最低で最悪な戦い……そして先輩との決別③
「すぅ……くぅ……」
しばらくしてアイダが寝息を立て始めるのを確認したところで、俺は一度顔を上げて室内を見回した。
囲炉裏を挟んだ向かい側ではバルが床に座り込んで何事か考えこんでいて、入り口の方では神妙な面持ちで背中を壁に預けて外を見守るアリシアの姿がある。
(アイダ先輩は寝る前にアリシア……さんと話せって言ってたよな……多分俺たちがまだギクシャクしているのを心配してくれてるんだろうけど……この旅が終わったら別れを告げるつもりなのに今更打ち解けても……お互いに辛いだけだよな?)
そう思うものの、アイダに言われたからか何故かアリシアから目を離せない。
あれほど直視するのも辛かったはずなのに、どうして急にこんなにも平気で……見つめてしまっているのだろうか。
(ああ……そうか、アリシア……さんがこっちを見てないからか……)
どうも俺はアリシアと顔を合わせることを避けていたようだ。
だけどアリシアは俺と再会してからずっと、俺のことを見つめ続けていた……だから視線を向けることすら躊躇してしまっていたのだろう。
(国を出てまで俺を追いかけてきて……こんなところまで付き合ってくれて……やっぱり本当にアリシア……さんは俺のこと……いや止めよう、不毛なことを考えるのは……)
「……アイダさんはお休みになられましたか?」
「え? ええ……少し落ち着いたら疲れた出たみたいですね……ぐっすりですよ」
そんな俺にバルが話しかけてきて、慌てて思考を打ち切るとアイダを起こさないよう小声で答える。
見ればいつの間にか彼は囲炉裏の傍まで近づいていて、何やら思い詰めたような表情でアイダと俺を交互に見つめていた。
「そうでしたか……謝ってすむことではありませんが、本当に申し訳ありません……」
「いえ……俺が言うのもなんですが、バルさんは悪くありませんよ……きっとアイダ先輩も同じ気持ちなはずです……」
「ですが我々を助けてくれた恩人にこんな思いをさせるなんて……何とお詫び申せばいいか……明日、アイダさん……様が落ち着いていたら改めて謝罪いたしますが……本当に申し訳ありません」
心苦しそうに泣きそうな顔で俺に土下座せんばかりの勢いで頭を下げるバル。
ドーガ帝国の住人として強く責任を感じてしまっているのだろう。
しかし彼は皇帝と一部の人間が行っていた魔物増産計画について何も知らず、むしろ逆に魔獣に襲われて大変な思いをしている。
むしろバルもまた、アイダと同じく犠牲者と言っていい立場だった。
「何度も言いますがバルさんは悪くありませんよ……むしろこんな危険な旅路の道案内を買って出てくれて助かってます……だからそんなに卑下なさらないでください」
「で、ですが……アイダ様の故郷は……家族も……皇帝のあんな邪な理由で……私はもうアイダ様に顔向けが……」
「……少なくともアイダ先輩はバルさんのこと仲間だと思ってますよ……さっきそう言ってましたから……だからそうやって自分を責めるのは止めましょう」
「……っ」
自分のことを棚上げして呟いた俺の言葉に、バルははっと顔を上げると瞼を擦りこちらを改めて見つめてくる。
「そ、そうですか……あ、アイダ様が……」
「それも辞めましょうね……アイダ先輩をそんな風に呼んだらそれこそ怒られますよ……俺だって先輩って呼んで怒られてるんですから……」
