外伝 名も無き研究者の実験日記
【注】
全体的に暗く、胸糞要素もあります。
次話の冒頭で要点をまとめた描写を載せるので、苦手な方は飛ばしても大丈夫です。
【四十年前】
『錬金術師連盟から追放された俺を、皇帝陛下は受け入れてくださった』
『何でも公の組織に属している者には頼めない仕事を任せたいのだとか……どんな理由であれ俺を拾ってくれた御方であることに変わりはない、何としてもこの御恩には報いなければなるまい』
『そしてもう一つ、俺を無能だと決めつけた錬金術師連盟と魔術師協会には必ず復讐してやる』
『特に俺の指導を買って出ながらも、上から目線で偉そうにやることなすことに駄目だしし続けたあのドワーフの子娘だ……あいつだけは必ず見返してやらなければ気が済まない』
『そのためにもここで皇帝陛下の望みをかなえながら実績を積んでいかなければならない……凡庸な俺でも努力して試行錯誤を繰り返せば、きっと天才だのなんだのと謳われているあいつらだって追い抜けるはずだ』
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『皇帝陛下の望みは山に住まう危険な魔物の家畜化……というよりも増産と表現すべきだろう』
『どうも聞いた話によれば、危険な魔物の身体から取れる素材は固くしなやかで、それでいて長持ちするらしく上手く採取できれば高価で取引できるのだという』
『しかし危険な魔物たちは山に住んでいて滅多に麓に降りてこない上に繁殖速度も遅いため、それほど多く取ることが出来ず困っているらしい』
『尤もそれでも一部の貴族様と皇帝陛下に富を集中させることで、物凄く豪勢な暮らしが出来ているようだが……尤も雇われている身としては資金を潤沢に用意してもらえるのはありがたい限りだ』
『何より王宮の地下にかなり大きな研究室も作って貰えたのだから文句などあろうはずがない……早速ご要望に応えるべく研究を始めよう』
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『冒険者たちが持ってきてくれた生きた魔物のサンプルを使っての実験により、牙や体毛などの採取しても魔物の命に影響が少ない部位ならば回復魔法で強引に癒して再採取が可能であることが判明』
『但し何度も採取するためか、しっかりと栄養を取らせないと身体が再生不要箇所と判断するようで徐々に質が落ちていく』
『食性を改善させた上で、特薬草を混ぜた餌を食べさせることでこの問題は解決可能だが……特薬草自体の採取が難しいという新たな問題にぶち当たってしまう』
『また生きた魔物でないと回復魔法が機能しないため、生かし続ける必要がありコストと命の危険という問題も浮上してくる』
『何よりも炎を吐く等の特殊能力を管理する機関というか臓器など、命にかかわるものを直接採取するタイプについてはこの方法は使えない……仕方ないがこのやり方は失敗だと判断しこれを糧に新しいやり方を模索しよう』
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『基本に立ち返り魔物の養殖について考え、試しに魔物牧場とでもいうべきものを作ってみることにした』
『尤も自国の収入を増やすためとはいえ、領内で強力な魔物を増やす計画などそうそう受けいれられるはずもない』
『だから機密の実験として、領内にある冒険者ギルドや魔術師協会……それに錬金術師連盟の奴らにもバレないよう隣にあるビター王国との境にある未開拓地帯で行うことにする』
『まあ領内にいるその手の連中は既に買収済みのようで、本部には何を聞かれても適当に答えるよう言い含めてあるから仮にばれても平気だと皇帝陛下はおっしゃっているが……前はそんな腐敗を嘆かわしく思ったものだが気が付けば俺もその手の連中の仲間入りか……』
『しかし俺は金が目的ではない……名声すら手段に過ぎない……ただ実績を積んで俺を馬鹿にして追放した奴らの鼻を明かしてやりたいだけだ』
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【三十年前】
『魔物牧場は最初こそ難儀したが、現在は調子よく進んでいた』
『初代の奴らを飼い慣らすのはほぼ無理で、子供を産むと同時に別口の実験用サンプルとなってもらったがその子供からはそれなりに安定してきて、人間に懐く個体も出てきた』
