混乱と陰謀と……④
ベッドの中で毛布を持ち上げてマリアは俺を手招きしている。
「ふふ……どうなされましたレイド様? お休みになるのでございましょう?」
「い、いやその……やっぱり何と言いますか……お、俺は床で寝ますから……」
「いけませんわレイド様ぁ……それでは疲れが取れませんよ……ふふ、ここはレイド様のお部屋なのですからご遠慮なさらずともよろしいのですよ……」
微笑みながら再度俺を手招きするマリアは、相変わらず薄絹の衣装を着こんだままで立派に育っている身体の線がはっきりと浮き出ている。
そんな女性と同じ部屋で二人きりという状況で、しかもベッドに誘われているのだ……余り女性をそう言う目で見ないようにしている俺でも色々と意識してしまいそうになる。
おかげでか、どうしても彼女の全身から妖艶な雰囲気が醸し出されているように見えてしまう。
(うぅ……仮にも聖女様なのだからそう言う意図はないはずだけど……あの穏やかな微笑みもなんか誘惑されてるような……い、いやそんなはずないんだけど……無いはずだけどぉ……ああ、どうしてこうなったぁっ!?)
この場をどう乗り切ろうか考えながらも、俺は何故こんな事態に陥ってしまったのか思い返してしまうのだった。
*****
「マリア様は魔物よけの祝福を強化してくださるために、わざわざここまで足を運んでくださったのですっ!!」
自己紹介を終えたところで、神父は聖女であるマリアが何故このような街に来たのか説明を始めた。
(そう言えば前に一緒に仕事したときにそんなことを言っていたような……だけど魔物よけの祝福を強化したところで魔獣が防げるとは思えないよなぁ……)
魔物よけの祝福はあくまでも野生の魔物に不快感を与えることで近づかないようにけん制しているにすぎない代物だ。
だから飢えなどで追い詰められた魔物は当たり前のように侵攻してくるし、まして今回の事件で関わっている魔獣に至っては知性がある。
そいつらが何かしらの目的を抱いて集落へ攻撃を仕掛けようとしたならば、感情面にいくら訴えたところでそう止まるものではないだろう。
(実際にドーガ帝国じゃ魔獣に操られているであろう魔物までも平気で魔物よけの祝福が掛かってる集落を蹂躙してた……ならいくら聖女様が強化したところであまり意味は……)
尤もだからと言って、教会のトップという多忙な立場でありながらもせっかくこんな小さい町までご足労してくださった方にそんな失礼なことを言うのははばかられた。
「そ、そうでしたか……それはありがたい限りですね……」
「お礼には及びませんわ、これも聖女である私の成すべき行為ですから……」
とりあえずお礼を口にした俺をマリアはさらに笑みを深くしながら謙虚な言葉を呟き……そのままこちらへと足を進めてくる。
「逆にレイド様にこそお礼を申し上げなければなりません……魔物よけの祝福が問題なく効力を発揮できるよう毎朝掃除して下さり……更に依頼とは言え教会のお仕事もお手伝いしてくださったと聞いておりますわ……ふふ、本当に素敵なお方……」
「えっ!? い、いやそんなのは大したことで……っ!?」
「っ!!?」
そして俺の傍まで近づいたマリアは、何故か手を伸ばしてきたかとおもうとこちらの身体に指を這わせてきたではないか。
更に彼女は俺の左胸を中心に、ゆっくりと掌まで使って身体の形を確かめるように撫でまわしてきた。
(えっ!? なっ!? はっ!? えぇっ!?)
