レイドの覚悟⑤
人数分用意されていたお守りを身に着けたところで、俺たちは転移魔法陣のある部屋へと移動した。
「ほほぉ……これがのぉ」
「初めて見ましたよぉおっ!! なるほどこれがそうなんですねぇええっ!!」
「ええ……それで早速移動したいのですけど、その前に一つだけ……王宮と公爵家には異種族の職員が居たりしましたか?」
「いや、おらぬがそれがどう……そうか見分け方の問題か?」
『公爵家にも居なかったはず だからエリアヒールで見分けられる 尤も私が居ない間に雇われている可能性はあるけれど』
俺の質問に少しだけ不思議そうな顔をしたアンリとアリシアだが、答えながらもすぐに意図に気が付いてくれる。
(魔獣を見分ける方法は相手が同じ種族に化けているならばエリアヒールでも可能だけれど、もしも異種族の場合は魔獣のエキスを持ってスキャンドームを使うしかない……そしてつい先日まで王宮に居たアンリと俺を追いかけて少し前から国を離れていたアリシアなら、新しい職員が増えている可能性があるのはアリシアの方かな?)
「そうか……じゃあこのエキスはアリシアの方に渡しておいた方がいいかな?」
「ああ、それなら大丈夫ですよレイドさん……マキナさんは予備も作ってありましたから……確かこの辺りに……ほらっ!!」
だからエキスをアリシアへと渡しておこうと思ったが、そこでフローラは転移魔法陣のある研究室を漁るとあっさりと二つ目を取り出してしまう。
「二つあったんですね……それはありがたい……」
「もしもの時は戦場に持ち込む可能性が高いからと、それにそうでなくとも予備は作って備えておくに越したことはないって……」
「凄いなぁマキナさん……ほんとーに助かっちゃうよねぇ……」
アイダの言葉に頷きながら、俺もまた心の中でマキナへ感謝の念を抱いた。
幾ら職員に居ないとはいえ、教会とか別の組織から派遣された風を装って異種族に化けた魔獣が居ないとも限らないのだ。
だから確実に見分けるためにはどちらのチームもこのエキスを持ち歩くに越したことはないのだから。
『これならば魔獣の見分け方にも問題はないな では転移魔法陣を起動する レイドも使うことになるのだから覚えておいて』
「ああ、そうだな……じゃあ見せてもらおうかな」
『了解だ 尤も簡単な話だ ただ魔法陣に描かれている魔術文字に決められた順番で魔力を流していくだけ その順番を覚えればいい』
そう言ってアリシアは転移魔法陣に手を付くと、実際に何カ所かに描かれている文字に魔力を流していく。
(なるほど……魔法の効果自体は既に魔法陣に描かれてるからてっきり魔力を流すだけでいいかと思ってたけど……確かに考えてみれば毎回マキナ殿もアリシアもこうしてなんか準備してたもんなぁ……逆に言えば順番さえ覚えれば最低限起動できる魔力のある奴なら誰でも使えるってことか……ん? だとしたら魔獣達は……?)
「どーしたのレイドぉ? また変な顔してぇ……まさか順番覚えられてないとか?」
「ちゃんと覚えてますよ……じゃなくて、魔獣達が居るルルク王国にもこの転移魔法陣があるってことは起動のやり方がバレたらあいつらも利用できるようになるのかなと思ってね……」
「あっ!? そ、そうですよねっ!! 魔獣達だって魔物から引き継いだ魔力があるはずですし……も、もしバレちゃったら大変じゃないですかっ!!」
「転移魔法陣があるのは首都やそれに準ずる重要な都市だって話ですからねぇ……もしもこれを利用されて、直接魔獣を送り込まれたらシャレにならない被害が出そうで……」
俺たちの言葉を聞きながらも、作業中で手を離せないアリシアは首を縦に振ってその意見が正しいと示してくれる。
尤も起動するための魔術文字は十カ所以上あるので、その組み合わせを全て試すのは中々骨が折れるため強引に解読する分には時間がかかると思われた。
(問題はやり方を知ってる奴が情報を引き出されたら……いや、既にされてても不思議じゃないな……それこそ相手を惑わせて喋らせるぐらいそれ用に調整された魔獣なら得意分野だろうし……だけどもしもそうならそれこそ俺を倒すために直接ここへ飛んできていてもおかしくないよなぁ……?)