『やはり幼少期から養育しているのが大きいのだろう……それに前の実験で得たデータを利用して肉食の魔物も食性を改善して草食にすることが出来るようになったのも大きいだろう』
『おかげで気性も心なしか穏やかになり、このまま上手くいえばペット化も目途に入るかもしれない……そんな愚かな考えはつい今さっき入った連絡で全て吹き飛んだ』
『まさか世話係に雇った貧民街の餓鬼が魔物を外へ連れ出すなんて……しかもそこで何かのきっかけで野性に目覚めて大暴れして施設を半壊させたなどとは……増えた魔物は一体どれだけ外に逃げ出しただろうか?』
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『結局、魔物牧場計画は大失敗に終わった……ある程度成果は出していたが、あれほどの被害が出ては仕方がない』
『尤もドーガ帝国は屈強な冒険者や正規兵を報酬を惜しまず大量に雇っているから殆ど問題はなかった……逆にビター王国は山沿いに戦力を集中させていたがために、横合いから侵入してきた魔物に対処しきれず鎮圧するまでにかなりの数の集落が滅んだようだ』
『しかもその際に民を守りに出てきた王族も命を落としたようで……下手をしたら国そのものが崩壊するかもしれない』
『皮肉なものにそのおかげであちらの国では事件の全容を把握していたり調べたりできる者が居なくなったようで、あの魔物がどこから現れたのかは有耶無耶になり、うちの国の仕業だとバレることはなかった』
『だから皇帝陛下は気にせず続けろという……良心の呵責に苛まれるが、ここで研究を止めてはそれこそ被害にあった方々の死が無駄になってしまう……絶対にこの研究は成功させなければ……』
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『やはり魔物の数を直接増やすのは危険すぎる……当初のように増産計画を押し進めるべきだろう』
『最初の研究を下敷きにして、何とか素材部位のみを増やす方法がないか試すものの、これがまた難しい』
『それでも幾つかの方法を試しているうちに、自動回復効果を付加する方法の確立に成功した』
『尤もただ回復魔法の効果を再現する魔法陣を生物の体内に刻み付け埋め込むだけだが、これのおかげでわざわざ回復魔法をかけなくても、魔物の体内に魔力が残っている限り自動で回復し続けるようになった』
『回復魔法は死後は反応しなくなってしまうため、傷が出来るなりすかさず効果を発揮して命をつなぎとめてくれる之は非常に便利だ……もっと改良できないか試してみよう』
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【二十年前】
『自動回復機能は更なる高みへと発展した……心臓か頭、そのどちらかが残っている限り生命を繋ぎとめて再生し続けられるほどにだ』
『これにより生命維持に必要な臓器等の採取も、一匹から複数回行えるようになり皇帝陛下もご満悦だ』
『しかし前途の課題であった次第に質が落ちていく問題が、特薬草の回収率も含めてどうしても解決できないでいる』
『おかげで一匹を使い潰したら新しい野生の個体を捕らえるのを待たなければいけないが、何せ本来は討伐するにしてもこの国の冒険者や正規兵ですら複数人掛かりで挑む必要のある強敵なのだ』
『まして生け捕りとなると大仕事のようで苦情も上がっているし効率もよろしくない……やはり増産する方法を考えていかなければ……』
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『やはり増産計画は中々上手く行かないでいる』
『究極的には魔物から回収する素材だけ増やせればいいのだからと、死体に回復魔法をかける方法を研究してみたが結局無駄に終わってしまった』
『次に素材そのものを増やせないかと、培養設備を作り試してみるとこっちはなかなか順調に進んだ』
『採取した部位を魔力を溶かしこんだ培養液に付け込み、疑似的に栄養を与えて無理やり成長させることができるようになった』
『後はこれの効率とコストを上手く調整すれば、回収した部位を成長させて増やすことで無限に採取できるようになるはずだ』
