最低で最悪な戦い……そして先輩との決別⑤
何故かアリシアの持っていた剣で放った一撃は、樹木の一部をも切り裂くことが出来ず弾かれて表面を滑っていく。
「えっ!? ぐっ!?」
迎撃に失敗したことで再度直撃した一撃は鎧が完全に無効化してくれた。
しかし代わりにごっそりと魔力を奪っていき、枯渇しかけたことでその場に崩れ落ちそうなほどの疲労に襲われてしまう。
(な、何で切り裂けなかったっ!? ま、まさかっ!?)
反射的に剣の柄尻を見比べて、アリシアが持っていた物には家紋が刻まれていなかったことに気が付く。
(こ、これは……あ、アリシアはやっぱり俺に家宝の剣をっ!? だからこんなにも切れ味に差がっ!? な、何でそんなものを俺にっ!? だってこれは公爵家の当主だけが……あっ!?)
混乱する俺にさらに樹木の攻撃が迫り、咄嗟に躱したものの注意力を欠いていたせいで地面を這う蔓を避けきれなかった。
絡みつく蔓に足を取られて転んだところで樹木の攻撃が迫る。
「くぅ……っ」
咄嗟にアリシアに貰った剣で切り払おうとするも、もはやこれ以上抵抗したところでどうにもならないと悟ってしまう。
仲間の助力は得られそうになくて、俺は孤立している上に魔力も失いつつあり、使える武器は増えず、おまけに敵は魔獣クラスが四体。
仮にこの場を凌いだところでそのまま押し負けるのは目に見えている……そう理解してしまった俺は気力すら失われて、迫りくる根をぼんやりと眺めることしかできなかった。
(はは……やっぱり俺じゃあ何も……皆、ごめん……バルさん……アイダ……アリシア……それにこんな俺を受け入れてくれたギルドの皆も……)
絶望が胸に去来して、途端にまるで走馬灯のように過去の記憶が脳裏に浮かび上がる。
両親の顔にアリシアとの出会いと別れ、そして生まれ故郷で居場所を失い追い出されるように逃げ出した日。
どこに行っても受け入れられず、誰も居ない未開拓地帯へと足を運び今のように死すら覚悟して……アイダという少女に出会った。
(はは……あの時のアイダは俺の強さを全く知らなかったから、何を言っても全然信用されなくて……だけど魔獣を倒して力を見せたことでようやく認められて、それでギルドやあの町の人達に受け入れてもらえ……あれ?)
何もかも諦めて懐かしの記憶に浸っていたところで、ふと違和感を覚えた。
(いや、何もおかしくないよな? 俺は魔獣を倒して力を自他ともに認められるようになって、それでギルドの人達は受け入れてくれて居場所を……っ!? い、いや違うだろっ!! あの人たちは俺が強いから受け入れてくれたわけじゃないっ!!)
改めてアイダと初めて会った時のこと、そしてあの町の人達に思い返す、
確かに当時、俺の強さを知らなかったアイダやギルドの人達は行動を規制するような発言を繰り返した。
だけどそれは俺のことを心配してくれていたからで、決して認めていなかったわけではない。
むしろ行く場所のない俺を……何の才能も無いと自虐して後ろ向きだった俺のことを優しく迎え入れてくれたじゃないか。
(そ、そうだ……誰も俺が強いからって理由で……魔物に勝てるから受け入れてくれたわけじゃない……なのに俺はっ!?)
