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新たな出会い……そして再会⑨

「は、初めまして王女アンリ様っ!! 俺……いえ私がレイドでございます」

「苦しゅうないぞっ!! だが先も言ったが跪く必要も口調を改める必要もないぞっ!! お主等も楽にしてよいぞっ!!」


 何とか正気を取り戻した俺が前に出て跪くが、王女アンリは楽しそうに笑いながらも普通にしていいと言ってくれる。


(いやけど、これって普通にしていいのか? 王族との対面なんか本当に初めてだから、どこまで言葉通り受け取っていいか全く分からない……だけど逆らうのも問題だよなぁ……)


 一応助けを求めるようにアイダ達を見つめるけれどギルドの人たちは驚いた様子でまだ固まっている。

 それに対して社会的地位があり多少はかかわりがありそうな異種族の三人は平然としてこちらを眺めている。

 だから多分俺も普通にしていいのだと判断して、恐る恐る頭を上げることにした。


「ど、どうもアンリ様……それで俺に何の御用でしょうか?」

「先日、妾達が派遣した正規兵全滅の危機を救ってくれたであろう? そのお礼と、スカウトを兼ねて足を運んだ次第であるぞ」

「どうもレイド様、お久しぶりです」

「白馬新聞の記事、拝見させていただきましたよ……私たちのことも覚えていてくださって感激いたしました」


 アンリ様の言葉に続くように後ろから護衛と思わしき兵士の二人が入って来る。

 その二人は魔獣にやられていたところを俺が回復して、その後共に挑んだあの正規兵の生き残りの人たちだった。


「この二人からレイド殿の話は聞いて関心を持っていたところにあの白馬新聞の記事を拝見したのだっ!! まずはこの領内での活動の数々と経済活動の活性化、それに魔物退治の功績を称えて感謝を述べたいっ!!」

「い、いえそんな俺は大したことはしておりませんから……」

「おほほほっ!! 謙虚であるなぁレイド殿はっ!! しかしそれは本来妾たちがやるべきことであるからな、代わりにしてくれたそなたにはやはりお礼をしなければと思ってのう……あれをレイド殿にっ!!」

「ははっ!!」


 二人が一度ギルドから出ると、豪華な宝箱を持って戻ってくる。

 そして俺たちの前で開くと、中には黄金色に輝く防具一式が入っていた。


(これって確か、正規兵の方々が着ていた鎧だよな?)


「本当ならば王宮にて盛大な儀式と共に差し上げても良いかと思ったが、冒険者であり魔獣対策に動き回っているレイド殿を呼びつけて時間を取らせるのも悪いであろうからこうして持参したのだっ!! この場で遠慮なく受け取るがよいっ!!」

「は、はぁ……頂いていいのでしたらありがたく頂戴いたします……」


 とりあえずお礼を言いつつ受け取ってみると、中々軽い……というより重さが全く感じられなかった。

 するとそこへマキナが何やら興味深そうな面持ちで近づいてきた。


「ほほう、これは中々の一品……特殊な魔法が込められているな……ひょっとして噂に聞くルルク王国に代々伝わる鎧ではないかな?」

「おおっ!! よくぞ分かったなっ!! そうであるぞっ!! これこそが我が王家に伝わる伝説の鎧なのだっ!!」

「へぇ……そうなのですか……」


 感心しつつ鎧を見回してみるが、どこか俺の持つ剣と似たような雰囲気を醸し出しているように見えた。


(でも伝説って言う割には、正規兵の方々や俺に配って回るほどあるのか……じゃあ多分この剣も無数にあるうちの一本、なんだろうなぁ……じゃなきゃ俺なんかに渡すわけないもんな……はは、そうに決まってるだろ……彼女が……あいつが俺なんかに期待してるわけがないから……)


 どうでもいいところからまたしても彼女のことを考えてしまう愚かな俺。

 だけど不思議と前よりは胸の苦しみが軽減されているような気がした。

 むしろどちらかと言えば薄暗い感情が……頭を振って思考を紛らわせる。


「へぇ~……そんなすごい物なんだこれ……」

「だけど前に正規兵の奴らも着てたよなぁ……一体何着あるんだ?」

「おや? 皆さまそれは誤解です……これはこの国にたった一つしかない代物でございますよ」

「私たちの着ていた物はこれを模倣して作っただけの鎧ですからね、全く比べ物になりませんよ」

「え……えぇっ!? そ、そんな大事なものなんですかっ!?」


 俺たちの言葉に今は護衛兵となった二人が訂正を加える。


(こ、この国に一つしかない王国に代々伝わる鎧って……そんな文字通り国宝級のものなのこれっ!? そんなもの一介の冒険者に過ぎない俺が貰ったら不味いんじゃないのかっ!?)


