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レイドの覚悟⑥

「……誰も居ませんね」

「それは好都合であるが……この時間のこの場所を誰も歩いておらぬとは……?」


 俺が部屋の外を確認したのを受けて、アンリも続いて廊下へと歩み出てくる。

 その顔は厚手の布で覆い隠されていて、身体も質素なマントに包まるようにして僅かにも特徴が出ないようになっていた。

 これならもしも王宮の人間とすれ違ってもアンリの正体がバレることはないだろう……代わりに盗賊か何かと勘違いされそうだが。


(俺も一応顔だけは隠したけど、そのせいで余計に二人組の盗賊にしか見えないだろうなぁ……こんな状態で人に会ったら間違いなく大騒ぎだ……だからアンリ様の言う通り、人が居ないのはむしろ好都合なんだが……)


 最低限、王様に化けている魔獣だけは確実に退治してしまわなければならないのだ。

 それまでは出来る限り気づかれないように行動する必要がある。

 だから首をかしげているアンリに、先を急ごうと声をかける。


「アンリさ……じゃなくてアン……気になるのはわかるけど、今は何より先に王様が魔獣かどうか見分けて処理しないと……」

「……うむ、そうであるな……確かにそれが最重要目的であるな……了解だレイ……君……ふふ……」


 万一にも関係性がバレないようお互いに偽名で呼び合いながら、そっと廊下を走り出す俺たち。

 その際に俺に呼び捨てで呼ばれ、また自らも俺のことを親し気に呼びかけたアンリは一瞬だけ何故か僅かに露出している目元を緩めて見せた。


(意外とこういう気安い関係に憧れでもあったのかな……王族と暮らす上ではそう言う付き合いができる人間なんかそうそう出来ないだろうし……或いはこの後に突きつけられるであろう辛い現実を理解しているからこそ今のうちに笑って……いや、邪推するのは止めておこう……)


 少なくともこれだけ事件の解決に熱意を燃やしているアンリなのだから、あの笑みは気が緩んだから出たというわけでも無いだろう。

 だからあえて何も言うことなく、俺はそのまま気づかないふりをして話を続けた。


「それでアン……王様が居そうな場所はどこだい?」

「それじゃが、この時間帯ならば十中八九政務を行っておるであろう……それならば二階にある政務室にいる可能性が高い……もしくは重臣たちと会議室に集まっておるかもしれぬがそれも二階じゃ……」

「わかりま……わかったよアン……じゃあまずは二階を目指そう」

「うむっ!! こっちじゃっ!!」


 アンの案内に従い俺は綺麗な赤い絨毯のようなものが敷かれている廊下を走り抜けていく。


「……あれ? ここに階段があるけど……」

「そこは妾達のような王位継承権が遠い王族の住居に繋がる階段じゃな……護衛が居らぬのは不思議じゃが、そこを上がっても行き止まりじゃよ」

「あ……そ、そうなんだ……」

「うむ……時間があれば妾の部屋に招待してもよいのだがのぉ……実に惜しい……」

「えっ!?」

「くくく、冗談であるよ……ちなみに反対側には宝物庫に繋がる階段もあるぞ……レイ君に渡した鎧が安置してあった場所じゃ……父上が近づくなと口うるさく言って居ったわ……」


 からかうような口調で王宮を案内するアンリだが、少しずつその声に険しさが混じり始める。

 やはり王宮内に漂う不審な空気を感じ取り、今にも落ち込みそうな気分をこういう会話で無理やり盛り上げているだけなのだろう。

 そうだと分かったからこそ俺は、わざと大げさに頷いて見せるのだった。


「宝物庫かぁ……じゃあ帰り際に時間があったら寄って行ってお土産でも貰って行こうかなぁ……なんてね……」

「それは……実に愉快じゃな……ふふ、何なら『怪盗参上 鎧は頂いた』とでも書き残していってやろうかのぉ……」

「そ、それは勘弁して……そんなことしたら今鎧を持ってる俺のせいに……いや、今身に着けてるのはマナさんだからそっちに責任が行きか……っ!?」

「どう……んぅっ!?」


 そんな軽口を叩き合っていた俺たちの前で、廊下の先にある一つのドアがガチャリと音を立てて開き始めた。

 即座に俺はアンリを抱きかかえると、中から誰かが出てきても気づかれないよう近くにあった柱の出っ張りに身を潜めた。

 果たしてドアが開くと、若い女性と思わしき人間が顔を覗かせると恐る恐ると言った風に周りを見回し始める。


(何をしてるんだあの人は……まるで俺たちみたいに辺りを警戒してるみたいじゃないか……?)


