最低で最悪な戦い……そして先輩との決別⑪
俺が言い出した無事帰還祝いが始まってどれだけ過ぎただろうか。
「うぷっ……も、もう限界……っ」
「ほらほらっ!! どうしたどうしたっ!? レイド殿はまだ三杯しか飲んでいないじゃないかっ!!」
「くししっ!! そうだぞぉレイドくぅ~んっ!! 愛しの婚約者様に格好良いところ見せなきゃ駄目だろぉ~っ!?」
既に限界近くまで酔っぱらって苦しんでいる俺に、ミーアとマキナが二人掛かりで文句をつけてくる。
そんな二人の元には既に空になったお酒がゴロゴロと転がっている。
(ま……マキナ殿がこれほど酒豪だったとは……というより、酒癖悪すぎ……うぷっ!?)
次から次へとコップにお酒が注がれていくが、正直もう見ているだけで辛くなってくる。
「うぅ……き、きついぃ……ふ、フローラさん……今回のこのお酒強くなぁい?」
「マキナ先生が強いお酒を所望とのことでしたので……実は私たちが新しく作ったのも混じってるんですよ? お味はどうですか?」
「味は悪くねぇけどよぉ……いや本当にきついぞこれ……」
「むぅぅ……ま、まだ飲め……うっ!?」
尤も苦しんでいるのは俺だけではなく、マキナと争うように飲んでいたマナやアリシアに次いで上げていたアイダもだった。
どうやら今回のお酒は特に強いものだったようだ。
『大丈夫レイド? 魔法で癒そうか?』
「うぅ……あ、ありがとうアリシア……だけどこれもお酒の醍醐味というか……あぐぐっ……ほ、本当に必要なら自分で使うから……」
「ほらほら、こー言ってるんだから気にしないでアリシアちゃんも飲んだ飲んだっ!!」
「そうだぞアリシア殿っ!! これは全て冒険者ギルドの報奨金の一部だっ!! ただ酒なのだから飲まなければ損だぞっ!! 飲みたまえ飲みたまえっ!!」
『わかった 私が飲むからレイドはもう勘弁してやってくれ』
俺を気にして隣で背中を撫でてくれるアリシアが、代わりにとばかりに酒乱コンビに絡まれている。
しかし俺は庇うことも出来ず、机に突っ伏してしまう。
「アリシアさぁん……無茶しちゃ駄目だよぉ……うぅ……っ」
「アイダこそもう止めとけって……アリシアもこんな酔っ払いの言うことに無理して付き合わなくていいんだぞ?」
『いや無理はしていない それに意外と悪くない』
「おおっ!? 流石だねぇアリシアちゃんっ!! あんたお酒いける口かっ!?」
意外とお酒に強いのか、アリシアは二人から注がれたお酒を平気で飲み干していく。
(こ、こういうところも才能があるのか……凄いなアリシアは……だけどしてよかったかな……トルテさんとミーアさん、普通にアリシアに話しかけれるようになってるし……はぁ……だけどやっぱり苦しい……)
「それでこそだっ!! うむっ!! 酒を飲まずして何の人生かっ!! ほらアイダ殿もマナ殿も倒れている暇があったら飲みたまえっ!!」
「えぇ……ぼ、ぼくちょっときゅうけぇ~……」
「むむぅ……ま、負けな……うぐっ……うぅ……」
「あはははっ!! そうだそうだっ!! 皆もっと飲め飲めぇ~っ!! ほらレイドくぅんも飲もうなぁ~っ!! 何ならあたしが口移しで……」
あちこちに絡んで酒を注いで回るマキナに便乗するように、ミーアが再び俺にお酒を進めようとしてくる。
しかしその前にアリシアがさっと間に入ってブロックしてくれた。
『駄目だ』
「あ、アリシア……た、たすか……」
『口移しで飲ませるのは私の特権だ』
「おおっ!! いいねぇいいねぇっ!! やっちまえアリシアっ!!」
「ちょぉっ!?」
感謝しようとした俺の前で、アリシアはミーアから奪い取ったお酒をサッと口に含むとこちらに顔を近づけてくる。
よく見ればその顔は僅かに赤くなっていて、視線もどこか熱が篭っているように見えた。
(あ、アリシアひょっとして酔っぱらってるのかこれっ!? 表に出ないだけで実は弱いっ!?)