「え……そ、そうなんですか……そ、そう言えばレイドさんとアイダさ……んの関係って……どう見てもレイドさんの方が年上なのに……」
「アイダ先輩は、行く場所を失ってさ迷っていた俺を冒険者ギルドに誘ってくれた先輩なんですよ……たくさん色んなことを教えてもらって……救われて……尊敬しているんですよ」
「そ、そうだったんですか……じゃ、じゃあ『魔獣殺し』レイドさんの剣技とか魔法もアイダさん直伝だったりするんですか?」
恐る恐る訪ねてくるバルに、俺は一瞬だけアリシアに視線を向けるとこちらを見ていないことを確認してから小さく呟いた。
「……違うよ、これはちょっと……強くなりたくて頑張って身に着けたんだ……それに剣技に至ってはこの武器に頼りきりだから……」
そう言って腰に下げているロングソードを引き抜いて見せるが、ただのロングソードにしか見えないそれをバルは不思議そうに眺めた後で俺の身体へと視線を投げかけてきた。
「ぶ、武器ですか……鎧ではなくて?」
逆に今、俺が身に着けているルルク王国の王女様から預かった黄金色に輝く鎧の方を興味深そうに見つめるバル。
「ああ……まあこれはこれで凄いんだけど……あらゆる衝撃やダメージを魔力のある限り無効化してくれる代物だからさ……」
試しに表面を軽く叩いてみるが、完全に衝撃は吸収されて物音ひとつならなかった。
ギルドに保管されている間に、マキナが秘密裏に調べていてその詳細を教えてくれていたのだ。
(それ自体はありがたかったけど……なぁんか妙に怪しい笑みを浮かべてたんだよなぁマキナ殿……あの人のことだから悪いようにはしないと思うけど……)
「そ、それは凄い……羨ましい……欲しいです……」
「残念だけどこの世に一つしかないお宝だからね……こっちの剣は幾つもあるかもだけど……物凄く切れ味が良くて魔法の威力も上がる……便利な逸品だよ……アリシア、さんも持ってるだろ?」
「あぁ……そう言えばそうですね……レイドさんはどこでこういうものを手に入れてるんですか?」
「うぅん……偶然というかなんというか……ああ、だけどどっちも預かりものだったりするんだけど……」
そこでふとこの剣をアリシアに返すべきではないかという思いが脳裏をよぎった。
(この剣があと何本あるのかは分からないけど、あの魔獣にすらあっさりと傷を付けれる代物なんだ……アリシア、さんに別れを告げて……もしも彼女が国に戻るならこれは返さないと不味いよな……)
元々俺が婚約者だからこそ、融通してもらえた剣なのだ。
その立場を完全に放棄するつもりでいる今、もう俺にこの剣を使う資格はないような気がしてくる。
(いや、最初っからなかったかもな……俺はアリシアの婚約者に相応しくなかったから……婚約を解消した時点で返すべきだったのかもなぁ……)
当時の俺はアリシアの存在だけが全てだった。
だから彼女から貰えたこの剣は、俺とアリシアの繋がりの象徴のように感じられてどうしても手放せなかったのだ。
もちろん今これを失えば、魔獣と戦う手段が減ってしまい……下手したら大幅にパワーダウンして戦闘に参加できなくなるかもしれない。
それでもアリシアの元婚約者として、最低限それぐらいのけじめはつけないといけない気がする。
(大丈夫……俺は強い……アリシアに比べれば全然だけど、あのギルドじゃ俺が一番……だからきっとみんな剣が無くなっても俺を見捨……っ!?)
