最低で最悪な戦い……そして先輩との決別⑥
バルもまたアイダと同じく樹木に手を引かれていたが、こちらは俺たちに近かったからアリシアが即座に対処してくれた。
「あぁっ!? あ、アリシアさん村の人達に何……ぐぅっ!?」
身体に絡みつく蔓や根を切り裂き、それでも幻覚に囚われて抵抗しようとしたバルを一時的に気絶させてこちらへと連れてくる。
『じゃあアイダさんを助けに行ってくる』
そして俺にバルを預けて一人でアイダを助けに行こうとするアリシア。
魔力が付きかけで幻覚に抵抗するだけで精いっぱいな俺は歩くことも覚束ない。
だからアリシアはそんな足手まといにしかならない俺にバルを任せて、一人で迅速にアイダを救いに行くつもりなのだろう。
「アリシア……俺も……っ……連れて行ってくれ……頼む……っ」
頭ではその判断に従ったほうがいいと分かっていたけれど、気が付いたら頼み込んでいた。
(ずっと俺を助けて支えてくれていたアイダ先輩の危機に……こんなところで休んでいられない……っ!!)
バルを背負いつつ、強引に剣を地面に突き刺して身体を支える俺をアリシアは邪魔者を見つめるような目で見下してくる。
前なら衝撃を受けるところだろうけれど、今ならこんなものはただの幻覚だと……アリシアがこんな目で俺を見るわけないと自信を持って言い切ることが出来た。
(思いのほか、感覚が蝕まれてるな……だけどこれぐらいアイダ先輩の辛さに比べたらどうってことないっ!!)
「頼むアリシア……も……っ……もしも邪魔になりそうなら気絶させていいから……お、俺にもできることがあるかも……だから……」
『わかった だけど無理はしないで』
相変わらずアリシアの顔は俺を邪険にしているように見えるが、身体を支えながら優しく指で肌をなぞり直接文字を書くことでその本当の意志が伝わってくる。
恐らく今アリシアは俺を心配するような目で見つめているのだろう……だから安心させるように、何とか笑みを浮かべて見せる。
「わかってる……もう無理はしな……っ……ただ、出来ることがあるなら……やりきり……っ……たいんだ……」
「……」
その言葉を聞いてアリシアがどう思ったのか、幻覚に囚われている俺にはわからなかった。
だけど俺が歩きやすいよう手を貸しながら、早足でどこかへと進み始めた。
そんなアリシアの補助の元、俺もふら付く足でバルを背負いながら転ばないように必死で着いていく。
「す、済まない……っ……ま、間にあう……か?」
『大丈夫 向こうもそこまで早くない あの魔獣達を倒してから動きが鈍くなっているから』
「そ、そうか……なら……っ……」
どうやらリーダー格の魔獣を倒したことで、樹木の反応が鈍くなっているらしい。
尤ももう目の前もふら付いている今の俺には、それすらろくに見えないのだが。
(ああ……くそ……目の前が霞んで……ところどころに村人が……笑い声も……幻聴まで……本格的に蝕まれてきたな……っ)
時折アリシアが無詠唱で状態異常回復用の魔法をかけてくれているが、段々と状況把握が難しくなってくる。
それでも現状を忘れないためにも理性だけは保とうと努めている俺の皮膚を、またアリシアの指先がゆっくりとなぞり始める。
『止まった 大きめの廃墟の中に隠れるように太い樹木が生えていて そこから根っこと蔓が伸びてアイダさんの手に絡んで引き寄せている』
「そ、そうか……っ……じゃ、じゃあそいつが本体……なら倒して……っ……」
『本体が大きいから一気に切り捨てたりするのは難しい 魔法で焼却するのが確実だろうけど、アイダさんがくっついてて攻撃できない』
「っ!?」
意識が朦朧とする中で、顔を上げると確かにアイダが太い樹木に抱き着き、自らの身体に伸びる根や枝葉へ愛おしそうに手を伸ばしている。
あそこまで密着していては、どんな攻撃をしようとも巻き添えになってしまうことは明白だ。
(くっ!? 他の魔獣がやられたから保身に走ってるのかっ!? アイダ先輩を盾みたいに使いやがってっ!!)