果たして本当にそうなのかは分からないが、とにかくこんな形で彼女の唇を重ねたくはない。
だから力の入らない体で這いずるように逃げる俺を、同じくノロノロとした動きで追いかけてくるアリシア。
「ちょ、ちょっ……うぷっ……あ、アリシア正気に戻……っ!?」
「駄目だよぉ、レイドを虐めちゃぁ~……」
そんな俺を支えるように、今度はアイダがふらつきながらも近づいて来て手を差し伸べてくる。
「あ、ありがとうございますアイダ先……あっ!?」
「あぁ~っ!! レイドまた僕を先輩って呼ぼうとしたなぁ~っ!? そーいう意地悪言うならぁ僕も意地悪しちゃうんだからぁ……んっ」
「ち、違います今のは間違え……ちょぉっ!?」
しかし酔っぱらったせいで今まで通りの呼び方をしてしまったことでご機嫌を損ねてしまったようだ。
同じく顔中赤くして酔っぱらっているアイダもまた、同じく近くにあったお酒を口に含むとこちらににじり寄ってくる。
「おおーっ!! こりゃあ面白くなってきたなっ!! さぁてレイド君は誰を選ぶのかぁ……あたしも参加してやろぉっとっ!!」
「わ、私も参加しますっ!!」
「ちょ、ちょっとミーアさんっ!? フローラさんまで何をっ!?」
「おおっ!? この流れは私も乗るべきかっ!? ほらマナ殿も起きるのだっ!!」
「うぅ……よ、よくわかんないけどわかったぁ……んぅ……っ」
それを見たギルド内の女性陣もまた、皆悪乗りして口にお酒を含み俺の元へと迫ってくる。
「ちょ、ちょっと待っ……と、トルテさん助け……っ!?」
「んんっ?」
仕方なく唯一同性のトルテに助けを求めようとしたが、彼もまた苦笑いしつつも同じく口に酒を含んだままこちらを見つめてきている。
(と、トルテさんまでぇっ!? この状況のフォローが面倒になったのか悪乗りしてるのか……ど、どっちにしてもどうすればいいんだこれっ!?)
誰もかれもが俺に口移しで酒を飲ませようと迫る中を必死に逃げまどう。
しかし酔っぱらって頭が上手く働かないために、すぐカウンター際に追い詰められてしまった。
「んくっ……ほらほら早く選びたまえっ!! そしてお酒を飲みたまえっ!!」
そこで耐え切れなくなってお酒を飲み干したマキナだけはレースから脱却したが、煽るばかりで全く制止してくれそうにない。
(こ、こんな状況をどう乗り越えれば……下手したら魔獣四体に囲まれてた時の方がずっと楽だぞ……だ、誰かとキスしていいのか……俺の好きな人と……って酔っ払い相手に何考えてんだ俺はっ!? だいたいこんな状態で選べるかぁっ!!)
