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最悪最凶の失敗作②

 ランドの言う通り、メモ書きの冒頭にはデカデカとエメラの名前が記してあった。

 慌てて手に取って読み上げると、そこには今日一日でエメラが集めたであろう情報が記してある。


『この手紙が仲間に届いていると信じて 我々の仲間であるドワーフがドーガ帝国の元首都に向かったという話を聞きました、そしてそれを追いかけるようにハーフエルフと二人の人間もです』


(やっぱりマキナ殿はそこに……多分、研究所の跡地を直接見に行ったんだろうな……マナさんとトルテさんとミーアさんはその後を追いかける形で……)


 今まで全く分からなかった仲間たちの行方が分かり、まずは一安心とばかりに胸を撫でおろす。

 尤も敵の領地の近くであり、かつては魔獣が跋扈敷いていたドーガ帝国内を単独で行動しているマキナの安否は気になるところだ。


(だけどマ・リダの言葉が事実なら、ドラゴンとの戦いで魔獣達は壊滅的な被害を受けていた……しかもあの口ぶりだと、ついさっきようやくケリがついたみたいな口調だったから多分マキナ殿を襲う余裕はなかったはずだ……)


 考えてみると、あの時急に魔獣達がドーガ帝国の領内から姿を消したのはドラゴン対策に招集されたからなのだろう。

 パトロール隊とやらが飛び回っていたのも恐らくはいち早くドラゴンの接近を察知するためだとすれば、あのタイミングで襲われたことも納得が行く気がした。


『なので私も明日で、馬車を使い朝一番で皆さんの後を追いかけたいと思います このマースの街の人達にもドラゴン絡みの事情を説明したところ、前に『魔獣殺し』さんと同行したことがある冒険者の方を筆頭に何人かの実力者の方が協力してくれるとおっしゃってくださいましたので彼らに案内してもらうつもりです』


(俺と同行したことのある冒険者……バルさんかっ!? こんな危険にまた首を突っ込んでまで俺たちのために……あの日記を読んでから色々と負い目を感じてたみたいだからって……ありがたいけど申し訳ない……)


 見覚えのある名前に驚きながらも他にも同行者がいると知り、あの街には俺に引けを取らない実力者揃いだというアリシアの評価を思い出す。

 その人達と共に行動するのならばエメラは大丈夫だろう。


『ですので今このメモを読んでいるあなたもことが終わり次第、ドーガ帝国の首都があった場所へ向かってください またもしもファリス王国へ向かった二人と合流出来たら伝えてあげてください どの街にメモを送ればいいか分からなかったのでお願いします』


(そうだよなぁ……アリシア達が向かった俺たちの生まれ故郷には転移魔法陣はないから、確かにメモを送りようがないよなぁ……だけどこの書き方だと、まるで俺がそっちに向かうって分かってるみたいな……)


 ドラゴンと合成された失敗作の魔物が居るからこそ助けに向かおうと思っただけなのだが……尤もそんな事情が無くても、俺は少しでも早くあの二人と合流したいと考えたとは思う。


『この街に残る方にも事情は説明してありますからできればで良いのですが、万が一のすれ違いを避けるためにもよろしくお願いします 其方からも何か伝えたい内容があれば明日の朝までにメモを送ってくださっても直接会いに来てくれても構いません こちらからは以上です 本当はそちらに出向くことも考えましたが、万が一にもまだ事態が収拾してなかった場合に足手まといになりたくはないのでメモを送らせていただきました』


 大体読み終えたところで、顔を上げた俺は同じく内容を読んでいたランドと視線が合った。

 しかしすぐに彼は首を横に振って見せると、近くに落ちていた来たときに使ったあのメモ帳を取り上げてこちらに差し出してくる。


「メモ書きで伝えたほうがいいだろう……万が一にも罠出会った際のことを思えばな……」

「っ!?」


 言われてこの手紙を書いたのがエメラ本人でない可能性をすっかり忘れていたことに気付く。

 実際に偽アリシアが手紙を送ってきたこともあるのだから、もしもエメラのことが知られていれば利用してきても不思議ではないのだ。


(だけどこの筆跡からすると間違いないとは思うけど……自分以外の実名を全く記していないのも魔獣に見つかった時のためだと思うし……知識不足で名前が知らないから書けなかった……と言うには種族とか人数とかの特徴が一致しすぎてるもんなぁ……)