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【十年前】
『くそっ!! 規格とはなんだっ!? 同じ部位で作り上げた素材で性質も同じだというのに何が問題なのだっ!?』
『素材そのものを直接渡さないと受け取らないだとっ!? ふざけるなよ錬金術師連盟っ!! 魔術師協会と冒険者ギルドもだっ!!』
『どうせまた利権が関わっているのだろうっ!! 素材を使った道具や装備の作り方も独占してる奴ららしいやり口だっ!!』
『それでいて俺が育てた肥大化して変形している素材をどこで手に入れたのかばかリ知りたがりやがってっ!! 誰が教えるものかっ!!』
『どいつもこいつもっ!! 腹立たしい限りだが……とにかく落ち着かなければ……くそ……』
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『取引に使えないとあっては、このやり方も失敗だと判断するほかない……口惜しいがまた別の方法を考えなければ……』
『もう一度考え直そう、現在は俺の発明した自動回復機能を利用することで一個体を使い潰してある程度資材を採取できるようにはなっている』
『だから後は、とにかく魔物の個体数を安定して確保できるようになればいいのだ』
『そうして悩む中で過去の研究を見直して、ふと前に失敗した魔物牧場を思い出してしまう』
『あれは問題こそあったが魔物を増やすこと自体は成功していた……しかし、あれだけの犠牲者を出しておいて再開するなど許されるのか?』
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『皇帝陛下は即断してくださった……そしてかつての事件によって衰退し、山から下りてくる魔物を防ぎ切れなくなり滅び去った元ビター王国内の領土だった所に第二の魔物牧場を建設してしまった』
『あそこへはもうドーガ帝国の領土を通らないと近づくことも敵わない上に帝国内では魔物に滅ぼされたあの場所に近づくのはタブーとされているから確かに隠して行うにはうってつけだ……感情的な問題を除けばだが……』
『皇帝陛下には良心や良識というものがないのだろうか……そしてあれほどの悲劇を引き起こしながらこの計画に関わっている俺もまたどこかおかしくなっているのかもしれない』
『しかしこれでより多くの素材を回収して取引できるようになるのも事実だし、それで富めば富むほどに俺の研究費用も潤沢になってやり易くなっていく』
『良いことづくめのはずなのに、なぜここの所俺は寝つきが悪くなっているのだろうか……それに妙にあの頃の……あの名前も忘れかけているドワーフに教わっていた駆け出しの頃の夢を見るのだろうか?』
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【二年前】
『今のところ、増産計画は順調そのものだ』
『牧場で増やした魔物に自動回復機能を仕込み、大量に回収した素材を売り捌く……おかげで皇帝陛下やそれに近しい身分の貴族もかなり儲けているようだ』
『俺もまた報酬が多く貰えるようになり、そのお金で領内に居る錬金術師連盟と魔術師協会の奴らを買収して、さらに上の地位の奴らにも金をばら撒き、奴らが秘匿している転移魔法を知ることに成功した』
『あそこで地道に研究しているときは全く教えてもらえなかったというのに……しかしあの時、追放処分を受けることを覚悟で暴こうとしていた魔法がこれほどのモノだったとは……』
『余りに大掛かりな魔法であり、もしも発動に失敗して暴発すれば命を落とすだろう……これの開発は命がけというレベルではなかったはずだ』
『思わず開発者の名前を訪ねると、聞き覚えのある三人の名前が返ってきた……魔術師協会の創設者でありトップでもあるエルフのデウスに冒険者ギルドの現トップである人間のエクス……そしてもう一人ドワーフの……まさかこんな形であの人の名前を思い出す羽目になるとは……』
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『新たに知った転移魔法についての研究をしていると、皇帝陛下が訊ねてきて増産計画をさらに推し進めるよう要求されてしまう』
『しかもそれだけに留まらず、せっかく回収した素材を自国内でも利用できるよう武装の作成も研究するよう求められた』