思考がまとまらず、それでも迫りくる女性陣を前にどうしようか狼狽えながらカウンターに寄りかかるように立ち上がろうとする。
そんな俺の手に何かが触れて、振り返れば誰かが注いでそのままになっているお酒の入ったコップがそこにあった。
「あ……え、ええとじゃあこれでいただきますっ!!」
「んぅっ!?」
「っ!?」
「んふぅ……あはははっ!! 逃げたなレイドぉ~っ!! このヘタレぇ~っ!!」
「せっかくこれだけ魅力的な女性+1名の中から好きな相手とキスするチャンスだったというのにっ!! しかし飲んだのならばこれで良しとしようではないかっ!!」
とにかくお酒を飲めばこの状況は改善するのだと思い……もしダメでも意識を失うまで酔ってしまえば逃げきれると判断して俺はコップに入ったお酒を一気に飲み干した。
果たして俺を揶揄いながらもどこか満足げなミーアとマキナの言葉が呼び水となり、皆々こちらを睨めつけつつも口に含んだお酒を飲み干し始めた。
「……ふぅ……もぉレイドぉ……まだまだこー言うところはヘタレなんだからぁ……」
『レイドの好きにしてよかったのに』
「レイドさんは意外と臆病ですねぇ~……ふふ、だけどこれならまだ私にもチャンスが……」
「うぅ……よ、よくわかんないけど……レイドのヘタレぇ……」
「あはははっ!! いやモテる男は大変だなぁレイドよぉっ!!」
(何とでも言ってくれ……こちとらそう言う経験は零なんだ……お酒の勢いでファーストキスなんかできないっての……うぷっ……し、しかしマジでこのいっぱいはキツ……っ)
色々言われながらも何とかこの窮地を乗り切った俺だが、どうやら本当に今の一杯で限界を超えてしまったようだ。
ついに力が入らなくなり、俺は意識が朦朧として机に突っ伏してしまう。
「やれやれ、この程度で限界だとは情けないものだ……よし、他に誰か飲みたい者は……」
「はぁいマキナ先生っ!! 私がいただきますっ!!」
お酒を持ってうろつくマキナにすぐフローラが杯を差し出した。
「おお、それでこそ我が弟子……と言いたいところだが、いい加減に先生と呼ぶのは止めてくれないかな……昔を思い出してしまうからねぇ……」
しかしそんな彼女の言葉を聞いて、マキナは少しだけ困ったような声を洩らした。
「昔をって……何か嫌な思い出でもあるんですか?」
「うぅむ……嫌な思い出……というわけでもないのだが……いややっぱり嫌な思い出なのかな?」
「なんだなんだ意味深なこと言ってぇ……そんな変な弟子でもいたってことかい?」
「……変、というよりも真面目過ぎる弟子だったなあいつは……一途で努力家で……だからこそ私も真剣に向き合ったのだけれどねぇ……」
そう言ってため息を漏らすマキナは、どこか遠い目をして懐かしそうに言葉を続ける。
「もう何十年も昔の話だ……崇高で立派な夢を持っていて……それでいてひたむきで……そうだな、どこかレイド殿に似ていた気がするよ」
「んんぅっ? お、おりぇでしゅかぁ?」
唐突に自分の名前が出てきて、反応しようとしたがどうにも呂律が上手く回らない。
そんな俺をぼんやりと見つめるアイダに、背中を叩いてくれるアリシア。
その二人も含めて、ここにいる全員が興味深そうにマキナの言葉に耳を傾けていた。
「ああ……尤も錬金術師連盟の一員として余り優秀とは言い難い面はあったが……だから最初は気にもかけていなかったのだけれどね……ある日、偶然そいつと共に仕事をすることがあってね……その際に彼の掲げる夢を聞いて……逆に尊敬してしまって、自ら指導を買って出たのだ」
「夢……ですか?」
フローラの言葉にこくりと頷いたマキナ。
「そうだ……現在、人々の怪我や病は教会やそれに準ずる組織に所属する人員が魔法で治療に当たっているだろう? しかし彼はそれには根本的な欠陥があると……個人の才能に寄る体制は非常に危険だと指摘していてね……要するに大きくてお金を稼げる都市には才能豊かな人員が配置されるが貧しい村や町には大した回復魔法も使えない人員ばかり送り込まれて受けれる治療に差が大きすぎるとそう言うのだよ」
