最低で最悪な戦い……そして先輩との決別⑦
たくさん泣いて喚いて、ようやく落ち着いたアイダが最初にしたことは俺たちへの謝罪だった。
「ご、ごめんね皆……ぼ、僕のせいで……」
『気にしなくていい あんなものに抵抗できるわけがない』
「そ、そうですよアイダさん……私も結局最後まで役立たずなままでしたし……」
「誰も悪くないですよ……ただ敵が狡猾だっただけですし、それに何より結果的には皆無事で済みましたからね」
申し訳なさそうにアイダと、意識を取り戻して事情を説明されたバルが頭を下げる。
しかし俺もアリシアも気にしないとばかりに首を横に振って見せた。
(実際に俺たちが正気を保てたのもこの鎧のおかげだからなぁ……アリシアの強さを過信しすぎたな……いや、むしろ俺が道具の分配をもう少し考えるべきだったかな?)
あの自動回復する粉を忘れていたこともそうだが、鎧にしても最初からアリシアに着せて置けばこんな厄介な状況にはならなかった。
当初のマナの二人で行く際の計画では俺が前線で戦う予定でいたから問題はなかったが、編成が変わった時点でその辺りも話し合っておくべきだったのだあろう。
(結局戦闘面はアリシアばかりに任せる羽目になったもんなぁ……その辺りも俺が正気を失ってた弊害だな……本当に何も考えずに突っ込んで迷惑をかけてしまった……)
少し前までの俺がどれだけ冷静さを欠いていたのか、今更ながらに理解してこちらの方が申し訳なくなる。
「で、でも僕が……本当は僕、頭のどこかで変だって思ってたんだ……だけど……」
「トラウマを刺激されたら誰だってまともではいられませんよ……俺だって……だから本当に気にしないでください……」
『私にも経験がある だからアイダさんの気持ちはわかる 仕方ないことだ』
チラリとアリシアの方へ視線を投げかけながら呟くと、向こうもまた俺の方を見てから同じようなことをメモに書き記す。
(ああ、確かにアリシアも取り乱してたもんなぁ……多分俺が居なくなってからずっと……そんなアリシアに俺はあんな言葉をぶつけて……器が小さいというかなんというか……だけどもうあんな無様は晒すものかっ!!)
前のようにアリシアから顔を背けることもなく……それでも申し訳なさからか苦笑いを浮かべてしまうが、とにかく目を逸らさず受け止める俺。
「はは……と、とにかくそう言うわけですからアイダもバルさんも落ち込むのは止めましょう……」
「うぅ……ご、ごめんねレイド……アリシアさんもバルさんも……」
「い、いえアイダさんは悪くありませんよっ!! むしろ私が……私の国が……」
『キリがない 本当に気にしてないからこれぐらいにしておこう 仮にも敵の領地の中なのだから』
俺たちの言葉を聞いてもなお、頭を下げ続ける二人にアリシアが少し緊張した面持ちでメモを見せてくる。
確かにこの場に居た魔獣は殲滅させたが、事件自体が解決したわけではない。
ましては先ほどの奴らの言葉が事実ならば、この元ビター王国の領地はもはや魔獣達の本拠地である可能性が非常に高いのだ。
(進入禁止エリアに領内のパトロール隊……それにドーガ帝国から素材を回収して仲間を増やしているという発言……恐らくあの日記に書いてあった魔獣製造の施設を利用して何か企んでいるんだろうな……道理で倒しても倒しても次から次へと湧いてくるわけだ……)
「確かにこのままここに留まっていては、新たな魔獣達に襲われる可能性が高いですね……その前にどうするか決めないと……」
「あぅ……そ、そうだったねね……ご、ごめんね僕そんなことも忘れて……うぅ……二人の足手まといにならないつもりだったのになぁ……」
「ですから気にしないでくださいよ……アイダには物凄く助けられていますから……それに俺だってあの鎧と剣が無かっ……あっ!? つ、剣を回収しないとっ!!」
そこでようやくアリシアの家に代々伝わる伝説の武器をぶん投げたまま放置していたことを思い出した。
(で、伝説の武器をあんなに乱暴に扱ってっ!? し、しかも投げつけるの二回目だし……な、無くしたらシャレにならないっ!?)