 それこそ魔獣がエメラを語るのならば、彼らの名前も記して信憑性を上げるような真似をすると思われた。

 だから基本的には本人が書いたのだろうと思いながらも、確かに警戒するに越したこともないとランドと同じ判断を下す。

 もしも転移先でいきなり攻撃されたら、流石の俺でも抵抗できるかは怪しいところだからだ。


(それこそこの国の家宝の鎧があれば問題ないんだけどな……あれはダメージも無効化できるから……まあない物ねだりしても仕方ないし、その鎧をマナさんが身に着けている以上は彼女と一緒にいる二人は無事だと思う……マキナ殿と合流出来ていてくれ……)


 そんなことを思いながらも、とりあえずこちらからも返事を書いておこうとメモ帳を受け取り筆を取り出す。


「ええと、とりあえず了解したってことと俺は一旦ファリス王国に寄ってから行くって伝えて……後は何か……」

「そのエメラと言う女性は仲間なのだろう? どこまで知っているのかは知らないが、この首都で起きた出来事は……特にあの魔獣の親玉から聞いた話は伝えておくべきだろうな」

「そうですね……確かにあいつから聞いた情報は伝えておいた方が良さそうですね……」


 ランドに補足されながら、とりあえず思いついたことを書き記していく。


(ドラゴンとの戦闘で魔獣側が現在壊滅状態であること、だけど代わりに成体のドラゴンの素材を手に入れて量産体制を整えようとしていること……その前に実験で生み出されたドラゴンの力を持った失敗作とやらが制御不能状態でファリス王国に封印されていること……だから時間がないのは重々承知しているけれど、俺は先にファリス王国に向かって二人と合流してからドーガ帝国へと向かうこと……最低限これは伝えておかないとな……)


「……ふぅ……とりあえずこんなところでいいかな?」

「それともう一つ、ここの転移魔法陣を魔獣が利用できる可能性が高いため使用不可能にするよう頼むべきだ」

「そ、それは……」


 ランドの指摘は最もだけれど、俺はすぐに頷けずその顔を見つめてしまう。


(確かに俺たちもその可能性には気づいていた……だからこそライフの町の転移魔法陣は使えなくしたわけだけど、今マースの街の転移魔法陣が使えなくなったら俺体も合流できなくなってしまう……だけどランド様がその程度のことに気付けないはずはないし、それ以上にリスクの方がヤバいと判断したってことかな?)


「魔獣は人であった頃の記憶を引き継ぐ……これは事実なのだろう?」

「え、ええ……あの偽マリアの語ったことが嘘でなければ……」


 言いながらあの魔獣に止めを刺した時のことを思い返してしまい、嫌な気分がぶり返しそうになる。


(やめろ……もう思い出すな……大体ちゃんと止めは刺し……)


「そうだとすればだ、偽物と入れ替わる際にその相手の記憶も入手している可能性が高い……げんに父……我が国の国王陛下は振る舞いこそ異様ではあったがその知識自体は本物と変わらなかった……故に見抜くのが遅れたのだからな」

「そ、そうなのですか……しかし俺が戦った偽マリアはむしろ全く記憶の引継ぎが出来ているようには見えなくてボロが出まくっていたのですが……」


 当時は偽物が化けているという発想自体がなかったから気づくのが遅れただけで、面識のある人達はあからさまに違和感を覚えていた。


(現に俺たちが偽物という発想に至ったのは、人格もだけど過去に会ったことのある人たちの呼称すら再現出来てなかったことが大きいもんな……記憶があればあそこまで怪しまれることはなかったと思うんだけど……)


「それに関しては推測で語るしかないのだが、マリア殿は数百年以上生きていると聞いている……それだけ膨大な記憶を余さず引き継ぐことはできなかったのではないかな?」

「うぅん……そうですかねぇ……」

「もしくはマリア殿は絶大な魔力を誇っていたからそれこそ戦闘用の魔獣様に流用されたか……それはともかく、もしもこの転移魔法陣を人に化けて惑わし操れる魔獣が利用できるとしたら……あっという間に他の国も我が国と同じ惨状に陥りかねんぞ?」