『どうやら未開拓地帯や主のいなくなった隣国を全て自らの領土とするためにも、魔物と戦える兵力増強をお望みのようだ』
『或いは山脈地帯や異種族の住まう大陸中央の森……若しくは大陸全土をも征服しようとでも考えているのかもしれない』
『その証拠とばかりに目がドロリと濁っているように見える……出会った当初はまだ理性的な光が見えていたのだが……』
『どちらにしてもここ以外に居場所がない俺に否定できるはずがない……頷いた俺の目も、きっと純粋に研究していたころと違って濁り切っているのだろう……』
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『今まで幾度も失敗してきただけに、増産計画の改良はいったん置いておいて素材の改造や活かし方を先に研究することにした』
『その結果、攻撃能力がある魔物からはぎ取った素材に魔力を通すことで同じ攻撃を再現できることが判明する』
『後はこれをどうやって人が使える形に改造するかが問題だ』
『とりあえず細長い筒に入れて手に持って使えるようにして見たが取り回しに難があり、狙いを定めにくい』
『もっと器用に動かせるようにしたいものだ……それこそ腕のように自在に取り廻せて、その先端から火炎なり雷なりを放てるようになれば完璧なのだが……』
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『防具の研究に関してはもっと簡単だった……元々魔物の皮は下手な刃物など弾くほどに頑丈だったのだ』
『だからそのまま加工すれば十分防具として役に立つだろう』
『更にその皮を利用して柔らかくしなやかに動きながらも、強度のある細い腕のような筒を作ることにも成功する』
『これを前に作った武器に組み合わせられれば、武具については完成したと言っていいだろう』
『あと残る問題は増産計画だ……一体どうすれば……』
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『増産計画について、過去に失敗したデータを洗い流し、部位を成長させる研究を再度やり直すことにした』
『増やした部分は自国内での流用には使えるからだ』
『その上で素材を剥ぎきって死亡した本体部分の方を、死体のまま成長させることで無理やり剥いだ素材部分を再生させられないか試してみることにした』
『しかしやっぱり全く上手く行かなかった……一応、細かい肉片からでもある程度の肉体は再生できるようにはなったけれどそれだけだ』
『肝心の部位を完璧に再生することは出来ず、死体なのは変わらないから回復魔法で補正も出来ない……これも失敗だ……』
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【一年前】
『ここに来て、何もかもの研究が行き詰り始めた』
『防具はあの単純な出来では許されず、もっと強度を上げろと言われてしまうが一体どうすればいいのか……』
『武器もうまく組み合わせられない上に、両手を塞がず剣技と同時に利用できるようにしろと要求された』
『まして増産計画に至ってはどうしようもない……今まで駄目だったというのに、これ以上どうしろというのだ……』
『何もかもが上手く行かない今の俺にとって、僅かな休憩の時間に行っている転移魔法の研究だけが唯一の楽しみだ』
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『瓢箪から駒とはこのことだっ!!』
『転移魔法の失敗で飛ばした物が壁と一体化したのを見て思いついたが、これを利用すれば別の物質同士を合成できるではないかっ!!』
『まさに天啓だっ!! 失敗を失敗でおわらさずに観察した自分の素晴らしさを褒めたたえたいぐらいだっ!!』
『早速、複数の固い魔物の皮膚を組み合わせることで剣は愚か魔法をも弾く非常に強固な防具ができてしまったではないかっ!!』
『恐らく転移魔法の事故を利用して新たな技術を見出したのは俺が最初だろうっ!! こんな便利な魔法を秘匿していた慎重を通り越して臆病な連中の何と無能なことかっ!!』
『この調子でどんどん新しいものを開発していこうっ!! そしていずれこの俺の発明した新技術で錬金術師連盟と魔術師協会へと復讐を果たしてやるのだっ!!』
