来なくなり気まずそうに目を逸らす。
「そ、そうですよガルフ様っ!! 大体あのアリシア様は何かおかしかったじゃないですかっ!!」
「確かにアリシア様ならば誰かを生贄……お世話係などと言う犠牲者を出すぐらいなら自らが真っ先に向かったはず……まして王宮でふんぞり返って行動しなかったあいつはどう考えても……」
「ち、違うアリシアは……お、俺の想いに応えてくれて……俺を愛していて……俺の傍から離れたくないから動くに動けなかっただけで……」
「もういい、お前は黙ってろ……どうか皆さん、王座の間へ案内をお願いしますっ!!」
「わ、わかりましたっ!! ついて来てくださいっ!!」
未だにウジウジ行っているガルフを無視して、他の人達に頭を下げるとすぐに頷いて案内を始めてくれる。
その人たちの後を付いていく俺……遅れて後からガルフもついて来てるようだがもう気にしないことにした。
「こ、この先ですがこの扉が……あっ!?」
「……急ぎましょう」
道中にある施錠された扉を剣で、鍵の部分だけ正確について壊しながら先へと進んでいく。
そしてついに王座の間へとたどり着いた俺たちは、三つの人影を目撃した。
「な、何の騒ぎだっ!? 誰の許しを得てこの場へっ!?」
「ちっ……このタイミングは最悪だな……どうしますかメ・リダ?」
広々とした王座の間、その中心にある見慣れない転移魔法陣の左右に立ちながら中心に異形の魔獣へと声をかける国王陛下と第一王子。
判別するまでもなく当たり前のようにスキャンドームに反応しており、間違いなく魔獣と入れ替わられた後のようだ。
「困りましたねぇ……こんな状況でまさか正体までバレてしまうとは……はぁ……本当にどうしたものやら……」
そして彼らに見つめられながら、心底疲れたようにため息をつくマ・リダに似た異形の魔獣であるメ・リダ。
人に化けられないのか魔獣の中でも特に悍ましい姿をしているソレを初めて見た人達は、途端に悲鳴じみた声を上げ始める。
「ひぃっ!?」
「な、何だあの化け物っ!?」
「な、何であんなのに頭を下げて……や、やっぱり二人とも魔獣って奴なのっ!?」
「ち、父上……兄上……な、何を……っ!?」
「はぁあああっ!!」
しかし俺はそのどれもを無視すると、さっさと片を付けるべくメ・リダへと向かって飛び掛かった。
「くっ!? 問答無用ですかっ!?」
「メ・リダ様っ!?」
「お、おのれっ!?」
それでもやはり幹部の一人と言うべきか、メ・リダは固まることなく咄嗟に飛び退いて攻撃を躱して見せた。
代わりに偽国王と偽第一王子が激高しながら、左右から擬態を解きつつ迫ってくる。
(遅いっ!!)
既に普通の魔獣は俺の敵ではない……何度も戦った中で擬態を解く際に隙が生まれると知っている俺は、大振りで剣を握ったまま回転して両者の首を跳ね飛ばした。
その上で迫る勢いが止まらない二体の身体を躱して、それがぶつかり合い重なって倒れたところをまとめて心臓を串刺しにして止めを刺してやる。
「なっ!?」
「さあ、これで後はお前だけだな?」
あっという間に二体もの魔獣が処理されたところを目の当たりにして、メ・リダは驚愕の声を洩らす。
そんなメ・リダを睨めつけながら次の一手を考えていたところで……何故か向こうはふっと笑みを零した。
「……戦闘用ではないとはいえ、我々の仲間を一瞬で処分して見せるとは……しかもこの手慣れた所業……なるほど、貴方が『魔獣殺し』のレイドですね?」
「「「れ、レイドっ!?」」」
「……さあ、どうだかな?」
向こうの言葉に誰もかれもが驚愕する中で、俺は一応は否定しておいた。
(こんなことで行動しにくくなっても面倒だ……まあどうせバレバレだろうけどな……)
何だかんだで俺は悪い意味だが有名人だった。
だから目付きや声を意識して聞けば、知ってる奴ならば気づかないはずがないのだ。
それでも行動しずらくなっては困ると思い、何よりわざわざ正体をばらす理由もない以上は肯定してやる理由は無かった。
そんな俺にメ・リダは再度笑いかけると、ゆっくりとその全ての手を持ち上げて……頭上へと掲げて見せた。
「ふふ、まあどちらにしても今の私には貴方ほどの実力者を相手にする余裕はありません……降参いたします」
「何っ!?」
「ですから降参いたします……そしてその上で提案なのですが……世界を救うために、私と手を組んでくれませんか?」
「っ!!?」
メ・リダの口から出た言葉に驚愕する俺の前で、向こうは真剣な顔でまっすぐこちらを見つめてくるばかりだった。