自分の愚かすぎる勘違いに、今更ながらに愕然とする。
あの時、魔獣を倒したことで初めて自分の力を受け入れられた。
そして仮にも正規兵にも倒せない相手を倒したことで、これが俺のとりえなのだと思い込んでしまったようだ。
(生まれ故郷で居場所を失って追い出されたのがトラウマになってたのか俺は……ああ、だからやっと受け入れてもらえた場所を失いたくなくて……俺は絶対に皆から嫌われない理由を求めて……そうか……俺はいつの間にか自分があのギルドの誰よりも強いということを拠り所にしてたのか……皆が俺の強さを頼ってくれるのを……あぁ……)
俺は下手に自分の実力だけを認めたせいで、いつの間にか皆より強いから受け入れてもらえていると勘違いするようになってしまっていたのだろう。
(本当に俺は愚かだ……力が無ければ皆は俺を見捨てるような奴だと思っているようなもんじゃないか……そんなの皆を侮辱するような考え方をしてどうする……大体皆努力して自分が出来ることを鍛えて、俺に無理させないように支えてくれようとしているのに……アリシアにもだ……)
アリシアと再会した時のことを思い出す。
全身返り血と臓物塗れで、髪の毛も全て色が抜け落ちるほど披露しきってまで俺に会いに来てくれたアリシア。
そして再会してからは謝罪を繰り返し、必死で献身的に尽くして皆のために身体を張っている彼女に俺は辛く当たってしまった。
何であんな態度をとってしまうのか、自分でも理由が分からなかったけれど今なら分かる……俺は彼女を無意識のうちに居場所を奪う敵だと思っていたのだ。
強さだけが取り柄だと思い込んでしまっていたからこそ、俺は自分より強いアリシアを見て……やっとできた居場所を取られてまた追い出されるのではないかと怯えてしまった。
そんな脅威を不安を無意識のうちに感じていてはアリシアに対する感情が定まるわけがない。
いや、むしろアリシアへの想いが混乱していることも混ざって余計に訳が分からなくなっていたのかもしれない。
(本当に馬鹿だな俺はっ!! 俺を受け入れてくれた皆だけじゃない……こんな俺を必死で追いかけてきたアリシアの気持ちまで踏みにじって……どこまで屑なんだ俺はっ!!)
多分こんな俺の内心を、皆も何となく理解してくれていたのだろう。
だから誰よりも近くに居て、アリシアとも話したアイダは必死について来てくれて……トルテたちは俺が敵視しているアリシアへ逆にどう反応していいかわからなくなってしまったのだろう。
いやそれだって俺が変な感情に振り回されずに、あの場でどんな関係かちゃんと説明していれば……もっと言えばあそこでアリシアが皆と交流する時間ぐらい取っていればよかったのだ。
(そう言えばアリシアをギルドの誰にもちゃんと紹介してない……逆にアリシアにもギルドの人達のことを教えてない……その時間を作るのは両者を知る俺の役目だったのに、自分のことしか考えられないからアリシアが自己紹介する時間すら作ってやらなかった……)
あの混乱は全て俺のせい……いや、俺が俺を信じきれなかったせいだ。
自分に本当の意味での自信が無いから人が向けてくれる信頼に理由を求めてしまって、それが失われないかだけに怯えて自分のことばかり考えてしまった。
『レイド 信じてる』
ふと前に俺の元へと届いた紙を思いだす……あそこには何と書いてあった?
俺を信じている、だ……俺の強さを信じているじゃない、俺という人間を信じてくれているのだ。
(アイダもトルテもミーアも……アリシアだってそう言ってくれていたのに……あの町の人達も戦ってる俺じゃなくて掃除している俺に笑顔を向けてくれていた……なのにいつまで俺は俺を認めない気だっ!?)
「あはははぁ~っ!! そのまま動きを封じて倒れるまで叩きまくっちゃえぇ~っ!!」
「……っ」
リーダー格の魔獣の言葉が呼び水となり、俺の意識が現実へと立ち返る。
目の前に迫る根をはっきりと見据え、手の中にあるアリシアから預かっている家宝の剣で切り捨てる。
次いで自らの足を拘束する蔓も切り捨て、身体を起こして周りを見回す。
(仲間は皆行動不能、魔獣クラスの敵が四体、どいつもこいつも家宝の剣じゃないと切り裂けない、しかもうち二体は空を飛んでいて剣は届かないし惑木樹に至っては根本がどこにあるのか探す余裕もない……おまけに魔力は付きかけで使える武器は右手の一本だけ……状況は何も変わってない……だけど、それがどうしたっ!!)
状況は絶望的だが、そんなのは諦める理由にはならない。
まだ出来ることはある、ならば足掻くだけだ。
(自分で自分を信じられなくてどうするっ!! 俺ならできるっ!! 皆が信じてくれている自分を信じろっ!! 俺なんかじゃ無理だとか二度と考えるなっ!!)