「あ、あれ? ですがそこに落ちているのは……」
「い、いやこれは普通の……アリシアが俺に渡してくれていたのは特別製だったんだ……そうだろ?」
「ふぇっ!? 妙に切れ味が良いと思ってたけど……やっぱりそうだったのっ!?」
念のため確認しようとアリシアに尋ねてみると、気まずそうに顔を反らしながらもこくりと頷いて見せた。
『そうです レイドに軍学校の試験に受かってほしかったから だけど余計なことをしないでレイドを信じていれば』
「……いや、あの時の俺は物凄く追い詰められて余裕を失ってたから信じられなくても無理ないよ……それにあの剣のおかげで俺は物凄く助かった……なのに今までお礼も言わなかったな俺……そんな俺を信じてくれてありがとうアリシア……本当にありがとう」
「っ!?」
改めてアリシアの顔をまっすぐ見つめて、その心遣いへの感謝を告げる俺。
果たしてどれだけ気持ちが伝わったのか、アリシアは何やら戸惑ったように視線をさ迷わせた後でふいっと顔を背けてしまう。
『気にしないで それより剣を探しに行こう』
そっけない返事をしてあの魔獣達を倒した場所へと早足で移動し始めるアリシア。
しかし後ろから見える耳が少し赤く火照って見えるのは、多分勘違いではないだろう。
「もぉ……レイドったらあんな真剣な顔で見つめちゃってぇ……アリシアさん照れちゃってるじゃん……早く追いかけてあげなよぉ~?」
「本気で感謝してますからねぇ……それよりアイダもバルさんも協力をお願いします」
「あ……は、はいっ!! お任せくださいっ!!」
アリシアの後を追いかけて廃墟を抜け出し……その際に一瞬だけアイダが後ろを振り向いた。
だけどすぐに首を振ると、俺の方へ手を伸ばしてくる。
「……行こうレイドっ!!」
「そうですね、行きましょうか……アイダ」
離れないようその手をしっかり握りながら、アイダと共に廃墟から立ち去る。
そして空を飛んでいた魔獣達を倒した場所に戻ると、アリシアが倒した痕がはっきりと地面に残っていた。
(そう言えばこいつら元は人間なんだよな……それを殺したってことは殺人になるんじゃ……?)
先ほどまでは命がけの修羅場だったからそんな発想をする余裕もなかったが、ひと段落着いた今考えてみるとそんな思いも浮かび上がってくる。
(……いや、だとしてもこいつらは自分たちを虐げていたドーガ帝国だけじゃなくて世界中でいろんな人間の命を奪ってる……しかも狩りだとか遊び半分で……もうその精神は人間とは言い難い……何よりも俺は俺の仲間を殺そうとする奴を許す気にはなれないっ!!)
しかしすぐにそんな思いを振り切る……下手に同情などしていてはこちらの命が奪われる羽目になるのは明白だ。
もしも話の通じる理性的な個体がいるのならば別だが、それ以外の奴は魔物と同じだと思って対処していこうと覚悟を決める。
アリシアも同じ気持ちなのか、その場に残る魔獣を処理した痕を気にもせずにあちこちを見回していた。
「どうですか?」
『軽く見回したが見つからない どの方向へ投げた?』
「えぇと……どっちだったかな?」
チラリとこちらを見たアリシアは、アイダと繋いでいる手に視線を投げかけたかと思うとすぐに俺の顔に突きつけるようにメモを差し出してくる。
(む、夢中で戦ってたからなぁ……どこへどう投げたか全く思い出せない……というかなんか、アリシアの視線が厳しいような……家宝を放り投げたりしたから呆れてるのか?)