何か一瞬変な思考が紛れてきて、途端にまるでアリシアと初めて出会った時のように心臓がドクンと跳ねた。
恐怖とも不安ともつかない感情に襲われて、思わず胸を押さえてふさぎ込みそうになる。
「れ、レイドさん……だ、大丈夫ですか?」
「……ふぅ……まあ、ね……それよりそろそろバルさんも寝たほうがいいですよ……進むにしろ戻るにしろ、明日は忙しくなりますから……」
「あ……は、はい……では私は向こうで横になりますが……レイドさんもちゃんと身体を休めてくださいね?」
「ええ、わかってますよ」
バルの言葉で現実に立ち返った俺だが、もう少し一人で考えたくて強引に会話を打ち切ろうとする。
そんな俺の気持ちを理解したのか、バルは食い下がることなく隅へと移動すると今度こそ横になるのだった。
それを見届けた俺は、改めて隣で横になっているアイダを見つめてから囲炉裏の炎へと視線を移すのだった。
(俺は今何を考えたんだ? 何でこんなにドキドキしている? やっぱりこの気持ちは俺がアリシアへと抱いている複雑な感情とは別物だったのか……或いはそれらが混ざってさらに訳が分からなくなってるのか? 一体俺は、何がこんなにも……恐ろ……)
*****
『少しいい?』
考え込んでいた俺の元へ、メモ帳が飛んでくる。
顔を上げてみると、アリシアが入り口付近に立って外を警戒しつつ俺へ視線を投げかけているのが分かった。
ただでさえまた混乱しかけていたところに、その元凶……に多分近いところにいるアリシアに呼びかけられて正直戸惑ってしまう。
しかしアイダとの会話を思い出し、また何よりアリシアと話すことでこのモヤモヤの正体が掴めるかもしれない。
そう判断した俺は、一度深呼吸をして気持ちを落ち着けてからアリシアの傍へと近づいた。
「……大丈夫です、何でしょうか?」
『ありがとう 辛いと思うけど今だけ私の話を聞いてください』
既に日は落ちて暗くなっている室内で、俺は囲炉裏の炎を光源にして何とか文字を読み進める。
『まずはもう一度謝らせて 私、故郷に居た時貴方のことちゃんと見てなかった 自分から会いに来て愛情を向けてくれる貴方に甘えてばかりだった 可愛げのない駄目な女でした ごめんなさい』
「……いや、その……お、俺の方こそ……アリシア、さんには釣り合わない……駄目な婚約者でしたよ……今だってこんなにもウジウジして……自分で自分が情けないぐらいで……」
『ううん それは私のせい あんなに頑張って努力していた貴方に酷い言葉をぶつけて心を傷つけた まだその傷が治ってないだけ 本当の貴方は純粋で眩しくてまっすぐで ううん 今でも十分素敵な人です』
「……」
アリシアの誉め言葉を見ても、少し前のように嫌味だとは感じなかったがそれでも全く自覚が湧かなかった。
そんな俺をアリシアは痛まし気に見つめると、さらに文字を書き連ねていく。
『そんな素敵なあなたを私が歪めてしまった それどころか貴方の気持ちも考えないで勝手に押しかけて心をかき乱した せっかく治りかけていたはずの心をまた傷つけた 私は本当に馬鹿で救い難い愚かな女です』
「……アリシア、さん……そんなに自分を卑下しないで……」
もう見慣れたと思っていたが、やはりかつての高貴だったアリシアからは想像もできない弱々しい姿に思わず自分を棚に上げてそんなことを言ってしまう。
だけどアリシアは力なく首を横に振ると、少し涙ぐみ指先を震えさせながらも何とか文字を書き続ける。
『あなたと再会してから今までずっと見てきて わかった 私はもう 貴方にとって 重荷でしかない 邪魔 者 でしかないの だと だから わ 私 私は この事件が片付いたら せめて最後に貴方と周りの人の安全を確保してから 国に帰ります』
「あ……っ」
ある意味で俺が言おうとしていたことを先に言われて、だけど物凄く衝撃を受ける。
驚き目を丸くする俺を見て涙をぬぐったアリシアは、そこで俺の腰にある剣を見つめて少しだけ書き足した。
『その剣はそのまま持っていてください 私からのせめてものお詫びと餞別です どうか何かにお役立てください』
「あ……け、けどこの剣……あ、アリシアさんが国で……」
『私にはこれがありますから その剣は無くても問題ありません それに貴方に使って欲しい 私の愛した元婚約者様に どうか』
「だ、だけど……」
妙に神妙な文字使いで語るアリシアに、俺は胸が詰まるような思いを感じながらも何とか返事をしようとした。
だけどそこでアリシアはもう一度顔を歪めると、深々と頭を下げた。
『あともう一つ謝らないといけないことがあります 軍学校の試験 貴方が落ちたのは、私のせいです』
「え……はっ!?」
『私が余計なことを言ったから貴方は試験に不合格になったのです それなのに私は貴方を責めて 全部私が悪かったのです ごめんなさい』
「っ!?」
そこでまさかの告白を受けて、俺は今度こそ固まってしまう。
(はっ!? えっ!? な、なんだよそれ……なんだよそれっ!? お、俺はお前と一緒の学校に通いたくてっ!! お、お前が一緒に通いたいって言うからっ!! だ、だから何もかも犠牲にして努力してっ!! そ、それでも駄目でお前に罵倒されて俺がどんな思いでっ!? そ、それが全部お前の仕込みだとっ!? さっきの口ぶりだとこの剣も大したものじゃないみたいだし……や、やっぱり最初から期待してなかったってことなのかっ!? ふ、ふざけるなよっ!!)