俺なんかを信じてくれいる人を失望させないためにも、今度こそ自分を卑下するのを止めようと決意する。
その上でこの目の前の状況を何とかするべく……俺を認めてくれているアイダやアリシアを助けるためにも頭を回転させる。
(等身大の俺を知ってなお、受け入れてくれる二人を……大切な人達を失ってたまるかっ!! 考えろ俺っ!! アリシアに追いつくためにどれだけ挫折しようとも諦めずに努力し続けて出来ることを増やしてきたじゃないかっ!! あの諦めの悪さはどこへ行ったっ!?)
「あららぁ~? まだまだ元気いっぱぁい? だけどそっちの剣にさえ警戒すれば平気っぽいしぃ~……」
起き上がった俺を呆れたように見つめながらも、先ほどの一撃から冷静に判断を下したリーダー格の魔獣。
どうやらこいつは今まで戦ってきた奴らよりはずっと戦い慣れしているようだ。
その証拠に前の魔獣は咆哮中動けなかったというのに、こいつは背中の手で樹木に指示を出しながらもにじり寄ろうとしてくる。
(このままこいつが近づいてきて二体から同時に攻められたら、アリシアならともかく俺の実力じゃあどうしようもない……だけどそれがどうしたっ!! 強さが俺の全てなのか……違うだろっ!?)
確かに戦闘能力は俺の数少ない取り柄だ……だけどそれが俺という人間の全てじゃない。
情けなくてウジウジしてて後ろ向きで、だけど努力して苦労して修行して出来ることを増やしていった。
そして新しい町について色んな人と出会って、少しずつ前向きになって……そう言った性格や経験、全てをひっくるめて俺だ。
(考えろっ!! 俺の力を活かす方法じゃなくて、俺という人間の全てを出し切る方法を……自分だけでつみあげた努力だけじゃなくて他の人から預かった力もっ!! この剣や鎧……それにマナさんには魔力の使い方を教わったしフローラさんやマキナ殿からは道具……っ!?)
そこで懐に入っている自動回復する効果のある粉の存在を思い出す。
その上で改めて周りを見回して、お互いの位置関係を把握して……ようやく俺がすべきことに気が付いた。
「じゃあ観念してぇ~……っ!?」
「はぁあああっ!!」
リーダー格の魔獣が攻めかかってくる前に、俺は後ろから迫る樹木の攻撃を切り払いながら少し前に出ると、剣を仕舞い懐から例の粉を全身に振りかけた。
そして……深呼吸して息を止めながら鎧を脱ぎ捨てにかかる。
(このまま着ていたら残り少ない魔力も持って行かれるっ!! 魔法が使えるうちが勝負だっ!! 息を止めて惑木樹の花粉を吸いこまなければ……歌だけならアリシアのように耐えられるはずだっ!!)
「な、なにをぉっ!? や、やっちゃってぇっ!!」
『オォオオオっ!!』
「っ!?」
俺のまさかの行動に驚きながらも、冷静に樹木へ攻撃の指示を飛ばす魔獣。
咄嗟に身を捻り掠るだけで済ませると、その傷が粉の効果で即座に塞がっていく。
おかげで何とか致命傷を受ける前に鎧を脱ぎ捨てた俺は、落ちた場所を確認してからこちらに迫る枝に背を向けて、目の前にいるリーダー格の魔獣に向かって走り寄る。
その際に一瞬クラっとして、念のために状態異常治療用の魔法をいつでも唱えられるよう準備しておく。
尤も予想通り耐えれているらしく、何とか魔獣たちの居場所は見失わなくて済んでいた。
『うわぁ~……これは適わないやぁ~……降参しようかなぁ~?』
そんな俺を見てリーダー格の魔獣が口を開いたが、聞こえてくる声と口の形が一致しない。
どうやら歌の効果で聴覚の方は狂っているらしい……しかしとにかく位置さえ理解できていれば問題ない。
(魔力は温存できてる……これなら数回は魔法を使えるはずだ……後は上手く行くかどうか……いや、やり遂げて見せるっ!!)