「うぅん……困ったねぇ、レイドの力だと結構とぉくまで飛んじゃってるかも……前の時も探すの大変だったもんねぇ……」
「あ、あはは……す、すみません……」
しみじみと語るアイダだが、確かに前に魔獣を倒した際も剣の回収で結構な時間がかかってしまっていた。
あの時と違い、真上の方向に投げたからそう遠くへは行っていないはずだがそれでも探し出すのは一苦労だろう。
「あれ? ですが前にレイドさんが使った探し物を見つける魔法を使えば簡単に見つかるんじゃないでしょうか?」
「あぁ……あれは手元にあるものと同じ物質しか検出できないからなぁ……この剣が同じ材質で出来ていればよかったんだけど……」
バルの疑問に首を横に振る俺だが、そこでアリシアが新たなメモを突き付けてくる。
『柄は同じもので出来ている 試してみたらどうだ?』
「そ、そうなんだ……それなら柄の部分だけは反応するかも……じゃあ試してみますか……スキャンドームっ!!」
手元にある見た目だけはそっくりなロングソードを手に取り、早速魔法を発動させる。
途端に俺を中心に半径100メートルほどの範囲に淡い光が満ち始めるが、今のところ反応は見当たらない。
(もう少し先に落ちているのかな? それともこのやり方じゃ駄目なのか? こんな使い方したことないからなぁ……自分で発明した魔法なんだからちゃんと調べなきゃ駄目だな……)
「うぅん……見当たらないねぇ……この辺りにないのかなぁ?」
「もしくは全体が同じ物質じゃないと反応しないか……ちゃんと検証したことなかったので……」
「ですが移動すれば魔法の範囲も一緒に動くんですよね……じゃあ少しずつ探しながら移動しましょう」
「まあそれしかないですよねぇ……はぁ……マナさんなら同じ魔法でもこの辺り一帯を一気に調べられ……そうだっ!! アリシア使ってみてくれないかっ!?」
前にマナが同じ魔法を使った時のことを思い出した俺は、同じぐらいの魔法の使い手であるアリシアに提案してみた。
「えっ!? で、でもこの魔法はレイドのオリジナルなんだよね? アリシアさんは使えないんじゃ……?」
「いや、マナさんも簡単に使いこなしてたからね……アリシアが出来ないはずはないんだよ……俺に遠慮さえしなければ、だろ?」
恐らくは前の会話を思い出しているのであろうアイダの言葉を否定しながら、アリシアを見つめる俺。
(幾らオリジナルだからってアリシアが一度見た魔法を使えないはずがない……今までだってずっとそうだった……どんな難解な課題も一発でクリアして見せていたんだから……)
「……」
「正直に言って欲しいアリシア……使えないなら使えないと……使えるなら遠慮なく使って欲しい……そんなことで俺はもう一々不貞腐れたりしないから……」
『わかった やってみる』
俺から剣を受け取ったアリシアは軽く息を吸い、そして無詠唱で魔力を集中して解き放つ。
果たして見事に俺と同じ魔法が発動し、その効力がマナと同じように地平線まで広がっていく。
「す、凄いアリシアさん……こんなに……」
「はぁ……ま、まさかこれほどとは……」
「……本当に凄いだろ? これが俺の……尊敬するアリシアだよ」
「……っ」
驚きながらも、どこか俺を気遣うような視線を向けてくるアイダとバルに俺は笑顔を向けて呟いた。
(そうだ……俺は好意とは関係なくこんなに凄いアリシアをずっと尊敬してた……憧れてたんだ……そんなことも忘れてたんだなぁ……)
俺の言葉を聞いたアリシアは、また少し驚いたように目を見開いたかと思うとどこか安堵したような嬉しそうな眼差しを向けてくるのだった。
そんな俺たちの様子を見てアイダとバルも、ようやく笑顔を見せてくれる。
「う、うんっ!! ほんとーに凄いよアリシアさんっ!! マナさん並みだよぉっ!!」
「ええっ!! これなら簡単に……あっ!! あそこで何か光ってますよっ!!」
「おおっ!! 本当だっ!! 流石だよアリシアっ!!」
「……」
俺たちの称賛の言葉を受けて、アリシアはほんの僅かだけれどかつて見せたように誇らしげに胸を張って見せた。
『これぐらい大したことじゃない むしろこんな便利な魔法を開発したレイドが凄い』
「……ふふ、ありがとうアリシア……君に言われると自信が付くよ」
前はアリシアに言われても嫌味にしか聞こえなかった言葉だろうけれど、今はただこんな凄い人に認められたのだとむしろ誇らしく感じられる。
(全く、どうしようもなく捻くれてた……というよりよほど新しい居場所を奪われるのが怖かったんだな俺……きっとアイダはもっと……生まれ故郷という居場所を失うのはきつかっただろうなぁ……)
あれだけのことがありながら、もう笑顔で武器を回収しに行っているアイダ。
やはり年相応の女の子にしか見えないけれど、それでも尊敬に値する強い人だとも思えた。
(こんな素敵な二人の女性からの信頼……もう二度と裏切るものかっ!!)