果たして樹木の魔獣には意識があるのかどうかは分からないが、少なくとも幻覚を見せて引き寄せている時点で何かに利用しようとしているのは確実だろう。
だからこそ今すぐにでも助け出してあげたい衝動に駆られるが、幻覚への抵抗が負担になっているようで俺の身体は思ったように動かなかった。
「ふふふ、ほらほら見てよ皆ぁ……可愛いでしょぉ僕のおとーと達……レイドもこっち来て抱っこして見ない?」
そんな俺の耳にアイダの無邪気で楽しそうな声が聞こえてくる。
皮肉にもここの所、俺のせいで曇っていた彼女は幻覚に囚われたことで久しぶりに笑えているようだ。
(アイダ先輩がこんな幻覚に囚われたのは生まれ故郷で幻を見せられたから……だけじゃなくて、俺のせいで精神的に弱っていたのもあったのか?)
自分がまさに蝕まれている最中だからこそわかるが、幾ら幻覚に囚われたとしてもすぐに理性がなくなるわけではない。
そしてアイダはとっくの昔にこの村や家族が失われている現実を受け入れていた……だから本当なら幻惑に囚われた直後に少しぐらい困惑しなければおかしいはずだったのだ。
(だけどアイダ先輩は一切抵抗することなくすぐに幻覚を受け入れた……それだけ精神的に追い詰められていて……夢に逃げ出したかったんじゃないのか?)
改めて目の前が霞む中、必死でアイダの方を見つめる俺。
虚ろな瞳で、だけど何かを抱きかかえるような姿で微笑むアイダの姿は年相応の幼い少女にしか見えなかった。
当たり前だ……実際にアイダは俺よりずっと幼い少女なのだから。
(何が強いだ……アイダ先輩は必死で俺を支えようと虚勢を張って頑張ってくれていただけじゃないか……それに気づきもしないで甘えて……アイダ先輩をここまで追い詰めたのは俺のせいでもあるんだ……)
本格的にアイダの心を追い詰めたのはあの日記に書かれていた内容だろう。
だけどもしもそこで俺が対等な仲間として……頼れる男だったら、もっとはっきりと泣きついたりしてアイダは甘えられて少しは落ち着けたはずなのだ。
それこそ傷付いていた俺がアイダにたくさん色んなことをしてもらって、救われたようにだ。
「……アリシア……気絶させてでも引きはがして……頼む……アイダ先輩を助けてあげてくれ……」
『わかった』
幻覚に囚われながらも幸せそうに微笑むアイダをこれ以上見ていられなくて、アリシアに懇願するように呟いた。
すぐ肯定したアリシアが、俺を置いて一歩踏み出そうとして……再度俺を抱きかかえた。
『駄目だ 私が近づくと警戒する』
「っ!?」
アリシアが俺に状態異常回復用の魔法をかけながら、もう一度近づいて見せる。
すると確かに、アリシアの接近に反応するように枝葉が激しく動き……アイダの身体に鋭く尖った先端を突き付けた。
(やっぱり意識してやってるのかっ!? アイダ先輩を人質扱いするなんてっ!!)
これではどうしようもない……かといってこのまま現状を維持していても何にもならない。
むしろ先ほど倒した魔獣の言葉を思い出すと、下手に時間をかけると仲間の魔獣が駆けつけて来かねず危険ですらある。
(ど、どうすれば……くそっ!! いったいどうすればっ!?)
「どーしたのレイドぉ? 早くこっちおいでよぉ~……だいじょーぶ、皆レイドのこと気に入ってくれるよ……」
「……っ!?」
再度アイダから声をかけられて、こんな風に彼女を利用している樹木に対する怒りが湧き上がり……同時にあることを思いついた。
(この提案に乗ったら……幻覚に囚われかけている俺なら近づけるんじゃないか?)