 手の中にあるものの価値を知った俺は、急に素手で触れたことが恐れ多いような気がして急いで宝箱の中へと戻そうとした。

 しかしそんな俺を見てアンリは心底面白そうに高笑いをして見せる。


「おほほほほっ!! 確かに兄上や父上が知れば激怒するであろうのぅっ!! しかし国の危機だというのに王宮に籠って会議会議なあの連中の言う通りに飾らせておいてはそれこそ宝の持ち腐れであるっ!! だからレイドよっ!! そのような細かいことは気にせず世のため人の為、そして何よりルルク王国の領民の為になるよう使うが良いっ!!」

「む、無理言わないでくださいよぉっ!!」


 平然と許可も取らずに勝手に持ち出してきたと言い出す王女アンリに、思わず叫び返してしまう。

 幾ら何でもシャレにならない……もしも王族に俺が勝手に持ち出して使ってるなんて形で伝わったりしたらそれこそ打ち首ものだ。

 だから必死で宝箱ごと押し返そうとするけれど、アンリは腕を組んだままで決して受け取ろうとしなかった。


「遠慮するでないぞっ!! ふふ、謙虚だという噂は本当のようじゃなっ!! 感心感心っ!!」

「そう言う問題じゃないんですよぉっ!! ちょっと他の皆さんからも何か言ってくれませんかっ!?」

「羨ましいぞレイド殿……もしよければ私に研究させてくれ……代わりにどんな性能があるのか調査してあげようじゃないか」

「こいつに渡すの駄目……私に渡して……かかってる魔法調べてあげるから……」

「おおうっ!! レイドさんがルルク王国の第一王女より国宝の鎧を授かるだなんてっ!! これも明日の記事に乗せておきましょうっ!!」


(だ、駄目だこの人たち……というかエメラさんそれは一番まずいですからぁっ!?)


 思い思いのことを語る三人の異種族に絶望した俺はギルドの仲間達へと視線を投げかけた。

 しかし彼らはこういう相手との接点がなさ過ぎたせいか、どう関わっていいか分からないようで申し訳なさそうに首を横に振るばかりだった。


「うぅ……王女様がわざわざ足を運んで持ってきてくれたのに断るのもしつれーだし、受け取るのも大問題だよねぇ……レイド詰んでるぅ……」

「俺たちに出来るのは裁判とか開かれた時に証人として証言するぐらいか……」

「まあ、そのなんだ……投獄されても毎日面会に行ってやるから……」

「そ、そんな憐れむような目で見ないでくださいよぉっ!!」

「おほほほっ!! レイド殿は面白い反応をするのうっ!! 見てて飽きぬぞっ!!」


 俺たちの反応を見て言葉通り楽しそうに笑顔を浮かべるアンリは、年相応の可愛らしさが垣間見えていて美貌と相まってとても愛らしい。

 しかし俺はそんなこと気にする余裕もなく、必死で頭を下げた。


「と、とにかく王族の家宝を当主の許可も無く一冒険者という立場の俺が受け取るわけにはまいりませんっ!! どうかご容赦をぉおっ!!」

「その心配ならいらぬっ!! 立場が気になるのならば我が王国の騎士団を束ねる地位に付けばよいのだからのうっ!!」

「は、はぁっ!?」


 更なる王女アンリの言葉に、俺はもう何度目になるか分からない叫び声をあげる。

 そんな俺を見かねたのか、護衛の二人がどこか期待するような眼差しを向けながら口を開いた。


「先日の魔獣退治の手腕を見た私共が推挙させていただきましたっ!! 何より実際に前隊長を部隊ごと葬った魔獣を単独で討伐しておるレイド様ならば誰も否定できないはずですっ!!」