そのためにも自分を認めていき、ウジウジした性格とはお別れしなければならない。
まして年下の少女を……同じギルドで働く仲間へ一方的に甘えるような真似からはもう卒業しなければ。
(今までずっと駄目な後輩の面倒を見てくれて……本当にありがとうございましたアイダ先輩……だけどもうそんな思いとは決別しますから……これからは仲間としてよろしく、アイダ……)
心の中で最後にアイダ先輩への感謝を告げた俺は、これからは対等な仲間としてアイダと関わって行こうとはっきり決意するのだった。
*****
「レイドぉ~っ!! 剣取ってきたよぉ~っ!!」
「どうぞレイドさんっ!!」
「ありがとう二人とも……だけどこれはアリシアに……」
『私はこっちの剣で十分 レイドに使って欲しい』
今更家宝の剣を使える立場にないと思う俺は、アリシアへと返却しようとするが彼女は首を横に振るばかりで受け取ってくれなかった。
(確かに戦力で考えれば、鎧はともかく剣は俺が持ってたほうがいいよな……アリシアは攻撃力に関しては問題ないし……だけどなぁ……)
あの鎧をアリシアが身に着けてさえいれば、彼女は常に全力で戦える状態を維持できる。
それでも万が一を思えば俺も戦力に成れるよう、この剣を持っておくべきだと頭では理解しているのだ。
だけどどうしても、今の俺にはその剣を振るう資格はないように思えて仕方がない。
「気持ちはありがたいけど……君の想いを踏みにじってしまった今の俺はこの剣を振るうのは相応しくない男だから……」
『そういうことを言っている場合ではない 万が一に備』
「ああっ!?」
「うわっ!?」
俺の言葉へ冷静に反論しようとしたアリシアだが、途中で何かに気付いたように筆を止めると彼方の空を睨みつけた。
同時に俺たちもそれに気づき、思わず驚きの声を洩らしてしまう。
(な、なんだあの数っ!? 空と地平線を覆うほどの……魔獣と魔物の群れっ!?)
数えきれないほどの魔物と魔獣が、元ビター王国の奥地からこちらに向かって攻め寄せてきている。
「くっ!? 気づかれたのかっ!?」
「な、何あの数ぅっ!? ま、まだあんなに居たのぉっ!?」
「あ、あれだけアリシアさんが倒した後だというのにっ!? ど、どうしますか皆さんっ!?」
『私が迎撃する レイドは他の皆を守りながら後退して』
「なっ!? だ、駄目だっ!! 君だけを置いて行けないっ!!」
迎え撃つ気満々なアリシアだが、流石にあれだけの数が相手となると幾ら何でも勝ちきれるかは分からない。
(単純な戦力なら圧倒的に勝ってるけど……もしもあいつらが消耗戦を仕掛けてきたら……若しくはあの惑木樹型みたいに搦め手で攻められたりしたら幾らアリシアでも……っ!!)