アリシアが撃退したという魔獣の群れが攻め寄せていた時期はまだここに転移魔法陣が出来ていなかったから仕方ないにしても、その後も全く利用するところを見せないのは不思議だった。
(やっぱりまだバレてないのか……それとも利用はしているけどここに転移魔法陣があることに気付いていないだけとか……一体どっちなんだろうなぁ?)
尤もどちらにしても俺たちのやることは変わらない……ただこの場所に残る人には注意しておこうと思う。
「もしかしたら既に使い方がバレている可能性もあるからね、フローラさんは余りここに近づかないほうがいいかもしれない……マスターにも伝えておいてくれ」
「うぅ……わ、わかりましたぁ……だけどここから魔獣が現れたら私たちじゃどうしようも……レイドさんを含めて誰一人戦える人が居ない状況ですし……」
「な、何ならレイド達が飛んだ後この魔法陣を一時的に使えないようにしておくとか出来ないの?」
『できなくはない ただマナ達が戻ってこようとした際に使えなかったらいらぬ不安を煽ることになりそうだ』
「マキナ殿が正気を取り戻したら、ここに戻って何かしようとするかもしれませんからねぇ……だけど確かにこの町の安全を考えたら……」
俺みたいにもうここに戻るつもりのない人間ならばともかく、向こうにいるマキナ達のことを考えるとどうするべきか僅かに迷ってしまう。
「問題ありませぇええんっ!! 私が必ず他の皆様を見つけ出してじじょーを説明しますからねぇええっ!! ですからこの転移魔法陣は使えなくしておきましょうっ!!」
「だ、だけどそれじゃあエメラさんも戻ってこれなくなっちゃいますよっ!! そのまま直接ドーガ帝国に向かうレイドさんはともかくアンリ様だってっ!!?」
「妾のことは気にするでない……上手く行けばそのまま王宮に残って国の立て直しを図るつもりであるし、駄目であってもそのままレイド殿と共に魔獣事件の解決に付き合う所存故……」
「私も同様でぇええすっ!! 最悪は馬車を手配して移動してもいいですし、マキナたんやマナたんについて回れるなんてむしろ幸せでぇえええすっ!!」
しかし既に絶対に事を成し遂げようと覚悟を決めているエメラとアンリの言葉を受けて、俺もまた静かに頷いて見せた。
「……そうですね、じゃあアリシア……俺たちが言った後でこの魔法陣は使えなくしておいてくれ」
「れ、レイドさんっ!?」
結果的に一人残されることになるフローラは悲鳴に近い叫び声をあげて俺を見つめてくる。
そんな彼女をまっすぐ見つめ返しながら俺は口を開く。
「フローラさん、俺はさ……俺を受け入れてくれたこの町を……貴方を含めて大切な人達の住んでいるここを守りたいんだ……だからこそ、万が一にも危険な状況にならないよう最善を尽くしたいんだ……」
「……っ」
「安心してくださいフローラさぁああんっ!! 私が必ず他の方たちと合流して伝えますからっ!! そしてすべてが終わった暁にはちゃんと皆で戻ってきますからねぇええっ!!」
「うむ、それが良い……魔獣事件が解決した暁にはここに皆で集まりささやかながらも祝宴を開くのも悪くはないな」
「うぅ……き、きっとですよ……約束ですよ……ちゃんと無事に帰ってきてくださいねっ!!」
不安そうに俺たちを一人一人見つめていくフローラに、エメラとアンリははっきりと頷いて見せた。
だから俺も同じく……多分守れないだろうと分かっていながら笑顔で頷いて見せるのだった。
「ええ……きっと……」
「……そうだね、ここでまたみんなで集合したいねぇ」
そんな俺を意味深な目で見つめていたアイダも、フローラに向かって微笑みながら静かに呟いた。
『できたぞ 後は中心にある魔術文字の上に立ちながら飛ぶ先を強くおもい浮かべながら魔力を流せばいい 一応説明しておくが、自分が飛ばない場合はこっちの外周にある魔術文字に手だけを触れて同じことをすればいい 順番は覚えたか?』
アリシアもまた作業をしながら軽く頷いたかと思うと、そこで俺を手招きして呼びかけてくる。