(うぅ……そ、そう言えば前に俺も教会で働いたとき物凄く感謝されたなぁ……ここの神父さんは状態異常回復魔法は使えないみたいだし……使えても詠唱に時間が掛かったらその分一日に見れる人は減るもんなぁ……)
ろくに回らない頭ながらも、過去のことを思い出すと何となく頷けるような気がした。
「そうですよねぇ……ここの教会も回復の手が回らないってよく特薬草をうちから買っていきますからねぇ」
「確かに怪我とか病気の治療が格安で出来るのは良いけど、うちの教会は一人しか神父がいねぇからいっつも混んでるもんなぁ……」
「だからこそあいつは……錬金術師連盟の技術を応用して、知識がない人でも使える回復用の設備を作ることでどこでも同じ医療を受けられるような施設を作りたいと……怪我人や病人をいつでも受け入れられる、いわゆる病院とでもいうべきものを作りたいと語ったのだ」
「病院、ですか?」
「ああ……薬草類を簡単に治療薬に変換出来て、それらをいつでも常備しておける場所を作り……備え付けのマニュアルさえ読めば誰でも治療行為を行えるようになるそんな施設だという……そんなものを世界中に作りたいとな」
そう語るマキナはどこか誇らし気というか、嬉しそうに見えた。
「そ、それは凄いですねっ!! 確かにそんな場所があったら凄く便利そうですっ!!」
「そうだろう、そうだろう……私もそう思った……当時の私はある偉業を成し遂げたばかりで増長していたのだけれど、その言葉で初心というか……全ての人に恩恵を与えられるそんな研究をしたいと改めて思ったものだ……だからこそ、そんな立派な夢を抱いていたあいつには目をかけて……道を誤らないよう指導しようとした……つもりだったのだけれどね……」
そこでマキナは大きくため息をつくと、お酒を思いっきり飲みほした。
「……ふぅ……しかしあいつは周りと自分を比べて劣等感を抱くようになった……早く成果を出そうと焦るようになり……私が基本ばかりしかやらせないのも嫌だったのかもしれない……いつしか私や錬金術師連盟に不信感を抱くようになってな……そのうちに隠されている転移魔法陣に関する癒着や利権問題に噛みつくようになって……私の制止も聞かず上層部へと潜入したらしく、ついにはどこぞへと追放されてしまったよ……」
「そ、それからその人は……?」
「さぁ……どこへ行ったのかもわからない……私に何を言うこともなく去って行ってしまったからね……結局私の指導が誤っていたということなのだろうね……あいつの立派な夢を応援するどころか、人生を狂わせてしまった……それ以来私は人に物を教えることはあっても弟子にはしないと決めたのだ……もう二度とあんな悲劇は繰り返したくないからね……だからフローラ殿には悪いけれど先生などとは呼ばないで欲しい……そんな風に呼ばれるほど偉い人間ではないし……何よりあいつに呼ばれていた時のことを思い出してしまうからね……」
「あ……」
最後にそう締めくくったマキナにフローラは申し訳なそうな顔を向ける。
しかしマキナはそこで苦笑しながら周りを見回し、逆に頭を下げるのだった。
「いや悪いね、せっかく楽しくお酒を飲んで盛り上がっていたのにこんな湿っぽくなることを言ってしまって……さあさあここからは明るく楽しく飲もうじゃないかっ!!」
「……そーだなぁ、誰だって過去には色々あるけど……拘っててもつまんねぇしなっ!! よっしゃぁ飲み直しといこうぜっ!! そうと決まればレイドっ!! もう一回一気飲みして場を盛り上げろっ!!」
「か、かんべんしてくだしゃぁい……うぷっ!?」
「れ、レイドぉ……じゃぁ僕が口移しでぇ~……」
『私が口移しで飲ませてもいいぞ』
マキナの言葉に即座にミーアが乗っかり、そして再び俺は女性陣に絡まれ始めるのだった。