このいきなりの行動に訳が分からず固まってしまう俺……他の人達もまた同じようでこちらを見つめたまま驚きを露わに目を見開いている。
しかしマリアは周りのことなど全く気にした様子もなく、ただ俺の顔だけを見据えてクスクスと微笑み続けた。
「はぁ……思った通り、身体つきも逞しい……魔獣殺しの名前は伊達ではありませんね……ふふ……」
「あ……え……は、はぁ……」
「ちょ、ちょっとっ!? な、何してるのっ!?」
うっとりとした様子で語りながら、すっと俺の顔に自らの顔を寄せてくるマリア。
果たして吐息が掛かりそうなまでい距離が狭まったところで、慌てた様子でアイダが叫び声をあげた。
「何と言われましても……ただお礼を申し上げようとしただけですわ……ふふ、何をそんなに慌てていらしているのですか?」
「い、いやだって今……と、というかくっつき過ぎだよぉっ!!」
「そ、そうですよっ!! か、仮にも教会のトップであられる聖女様がそのような真似をしていいのですかっ!?」
「ふふふ、皆様何を想像しているのでございますか? 何度も申し上げますが、私はただレイド様に聖女としてのお礼をしてさしあげようとしたまでですわ……」
アイダとフローラから咎められ、流石に身体を離しながらも一切悪びれた様子を見せないマリア。
そんな彼女と俺の間にすっと入ってきたアリシアも、非難するような目をマリアへと向けていた。
(な、なんだったんだ今のは……流石に初対面の異性に対する距離感じゃないような……しかも教会に属する僧侶のような人ならもっとこう潔癖性というかそう言うのがありそうなのに……)
緊張か興奮でドキドキしている胸を押さえながら、そっとマリアを連れてきた神父へと視線を投げかけるが彼は全く気にした様子もなく彼女を尊敬と敬愛の眼差しで見つめている。
「……どうなさったのだマリア殿……その無駄にはしたない衣装といい……そなたはそのような軽薄なる行為をするような女性ではなかったはずだが……?」
「ふふふ、バレてしまいましたか……実のところ魔獣事件は教会としても関心の深い出来事でございまして、それを討伐なさったと言うレイド様に興味があるのです……そしてこの衣装にも理由はあるのですよ……魔獣や魔物への対策としてあちらこちらで休む暇もなく祝福の強化をして回っている関係上、少しでも魔力を補充しやすくするために仕方なく着ているのですよ……自然界に触れやすくするために……エルフの里ではありふれた格好でございますわ」
しかしどうやら面識があるらしい王女アンリに指摘されると、ようやく本当のところを語り始めた。
(そ、そうか……そうだよなぁ……幾ら何でもあの衣服はエロ……女性らしい特徴がはっきり出ちゃってるもんなぁ……正直目のやり場に困る……エメラさんと言いエルフってのは危険な種族だなぁ)
「そ、そうなのかなぁ……うぅん……でも確かに僕を保護してくれたあの人たちも結構際どい格好だったし……」
遠い目をして過去の記憶を思い返そうとしているアイダは、何やら納得のいったようないってないような声を洩らしている。
それに対してアリシアはずっとアンリを睨みつけたまま、とにかく俺に近づかせないとばかりに彼女の前に立ちはだかり続けた。
『そんなことはどうでもいい 用件を言え レイドに何の用だ?』
「ですからご挨拶でございます……今後も沢山関わることになるでございましょうからねぇ……ふふ」
「あ、あはは……そ、そうですかねぇ……?」
アリシアの肩越しに俺を見つめて、意味深にウインクして見せるマリア。
やはり一つ一つの仕草がどうにも媚びを売っているというか、妙に妖艶に感じてしまう。
「ええ……先ほども申し上げました通り、教会としても魔獣事件の痛ましさは放置しておけない事態でございます……ですからその解決のため尽力なさっておられるレイド様には教会の総力を挙げて協力差し上げる所存でございますわ……もし私に出来ることがあればどのようなことであれ申し付けくださいませ……全力でご奉仕してごらんにいれますわ」