「ええ、ちゃんと覚えてますよ……後はここに立って……ええと、どれがルルク王国の王宮でしょうか?」
『恐らくこの辺りのどれかだが 周囲の光景か』
前のように空中に浮かび上がった幾つかの揺らめく影に映る光景の中から幾つかを指し示したアリシアだが、そこに移っている光景を見て固まってしまう。
俺もまた彼女の視線を辿って、そこに浮かび上がっている魔法陣がある部屋の様子を確認して驚いた。
「あ、あれって……ま、魔獣……だよね?」
「背中の手と言い、何よりどう見ても魔物にしか見えない外見で二本足で立ってて……だけど何であんな堂々と……」
アイダ達の言った通り、そこには転移魔法陣に手を付いて何やら作業をしている三体の魔獣の姿が映っていた。
その背景には妙に小ぎれいで高価そうな飾りが壁を彩っていて、俺の拙い知識でも恐らくそこは王宮のように思われた。
「くっ!! 仮にも開かずの間で立ち入り禁止区域とは言え既に魔獣の姿を露わに活動しておろうとはっ!!」
「その言い方ですと、あそこがルルク王国の王宮で間違いなさそうですか?」
「ああっ!! あの飾りには見覚えがあるっ!! 間違いないじゃろうっ!!」
俺の質問に答えながらも、怒りを露わに魔獣達を睨みつけるアンリ。
(そうだよな……魔獣がああも堂々と行動してるってことは王宮内は既にかなり制圧されていると見たほうが良さそうだからそりゃあアンリ様からすれば許せないよなぁ……だけどあいつらは何をしてるんだ?)
浮かび上がっている光景の中で転移魔法陣に描かれた魔術文字に手を付いて少しして首を横に振っては、また違う文字に手をかけてを繰り返す魔獣達。
『恐らく強引に起動できないか試しているのだろうな』
「確かに魔術文字に手を触れてる辺りその可能性はありそうだけど……」
「じゃ、じゃあだとするとやっぱりまだこの転移魔法陣の使い方は知られてないってことですよねっ!! だ、だったらっ!!」
フローラの言葉に俺は静かに首を横に振って見せる。
「ただ単にあいつらが下っ端過ぎて使い方を教わってないだけかもしれない……大抵の魔獣は自分勝手に感情のままに行動しようとするから、それを制そうとして……その上であいつらが勝手に行動しようとしているだけかもしれないからね……何より実際にああして魔獣側が魔法陣を使おうと試みている以上はやっぱりここのこれは使えなくしておくべきだよ」
(或いは王宮の件が片付いて俺もドーガ帝国へ飛んだら、誰かに頼んでルルク王国の王宮にある転移魔法陣も使えなくするべきかもな……尤も今から王宮に殴り込みに行く俺たちの話を聞いてくれる人が向こうに居ればの話だけど……)
そして俺は次いでエメラとアリシアの二人へと視線を投げかけて口を開く。
「もちろん転移魔法陣の起動の仕方がバレているのかどうか分からない以上は、俺たちから洩れるのも大問題です……お互いに注意しましょう」
「りょーかいでぇえええすっ!! 尤も私は出来る限り前に出ないようにして情報収集に専念して彼らの居場所をみつけるつもりでぇええすっ!! 危険には近づかないようにしますから安心して下さぁああいっ!!」
『大丈夫だ このお守りもレイドが先日使った新しい魔法も覚えている以上、もう惑わされて口を割らされたりはしない だから安心してくれ
「レイドこそ気を付けてよ……無理しちゃ駄目だからね?」
「わかってますよ……ええ、絶対に皆さんを危険にするような真似はしませんから……」
二人に注意しつつ、自分もまた間違っても魔獣達にその情報を渡すまいと誓いながら改めて俺は転移先の光景を見つめた。
未だに魔法陣を弄っている三人は、余り仲がいいようではなく時折言い争いをしている。
その中の一人はドアの前に立って、まるで外の様子をうかがうような姿勢で残る二人を急かしているようにも見えた。
(やっぱり勝手に行動してるっぽいな……となると今のところはこれ以上増えたりはしないだろうし……三体か……よしっ!!)