「……アン……知ってる人か?」

「……っ」


 気づかれないよう相手の様子を確認しながら腕の中に抱きしめているアンリに尋ねるが、何故か彼女は固まってしまっていた。


(アンリ様までどうしたんだ? まさかあの人、かなり立場の高い人だったりするのか? それでこんな場所にいることに驚いて固まって……でも格好的に王宮に仕えてる女中さんみたいな感じだしなぁ……)


 とにかくアンリがこの調子では始まらない……俺は軽く肩に手を置いて揺さぶりながら再度声をかけた。


「アン? どうした?」

「ふぇっ!? あ、ああっ!! 済まむぐっ!?」

「だ、駄目ですよそんな大声出しちゃ……っ」


 しかしその刺激は今のアンリには強すぎたのか、正気に戻るなり大声で捲し立てようとして……慌てて口元を押さえつける。


「あっ!?」


 もちろんその声は向こうにいる女性にまで届いてしまい、彼女はびくりと身体を震わせたかと思うと慌てた様子で駆け出していく。


(くっ!? このまま人を呼ばれたらお終いだっ!!)


 仕方なく俺は柱の影から飛び出し、全力で女性の元へ向けて走り出す。


「ひぃっ!? お、お許……えっ!? だ、誰……っ!?」

「パラライズ」


 そして駆け寄る俺の足音を聞いて怯えた様子で振り返った女性が何かを言い終える前に、俺はその顔に掌を押し当てて身体を痺れさせる魔法を直接叩き込んだ。

 果たして一瞬で完全に全身が麻痺した女性は、それ以上声を上げることも出来ず目を見開いたままその場に崩れ落ちそうになる。

 そんな女性の身体を抱え込みながら、俺は軽く息を吐きつつ周囲を見回し目撃者がいないことを確認した。


(はぁ……あ、危なかったぁ……いや見た目的には完全にアウトだけど……覆面した男が若い女性を麻痺らせて抱きかかえてるんだもんなぁ……)


 実際に身体が硬直して動けない女性は、恐怖のあまりか俺を見つめたまま涙を零し始める。

 物凄く罪悪感がするけれど、このまま騒がれて魔獣に気付かれたら彼女自身の身も危険なのだ。

 だから仕方なかったのだと自分に言い聞かせながらも、とりあえず女性を抱えたままアンリの元へと戻った。


「す、済みま……すまんアン……見つかってしまったがどうしようか?」

「ふぅ……はぁぁ……ふむ……そうじゃ……だな……とりあえず、先ほどそやつが出てきた部屋に入るとするかの……しよう」


 するとアンリは軽く深呼吸を繰り返しながら胸を撫でおろすと、女性に聞かれてもいいように言葉遣いを直しながら女性が出てきた部屋を指し示して見せた。

 王宮に住んでるアンリの言葉を疑う余地もなく、俺は素直に女性を担いだままその部屋へと入っていく。


「……ここは調理場……ですか?」

「まあそんなところ……だぞ……ここならば幾らでも他人を隠して置けるスペースはあるはずだ……だがその前に、少し話を聞かせてもらいたいのぅ……なぁ」

「っ!?」


 そう言うとアンリは未だに痺れて動けないでいる女性に顔を突き付けてニヤリと覆面越しに笑って見せた。


「レイ……君、こやつを喋れるようにしてやってくれ」

「まあ構わないですけど……大丈夫ですか?」

「ふふ、ここなら調理音が漏れぬようになっておる故に多少物音を立てても問題あるまい……お主も下手に抵抗せずワシらの言うことに素直に答えよ……さすれば命は取らぬ……良いな?」


 何か妙に貫禄のあるアンリの言葉に、未だ動けないでいる女性は涙ながらに首の代わりに黒目を上下に動かして見せた。

 それを確認して満足そうにうなずくアンリ……少し楽しそうに見えるのは気のせいだと思いたい。


「じゃあ……早速……とと、その前に一応魔獣かどうか調べておきますね?」

「ふむ、それがよいな……万が一にも奇襲を受けてはたまらぬからのぉ……」


 魔法を解除しようとしたところで、ふとこいつが魔獣である可能性に気が付いて先にエリアヒールを発動させる。

 尤も魔獣にこんな魔法が通じるとは思えないし、何より役職者でもない人間にまで化けさせる理由は存在しないだろう。

 そして思っていた通り、エリアヒールは同じ人間であることを証明するように正常に反応を示して見せた。


(これなら問題ないな……じゃあ解除して……っと……)