恐らく樹木は人質を増やしたいと思ってアイダに呼びかけさせているのだろう。
その証拠とばかりにピンピンしているアリシアや気絶しているバルには全く話しかけようともしないではないか。
(惑木樹は元々、あらゆる生き物を惑わしてから引き寄せる習性があった……だから幻惑に囚われていない奴を警戒してるんじゃ……そう言えば鎧を着ていた俺は攻撃されたけど、惑わされていたアリシアには攻撃をしようとはしなかった……何より実際にアイダの接近には一切反応を示さなかったじゃないか……)
そこまで考えたところで、俺は軽く深呼吸してからアリシアにそっと耳打ちした。
「アリシア……今から俺はわざと幻覚に囚われて……っ……あいつに近づく……それで抵抗されないようなら隙を見て……アイダ先輩を助け出……っ……すから……そしたらすかさず攻撃を……っ」
『駄目 危険すぎる』
俺の提案を即座に否定するアリシア……その指先に込められた力が強く感じたのは気のせいじゃないだろう。
(心配されてるんだよな……全く俺は、人に心配ばっかりさせて……だけどこれだけはやりきらないと……俺を救ってくれたアイダ先輩を見捨てるような真似だけは出来ない……)
「ありがとうアリシア……いつも俺のことを想ってくれて……だけどアリシア……信じてくれ俺を……絶対やり遂げて見せるから……」
「っ!?」
まっすぐその顔を見つめて……やはり表情は良く分からなかったけれどそれでも目を逸らさずはっきりと見据えて頷きかけた。
向こうもまた俺の方へ顔を向けてきて、少しの間見つめ合ったかと思うとそっとアリシアは俺から手を離した。
『レイド 信じてる』
「っ!?」
その際にさっと伝えられた文字に少し驚くが、すぐに笑顔を浮かべて俺ははっきりと頷いて見せた。
そして改めて手に持ったただのロングソードを地面に突き刺して、杖代わりに身体を支えながら思いっきり深呼吸する。
途端に花粉か何かが体内に入ってきて、目の前が点滅したかと思うと足元がふらついて転びそうになった。
それでも必死で剣を握り締めて堪えて顔を上げると、幸せそうに微笑む人々の姿が目に飛び込んでくる。
「ふふ、もうこの子ったら……そんなにはしゃいでどうするのかしら?」
「えへへ~……だってぇ、レイドにおとーと達を紹介したかったんだもぉん……」
母親と思しき女性にすり寄りながら、アイダはその両手に小さい弟と思しき子供をしっかりと握りしめていた。
(ああ……アイダ先輩の家族ってこんな人達だったのか……ふふ、会えてよかった……じゃ、じゃないだろっ!?)
余りに幸せそうな光景に、一瞬現状を忘れて浸りそうになる。
そんな自分を叱咤しながらも、少しずつアイダへと近づいていく。
果たして現実がどうなっているのか、もう今の俺にはわからないが少なくとも攻撃を受けることはなかった。
(よ、よし手が届くところまでたどり着いた……後は弟を抱っこさせてもらって……ち、違うアイダ先輩の手を……だけど弟と手を繋いでるから今はまだ……くそ……思考が……アイダ先輩を助けないと……だけど、どうすれば……っ!?)
ようやくアイダへと接近できた俺だが、もうその頃にはかなり幻覚に取り込まれてしまっているようで思考が上手くまとまらなくなっていた。
それどころかこの状況を微笑ましく思ってしまい、むしろ俺まで浸りそうになってしまう。
(だってアイダ先輩が……あんなにも幸せそうに笑ってるんだから……邪魔したら悪いよな……)
家族と共に笑っているアイダの姿は、今まで見てきた中で一番リラックスして落ち着けているように見えた。
両親に囲まれて安心しきって甘えているアイダ……少なくとも俺の前では全く見せられなかった顔だ。
(ずっと俺が甘えてきたもんな……先輩先輩って……まるで姉に接するみたいに頼って……だけど本当はアイダ先輩もこうして誰かに甘えたい時だってあったはずだ……なのに俺は……)
「ふふふ、やっと来てくれたぁ~……皆ぁ紹介するねぇっ!! この人はレイドって言ってねっ!! ぼーけんしゃギルドで一緒に働いてる仲間なんだよぉ~っ!! 魔法も使えるし剣も強いしすっごいんだよぉっ!!」
「い、いや俺なんかは……初めて会った時からアイダ先輩には色々教わってばかりで……本当にお世話になりっぱなしで……」
「もぉ、そんなことないったらぁ~……大体初めて会った時もレイドが助けてくれなかったら僕はもー駄目だったかもしれないんだよぉ?」
アイダの微笑みに合わせるように家族も皆が笑顔を浮かべて、俺を見つめてくる。
「ありがとうレイド……それからもずっと傍に居てくれて……すっごく嬉しかった……だから今度は僕が傍に居るからさ、もっとこっちに来て……」
「あ……アイダ先輩……」
俺を誘うアイダの声に従って、一歩踏み出そうとしたところで弟と思しき子供が声を上げる。
「あ、あの……その怖いの置いて……」
「えっ!?」
「て……手に持ってるそれ……ほ、他にも何か持ってたら……」
「あ、ああ……」
そこでようやく俺は剥き身のロングソードを持っていることを思い出した。
慌てて腰に下げ直して、次いで他に何か持っていたか思い出しながら身体をまさぐる。
(へ、変なもの持ってたっけな……怯えさせるような物……頭がフワフワして思考が定まらないから上手く思い出せないけど……何も無さそ……?)