「それは……そうですけれど……」


 内部に事前情報なしにいきなりそんな魔獣が現れたら警戒のしようがないのも事実だ。

 そして全ての国の首都にこの転移魔法陣は存在するということからしても、確かに放置しておくには余りにも危険すぎる。


「対して其方が危惧しておるのは仲間との合流が遅れることであろう……それならば話は簡単だ……其方の仲間に改めて魔獣が現れても対処できる場所にこれと同じ転移魔法陣を新しく敷けばよいのだからな」

「あっ……!?」


 ランドの指摘でようやく俺は自分たちで新しく転移魔法陣を作るという発想に思い至った。


(た、確かにマキナ殿は自分で新しく転移魔法陣を敷いていた……時間はかかってたみたいだけどマナさんと協力したらほぼその日のうちに完成していたし……なら多分アリシアだって出来るはずだ……俺がフォローすれば一日か二日で……ああ、でもその遅れが命取りになりかねないんじゃ……)


 ドラゴンとの魔獣……マ・リダは竜人族という新し異種族名のように語っていたそれが完成数までにどれだけの時間が残っているのかは分からない。

 その状態で一日二日の遅れはかなり致命的に思われた。


「い、いやですけど転移魔法陣を新しく敷くのには時間が……今のこの一刻を争う中でその遅れは……」

「確かマースの街からは其方らの脚でも元ビター王国の首都までは一日はかかるのであろう? ならば大きめの馬車の荷台などに設置した上で移動してもらえばほぼ時間差は発生しないと思うがどうだろうか?」

「っ!?」


 更なるランドの指摘に目を丸くしながらも、何やら思考の死角を突かれたような衝撃に襲われる。


(そ、そうかっ!! 別に建物の中に作る必要はないんだっ!! それこそ移動用の乗り物の中に設置すれば……転移魔法陣があれば移動が一瞬で済むからもう他の移動手段とか頭になかったけど……併用して利用するのもアリなのかっ!)


 確かにそれならば向こうは移動中に転移魔法陣を敷けるし、こちらが合流してから移動するのと殆ど時間の差はうまれないだろう。

 何よりもそうして転移魔法陣を持ち運べる状態を作るということは、非常時の闘争手段にも援軍を呼ぶ道としても利用できるようになる。


(もちろんその馬車を守る必要は産まれるけど……それを補って余りあるメリットがあるっ!! 何より魔獣に利用されても街中に現れるよりはずっと対処しやすいじゃないかっ!!)


「それに先ほど渡した王座の間に描かれていた転移魔法陣の写しの存在を忘れてはおらぬか……あれを使えば敵の本拠地へと乗り込むことも可能なはずであるぞ……」

「そ、そうでしたね……まああれは魔術文字へ魔力を流す順番を調べる必要があるので今すぐ使うことはできないのですが……それこそドワーフの方が詳しいのでその方と合流してから使えるか確認してもらおうと思っていたぐらいですから……」


 それこそマキナと合流してからこの魔法陣の使い方が解読できるか確認してもらい、その上で皆と一緒に敵の本拠地へと乗り込むかドーガ帝国から走って向かうかの二択だと思っていた。


(だけどいきなり敵の本拠地の……多分幹部の居るど真ん中に飛ぶのは危険だから戦力が揃ってから考えようって思ったけど……敵の抵抗が殆どない現状なら、ランド様の言う通り馬車に乗せて移動したほうがいいのかも……そもそも使えるかどうかも分からないものに頼るのは危険すぎる……)


 そう思いながらも何かには使えそうだと判断して、俺は先ほど頂いた転移魔法陣の描かれた紙を大切に懐へと仕舞い込んだ。


「なるほど……しかしそれでもやはり魔獣に利用される危険性を思えば既存の……それこそ重要施設や機関の内部に連なる場所に配置されている転移魔法陣は全て破棄すべきだ……其方らとしても、仮に敵の親玉を倒すことが出来て戻ってきた時に全ての国が魔獣に乗っ取られていたら笑い事では済まぬであろう?」