*****
いったいそれからどれだけ飲まされただろうか。
ようやくお開きになる頃には、俺はもう声も出せないほどベロベロに酔っぱらっていた。
「うぅ……ひっく……はふぅ……」
それはアイダも同じなようで、まるで俺の歓迎会の時のようにくたくたになっている。
「ちょ、ちょっと飲ませすぎ……うぇ……たかなぁ……はぁ……」
「わ、悪いな……うぷっ……済まねぇけどそいつらを宿まで運んでやってくれ……アリシアよぉ……」
『任された 二人も無理しないで』
同じく酔いながらもまだ二本足で立てているトルテとミーアが同じ宿に泊まっているマナを背負いながら、こちらもまだある程度正気を保っているアリシアに頭を下げる。
頼まれたアリシアは俺を背負い、アリシアを抱きかかえながらも器用にメモに文字を書いて見せる。
尤も流石に文字が少し歪んでいる上に、耳まで真っ赤になっている辺り彼女も酔っているはずだ。
(す、凄いなぁアリシアはぁ……だけど俺もう限界……)
まだ意識自体は残っているけれど声も出せない俺は、お礼も謝罪も出来ず彼女たちのやり取りを見守ることしかできなかった。
「ああ、こっちは大丈夫……フローラはマキナ殿が連れてくから平気だろうし……はぁぁ……」
「マナさんはこっちで何とかするからな……」
『わかった ありがとう じゃあまた明日』
「あー……ちょい待ち……」
二人にお礼を言って立ち去ろうとしたアリシアだが、呼び止められて振り返ると二人が何やらばつの悪そうな顔で彼女を見つめていた。
「あのさぁ……色々変な態度取って悪かったな……正直俺たちあんたにどう反応していいか分からなくてよぉ……」
「町を守ってくれた命の恩人だってのはわかってたんだけど……変な先入観があったせいで……本当にすまねぇ……後あんときは魔獣を倒してくれてありがとな」
『いい 気にしてない むしろ私が傷つけたレイドを受け入れてくれて 彼がもう一度笑えるようにしてくれて嬉しかった 街に居た時は私の前でもほとんど笑わなくなってたから ありがとう』
そして再度頭を下げた二人に、アリシアもまた感謝の言葉を告げつつ頭を下げた。
(ああ……そう言えば俺、確かに試験の前から余裕を失って笑えなくなってたな……そんなことにも気付けなかったなんて……それにこの二人があんな態度をとったのも俺のせい……俺が謝らなきゃ……うぷっ!?)
今頭を下げている原因がどちらも俺にあると思い、何とか口を開こうとしたけれど吐き気が込み上げてしまい結局言葉にすることはできなかった。
そんな俺が頭痛を押さえながら薄目を開けて確認している中でトルテもミーアも、そしてアリシアもどこか安堵したような笑顔を浮かべるのだった。
「大したことはしてねぇって……こっちこそレイドにはたくさん助けられてるし、何より大切な仲間だからな」
「それにそう言う言葉はあたしらよりアイダに言ってやってくれ……アイダがレイドを連れてきてくれて、ずっと支えてたんだからさ」
『わかっている 後でちゃんとアイダにもお礼を言う アイダさんには私も助けられた 恩人だから』
「まあもしかしたらライバルにもなるかもしれねーけどなぁ……あたしも含めてさぁ……」
そこで何故かわざとらしく笑いながら俺やアイダの顔を見つめてくるミーア。
その視線が交わりそうになったところで、俺は反射的に目を閉じてしまった。
(い、意識があるってバレてるっ!? いや別に盗み聞きしてるわけでもないんだけど……何となく罪悪感が……んっ?)
何も見えなくなった俺の身体にアリシアがゴソゴソと何かをする振動が伝わってくる。
恐らく何かメモを書いたのだろう……その証拠とばかりに文字を読んだであろうトルテとミーアが面白そうな笑い声をあげる。
「あはははっ!! そりゃぁいいやっ!!」
「ふふふっ!! レイドの奴も大変だなぁおいっ!!」
(な、なんだっ!? なんて返事をしたんだアリシアはっ!?)