「隊長として私たちを率いて、共に領内から魔獣と魔物を一掃して領内の安全をとりもどしましょうっ!!」

「うむ、そういうことじゃっ!! 聞けば隣国で正規兵となるための軍学校の試験を受けていたと聞くっ!! そんなお主にはこの上ない良い話じゃとおもうがのうっ!!」

「……ふぅ……すみませんがお断りします」


 意気揚々と語る三人だが、軍学校の試験と聞いてまた気分が落ち込んだ俺は軽く息をついてから、はっきりと否定の意志を現した。


「えぇっ!? ど、どうしてですかレイド様っ!!」

「隣国とこちらで正規兵としての地位や待遇に差は殆どないと思いますよっ!!」

「れ、レイド……あのさ、僕との約束を気にしてるならその……別に夢を否定してまで……」


 まさか俺が拒否するとは思わなかったのか、兵士二人は困惑した様子を見せて……アイダもまた申し訳なさそうな顔をしてこちらを見つめてくる。

 他の人たちの反応も似たり寄ったりだ……失恋を知っているアイダ達を含めて、誰一人として俺が軍学校を受験した理由を知ってる人はいないのだから当然だろう。

 だからこそ俺はアイダに向かって安心させるように首を横に振りつつ、王女と兵士に向かって剣を持ち上げて見せた。


「確かに約束も全く関係ないとは言いませんが、はっきり言って俺は正規兵という立場に憧れて試験を受けたわけじゃないんです……それに魔獣を倒したと言ってもそれはこの剣の性能によるところが大きいんです……ですから……」

「……んん? これは……この材質はまさか魔界にしかないと言われているあの幻の鉱石(オリハルコン)か……それにこの紋章……いや家紋は……レイド殿このような武器をどこで手に入れられたのだっ!?」


 そこで先ほどまで鎧を観察していたマキナが俺の剣を見回したかと思うと、柄尻に付いている紋章に目を止めて興奮した声で会話に割って入って来る。


「これは……その……」

「家紋じゃと……んんっ!? 何処かで見たような……確かレイド殿はファリス王国の出身……しかし王家の紋章ではないし……」

「ほほうっ!! そんなデリシャスな剣なのですかぁああっ!! 私にも解いてみせてくださぁあああいっ!!」

「す、すげぇ剣だとは聞いてたけどそんな由緒ある代物なのかそれ……ただのロングソードにしかみえねぇのに……」

「おいおい、レイドってまさか何処かのお偉いさんの子供だったりするのか? それで訳ありで追い出されてとか……」


 その言葉を聞いて興味を抱いたのか、わらわらと皆が集まり剣を観察し始める。

 そして口々に尋ねてくるが、俺は何と答えていいかわからず口を噤んでしまう。


「あっ……この印……確か前にアリシアが……」

「っ!?」


 しかしそこで魔術師協会でアリシアと面識のあるマナがぼそりと呟いて……俺は顔を引きつらせてしまう。

 途端に昨日の俺の取り乱しを知っている皆は何かを察したように目を見開いて、逆に知らない人たちは驚きに目を見開いて俺を見つめてくる。


(ああ……バレた……まさかこんな形であいつと縁があるってバレるだなんて……っ)


 そうして皆の注目を集めた俺は、もう隠すことは出来ないと判断して頷くのだった。


「……ええ、これはその……公爵家に縁のある方から譲り受けた……剣です」

「ふむ……確かにあの家には未開拓地帯から魔物を一掃したというご先祖様が振るっていた凄まじい切れ味を誇る剣があると聞いていたが……」

「私も知ってますよぉおっ!! かつて小国だったファリス王国が屈指の領土を誇るようになったきっかけですからねぇっ!! 有名ですよぉおおっ!!」

「じゃが、その剣は代々当主にのみ受け継がれておると聞くが……前線に立つこともなくなり厳重に死蔵されていると聞いて我が国の鎧と同じく無駄なことをすると常々思っていたぐらいだからのう……それがどうしてレイド殿の手元に?」