「……はぁぁっ!!? あ、あな……貴方達ここをどこだと思っ……えっ!?」

「誰も大声を出せとは言っておらぬぞ? くく、なんて冗談じゃ……元気であるかメルよ?」

「あ、アン……っ!?」


 麻痺を解除するなり叫び出した女性に、アンリは一転して冷たい声で脅しをかけた……かと思えばサッと覆面を取ってしまう。

 思わず咎めようとする俺にアンリは小さく笑いながら首を横に振って見せた。


「大丈夫であるよ……メルは妾や兄上の身の回りのお世話をしてくれている女性で話の分かる者だからのう……妾が捕まりそうになった際に正規兵の二人に話を通してくれたのもメルなのじゃよ」

「あ、アンリ様……ああ、アンリ様ご無事だったのですねっ!!」

「メルのおかげでこの通り健在であるよ……お主も捕まっておらぬようで何よりじゃ……」


 アンリの言う通り、彼女の正体に気付いたメルという女性は一瞬あっけにとられたような顔をしたかと思うとすぐに涙ぐみながら抱き着いてきた。

 そんな彼女の頭を愛おしそうに撫でながら、アンリは嬉しそうに微笑むのだった。


「よかった……本当に良かったですぅ……アンリ様だけでもご無事であればこの国はまだ……うぅ……」

「……それはどういうことじゃ? それにお主はこのような場所でコソコソと何をしておったのだ? つまみ食いなどするような人間でもあるまいし……」


 しかしそこで彼女の不穏な言葉を受けて、アンリはすぐに真剣な表情で尋ね返した。


「は、はい……そ、それがアンリ様の父上……え、ええとその……そちらの方は?」

「……気にしないでください」

「くく……まあ、この王宮に忍び込むうえで力を借りた名も無き……いや、名怪盗X氏であるっ!!」

「な、何言ってるんですかアン……リ様ぁ?」


 こうなった以上ばらしてもいいような気はするが、一応はこの国で指名手配になっている身としてメルを不安がらせまいと適当に誤魔化そうとした俺を見て何故かアンリは訳の分からないことを宣い始めた。


「えぇっ!? あ、あの白馬新聞の四コマに出てるあの名怪盗Xさんですかぁっ!? じ、実在したんですねっ!?」

「ちょ、ちょっと何言ってるのか分からないんですけどっ!?」

「ふふふ、まあ良いではないか……それより話を戻そう……妾達には時間がないのだからな」

「わ、わかりました……アンリ様がそうおっしゃるのでしたら……」


(は、白馬新聞の四コマ……そう言えばそんなのあったような……ちょっと気になる……もしかしてアンリ様、その作品のファンとかでだからさっきまで妙に盗賊行為にノリノリだったのか……い、いやそれより話に集中しないと……っ)


 少しだけ名怪盗Xとやらに気がひかれたが、そんなことを話している場合ではないのは事実だ。

 だから真面目に向き合うと、向こうもまた切羽詰まったような顔で語り始めた。


「じ、実はアンリ様が居なくなってから国王陛下はその……これもそれも全てレイドと言う人の仕業に違いないと……だから絶対にどんなことをしても処刑しなければならないと言い出して……く、国中から人を集めて彼を庇うライフの町ごと襲撃するべきだと言い出しまして……」

「なっ!?」

「っ!?」


 とんでもない内容に俺もアンリも思わず言葉を失ってしまうほどの衝撃を受ける。

 そんな俺たちを見て申し訳なさそうに目を逸らしながら、彼女は言葉を続けた。


「で、ですがレイドと言う人が腐ってもBランクの冒険者でそれなりの実力もある以上はそんな強引なやり方では犠牲が増えるだけですし……それに本当にその人が悪い人かどうかも分からないし、町の人達が何を考えて一緒にいるのかもわからないのにそこを襲撃するなんてやり過ぎだってアンリ様のお兄様を筆頭に一部の重臣の方々が流石に反対成されたのですが……その結果が……うぅ……っ」