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『物体の合成を押し進めたところで、俺は生き物同士がくっついたらどうなるのか興味がわいた』
『だから魔物と魔物をくっつけてみると、混じり合いこそするが何故か何度試してもすぐに死んでしまう』
『どうも意識の統合が上手く行かないようで、身体の支配権が混乱して心臓を動かすことから呼吸まで何も出来なくなってしまうようだ』
『ならば片方が死体ならどうなのか……そう思って試したところ、一つに合成された生き物は見事に動き出した』
『しかも両方の生き物の長所というか強い部分が色濃く残るようで、複数の魔物の能力を得た合成生物は恐ろしいまでの戦闘力を発揮して見せたではないかっ!!』
『おかげで危険すぎて殺処分するしかなかったが、俺の作った装備を利用していたこの国の正規兵ですら数十人掛かりでようやく何とかなるほどの大仕事になってしまった……尤もそれでも大発見には変わりないのだっ!!』
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『事情を知る凡人共の中にはこれ以上転移魔法を利用した研究は危険すぎるから止めろと言うものもいるが、俺はむしろこれを利用すれば素材をさらに増産できるようになることに気付いてしまう』
『生きている魔物を死体と合成すれば再び動き出す、そしてその特徴は両魔物の優れている部分が残る……つまりは採取したい部位はほぼ確実に残るのだ』
『そしてもう一つ、かなり前の研究で失敗した一件……死者に回復魔法はかけられないという問題もこれで解決する』
『未開拓地帯に溢れている弱い魔物を捕獲して使い潰した魔物に合成して疑似的に生き返らせてやると、思った通り自動回復機能が作動して欠けた部位が再生し始めたではないかっ!!』
『それだけではないっ!! 何と前に肉片から再現した遺体モドキもこのやり方で命を与えることでやはり素材を回収できるようになったのだっ!! これで素材の増産計画は完璧だっ!!』
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『思わぬ落とし穴だっ!! まさか魔物と合成すると僅かに素材にその特徴が混ざってしまうとはっ!!』
『ギリギリで気づけたから良かったが、このまま取引に出していたら魔術師連盟か魔術師協会に俺の研究がバレてしまっていたかもしれないっ!!』
『それだけは避けなければっ!! あいつらに俺の研究を渡してなるものかっ!!』
『しかしならどうすればいいっ!! あと少しなのだっ!! どうにかして回収する部位に合成した生き物の特徴が混ざらないようにしなければっ!!』
『もっと弱い魔物を捕まえればいいのかっ!? こうなれば色んな種類の生き物で試して、特徴が混ざらない奴を見つけ出すのだっ!!』
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『……研究は成功した、と言って良いのだろう』
『特徴が混ざらない生き物も見つかり、それも皇帝陛下が幾らでも派遣してくださっている』
『しかもその結果、副作用とでもいうべき効果があり作り出した生き物と会話が成立するようにもなった』
『当たり前だ……合成した生き物の特徴は……他の面は簡単に塗りつぶされるほど弱い人間という生き物の唯一の長所が知性なのだから……』
『いや、皇帝陛下曰く貧民街に住む者は人間ではないらしいが……幾ら何でもこれは……ああ……俺は何をしているのだろうか?』
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『合成した魔物を増産する計画がスタートした』
『死んだ魔物をバラバラの肉片にして、俺の作った培養液で増やし……俺の確立した理論の元で貧民街の人間と合成して自動回復機能を刻み込んで可能な限り素材を回収し続けるのだ』
『もちろん合成生物が死んだ場合は、新たに人間を合成して再生させてまた……尤も会話ができるせいで感情を刺激してやることで再生した資源の品質が落ちることがなくなったらしいので死ぬまで使い潰すこと自体が少ないのだが……』
