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新たな出会い……そして再会⑩

 新たな敵のサンプルの確保と実戦経験を積むために、仲間たちと共に未開拓地帯へ足を踏み入れるようになって数日が経過した。

 しかし今日もまたかなりの距離を進んだというのに、未だに魔獣は愚か危険な魔物の一匹にも遭遇できてない。


「一体どうなってやがんだこれ?」

「妙ですよねぇ……結構奥まで踏み込んだのに一匹も会えないなんて……」

「ま、まあそのほうが怖くなくていいけどさぁ……」

「それじゃあ何もならねぇじゃねぇかよ……また薬草だけ採取して終わりなんざごめんだぞあたしは……」


 念のために臨戦態勢で前を歩きながらも疑問に首をかしげる俺とトルテの言葉に、同じく臨戦態勢をとっているアイダとミーアが各々の感想を漏らす。


「そう……じゃあ修行する?」


 最後にぽつりとつぶやいたのは杖を構えているマナだ。

 彼女は俺に魔法の指導をするという名目でここに残り、実際には俺たち全員に魔法の指導をしつつマキナと喧嘩しながら研究の手助けまでしてくれているのだ。

 おまけにこうして魔獣と対面したときの為に戦力として一緒に行動してくれてもいるから本当に助かっている。


「そうですねぇ……マキナさんとマナさんのおかげで奇襲を受ける心配もなくなりましたし、また一旦足を止めて訓練を再開しましょうか?」

「マキナ関係ない……私の魔力とレイドの魔法が優秀……あいつはちょっと頭が良……いや変な知恵があるだけ……」


 嫌そうに口にするマナだが、そんな彼女は今マキナから受け取った魔物の身体から抽出したエキスのようなものを手に持っている。

 その状態で俺が開発したことになっている範囲内にある同種の存在を検出できる魔法であるスキャンドームを使い、視認できる距離全てをカバーしてくれているのだ。

 だからはっきり言って俺たちが警戒していなくても奇襲を受ける可能性は零に等しい。


(やっぱり凄いなぁ本職は……同じ魔法でも意図して使用する魔力量を変化させることでこんなにも効力に変化をもたらせるなんて……器用過ぎる……)


 魔術師協会のトップクラスということもあり魔力の使い方も、またその総合量も俺とは比べ物にならない。

 剣で強化された状態で魔法オンリーの模擬戦もしてみたが、手も足も出なかったほどだ。

 そんな彼女が護衛についてくれているこの状態は本当に心強くて、おかげでこうして未開拓地帯の奥まで足を踏み入れることが出来ているのだった。


「またそんなこと言ってぇ……いーかげんマキナさんと仲良くすればいーのにぃ……」

「エメラに追われてる時とか息合ってんのになぁ……」

「そこうるさい……良いから魔導書の通りに呪文の詠唱する……これを繰り返すの大事……」

「うぅん……幾らやっても使えるような気がしねぇんだけどなぁ……」


 仮にも危険地帯にいるというのに、アイダ達もこうして軽口を叩きながらも魔法の訓練を行える程度には余裕があった。


「イメージ出来てないだけ……自分も使えるって思い込むの大事……後は実際に人が使ってるところを見てこの詠唱で使えるんだって信じるのも大切……アイダ、お手本……」

「あっ!! う、うん……体内に巡る我が魔力よ、今こそ我が意志に従いこの手に集い我が手を伝わりて触れし者の身体に癒しの祝福をもたらしたまえ……ヒールっ!!」


 アイダが愚痴っていたミーアに触れながら長々と詠唱すると、ほんの僅かに掌の触れている部分から淡い癒しの光が零れ始める。


「うん、お見事ですねアイダ先輩……これだけ短期間で魔法を使えるようになるのは凄いことですよ」

「え、えへへ……まあこれだけしか使えないけどね……しかも触れてる部分しか回復しないくせに物凄く時間かかるし……おまけにすぐ魔力使い切っちゃうからポーションの方が全然効率良いけど……」