そこで何故かポケットからメモ帳の切れ端と思しきものが出てきて、中に書かれている文字を見て首をかしげてしまう。
『&$% %&+@*』
全く内容を理解できなくて、何でこんなものを取っておいたのか不思議に思いながら必死に記憶を思い返す。
(わざわざポケットに入れてあるってことは取っておいたってことだよな……それも多分最近……一体どこで……?)
「どーしたのレイド?」
「あ……いやその……このメモ書きが気になって……」
「ふぅん……けどそんなのどーでもいいでしょ? 早くこっちおいでよぉ?」
「え……い、いや……アイダ先輩?」
俺が悩んでいるのにそれをどうでもいいと言い放つアイダ。
その姿に違和感を覚えた俺は、さらに頭の中が混乱するのを感じた。
「それより、早くこっち来ておとーと達を抱っこしてあげてよぉ~」
「れ、レイドお兄ちゃん……抱っこぉ……」
「あ、ああ……そ、そうですね……」
アイダに誘われて何かが不味いと思うが、同時にすぐにでも言う通りに近づかなければという思いも湧き上がってくる。
(今までアイダ先輩の言う通りにして間違えたことなんかなかったよな……どうせ俺の判断なんか間違えるに決まって……いや何自分を卑下してるんだっ!? そうしないって誓っただろっ!? 俺を信じてくれている人に悪いからっ!! だから……あっ!!)
またしても自虐しようとしたところで、ようやく少し前に固めた決意を思い出した俺は改めて元にあるメモを見返した。
『レイド 信じてる』
(ああ、そうだっ!! アリシアもギルドの皆も……アイダ先輩だって俺を信じてくれてたじゃないかっ!! そんな俺がこんな様でどうするっ!? くそっ!! だけど思い出したぞっ!!)
完全に幻覚へ捕らわれていた俺だが、ようやくその言葉と共に正気を取り戻すことができた。
そしてやることもまた思い出した俺は、未だに家族の元で安堵しているアイダに心を痛めながらも手を伸ばす。
「アイダ先輩っ!! こっちに来てくださいっ!!」
「えっ!? れ、レイドっ!? どうしてっ!?」
「これは全部幻覚ですっ!! アイダ先輩っ!! 惑わされないでっ!!」
叫びながら手を伸ばした俺を見て、アイダは嫌々するように首を横に振りながら家族へとしがみ付く。
「な、何言ってるのレイドっ!! こんな風に触れて声も聞こえるのに幻覚なわけないよっ!! 変なこと言わないでよぉっ!!」
「本当ですアイダ先輩っ!! お願いだからこっちへ戻って……っ!!」
「い、嫌……嫌だ嫌だ嫌だぁあっ!! やっとここへ戻ってこれたんだもんっ!! 家族が戻ってきたんだもんっ!! もう二度とこの手を離したりできないよぉっ!!」
ギュっと弟の手を握り締めるアイダの姿に、前に語ってくれた過去の話を思い出す。
(弟の手を離したせいで別れたって言ってたよな……ずっと苦しかったんだろうな……だからあんなにも俺から離れないようにくっついて……もっと早く俺が気づいて支えてあげていれば、こんなにも深く幻覚に惑わされたりしなかったはずなのにっ!!)