物凄く気になってもう一度、薄目を開けたがその時には既にアリシアは新しいメモに違う文字を書き始めてしまっていた。
『そろそろ行きます また明日』
「おお、そうだな……明日からよろしくなアリシア」
「いつまでいてくれるか分かんねぇけど……これからよろしくなアリシア」
親しげにつぶやいた二人に、アリシアもどこか嬉しそうに頷き返しそして今度こそ宿へと向かって進みだすのだった。
*****
「うぅ……はぁ……あ、アリシアもういいよ……おろしてくれ……」
宿にある自分の部屋の前に付いた辺りでようやく喋れる程度に回復した俺は無理やりその背中から地面へと降り立った。
『大丈夫? 部屋まで運ばなくて平気?』
「だ、大丈夫だから……そ、それよりもアイダをよろしく……」
少し足元がふらつきながらも心配そうに見つめるアリシアに何とか笑みを返すと、そのまま自分の部屋へと入ろうとする。
「んんぅ……駄目ぇ……れーど行っちゃ駄目ぇ……」
「あ、アイダ……ど、どうし……うぷっ……ました?」
しかしそこでアイダも少しだけ意識を取り戻したのか、俺の服を握り締めて引き留めてきた。
「きょぉは一緒に寝るのぉ……」
「えっ!? し、しかし……うっ……」
「お願ぁい……きょぉだけでいいからぁ……手を握ってて欲しいの……多分思い出しちゃうから……」
「あ……っ」
そう言って俺の服を握り続けるアイダ。
恐らくは魔獣との戦いで見た幻覚を……家族の姿を思い出しているのだろう。
『レイド アイダさんと寝てあげて』
「い、いやだけど……」
「アリシアさんも一緒ぉ……二人とも傍に居てぇ……駄目ぇ?」
「っ!?」
そこでアイダはアリシアの服も握り涙目でその顔を見つめ始めた。
まさか自分まで誘われると思わなかったのか、困惑気味に俺を見つめ……少しだけまた頬が赤くなったように見えた。
「いいでしょぉ……三人で寝ようよぉ……きょぉだけでいいからぁ……」
「そ、それは……だけど……」
思わず許可を取るようにアリシアの方を見つめると、彼女はアイダの方へと顔を反らしながら軽くメモを書いて見せた。
『レイドがいいなら 構わない』
「レイド……駄目ぇ?」
「……じゃあ、今日だけですよ」
アイダの懇願するような眼差しと、横目で何かを期待するよう見つめてくるアリシア。
大切な女性二人からそんな風に求められて、俺には断ることはできなかった。
こくりと頷いた俺はそのまま三人でアイダの部屋へと入っていく。
そしてアイダを抱いたままのアリシアが横になったベッドへ入り、アイダを挟んで向かい合うように横になった。
「……ありがとうレイドぉ……アリシアさんも……ふふ、これなら寂しくないねえ……」
ギュっと俺たちの手を握り締めてくるアイダ……その瞳から零れ落ちる涙は果たして嬉し涙だったのか、或いは家族への想いか。
その判別がつかない俺に出来ることは、その手を強く握り返してあげることだけだった。
「……お休みレイド、アリシアさん」
「……お休みアイダ、アリシア」
「……っ」
俺たちの言葉に穏やかに微笑みながら頷き返したアリシア……その言葉を聞いたアイダもまた目を閉じながら微笑んでいるように見えた。
そんな二人の女性の笑顔を目の当たりにした俺は、少しだけ幸せを感じながらそっと目を閉じるのだった。
「……うぅ……寝苦しいから脱いじゃっとぉ……」
「……っ」
「ちょ、ちょっと二人とも何をゴソゴソして……っ!?」