「けど未だに一回も成功してねぇあたしらよりマシだろ……はぁ、やっぱり才能ないのかねぇ……」

「うぅん、俺もなぁ……魔法より接近戦の訓練の方が性に合ってる気がするなぁ……まあ未だにレイドにゃぁ全然敵わねぇけどよぉ……」

「俺も始めて魔法を使えるまでに一年近く掛かりましたからトルテさんもミーアさんもいずれ使えるようになりますよ……それに近接戦闘の技術はどんどん伸びてきてるじゃないですか」


 魔法に関してアイダに追い抜かれてへこんでいるトルテとミーアを励ますように呟くが、実際にこの二人の戦闘技術もどんどん成長している。


(やっぱり実力の近い者同士で模擬戦出来るようになったのが大きいんだろうなぁ……もっと早く一緒に修行させるようにすればよかったたかな?)


 魔法の修行が始まってから、この二人は俺の負担を減らすために同じ時間に訓練をするよう申し出てくれて……結果としてどちらにも指導していることがバレてしまった。

 当初は何やら言いたげに互いを見つめていた二人だが、内心何処かでこうなると思っていたのか最終的には受け入れてくれたのだ。


「けど未だに二人掛かりでもレイドに一発も入れられねぇからなぁ……」

「僕なんか未だに誰にも勝てないんだけど……それどころか模擬戦以前に体力づくりしかさせてもらえてないんだぞぉ……」

「そりゃあおめぇ、今までずっと逃げてばっかりだったんだから仕方ないだろうが……」

「まあまあ、アイダ先輩も体力が付いて来てますから……いつかは戦えるようになりますよ……」

「そもそも魔法も剣もどっちも極めようとするのは中途半端……基礎だけ身に着けたらどっちか向いてるほうを重点的に鍛えたほうが効率的……」


 俺のアドバイスにマナが訂正するように言葉を被せてくる。

 尤もその言葉は正しいと思う……実際にマナは魔法しか極めていないが、それで十分剣込みの俺とやり合える実力を持っている。


「け、けどレイドは……」

「レイドは特例……馬鹿みたいに努力して時間をかけて無理やり高い水準で両立させてるだけ……それでもやっぱり専門職には敵わない中途半端さがある……尤も出来ることの幅の広さを度胸と判断力で活かし切っているから下手な天才なら一方的に叩きのめせる強さになってる……頭おかしい……絶対真似できないから成功してるけど駄目な例……」

「あ、あはは……まあ頑張りましたから……」


 褒められているのか貶されているのかよくわからない評価を受けてしまうが、その言い分も多分正しいとは思う。


(俺はあいつに見下されないために人生の半分以上を修行に費やしたからなぁ……そして残り半分はあいつと一緒にいるために……あと一歩で人生の全部が無駄になる所だったなぁ……)


「ふぅん……でもやっぱりレイドは凄いんだねぇ……」

「凄いことは凄い……全国展開してる魔術師協会協会でも上から数えたほうが早いと思う……多分五十……いや無詠唱魔法も使えるから二十番以内には入ると思う……私と修行して伸びてるから最終的には十番以内にもギリギリは入れるかも……」


 少しだけ言いずらそうしているマナ、恐らくはそれが限界だと……もう名前を思い浮かべることすらしなくなったあいつには決して届かないのだと伝えるのに抵抗があるのかもしれない。


「まあ俺としては今のところはあの魔獣と戦える程度の力が身に付けば十分ですよ……だからこそマナさん、今日も俺と模擬戦をお願いします」

「……いつでもいいよ」


 それでもこの話題を続けたらまた俺はあいつのことを考えて落ち込んでしまいそうだ。

 だから俺はわざとらしく模擬戦を言い出して、話題を変えつつ身体を動かすことで気を紛らわすことにした。

 そんな俺の気持ちを汲んでくれたのか、マナはこくりと素直に首を縦に振って見せた。


「では……ファイアーボールっ!!」

「んっ」


 だから早速無詠唱で手のひらから火球を打ち出すが、マナが軽く呟いただけで俺の魔法は打ち消される。


無効呪文(アンチマジック)かな? それとも純粋に魔力量で押しつぶしたとか……やっぱりレベルが違……っ!?)