恐らくアリシアもそれぐらいは理解しているはずだ。
だけどその上で俺たちが逃げ切るまでの時間稼ぎをしようというのだろう。
『そんなこと言ってる場合じゃない あの数だと皆を守りながら戦うのは不可能 だけど空を飛べる奴が居るから誰かが殿にならないと逃げきれない』
「そ、それは……だけど駄目だっ!! 俺は君を見殺しには出来ないっ!!」
叫びながら俺は公爵家の家宝の剣を持ち、アリシア達を庇うように前へと進み出た。
「それよりもアリシアっ!! 君が高速移動魔法を使って皆を連れて避難……いや援軍を呼びに行ってくれっ!! 俺が使うより君の魔法の方がずっと速いっ!! だから……」
『駄目絶対駄目レイドだけを置いて行けない』
「ど、どっちも出来ないよぉっ!! レイドもアリシアさんも一人で無理しちゃ駄目ぇっ!! 僕たち仲間でしょっ!! 少しは頼ってよっ!!」
「ま、任せてくださいっ!! これも私の国の責任ですからっ!!」
「……っ」
そんな俺に縋りつくような視線を向ける三人……誰一人として避難しようとはしなかった。
その仲間意識はありがたいけれど、だからこそ余計に困ってしまう。
「だ、駄目ですよっ!! それこそ全滅しかねない……誰かがこの事態を報告して援軍を呼ばな……っ!?」
『だから私が残るのが確実 絶対死なないようにして見せ』
「だ、駄目だってばぁっ!! それより皆で協力して……っ!?」
「も、もしくは皆で逃げる方法を考……っ!?」
だんだんと迫る魔獣の脅威を前に叫び合う俺たちだが、その瞬間凄まじい閃光が遥か彼方に浮かぶ魔獣たちの中心を貫いた。
「「「「っ!!?」」」」
魔獣に触れた閃光は途端に大爆発を引き起こし、余りの威力に俺たちの元まで轟音と爆風が届いてくるほどだ。
そんな威力が直撃した魔獣達は一瞬で蒸発し、余波を受けただけの奴もまたあれだけの強度が嘘のように、まるでゴミか虫けらのようにボトボトと地面へと落ちていく。
(な、なんだっ!? 何が起きて……っ!?)
余りの事態に訳が分からず固まった俺たちだが、その背後から何か巨大な質量が迫る騒音が聞こえてきた。
「ドゥルルルルルルっ!!」
「なっ!? ど、ドラゴンっ!?」
耳が痛いほどの咆哮を上げ暴風をまといながら、俺たちなど眼中にないとばかりに無視して飛び越えていくドラゴン。
それだけで吹き飛びそうになった俺たちが、何とか地面にはいずり踏ん張る中でドラゴンは真っ直ぐ魔獣達の群れへと飛び込んでいった。
しかしまだまだ残っている魔獣と魔物の群れは、俺たちとは違い殆ど動揺した様子も見せず即座にドラゴンへと攻撃を仕掛けていく。
「えっ!? えぇっ!? な、何がどうなってるのこれぇっ!?」
「な、なんでドラゴンが魔獣と……?」
『あのドラゴンは前に見た奴か? しかし何がどうなっている?』
皆の困惑した声が聞こえてくるが、俺もまた現状を理解できないでいた。
(一体何で魔獣とドラゴンが争ってるんだっ!? それにあの魔獣達もどうしてビビりもしないで迎撃できるっ!? まるでこの襲撃が分かってたみたいじゃないかっ!? いや、だけどこれは好都合だっ!!)
「い、今のうちに逃げましょうっ!!」
「あっ!! そ、そうだねっ!! そうしようっ!!」
「そ、そうですねっ!! 今なら逃げられそうですしっ!!」
『わかった』
俺の提案を誰も否定することなく受け入れてくれて、アリシアが即座に高速移動魔法を発動させる。
そして改めて転移魔法陣のあるマースの街を目指して走り出す中、最後に一瞬だけ後ろを振り返った。
「ドゥルルルルルルっ!!」
全方位から魔獣達の攻撃を受け止めながらも意にも介さずここまで聞こえるほどの咆哮を上げながらドラゴンが旋回して見せる。
途端に雲をもかき乱すほどの巨大な竜巻が発生して、魔獣達を紙きれのように引きちぎり吹き飛ばしていく。
(やっぱりドラゴンは桁が違う……あれなら勝てる、のかな……?)
尤もどちらが勝つかなど気にしても仕方がない……俺は今度こそその光景に背中を向け仲間たちと共に安全な場所を目指して走り出すのだった。