アイダの傷を弄び利用する魔獣に対する怒りがより深くなる。
だけど今は彼女をどうにかして引き離さなければならない。
「アイダ先輩……貴方の家族はもう昔に……それはアイダ先輩が一番……」
「止めてよぉっ!! それよりレイドがこっちに来てよぉっ!! 傍に居てくれるって言ったじゃんっ!! お願いだからぁああっ!!」
「っ!?」
俺に懇願するように叫ぶアイダ……或いはこんな風に俺にお願いするのは初めてかもしれない。
出来ることならば叶えてあげたい……だけど今は駄目だ。
(ずっと弟みたいに見られてたから、こんな風に頼られることはなかったもんな……だけどこんな正気を失ってる時に言われても応えるわけにはいかないんだよっ!! くそっ!! どうすればいいっ!? どうすれば俺の言葉が届くっ!? やっぱり弟扱いされてる俺じゃ本当の家族だと思ってるやつの言葉には敵わないのかっ!? だとしたら……っ!!)
家族としての絆で引き寄せられている今のアイダをどうすれば説得できるのか必死に考えた俺は、しっかりとアイダを見据えながら手を伸ばし改めて……叫んだ。
「頼む、俺の手を掴んでくれ……アイダっ!!」
「っ!?」
初めて俺に呼び捨てられたアイダは、びくりと身体を震わせながら目を見開いて俺を見つめてきた。
(弟みたいな立場の呼びかけで駄目なら……対等な仲間としての立場で呼びかけるしかないっ!!)
果たしてこれで上手く行くとは思えない……だけどこれ以外に何も思いつかない。
(アイダ先輩……いやアイダは少し前から先輩って呼ぶのを止めてって言ってた……最初は照れ隠しだと思ったけど、あれは俺と対等な関係になりたいという思いからだったんじゃないのかっ!?)
出会ったばかりの頃は俺の精神が死んでいたから、少しでも甘えられるように先輩として振る舞ってくれていた。
だからある程度俺が立ち直って親しくなってからは対等な仲間として呼んで欲しいと願って……だけどアリシアが来てまた俺が取り乱したからアイダは再度先輩として無理して振る舞っていたのではないか。
(この考えがあってるかどうかは分からない……だけどこれがアイダの望みなら少しは気持ちが楽になって……こっちを見てくれるかも……お願いだアイダ、俺を見てくれっ!!)
「れ、レイド……で、でも僕……僕……っ」
「俺を信じてくれっ!! アイダっ!!」
「っ!!?」
再度叫んだ俺の言葉を聞いて、アイダは今度こそ顔色を変えると自らを見つめる家族と両手で握りしめている弟たちへ視線を投げかける。
「お姉……ちゃん」
「姉ちゃ……」
「……あぁ……ああぁあああああっ!!」
「アイダっ!?」
アイダは絶叫するような悲鳴に近い声を上げながら頭をかき乱し……それでも弟の手を振り払うと俺の方へと駆け寄ってくる。
そんな彼女が伸ばした手をしっかりと握りしめ、引き寄せると自らの腕の中に抱き寄せた。
途端に逃すまいと樹木が枝葉を伸ばす音が聞こえたが、その前に俺たちの後ろにいたアリシアが飛び掛かる。
「っ!!」
即座に俺たちに迫る枝葉を切り払うと、本体を魔法で焼き尽くした上で幻覚を解いてくれる。
「うぅ……うわぁああああああんっ!!」
そして廃墟と化した建物の中で号泣し始めたアイダを、俺は優しく抱きしめて背中をさすり続けるのだった。
「ありがとうアイダ、俺を信じてくれて……そしてごめん……こんな辛い決断をさせて……俺でよければ幾らでも胸を貸すから……」
「うぅっ!! うぐぅうううっ!! れ、レイドぉっ!! ぼ、僕……ほ、本当は……け、けど僕……うぅっ!! あぁああああああっ!!」