 考えながら次の魔法を打ち出そうと手を向けようとしたところで、何故か身体が異様に重くなっていることに気が付いた。

 まるで粘液の中を泳いでいるような感覚……間違いなく行動阻害魔法(スロウ)の効果だ。


(あ、あの軽い呟きで複数の魔法を同時に発動できるのかっ!? ど、どうなって……っ!?)


「んっ」

「あ、アンチマジックっ!!」


 マナの杖が光るのを見て、慌てて口を動かして受けている魔法を無効化して身体の自由を取り戻す。

 そして次の魔法を使おうとしたところで、マナの杖先からとても小さい水の玉が放たれるのを確認した。


(な、何であんな小さく……もっと大きく威力を強めて打てるはずなの……っ!?)


 疑問に思った次の瞬間、凄まじい勢いで分裂した水の玉が物凄い速さで迫ってくる。

 恐らく魔力を調整して威力や大きさよりも、量と速度に力を注いだのだろう。


(ほ、本当に器用だなマナさんはっ!! だけどこれなら剣で打ち払……いやこれにはあまり頼りたくない……)


 魔法の訓練ということもあるが、最近はあいつに貰った剣を振るうことに抵抗を感じるようになった。

 多分思い出したくないからだろう……だからあえて再び火球でもって打ち払おうとする。


「ファイアーボー……っ!!」

「えぇっ!?」

「残念」


 しかし小さい水の玉はこちらに近づいたところで、その全てが急に俺を飲み込むほどの大きさへと変化した。

 当然のように俺の打ち出した炎の玉はそのうちの一つとぶつかり合い、拮抗して消滅した。

 もちろん間髪入れず後ろから迫る水の玉を迎撃することは適わなくて、咄嗟に横跳びして直撃だけを躱した。


「うぐっ!?」

「なぁっ!?」


 一発目の水玉を僅かに服の表面を掠らせながらも躱したはずの俺は、急に何かに縫い留められたように動きが止められてしまう。

 こちらを見ていたアイダ達が驚きの声を上げているが、俺もまた攻撃を受けてた場所を見て同じく驚愕してしまう。


「こ、凍り付いてっ!?」

「はい、お終い」

「っ!?」


 掠った服ごと水が氷の塊となって俺の動きを封じている間に、二発目の水玉が俺へと直撃してバランスを崩しながら倒れたところでその水もまた凍り付いて俺の動きを完全に地面へと縫い留めた。

 そこへ残る水玉が形状を変えながら凍り付き、鋭く尖るツララ状になりながら俺へと迫り……不意に軌道を変えて周辺の地面に突き刺さっていく。


「はぁぁ……やっぱり何度見てもすごいなぁ……」

「あのレイドが手も足も出ないなんてなぁ……」

「えっへん……魔法勝負ならそうそう負けない……尤もレイドが武器も併用してたらもっと苦戦した……」

「そ、そんなことよりも今の魔法は一体なんなのですかっ!?」


 こんな風に魔法を放った後でその性質が変わるところを初めて見た俺は、敗北したことよりもそっちの興味で頭がいっぱいだった。


「これも魔力を調整しただけ……イメージさえできてれば放った後の魔法に干渉して性質を変えることもできる……新しく魔法を使うのと同じ要領……だから詠唱が短くないと間に合わない……」

「な、なるほどっ!! こんな使い方もあるんですねっ!! じゃあ無詠唱魔法が使える今の俺ならっ!!」

「理論上は可能……努力次第……つまり頑張り屋のレイドなら絶対できる……」

「は、はいっ!! ありがとうございますっ!!」


 普通に解説しながらもその言葉に魔力を載せることで、マナは俺の拘束を解いてくれる。

 そして自由になった俺は新しい技術を目の当たりにした興奮も冷めやらぬままに、マナへと頭を下げた。


(こ、こんなことできるようになれば間違いなく強くなれるっ!! 皆を守れるようになるしあいつにも追いつけ……と、とにかくやってみようっ!! やっぱり指導を受けるのっていいなぁっ!!)