腰の剣に手をかけながら、俺は転移魔法陣の中心にある魔術文字の上へと向かった。
「れ、レイド殿っ!?」
「アンリ様はここで待っていてください……俺が先に飛んであいつらを倒して安全を確保してきますから」
「だ、だいじょーぶなのレイドっ!? 相手は三体も居るんだよっ!?」
『一旦私も共に行って、倒してから戻ることもできる その方が確実だ』
「大丈夫だから……ここは俺一人に任せてほしい」
俺の行動を見て心配そうに見つめる女性たちに、はっきりと頷いて見せる。
(転移魔法陣の使い方が魔獣側に知れ渡ってるのかどうかは分からないけど、あの様子から使おうとはしている見たいだ……だからもしもここで俺が飛んで行っても仲間の可能性を考えていきなり奇襲を仕掛けてはこないはず……そして正面から戦うのなら……これぐらい倒せなければこの先の戦いに俺は付いていけないっ!! 大丈夫っ!! 二体だって倒せたんだっ!! 俺ならやれるさっ!!)
俺自身がこの先どこまで戦いについて行けるのかを把握しようと……アリシアと共に前線に赴ける強さを証明したかった。
尤もそれだけが理由ではない……万が一、俺の予想が外れて転移する予兆を見て魔獣達が奇襲を仕掛けてきたらかなり危険なのだ。
その際にアリシアも飛んでいたら一緒にやられかねないが、ここで見ていてくれるならば俺を倒して油断している魔獣の隙を見て助けに来ることも可能だろう。
そう言う考えの元で、俺はこちらに手を伸ばそうとするアリシアをまっすぐ見つめて頭を下げた。
「頼むアリシア、俺を信じてここで見守っていてくれ……これでも君に追いつこうと頑張ってきたんだ……見ていてくれ、俺の戦いを」
「……っ」
俺の言葉を受けてアリシアは軽く目を見開いたかと思うと、軽く息を吸って……真面目な顔で頷いてくれた。
その顔に期待だとか信頼だとかが浮かんで見えたのは、俺の間違いじゃないだろう。
(考えてみればアリシアに俺の実力を見せるのは初めてじゃないかな……今までずっと、街で努力してきた時から……最初の魔獣退治の時だってアリシアは傍に居なかった……その後はずっとアリシアに頼りっぱなしだったもんなぁ……)
街に居た頃は失望されるのが怖くて、気が付いたらアリシアの前で自分の力を見せるような真似は出来なくなっていった。
それどころか感情すら押し隠して、ひたすらに彼女のご機嫌を取ろうと振る舞っていたような気がする。
(ちゃんと評価してもらおう……俺の能力も精神も……その上でアリシアの気持ちを……そして俺自身の気持ちも理解して……行こうっ!!)
大きく息を吐いて呼吸を整えながら、俺は飛ぶ先を心に思い浮かべながら魔力を流し始める。
果たして転移先にも変化が訪れたようで、向こうでは慌てた様子で魔獣達が転移魔法陣から離れようとしているのが見えた。
「レイドっ!!」
「っ!!」
段々浮遊感が強くなる中で、最後に俺を名前を呼んだアイダと呼ぼうとしたアリシア……その二人に笑顔を向けながら俺はゆっくりと目を閉じてその感覚に身を委ねた。
そして一瞬の後に地面へ着地したような感触がして、すぐに目を開いてみると目の前に驚いた顔をしている魔獣が映る。
その奥にもう一体、そしてチラリと振り返り俺の背後に残る一体の居場所を確認するがどいつもこいつも固まって動こうとしていない。
(先手必勝っ!!)
少しだけ眩暈がするが、気にせず突然現れた俺を呆然と見つめている手近に居る魔獣へと斬りかかる。
「な、なん……っ!?」
「はぁっ!!」
「な、何……えぇっ!?」
下から切り上げられた魔獣は言葉を最後まで漏らすこともなく左右に切り裂かれて真っ二つになった。
そして俺の出現に驚きながら、更に目の前にいた仲間が殺されたことで困惑気味な声を洩らす奥に居る二体目の魔獣へ切り裂いた身体を蹴り飛ばしてやる。
果たしてそいつは俺が蹴り飛ばした魔獣の身体にぶち当たり、体勢を崩し始めた。
(この隙にもう一体をっ!!)