自分自身に言い聞かせながら、唯一剣が届く地上にいるリーダー格の魔獣の元へと迫る俺。
『うぅ~んぅ~? じゃぁ逃げちゃおうかなぁ~?』
やはり理解できていない言葉を吐きながら、後ろに跳び下がり距離を取ろうとする魔獣。
恐らく俺が迫ってきたことで何か策があると思い、警戒し始めたのだろう。
もちろん策はあるが……むしろ好都合すぎる魔獣の動きにほくそ笑みながら俺はそいつが立っていた場所につくなり全力で大地を蹴り真上に飛び上がった。
「っ!!」
口を開けない代わりに歯を食いしばって気合を入れた俺は、安全圏に居て安心している飛行中の魔獣の一体に向かってかつてしたように家宝の剣をぶん投げた。
『っ!?』
当然のようにかつての魔獣と同じく、そいつは頭部を切り裂かれて力なく落下していく。
それを見て憤慨するリーダー格の魔獣に対して、最後の一体は驚き目を丸くして動けないでいた。
どうやらこの上空に浮かんでいた二体はリーダー格の魔獣と違い、かつて俺が倒した固体と同じ様に戦い慣れしていないようだ。
「大丈夫だからっ!! あれぐらいじゃ私たち死なないからぁ~っ!! それにもうそいつに打つ手はないからぁ~っ!! その剣じゃ私たちに傷付かないし、そもそも空を飛ぶ魔法なんかないってあいつ言ってたからぁ~っ!! そのまま届かない位置からブレスで迎撃すれば勝ちだからぁ~っ!!」
目の前で仲間が殺されたことで惑わす歌を止めて逃げようとした魔獣だが、リーダー格の奴の言葉を聞くと震えながら行動を止めた。
(なるほど、そう判断するのか……ははっ!! やっぱりお前ら、全然駄目だっ!!)
先ほどの魔獣は頭を割られたことで歌が止まっていて、そのおかげで言葉が正確に聞き取れるようになったがリーダー格の奴の余りにずれた言葉に俺は思わず心の中で笑ってしまう。
確かに空を飛ぶ魔法は存在しないし、あの剣を失った以上は攻撃力もがた落ちだ……だけどそれだけだ。
(やっぱり力を努力しないで後付けで手に入れたせいだろうな……だからこういう泥臭いやり方にも気づけないんだよっ!!)
リーダー格の言葉通り、逃げるのを止めて迎撃しようと背中の手を動かしだした空飛ぶ魔獣にニヤリと笑いながら俺は残り少ない魔力を振り絞り魔法を解き放つ。
「ファイアーボールっ!! ぐぅうううっ!!」
「えっ!?」
「っ!?」
俺が全力で放った魔法は、狙い通り俺自身の背中にぶち当たると激しく爆発して……反動でその身体を目論見通り空飛ぶ魔獣に向かって吹き飛ばす。
凄まじい激痛と苦痛が走るが、意識さえあれば問題ない……実際に粉の効果でしっかりと回復しているのを感じる。
しかし魔獣達からすれば自分に攻撃魔法を打つという行為自体が想定外だったようで、二体とも驚きのあまりぽかんと口を開いて固まってしまっていた。
そうして距離を詰めたところで、俺はその隙だらけの口を狙い、アリシアが下げていた普通のロングソードで突き上げた。
空中でしかも魔法の反動で吹き飛んでいる最中に、激痛に見舞われながら僅かな地点を的確に突きあげるのは非常に困難だったが……長年修業し続けてきた俺がこの程度を外すはずがなかった。
「が……っ!?」
苦し気な嗚咽と共に、柄越しにずぶりと刃の先端が肉に埋まる感触が返ってくる。
外皮はともかく体内は俺の魔法が通じる程度に柔らかいのは前の魔獣退治で判別できている。
そこを全力で突き上げれば、ただの剣とは言えダメージを与えられるだろうと思っていた。
(だけど……俺はここまでだな……)
口内に突き刺さった剣は、だけど貫通するまでにはいかなかった。
あくまでも舌と口蓋を切り裂き、頭蓋骨に到達するかどうかで止まった刃は致命傷と呼ぶには程遠いものだった。
それでも目の前の魔獣は飛行し続けることも出来ず落下し始めたが、こいつらには自動回復機能が付いている。
この程度では一時的に活動を停止させることしかできないだろう……そしてそれは先ほど頭を割った魔獣も同じだ。
チラリと地上を見れば既に自動回復機能により、頭部がほぼ修復しかけているのが分かった。