頭の中が混乱して怒りとも悲しみともつかない感情に翻弄されて、逆に声も出せなくなる。
そんな俺にアリシアは頭を下げ続けながらも、チラリとアイダの方へと視線を投げかけた。
そしてメモ帳を取り出すと、ゆっくりと文字を書き始める
『だからこんな女のこと忘れて アイダさんの傍に居てあげて あの子は優しくて純粋で素直で可愛らしくて 私とは真逆で とても眩しい素敵な女性 前のレイドにどこか似てるそんな子だから もう私のことは気にしなくていいから アイダさんを支えてあげてください お願いします、レイドさん』
「っっっ!!?」
最後に俺がしたように他人行儀で俺の名前を書いて、アリシアはまた涙を零しながらも儚く笑い今度こそ俺から視線を外すと外を眺め続けてしまう。
その態度に先ほどまでの屈辱的な感情も、モヤモヤとした想いも何もかも消し飛んで……ただひたすらに胸が痛んで仕方がなかった。
(な、なんでこんな……も、もう別れるって決めてたじゃないか……なのにどうしてこんなに苦しい……俺は何をして……あぁ……くそ、考えるな……今はこんなことを考えてる場合じゃない……はぁ……うぅ……っ)
魔獣のこと、日記のこと、アイダのこと、バルのこと、アリシアのこと……ギルドに残した皆のこと。
過去の出来事に自分の気持ち、感情……あらゆることが頭の中をぐるぐると渦巻いて目の前がぐらつくほどの息苦しさを覚える。
思わず救いを求めるように室内を見回して、アイダの傍へと近づこうとする。
「うぅん……お、おかあぁ……ぼ、ぼく……うぅ……」
「……っ」
しかし目の前で寝苦しそうに顔を歪めながら、辛そうな声を出すアイダは余りにも弱々しく見えてしまう。
まるで年相応の少女のようで……そこで俺は今更ながらにアイダの本当の年齢を思い出した。
(お、俺は何をしようとして……あ、アイダ先輩は俺より年下なんだぞ……それなのにまた頼ろうとして……こ、この人は俺の姉でも何でもない仲間じゃないか……そんな少女が、こうも心が傷付いているのに何甘えようとしてるんだ俺はっ!?)
アリシアに支えてやれと言われながら、逆に苦しみから逃れたくて頼ろうとしていた自分に愕然としてしまう。
いや逆にアイダにだって俺はアリシアの傍に行ってくれと……多分言葉を話せないほど傷付いている彼女を支えてほしいという意味でお願いされていたはずなのにそれすらできていないのだ。
(あ、アリシア……こんな俺のどこが素敵なんだ……ただの屑じゃないか……アイダ先輩ごめんなさい……俺はやっぱり、駄目な奴みたいです……アイダ先輩の……居やギルドの皆の仲間に相応しくないぐらい……うん、俺も……この事件が片付いたらどこか遠くへ……誰も居ない場所に……)
何やら妙に虚しくなり、空虚な気持ちを抱えた俺は何もかも忘れたくなって……アイダとアリシアの中間あたりの壁に背中を預けるとゆっくりと目を閉じた。
*****
「お、おはよー皆……それとゴメンね……僕、昨日ちょっとおかしかった」
「アイダさ……んは悪くないですよ……こちらこそ謝らせてください……」
「も、もぉバルさんは悪くないよぉ……だから謝らなくていいのぉ……それよりもさぁ、これからどーしよっかぁ?」
『進むか戻るか 尤も戻るにしてもせっかく日が明けたばかりなのだから少しぐらい領内を探索してからでも遅くないと思う』
「……そうですね、アリシア……さんの魔法なら昼まで領内を探してからでも日が落ちる前にマースの街へ帰れそうですからね」
皆が目を覚ましたところで、早速今後の方針を話し合う俺たち。