「……確かに、魔獣の下っ端は意外と自分勝手に行動してますもんね」


 暴走していたマ・リダだけでなく、この部屋へと飛ぶ際にこの魔法陣を内緒で利用しようとしていた魔獣達の姿を思い出す。

 あれは自分たちも国のトップに立って美味しい思いをしようとしていたのではないだろうか。


(或いはあの三体は本部から派遣された魔獣だってマ・リダは言ってたから、その野望を知って慌てて本部に連絡を取ろうとしていたのかも……とにかくどっちにしても俺たちが本拠地に乗り込んだからって、全ての魔獣の動きが止まるわけじゃないもんな……)


 考えれば考えるほど、現状においてこの魔法陣はこのままにしておくのは不味いような気がしてくる。


「尤も我々にその権限はない以上は最終的には各施設の管理人の判断に頼ることになるだろうけれど、少なくとも脅威だけは伝えておくべきだ……最低限の警戒が出来るようにな」

「わ、わかりました……じゃあええと、人に化ける魔獣が居ることとそいつらが転移魔法陣を使える可能性を書いて……」

「後ドラゴンの魔獣についても記しておいた方が緊張感が伝わるだろう……つい先日この大陸をドラゴンが横断したことは、白馬新聞にも載っていて大陸中の人間が知っている……その理由も合わせて伝えれば余計に説得力が出るはずだ」

「説得力……あっ!? な、ならそれこそエメラさんに頼んでみましょうかっ!! 彼女は白馬新聞社の記者なんですよっ!!」

「ほう……それならば先にエメラ殿に今の結論を伝えて、その上で伝達方法を含めて頼んでみたほうがいいだろうな」


 俺の言葉にランドもまた同意するように頷いてくれて、早速メモ帳に今の話の内容を書き連ねて転移魔法陣へと魔力を流す。

 そして空中におぼろげに浮かび上がった転移先候補の中からマースの街を探し……こちらを見上げて笑いながら手を振っているエメラの姿が目に入ってきた。

 そのすぐ傍には思った通りバルが居て、また魔法使いと思しき冒険者の人が転移魔法陣に魔力を流しているのが見えた。


(あ、あの様子だとこっちを見てるのか……そうか転移手前の状態を維持していれば他の転移魔法陣の周囲がどうなっているのか少しはわかるのか……流石は情報屋というかそう言う使い方を思いつくなんて……)


 またしても思考の死角を突かれたような気分に落ちる俺……転移魔法陣を飛ぶためにではなく、こうして向こうがどうなっているか観察用に利用するなど思いつきもしなかった。

 尤もこんな狭い範囲を見たところで入る情報などたかが知れているだろうけれど、少なくとも魔獣と思わしき存在が飛んでくるタイミングを推し量るぐらいは出来そうだ。


「ほほう、なるほどな……この状態を維持できるなら向こうがどうなっているのか把握できるな……ふむ……」

「ええ、まさかこんな使い道があるとは……とにかくメモ帳を送りますから魔法陣の中には入らないよう注意してくださいね」

「わかった……ではやってみせてくれ」


 ランドが魔法陣から離れたのを確認して、俺は早速メモをエメラの居るドーガ帝国へと送り届けた。

 すぐに再起動して向こうの状態を確認すると、エメラは無事到着したメモを拾って早速読み始めていた。

 それを確認しつつ、俺はついでに他の場所もどうなっているか念のため観察しておくことにする。


(どこも人影は無し……魔獣が使ってる様子がないのは一安心だけど、これじゃあただメモを送っただけだと何にも伝わらないかもな……エメラさんも多分俺たちがこの部屋にいるのを確認してメモを送ったんだろうし……やっぱり他の人への伝達方法はエメラさんに一任したほうが良さそうだな……)


 そんな風に思いながら改めてエメラの方へと視線を戻すと、何やらすさまじい勢いでメモを書き上げたかと思うと改めて魔法陣に乗せてこちらに送り届けようとしてくるのが分かった。


(は、速い……だけどそれ以上に得意げでありながら何か決意を秘めたような表情を浮かべているのが怪しい……一体何を書いたんだろう?)