「あぁっ!? お、お前お前何なんだよお前ぇえええっ!?」
「はっ!! 俺を知らないのかっ!!」
振り返ったところに居る魔獣へと向き直り睨みつけてやると、ようやくそいつは正気を取り戻したようで困惑気味な声を上げながらも背中の手を持ち上げ始めた。
その無知さを笑いながら俺は戦闘態勢に移ろうとしている魔獣に向けて真っ直ぐ駆け出すと、指先を向けて魔法を放つ。
「ライトニングボルトっ!!」
「そ、そんな魔法なん……ぎゃぁあああっ!!」
俺が放った極小の電撃の矢は狙い通り、自らの防御力に胡坐をかく魔獣の瞳へと突き刺さった。
尤もこんなもの大したダメージにはならないだろう……それこそ自己修復機能で一瞬で回復してもおかしくはないし、もちろん魔獣の強力な戦闘能力をそぎ落とすことなど不可能だ。
しかし戦い慣れしていない魔獣はそのわずかな痛みと、目玉に何かが突き刺さったという衝撃に必要以上に怯えてせっかくの武器である複数の手で反射的に目を抑え込んでしまう。
(ちゃんと努力してないから……痛みに成れてないから……そんな致命的な隙を晒すんだよっ!!)
おかげで俺はあっさりと接近することが出来て、顔を押さえる無数の腕ごとその頭を切り飛ばした。
自己修復機能が発動しながらも頭部を切り落とされたことで力なく崩れ落ちた魔獣……これで頭が戻るまでは戦いに戻れない。
「な、な、な、なんっ!? 何なんだよお前ぇえええっ!!」
「俺が誰か知らないのか? なら教えてやる……俺が『魔獣殺し』のレイドだっ!!」
「え……なっ……ひぃぃいいっ!?」
ようやく体勢を立て直した残る一体の魔獣が、一瞬でやられた仲間を見て悲鳴じみた叫び声をあげる。
その言葉にニヤリと笑いながら答えてやると、今度こそその魔獣は怯えを隠すこともなく後ろを向いて部屋を飛び出そうとした。
「だ、誰……がはぁっ!?」
もちろんそんな致命的な隙を俺が逃すはずもなく、即座に剣をぶん投げてその頭を貫き壁に串刺しにしてやる。
そして抵抗できなくなった魔獣達の中をゆっくりと進み、剣を引き抜くとそいつらが再生できないよう頭と心臓を貫いた。
「ふぅ……こちらは片付きましたよ」
その状態で魔獣の死体を転移魔法陣の上にまとめておいてから向こうに合図を送ると、すぐに反応が返ってきた。
転移魔法陣が光り輝き、その上に乗っている魔獣の死体と交換する形でアンリがその場に現れた。
「んっ……こ、これは……」
「だ、大丈夫ですかアンリ様?」
「あ、ああ……平気じゃ……転移魔法とやらに成れておらぬから少し眩暈がしただけじゃ……しかし凄いなレイド殿は……」
足元がふらつくアンリに手を貸して何とか身体を支える俺を見て、アンリは感心したように呟いた。
「単独でも正規兵の集団を壊滅させるほどの強さを誇る魔獣の群れをこうも簡単に……うむ、実に素晴らしい限りである」
「お褒めにあずかり光栄です……尤も殆どこの剣をアリシアが渡してくださったおかげですけれど……」
「いいや、その剣を十全に使いこなしておるのはまさしくレイド殿の鍛錬のたまものであろうっ!! それに魔獣共の隙をつく技量は間違いなくレイド殿本人の力ではないかっ!! 何より当のアリシア嬢を含む皆であの光景を見ておったが誰もかれもが称賛を口にしておったぞっ!!」
「……そうですか……アリシアも……」
アリシアもとはっきり言われて、何やら気恥ずかしいような少しだけ誇らしいような気持ちになる。
(ふふ……何だこんな簡単だったんじゃないか……アリシアに追いつけないからって自分を卑下して、嫌われるって思い込んでたかつての自分が恥ずかしいな……よしっ!! アリシアに褒めてもらえたなら絶対大丈夫だっ!! このままやれるぞっ!!)
「行きましょうアンリ様っ!! この国を魔獣の手から救いにっ!!」
「うむっ!! 頼むぞレイド殿っ!!」
妙に気力がわいてきて、俺はアンリに叫ぶとそのまま部屋を飛び出そうとして……その際にふと壁の傍にメモ帳が落ちているのに気が付いた。
一応手に取ってみると、どうもこの転移魔法陣を解読しようとして早々に投げ出したであろう跡が描かれている。
(やれやれ……ああでも、そうだっ!!)
そこでふとあることを思いついた俺は同じく落ちていた筆を執ると、さらっと文字を書いて転移魔法陣の上へと置いてから今度こそアンリと共に部屋の外へと駆け出していくのだった。
『行ってくる また後で絶対に合流しよう』