誰もかれも一晩寝て、ある程度気持ちが落ち着いたようで皆表面上は冷静そうに見えた。
尤も俺の場合はやけくそというか、捨て鉢というか……どうにでもなれという気持ちが強かったのだが。
(もう駄目だ俺は……心が傷付いてるとか関係なく、単純に情けない男なんだ……アリシアやアイダ先輩の傍に居るのもおこがましいぐらいだ……だからせめてこの魔獣事件を早めに解決して……皆の前から去ろう……その為にも本腰を入れて解決にかからないと……)
「……尤もアイダ先輩が辛いのならば無理に進もうとは思いませんけど」
「い、いやそーいうのは無くて……む、むしろどーせなら里帰りというか……お墓、も無いけど……生まれ故郷に寄って行きたいぐらい……だし……」
「……アイダさんの生まれ故郷があるのでしたらぜひ寄って行きましょう……出来れば他の村も……私にその資格があるかはわかりませんが、せめて犠牲となった方に手を合わせたい」
『どの辺りに魔獣増産設備があるのか分からない以上、どこを目指しても変わらない 中心にある首都を目指しつつ他の町や村を見て回る方針でいいと思う』
「……俺も同意見です……じゃあアイダ先輩、そう言うことですので道案内をよろしくお願いします」
アイダの里帰りという言葉に皆が負担にならないよう理由を付けつつ頷いて見せる。
するとアイダは儚く微笑みながらも、先を歩き始めた。
「うん、わかった……実はもうかなり近いところにあるんだ……ふふ、皆を連れて行ったらきっとお父さんもお母さんも……おとーと達もびっくりするだろうなぁ……」
どこか嬉しそうな、それでいてやっぱり寂しそうな声で呟きながら進むアイダ。
その後ろを見守る様について歩きながら、俺は自分の滅んだ故郷に向かいつつもこうも取り乱さずにいられるアイダにまた尊敬の念を抱くのだった。
(やっぱり俺とは比べ物にならな……っ!?)
しかしそこで不意にアイダは足元をふら付かせたかと思うと、何とか崩れ落ちる前にその場に踏みとどまった。
「あ……はぁ……な、なんだろう今の?」
「うぅ……へ、変な感触が……あ、アリシアさんはどうですか?」
『一瞬だが平衡感覚が狂ったような 何だ今のは?』
「え? み、皆さんどうしたんですか急に?」
どうやら何か異変があったらしい……しかもアイダだけでなく他の二人もそれを感じたようだが俺だけは全く分からなかった。
(ど、どうなってんだ……まさか俺、精神的におかしくなりすぎて本格的に感覚まで狂い始めたとか……?)
「え、えっとねぇ……今なんかクラっと……えっ!?」
俺の言葉を聞いて何か説明しようとしたアイダだが、不意に目を丸くしたかと思うと正面を見つめて……走り出した。
「あ、アイダ先輩っ!?」
「あ、アイダさんっ!?」
「っ!?」
慌てて後を追いかける俺たちの目に、すぐにそれが飛び込んでくる。
朽ち果ててボロボロになった防柵に、恐らくは村の名前が書いてあったであろう元アーチ状だったであろう入り口。
そして何より僅かに残る廃墟を見れば、ここが廃村の成れの果てだと嫌でもわかってしまう。
(こ、ここが多分アイダ先輩の生まれ故郷……これに気付いてアイダ先輩は……えっ!?)
そう思ったところでアイダはどんどん駆け出して行って……不意に廃墟から飛び出してきた何かを見て一瞬立ち止まったと思うと感極まった声を上げて飛びついた。
「お、お父さぁあああんっ!! ああっ!? お母さんもぶじだったのぉっ!! おとーと達はっ!? ああっ!! み、皆も無事だったんだねっ!! む、村も元通りだし……うぅっ!! よ、よかったぁあああっ!!」