『皇帝は大喜びで資源を大量に確保し、国内にいる正規兵全てに武具を配置するためにどんどん合成生物を作れと言ってくる』
『そのために魔物牧場の近くに専用の合成生物精製用の施設を幾つも立てているようだが……俺は正直ついていけなくなっている』
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『やる気が湧かないながらも、皇帝に睨みつけられて仕方なく前途の武器の改良を行う』
『今回は生き物の腕の部分に攻撃機能を組み込むと、そのまま生物の……人間の背中へと合成してみたのだ』
『予想通り合成された腕は自分の意志で思い通りに動かせるようで、攻撃機能もしっかり利用できる様子だった』
『しかし力を手に入れたそいつは暴れ出そうとしたから、すぐに正規兵によって処分された』
『いくら危険な生き物の特徴を手に入れたとはいえ、何の経験も無い人間の動きでは歴戦の強者に勝てるはずもない……もちろん人間と魔物がくっついただけの合成生物も同様だ』
『魔物同士の特徴が結びついた奴は強敵だったが、やっぱり戦闘経験のない人間に正規兵なら倒せる魔物の特徴がくっついたところで脅威にはなり得ないのだ……だからこそ量産されているのだから……』
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『最悪だ……増産設備の様子など見に行かなければよかった……』
『劣悪な環境下で飼育されている合成生物……悲鳴のような嗚咽のような声を洩らし、或いは怒声や罵声を上げながらも素材を剥ぎ取られる苦痛に悶える姿は……余りにも……』
『おまけに今日、合成する素体として連れてこられた中に混じっていた赤子を抱いた女性……内情を知る貴族側から派遣された人員が二人分になるとご満悦なのも逆に吐き気すらする……』
『まだどう見ても先が長くなさそうな大怪我人や、騙されているとはいえ自分の意志でここに連れてこられたであろう奴らならともかく……いやこれも酷い話だ……』
『尤もおかげで自我も乏しい段階だったり、極端に死に掛けな人間が合成されると知性が反映されず完全に魔物側に取り込まれると分かったが……とにかく合成する相手にはせめて年齢制限等を付けるようにしなければ……』
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『最近はもう何日も眠れていない……たまに寝ても夢に被害を受けた人達の顔が思い浮かんですぐに目覚めてしまう』
『おかげで何もやる気が湧かない俺に、皇帝は一日当たり合成人間を精製する数のノルマを課してきた』
『どうも年齢制限等の条件を付けて合成生物が作る速度を落としたことが気に食わなかったらしい』
『ああ、しかし一体どうしてこんなことになってしまったのだろう……何故俺はこんな研究を続けてしまったのか……』
『どこで間違えたのか……やっぱり先生が言っていた通り、俺にこの転移魔法を扱うのは早すぎたのだろうか?』
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【半年前】
『先生に言われた言葉が蘇る……研究して編み出した成果には責任もついて回るのだと……』
『だからこそ俺が大掛かりな研究をするたびにまだ早いと叱り、基本を学べと叱咤していたのだと……してくれていたのだと今更気付いてしまう……』
『ただ未熟で無能だった自分を顧みることなく、勝手に周りを憎み暴走した自分は何と愚かだったことか……』
『俺はあの偉大な先生に追いつきたくて焦ってしまい、大事なことを見失ってしまったようだ……ただ認めてほしかっただけなのに……』
『もう遅いかもしれないけれど、今からでもやってみよう……どうせノルマが一人分足りなかったところだ……皇帝を諫めてこの増産計画を止めるよう提言してみよう……駄目ならその時は……』
*****
『この日記を読んでいる人が居たらお願いします……まだこの国が非人道的な行為を繰り返しているのならばこれを証拠に告発を……』
『そして出来るのならば、あの人に一言だけ伝えてほしい言葉が……ごめんなさいと、俺の先生だったドワー……』
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