マリアは少しだけ身体を傾けて前かがみのような態勢を取りつつ、はっきりとそう宣言した。
それ自体は大変ありがたい申し出だったが、彼女がそんな態勢をとったせいで無駄に大きい胸が強調される形となって……何やら違う意味に聞こえそうになってしまう。
(わ、わざとやってるのかこの人……いやそんなわけないんだろうけどさぁ……)
尤も周りの女性陣も俺と同じ様に感じたようで、どこか嫌そうな顔をしているように見える。
「そ、そう……でも今は別に……」
「あー……ちょっといいかな……今の言葉はマリア様個人としてじゃなくて、教会を統べる聖女としての立場として……教会という機関としての意志で間違いないのですか?」
更にあからさまに追い返そうとしたアイダだが、待ったをかけるようにマスターが口をはさむ。
「はい、聖女である私の意志はすなわち教会本部そのもの意見と言っても過言ではありません……それがどうかいたしましたか?」
「そうか……それなら例の件、相談してみたらどうだ?」
「ふぇっ!? ま、マスター本気なのっ!?」
マリアの返事を聞いたマスターは、今度は俺たちに向かって提案するように呟いた。
「まあ聞け……教会ってのはなぁ世界最古の機関で、しかも医療行為を一手に担っている場所だ……だから国との繋がりもかなり深く信頼関係もあるし影響力だって馬鹿にならねぇ……それこそ魔術師協会や錬金術師連盟より遥かにな……そこのトップである聖女様が直々に取りなしてくれればどこの王族だって耳を傾けざるを得なくなる……まして聖女様がレイドの立場を保証してくれれば、それこそ証拠でもない限りはもう疑うわけにはいかなくなるさ」
「……確かに言われてみればその通りじゃな……妾も公務に携わる上で何度かマリア殿と父上が話し合う所に立ち会って居るが、マリア殿の言葉に異を唱えたことはなかったのう」
マスターの言葉を聞いて、アンリが納得したように頷いて見せる。
(確かに俺の誤解を解くために国との間に入ってくれる権威のある立場として考えたらマリア様はこれ以上ないぐらいうってつけの人かもしれない……渡りに船とはこのことだろう……けどなぁ……)
本人の言動からしても俺が頼めば協力してくれるはずだが、何故か俺は喜びより困惑の方が勝ってしまう。
その理由は良く分からないが……視線が自然とアリシアとアイダの方へと向かっていき、二人の不機嫌そうな顔を捕らえた。
「……ですが、関係の無い方を巻き込むのはどうかと……」
「よく話が見えませんが、私で協力できることであればぜひ手伝わせていただきたいですわ……それに魔獣事件の解決はこの大陸にすむ全ての人間にとって関係のあるお話でございます……それに携わっているレイド様をお助けするのもまた同じこと……ですから無関係などと他人行儀な言葉は言わないでくださいませ」
気が付いたら俺の口から協力を拒むような言葉が漏れていたが、すかさずマリアは首を横に振り自ら協力を申し出てくる。
「レイドよぉ……お前さんの気持ちはわからなくもねぇが、今は時間がないんだぞ……問題も山済みだし、手段を選んでる場合じゃないと思うが……」
「そ、それは……」
そっと俺の耳元で囁くマスターだが、言われてみればその通りだ。
ただでさえいつ追手が掛かるか分からない状況の中、他にも魔獣の件からマキナやトルテにミーアの問題、更には公爵家とアリシアの偽物に関する謎も残っている。
こんな状況なのに解決手段を選んでいる余裕など俺たちにあるはずがなかった。
「……そうですね、その通りです……ではすみませんが聖女マリア様……どうか俺たちに力をお貸しください」
「ふふふ……ええ喜んで……レイド様のお力に成れるよう尽力させていただきますわ……その為にも詳しい話をお聞かせくださいませ」
俺だけを見つめて呟いたマリアへ、簡単に今起きている事情を説明していく。