「……教えてくれメルよ……どうなったのだ?」


 涙ぐむメルに固い口調で先を促したアンリ……そして彼女はゆっくりと口を動かし続きを話し始めた。


「あ、アンリ様の時と同じです……この決定に従わぬものは誰であれ国家への反逆者と見なし投獄するとも言いだして……アンリ様のお兄様も反対した重臣の方々も次から次へと地下牢へと投獄されて……しょ、食事もろくに与えられずに……うぅぅ……」

「……っ」


 泣き崩れるメルの前で、アンリは思いっきり歯を噛み締めながら拳を強く握りしめ持ち上げた。

 そしてその拳を近くの壁に叩きつけようとしたのを見て、反射的に俺は抱き留めていた。


「落ち着いてくださいアンリ様……大丈夫、アンリ様が俺の元に来てからまだ対して時間は経っていません……今助ければまだ間に合います……そうですよねメルさん?」

「うぅぅ……は、はい……まだ生きておられます……ですが番兵の方をどうにかしなければ……あ、あれだけアンリ様のお兄様や護衛隊長を慕っていたはずなのに何故か今は妙に目付きも柄も悪くなっていて……王様の命令は絶対だと言って話を聞いてくれないのです……」

「……そうか……そうであるか……」


 メルの言葉にすぐあることが思い当たった俺とアンリは、自然と顔を見合わせていた。


(急に番兵の性格が変わったってことだな……それはつまり……偽物が化けている可能性があるってことだよな……だけど何で王子には化けなかったんだ? それに何で……生かしてある?)


 それ自体は好都合だけれど、何やら罠のような気がしなくもない。

 尤もだからと言って放っておくわけにもいかない以上は、地下牢とやらに向かうしかないだろう。


「……はぁ……しかしメルよ、今は妾達は先にやらねばならなぬことがある……父上達は今どうしておるのだ?」

「あ、アンリ様っ!? い、いいのですかっ!?」


 そう思い込んでいたからこそ、アンリが地下牢を無視して先に父親の居場所を聞き出したことに驚いてしまう。


「今は時間がないのであろう? とにかく今は父上を先に何とかしなければ……妾達はそう覚悟を決めてやってきたのではないか?」

「そ、それはそうですけど……」

「代わりに……レイ……お主には悪いが、ドーガ帝国へ向かう前に少しだけ付き合ってくれ……兄上たちを助けるために……」

「……っ」


 儚くも覚悟を秘めた眼差しを向けながら微笑むアンリに、もう俺は何も言うことができなかった。


(そうだよ……全部俺が言い出したことじゃないか……その俺が迷っててどうするっ!! なあに俺がすぐに王様に化けているであろう魔獣達を全滅させればいいだけだっ!! 助けてから倒しに行くのも倒してから助けに行くのもそう時間は変わらないっ!! 俺が手間取らなきゃ間に合うはずだっ!!)


「あ、アンリ様……その、国王陛下を何とかするとは……?」

「詳しい話は後じゃ……それよりもう一度聞くが、今父上はどこで何をしておるかわかるか?」

「は、はい……少し前に王座の間にて重臣たちとレイド討伐の為に軍事計画を練ると……そ、それで最重要機密だからその関係者以外は王宮に仕える者であっても部屋に閉じこもって出てくるなときつく言いつけられておりますから恐らく……」

「そうか……わかった、王座の間……三階じゃな」


 メルの言葉に力強く頷き返しながら、アンリはまっすぐ俺を見つめてきた。


「わかりました……行きましょうっ!!」

「うむっ!! さっさと片を付けてこの国を救……少し待て、メルよ……今話し合っているであろう重臣の数はわかるかのう?」

「ご、ごめんなさいそこまでは私には何とも……で、ですが国王陛下の意見に賛同して投獄されていない重臣の数は五人ほどだったと思います……多分その方全員で話し合っているのではないでしょうか?」

「そうか……五人……父上を入れて六人か……」

「あ、あの……それがどうかしましたかアンリ様?」


 不思議そうに首をかしげるメルにあえて何も答えず、アンリは俺に向かって訊ねてくる。


「もしもその全てが……だとして、お主は勝てるのか?」

「全員が今までと同じように素人であれば、勝てなくはないでしょう……俺一人なら……」


 その質問の意図に気付いた俺は、まっすぐアンリの目を見つめて答えた。


(もしも全てが魔獣だとして六対一……それでも全員が今までと同じ自らの力に酔ってるだけの素人ならば幾らでも勝機を見いだせるはずだ……誰かを守りながらえなければ、だけど……)


 足手まといという言葉は使いたくないけれど、魔獣との戦いにおいてアンリは残念ながら役に立つことはないだろう。

 それもまだ数体ならばともかく、六体も同時に相手にしてはなおさらだ。

 しかももう一つ懸念もある……これだけの規模の計画に、果たして実力者が全く混じっていないことがあるだろうか?