「全く無駄な手間をぉ~~~~っ!! だけどもうあの剣も無い以上お前なんかぁ~~~~っ!!」
更にはリーダー格の魔獣が憤慨したように俺を睨みつけて、落下地点で待ち構えている。
魔力も無く家宝の剣も遥か彼方に飛んで行っている今の俺には、もう打つ手などありはしない。
俺の実力などしょせんこんなものだ……幾ら隙をついても結局複数の魔獣を同時に倒せるほどの強さはないのだ。
だけどそれは俺の全てを出し切ったというわけではない……俺にはまだ出来ることがある……俺の全てはこんなものじゃない。
息も苦しくなる中、俺はあることを確信しながら最後に大声で叫んだ。
「後は頼むっ!! アリシアっ!!」
「えっ!? なぁっ!?」
「っ!!」
俺の叫びに驚いたような顔をしたリーダー格の魔獣は、次の瞬間には黄金の鎧を身に纏ったアリシアにその顔を掴まれていた。
「な、何であな……っ!?」
「っ!!」
恐怖に怯えた顔でアリシアを見つめながら何事か口にしようとしたリーダー格の魔獣だが、しかし言葉を言い切る前に地面へと叩きつけられてぺしゃんこになった。
更に落ちてきた俺を受け止めながら、残る二体の魔獣も即座に雷撃魔法で消し炭に変えてしまう。
(はは……やっぱり桁が違うなぁアリシアは……それに俺の目論見にもすぐ気づいてくれたみたいだし……流石は俺の……尊敬する女性だ……)
元々アリシアは惑木樹だけならばギリギリで理性を保てていた。
だから歌っている二体を処理すれば幻覚だけは打ち破れるだろうと思っていたのだ。
もちろん駄目そうなら状態異常回復用の魔法を範囲効果で使えるよう試してみようと思っていたが……とにかくそうして正気を取り戻せば彼女のことだからすぐに状況を把握して的確に行動してくれると踏んでいたのだ。
アリシアさえ万全なら魔獣がどれだけいようと関係ない……だからこそあそこで、アリシアの近くに落ちるよう鎧を脱ぎ捨てて立ち向かっていったのだ。
「ありがとうアリシア……助かったよ……俺の思惑に気付いてくれてありがとう……」
「……っ」
俺を抱きかかえながら必死で回復魔法と状態異常回復魔法をかけてくれているアリシアが、涙を流しつつも頷いて見せる。
尤もアリシアなら分かってくれるとは思っていた……元々頭もいいし、機転も効くほうだ。
まして俺のことを追いかけて……あの街でも俺に家宝の剣を内緒で与えてるほどに愛して……気にかけてくれた彼女が、俺の考えに気付かないはずがない。
(本当に俺には過ぎた人たちだよ……だけどこういう人たちに受け入れてもらえているのも、俺の強みの一つだからな……力だけじゃない……全く、もっと早く気づいてれば……)
ようやく本当の意味で仲間を信じれるようになった気がして、誇らしさと共に今までの態度が恥ずかしくなる。
だけどもう自分を卑下したりはしない……それこそ俺を信じてくれている人達に悪いから。
「アリシア……後で二人きりで話したいことがある……だけど今は残りを片付けよう……」
「っ!?」
俺の言葉に少し目を見開きながらも、こくりと頷いてくれたアリシア
そして改めて目の前の状況を確認しようと、アリシアの腕の中から出て大地に足を付けたところでふら付いてしまう。
すぐに目の前がクラっと来て、何やら平和そうな人々の光景が見えて来そうになり……慌てて状態異常回復用の魔法を無詠唱で使う。
すると一瞬は晴れるのだが、すぐにまたその光景に囚われそうになる。
(くそっ!! やっぱり鎧抜きじゃ……だけどアリシアが万全なら何も問題はない……っ)
「アリシア……済まないけど、俺も行動できそうにない……バルとアイダを……」
「……っ!!」
『%&#$%#』
俺の言葉を聞いたアリシアが周りを見回すと、不意に困ったように俺を見て何かメモ帳を取り出したが、やはり幻覚に囚われている俺には全く理解が出来ない。
そんな俺の様子にすぐ気づいたアリシアは、メモ帳を仕舞うとそっと俺の背中に指をなぞらせるのだった。
『アイダさんがあの樹木の根に引き寄せられるように何処かへ連れていかれている』
「なっ!? い、今すぐ後を追いかけてくれっ!!」