「……というわけでして、とにかくこの国の王様が抱いている疑惑を解く必要があるのです」
「妾の言葉すら耳に入らぬほど乱心しておる父上じゃが、流石にマリア殿の言葉であれば耳を傾けるであろう……申し訳ないがどうか口をきいていただきたい」
「なるほど……よくわかりましたわ……もちろん喜んでご協力させていただきます……ですが一つだけよろしいでしょうか?」
こちらの話を聞き終えたところでマリアは微笑みを絶やさぬまま頷いたかと思うと、また意味ありげに俺を見つめてきた。
「な、なんでしょうか?」
「レイド様のことは信じております……しかし仮にも一国の王が下した決断に異を唱えることになるのです……まして実の娘であるそちらの王女様をも投獄してでも果たそうとしていることでございます……恐らくは何かしらの理由があってのことだと思われます」
「……妾のことは前会った時のようにアンリと名前で呼んで構わぬ……そして確かに父上なりの理由はあるのかもしれぬが、それはレイド殿の飛躍と魔獣の活動時期が重なっているという以上には一切語ってくれなんだ」
アンリの言葉に頷きつつも、マリアは視線を向けることもなくただひたすらに俺だけを熱の篭った瞳で見つめ続けた。
「そうでございますか……何度も言いますが私は個人的にレイド様を信じております……しかし教会を代表する立場としてこの国の決定に口出しする以上は確実にレイド様が無実であると確信する必要もあると私は考えております」
「だ、だからレイドは無実だってばぁっ!! ほんとーのほんとーにレイドは悪い事なんかできる人じゃないのぉっ!!」
「はい、私もそう思います……だからこそ一つだけお願いしたいのです……レイド様が無実だと確信できるまで……私と行動を共にしていただきたいのです」
「え? えぇっ!?」
予想もしない提案に思わず声を上げてしまった俺を、マリアはむしろ面白そうに見つめている。
「な、何言ってるのっ!? マリアさんとレイドが一緒に行動するのに何の関係があるのさっ!?」
「ですからレイド様が本当に信用できる御方なのか……恥ずかしながら私は伝聞でしか知らないのです……無論こうして顔を合わせて実際に会話して信頼できるとは思っておりますが……それでも教会の機関を代表して行動するためには、しっかりとこの目で行動を見極めたうえで判断を下したいのでございます……その為にもどうか私を傍に置いていただけないでしょうか?」
一応は提案する風を装っているマリアだが、もしこれを断ったりすれば彼女もまた俺たちの頼みを引き受けはしないだろう。
(確かに理屈としては間違ってない……俺が本当に悪人じゃないかどうか、話しで聞いただけじゃなくて実際に近くで見て確信したいってのは良く分かる……だけど何だ? この妙な違和感というか……胸のざわめきは?)
「うぅ……さ、さっきは何でもきょーりょくするって言ったくせにぃ……」
「もちろん協力させていただきたいと思っておりますわ……ですからどうかレイド様も私の提案を受け入れてくださいませ」
「……わかりました、どうかよろしくお願いします」
「れ、レイドさん?」
「大丈夫……マリア様ならきっとすぐわかってくれるよ……」
俺を心配そうに見つめる女性陣に何とか笑顔を向ける。
結局のところ、他にいい方法があるわけでもない……受け入れる以外に道はないのだ。
提案を受け入れた俺にマリアは更に笑みを深くしながら近づき……間に立っていたアリシアをどけて迫ってくる。
「ではこれからしばらくの間、どうかよろしくお願いいたしますねレイド様ぁ」
「……っ」
またしても吐息が掛かりそうなほど顔を近づけながら握手を求めてくるマリアの姿を見て、アリシア達が息を飲む気配が伝わってくる。
それでも俺にはどうしようもなく、感情を押し殺して笑顔で握手に応じようとした。
(ん? あれ……俺いつの間に剣を……?)