(教会のトップに化けている偽マリアとその護衛らしき二体は大したことはなかった……だけどあいつらがあの時本来与えられていた任務は観察だって言っていた……それに対してここにいる奴らは露骨に俺を倒そうとする集団……強い奴が混じっていても不思議じゃないんだ……)


 その場合はそれこそ真っ向から挑むのではなく、ゲリラ的な戦いを強いられるかもしれない。

 そうなればなおさら、アンリを守りながら戦うのは不可能になるだろう。

 俺の答えからその辺りのことに気付いているであろうアンリは、軽く頭を押さえながらため息をついた。


「そうであるか……ならばやはり……前言を撤回するようで申し訳ないが、先に地下牢に囚われている者達を解放してはくれぬだろうか?」

「そ、それは構いませんけれど……どうしてですか?」

「……あそこには恐らく前にレイド殿と共に戦ったであろう正規兵の二人も囚われている……他にも居るかもしれぬが、とにかく最低限戦えるものがおるはずじゃ……妾はその者達に守ってもらいながら兄上たちと共に安全な場所へ避難しよう……その際に出来れば力に成れそうな援軍も探してくる……どうだろうか?」


 アンリの言葉に今更ながらに、前共に戦った正規兵の二人が囚われていることを思い出した。


(確かに彼らでは魔獣の相手は頼めないけれど、それでも俺が魔獣達に戦うを挑んでいる間に非戦闘員を安全な場所へ避難させるぐらいは任せられるか……)


 魔獣の狙いは俺の命だ……だから戦いになれば他の魔獣も呼び寄せての戦闘になることは想像に難くない。

 そうなれば彼女たちは比較的安全に避難できるはずで、後顧の憂いがなくなれば俺もまた全力で戦える。


「……そうですね、そうしましょうか」

「うむっ!! 済まぬが頼むぞっ!! では善は急げだっ!! 父上達が会議を終わらせてしまう前に動かなければなっ!!」

「あっ!? よ、良く分からないですけれど皆様を助けに行くのでしたら私も連れて行ってくださいませっ!!」


 改めて方針を決めたところで、話しを聞いていたメルも立ち上がり俺たちについてこようと縋りつこうとしたが、その際に裾からぽろっと果物が幾つか零れ落ちた。


「お、お主それは一体……今の父上の命に背けば投獄も免れぬだろうに、つまみ食いなど……」

「ち、違いますっ!! こ、これはランド様……じゃ、じゃなくてアンリ様のお兄様の為に……」

「わかっておるわ、冗談じゃよ……ふふ、やはりお主は兄上のことを……」

「わぁああっ!! や、止めてくださいよぉっ!! もぉっ!! そういうアンリ様だって名怪盗Xみたいな人に強引に攫われ……」

「や、止めぬかっ!! そ、そんなことを言ってる暇があったら急ぐぞっ!!」


 何やら仲良さげに喚き合いながら、二人は並んで部屋を飛び出していく。

 少し緊張感に欠ける気はしたけれど、この辛い現状の中でああいう空気を保てるのは良いことだと思い俺はあえて何も言わず後ろから着いて行き二人のやり取りを見守るのだった。


(ふふ……アンリ様が笑えていて何よりだ……この笑顔を守れるかどうかも俺次第だ……最悪の場合、魔獣六体を同時に相手……もしそれで俺が負けたら彼女たちの未来はない……だから絶対に勝たないと……だけど本当にやれるのか俺に? いや、やれるやれないの問題じゃないなこれは……どんなことをしてでもやり抜かなきゃ駄目なんだっ!!)

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[一言] やれるやれないじゃなく、やるんだ、というのは一つの精神論かもしれない。戦いに精神論は禁物の様な気もするけれど。 まあ、敵6体。どれだけ戦闘用魔獣が混じっているか。はたして、どのような戦略で戦…
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