 人から教わるという行為が物凄く新鮮で、何よりまだ自分に伸びしろがあると分かり嬉しくなる。

 街にいた頃、誰からの協力も得られずに独学で努力してた頃は何をしていても本当にこのやり方が正しいのかわからなくて常に不安だった。

 だからこそこうして正しいやり方を教わり、実際に何ができるようになるのかを理解して修行できるのが楽しくて仕方がない。


「やっぱりあたしらとはレベルがちげぇなぁ……つーかひょっとしてレイドとマナが二人揃ってりゃぁあたしら居なくても魔獣なんか余裕で勝てるんじゃ……」

「まあだけど修行はしておこうぜ……万が一にもレイドの足を引っ張らないためにも、最低限自衛ぐらいできるようにならねぇと……」

「そうだねぇ……僕もいざって時に皆を癒せるように頑張ろうっとっ!!」

「皆やる気満々……良い生徒たち……素晴らしい……」

「マナさんが教師として優れているからですよ……これからも指導お願いしますね」


 俺のお願いにマナはどこか嬉しそうにこくりと頷いてみせるのだった。


「任せて……ところで、そろそろ移動する……全く魔法に魔物が引っかからない……」

「ああ、そうですね……しかし本当にどうしたんでしょうねぇ急に……」


 マナに言われてまた一応臨戦態勢を取りながら移動を再開する俺たち。

 しかしいくら移動しても、やはり一匹も魔物に出会えなかった。


「うぅん……やっぱりマキナさんが言ってた通り、魔獣を一匹倒されたからけーかいしちゃってるのかなぁ?」

「もしくはエメラが言ってた不審者が関わってんのか?」


 お互いに顔を見合わせて疑問を口にする俺たち。


「不審者? なにそれ?」

「ああ、そっかエメラさんから逃げ回ってるマナさんはきーてなかったよねぇ……」

「未確認情報ですけれど、ファリス王国との国境付近にある複数の町で異様な外見をした人間が目撃されているとかで……それも丁度、俺たちが魔獣を退治したあの日の前後らしくて……」

「何でも魔物の臓物だとか肉片を全身に纏ってて凄く暗い瞳をした美しい女の外見をした奴で……しかもまだ記事になってない段階から魔獣を倒したレイドのことを訪ねて回ってたんだとか……」

「あんたがちょうどエメラと初めて出会った日に尋ねてきたのはその情報を教えに来てくれたんだよ……何か関係あるかもってな……」


 俺たちの話を聞いたマナは、軽く首を傾げながらぽつりとつぶやいた。


「なるほど……知らなかった……マキナなら何かわか……あ、あんな奴に教えても無駄だと思うけど一応相談しておくっ……」


 どうやら反射的に口を動かしていたようで、途中でマキナのことを認めるような発言をした自分に気付くと慌てて訂正するマナ。


「全く、意地張っちゃってぇ……素直に仲良くすればいーのにぃ……」

「アイダうるさい……あんな奴と仲良くできない……せっかくの頭脳をあんなことに使う奴……ふん……」

「……ふふふ」


 普段は淡々としているマナが、マキナに関しては子供のような態度をとる姿は何やらとても微笑ましく感じて思わず笑みをこぼしてしまうのだった。


「むぅ……レイド、修行の続きする……防げ……ライトニングボルトっ」

「えっ!? ちょっ!? ば、バリアウイン……ぎゃぁあああっ!!」

「う、うわっ!? ま、眩しいっ!! なにこの雷っ!?」

「へぇ……マナほどの奴がわざと詠唱して魔力を込めるとここまで威力上げられるのかぁ……レイドの防御魔法が一瞬で打ち払われてる……すっげぇなぁ……」

「そ、そんなこと言ってる場合かよおいっ!! だ、大丈夫かレイドぉおおおっ!!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 普通は師についてから、型を破るものだろうけれど、彼は我流でここまで来てから、師から基礎を教わっているのか。まあ、普通の教育課程では、きっと規格外にはなれなかったのだろうけれど。 アリシアは…
[良い点]  レイドが……前向きに……生き生きしてる……ウレシイ…ウレシイ……  ていうかメタ的に言うと皆レベル上がってんだな。  先輩にいたっては回復魔法使えてるし。  レンジャー/シーフ系だと…
[良い点] 遂に「あいつ」呼びになってワクワクしてきましたよ! 魔物の臓物とかくっついていて彷徨うとかホラーや
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