そこでふと気が付く……いつの間にか俺の右手が腰に下げた剣を強く握りしめていたことに。
それも手のひらに跡が残るほど強く、長い間握りしめていたようだ。
(何でこんな……ああ、そうか……さっき左胸を……仮にも急所があるところを触られたから反射的に……)
「レイド様ぁ?」
「あ、ああ……す、すみません……こちらこそどうかよろしくお願いします……マリア様……」
マリアが不思議そうに小首をかしげてこちらを見つめてきて、その声で正気に戻った俺は今度こそ剣から手を離して彼女と握手を交わしたのだった。
「お任せくださいませ……ふふ、なぁにレイド様のおっしゃる通りすぐにでも信頼関係を築けますとも……何せ寝食をも共にして生活するのですから……」
「えっ!? えぇえええっ!?」
マリアの言葉を聞いて、まさか一緒に行動するというのがそこまでするとは思っていなかった俺はもはや何度目になるか分からない驚きの声を上げるのだった。
*****
「ふふ……早くお布団に入ってくださいませんと身体が冷えてしまいますわ……」
「で、ですが……やはり不味いですよ……俺は床で構いませんので……」
改めてベッドの中で手招きするマリアへ意識を戻したところで、俺は何やら猛烈に疲れを感じてしまう。
(まさか本気だったなんてなぁ……あれから本当にずっと傍にくっついて歩くし、何かにつけて手を握ったり身体に触れたり触れさせたり……スキンシップを図ってきたかと思えばこれだもんなぁ……はぁ……)
結局マリアは言葉通り、今日一日ずっと傍にくっついて離れなかった。
しかも毎回妙に近しい距離感で話しかけてきたりするせいで、他の皆と余り会話をする余裕すらなくなってしまった。
(この状態がしばらく続くのか……はぁ……色々ときついなぁ……)
「いけませんよレイド様ぁ……夜はしっかりと眠って疲れを取らなければ……」
「そ、それはそうでしょうけれど……」
「私のことは気にせずにリラックスしてくださればいいのですよ……それこそ身に着けている物を全て外してくださっても構いませんよ?」
「っ!? い、いやそんなっ!?」
「ふふ、恥ずかしがる必要はありませんわ……何でしたら私もレイド様が気にならないよう同じ格好をして……」
微笑みを絶やさぬまま、とんでもない提案をして自らの服に手をかけようとするマリアへ必死に首を横に振って見せる。
「い、いえっ!! この格好の方がリラックスできますからっ!! どうかお気になさらずにっ!!」
「ふふ……それならばいいのですが……しかしせめてその武骨な剣ぐらいは置いても構わないのではありませんか? ここは安全でございますよ?」
「で、ですからお気になさらずにっ!!」
本当に平気なのだと証明するように、アリシアから貰った剣を抱きかかえながら床へ座ると壁に背中を付けて目を閉じて見せる。
(はぁ……気を使ってくれてるんだろうけどさぁ……本当に勘弁してくれよぉ……大体この人、自分の身体がどれだけエロ……魅力的なのか理解してないのか……ああいう仕草一つとってもドキッとしてしまうのに……トルテさんの言う通り女性に免疫を付けておけば……皆さん、無事だと良いのですが……)
そこでふとトルテ達のことを思い出した俺……下手をしなくとも彼らは今頃ドーガ帝国の領内で休んでいるはずだ。
(マキナ殿とは無事に合流できただろうか? トルテさんとミーアさんは落ち着いただろうか? マナさんは皆を守ろうと無茶してないだろうか? ファリス王国はどうなっているんだ? 公爵家から届いたアリシア名義の書類は一体? アリシアは責任を感じてないか? アイダが一緒に居るから支えてくれるだろうけど……アイダにも世話になりっぱなしだな……ああくそ、あれもこれも気になって眠れ……っ!?)
「レイド様ぁ……ふふ……私もこっちで寝ますわぁ……」
「ちょ、ちょっとっ!? マリア様っ!?」
そこまで考えていたところで隣からそんな声が聞こえたかと思うと、肩に体重が寄りかかってくる。
慌てて目を開けると、思った通りマリアが隣に座っていてこちらに寄りかかっている所だった。
「レイド様は紳士なのですねぇ……ふふ、しかし寝食を共にする約束でございますから……それに部屋の主を置いて寝具を占拠するような真似をするわけにもまいりませんわ」
「い、いやそんなこと気にしないでいいですからっ!!」
「駄目ですわぁ……ふふ……お休みなさいレイド様……」
俺の叫びも無視して、マリアはそのまま俺に寄りかかったまま目を閉じてしまうのだった。
(あぁ……何だこの甘ったるい良い香りは……これが女の人の……って考えるなってっ!! 意識するな俺っ!! ああでも、なんか凄く良い匂い……何か意識が朦朧とし……ってっ!? 何で俺の膝の上に寄りかかってくるっ!? しかもうつ伏せだから胸が当た……考えるな俺っ!! しっかりしろっ!! てかこの状態で寝たら覆いかぶさる形に……状態異常回復用の魔法で眠気を飛ばして耐えるしかないっ!!)