 疑問に思ったところで何の問題もなくエメラの書いたメモが届いてきて、早速内容を確認しようと覗き込んだ。


『了解いたしました 全て任せてください 明日までに白馬新聞社と連絡を取り、各方面の担当者を調べ上げて直接語りかけるように伝えておきます きっと今回の事件の特ダネと合わせて伝えれば動いてくれると思います』

「えっ!? こ、これってっ!?」

「なるほどな……確かに白馬新聞社の情報網とコネを持ってすれば不可能ではないかもしれないな……ただし、今回の件は近いうちに間違いなくトップ記事に載るであろうな……無論それは魔獣の目にも届くわけだからして、なおさら時間との戦いになりそうだな」

「い、いいんですかねぇ……これ大問題になりませんか?」


 今回の事件には門外不出の機密事項である転移魔法陣が根深く絡んでいて、これを抜きに深く語ることなど不可能だ。

 それを白馬新聞の一面に載せるような状態になれば、色々と大変な事態に陥りかねないと思うのだがランドは真剣な面持ちで語り始める。


「無論、大変な騒ぎになるであろうな……だが今の世界全体の危機である状況を考えれば手段を選んでいる場合ではない……それは其方も理解しておるのではないかな?」

「そ、それはまあ……」

「何より実際に被害を受けた我が国のような場所ならばともかく、未だに魔獣事件を他人事のように思って居る者も多い……その者達からすればいきなり転移魔法陣の使用を止めよと言われても素直に頷くとは限らないからな……」


 ランドの言葉を聞くと、確かにそうかもしれないと思えてくる。


(確かに魔獣事件はずっと俺が前面に立って戦って来たもんなぁ……支援してくれてるマキナ殿にマナさん、エメラさん達の誰もかれもにしても他の目的があって自発的に来ただけで、結果的に手伝ってくれるようになったんだもんなぁ……)


「このことが公になれば色々と騒がしくなるだろう……それこそ入り込んでいる魔獣が動きを見せるかもしれない……逆に我らのように支援や協力を申し出る者も出るかもしれぬ……しかし少なくとも転移魔法陣の使用には慎重になるはずだ……それで魔獣が利用しずらくなる状況を作れれば十分であろう……」

「うぅん……そうかもしれませんけど……」


 それでも食い下がってしまうのは、恐らくこのことで一番糾弾を受ける立場にあるのがマキナだろうからだ。

 基本的に人のためを思って行動し続けてきて……それこそ転移魔法陣の存在を伝えてはいけない俺たちに教えてまで人々を救う手段を確保してきた彼女がそんな目に合わせることだけは避けたかった。


(それに多分この魔獣事件の元凶を作った元錬金術師連盟の男はマキナ殿の弟子……なおさら事件後の彼女へ向ける視線は厳しくなるはずだ……いや、エメラさんがそのことに気付かないはずがない……きっと上手くやってくれるはずだと信じよう)


「其方の気持ちは何となくだがわかる……責任の所在として糾弾されるべき立場の者を気遣っておるのであろう……だがな、重ねて言うようだが時間がないのだ……手段を選んでいる場合でも、終わった後のことを考える余裕も……我々には後どれだけ残されておるのかわからんのだ……だから今はとにかくできることを全力でやろうではないか」

「……っ」


 それは俺が自分に言い聞かせていた……そして他の人達にも同じ覚悟を抱かせることになった言葉と同じものだった。

 だからもう何も言い返すことも出来ず、俺はエメラの移っている中空に浮かぶ映像へゆっくりと視線を投げかけて頷いて見せた。


「……そうですね……今は魔獣事件の解決だけを……全ては終わってから……」

「うむ……何もかも終わってから考えようではないか……」


 そう言う俺たちの目の前でエメラも決意を込めた視線をこちらに向けて同意するように頷いて見せるのだった。

 そしてバルたちに何かを指示したかと思うと慌ただしく部屋を出て行こうとして、その寸前で何かに気付いたように振り返ると急いでメモを走り書きしてこちらに見せつけるように提示するのだった。


『また後で会いましょうね 絶対に皆で生き残って未来を掴みましょう』

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