「……レイドが公爵家の当主? だけどアリシアは一人っ子だから婿を……ひょっとして婚約者って……?」


 改めて突きつけられた事実を前に、俺は胸の痛みをはっきりと感じながら……首を横に振るのだった。


「元です……それも身分違いの……曽祖父の約束の義理立てを果たすためだけに結ばれた婚約でしかなくて……だから嫌われていて当然なのに縋りついて……結局振られて……それだけの愚かな男です……多分この剣はそちらの鎧と同じく模倣したものでしょう……出なければ俺になんか渡すはずがありませんから……」

「れ、レイドぉ……」


 俺の情けない告白を聞いて、皆が言葉を失う中でアイダだけが痛ましい声を洩らした。

 しかし俺は心の痛みこそ感じているが意外と冷静だった……感情が昂り過ぎて振り切れたせいか、或いは言葉にしたことでようやく受け入れられたのかもしれない。

 だからアイダを安心させようともう一度笑顔を向けると、改めてアンリへと頭を下げるのだった。


「ですからアンリ様……こんな情けない男にそんな立派な立場は似合いません……勿論この鎧も……どうかご容赦のほどをお願いいたします」

「……まずはそちらの事情も考えず軽い気持ちで尋ねた非礼を詫びよう……申し訳ない」

「あ、ああそうだねぇ……私も何も考えず家紋などと口にして悪かったね……冒険者ギルドに流れ着く人間ならばそれなりの事情があると知っていたはずなのだが興奮してしまって……申し訳ない……」

「ごめんレイド……つい……ごめん……」

「……いいんですよ、ただ身分違いの恋をして……失恋したってだけの、よくある話ですから……」


 そんな俺に逆に頭を下げ返す三人にも気にしないよう笑いかける俺を、ギルドの皆が何故か痛ましい物を見る目で見つめてくるのがわかった。


「……とにかく鎧は置いて行こう……先ほども言ったがこの国の領民のためにも今回の魔獣暴走事件の解決に役立てていただければ幸いだ……どうしても身に着けるのに抵抗があるというのならば冒険者ギルドで保管しておいてくれればよい……非常時に備えてと思ってこの提案だけは受け入れていただきたい」

「……そこまで言うのでしたら、一時的にお預かりしておきたいと思います」

「ありがたい……ではこの場は失礼しよう……いずれまた……」


 もう口論する余裕もなくなった俺がアンリの提案に折れると、向こうは改めて深々と礼をしてから兵士を引き連れてギルドを後にした。


「……私も再度謝罪しよう……そしてこの借りは仕事で返すとしよう……マナよ……いやマナ殿、一刻も早く作業を終えるために貴方の力をお貸ししていただきたい」

「……わかった、手伝う……レイド本当にごめん……お詫びになるかわからないけど……頑張る……」


 そしてマキナとマナもまた何かの作業をするためにギルドの奥へと引っ込んでいく。

 後に残された俺たちは何やら微妙に重い空気に包まれてしまい、互いに何を言うでもなく椅子に座って佇むのだった。


「おおぅっ!! 待ってくださぁあああいっ!! ああっ!! 私のプリティベイビィがああああっ!! この縄を解いてプリィイイイズっ!!」

「……空気読もうよエメラさぁん」

「解けるわけねぇだろうが、この危険人物が……」

「全く、流石に引くわぁ……なあレイド……」

「ええ……本当に困った人ですねエメラさんは……ふふふ……」


 しかし正常運転というか暴走しっぱなしのエメラが暴れ出すところを見たら、呆れというか馬鹿らしさが湧き出してきて……俺は自然に笑みをこぼしてしまう。

 多分まだ少し硬い笑顔だったと思うけれど、そんな俺を見てギルドの仲間たちは少しだけほっとした様子を見せてくれるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ついに全部ばらしてしまった。でもみんなどう考えているんだろう。アリシアと面識のある副会長とかも。 きっとこの鎧と剣を合わせて使わないといけない魔物が出てくるんだろうなあ。しかし、国宝級二つ…
[一言] 自分から切り出したわけじゃないけど事情を口に出して少しはスッキリ出来たのかな ていうかアリシアの呼び方が「あいつ」になってるやん...
[良い点]  どんどん人脈(コネ)が広がっている件。  正直、アリシアには申し訳無いけど彼女と関わらなくなってからの方がレイドの人生的には充実して来ている。 [気になる点]  アリシアさん未だ爆走中か…
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