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新たな出会い……そして再会③

「レイドお兄ちゃんありがとーっ!!」

「いえいえ、これぐらいお安い御用ですよ」

「ありがとうございました、神父様……それにレイドさんも……」

「神のご加護があらんことを……ふぅ、これで終わりです……ご協力感謝しますレイド様」


 頭を下げて帰っていく本日最後の患者を見送り、俺と教会の神父はようやく安堵の息をついた。

 ギルドの仕事として、教会が行っている病人や怪我人の治療に協力していたのだがこれが予想以上に忙しかったのだ。


「これも仕事のうちですから……それに怪我や病気はともかく精神的な苦痛を背負う方には何も出来ずに神父様へ完全にお任せしてしまって……本当に申し訳ありません」

「いいえ、これが神父としての仕事のようなものですから……それにレイド様が普通の患者の治療を一手に引きうけてくださったからこそですよ……」


 お互いに頭を下げ合うけれど、目に見える症状を魔法で治療していただけの俺はそこまで役に立てた気がしなかった。

 何せ病気やら二日酔いなどの症状はともかく、怪我の方は誰でも薬草を使えば手間こそ掛かるが治すことはできるのだから。

 それに対して人々の懺悔を聞いて、精神的な負担を軽くして心の病を癒そうとしている神父の仕事のほうがずっと大変で立派だと思われた。


(俺もそっちの治療もできればもっと効率よく人々を癒せたんだろうけど……俺自身が精神的にまだ健康とはいいがたいもんなぁ……はぁ……しかしそれにしても妙に忙しかったなぁ……)


 今までも何度かギルドの依頼として教会の仕事を手伝ってきたが、今日は特に患者が多かった気がする。

 それも精神的な不安を抱えている人ばかりで、だからこそ神父はそっちの相談に掛かりきりになって普通の患者は俺が一人で治療することになってしまったのだ。

 おかげでそこそこの疲労が溜まっているが、治療した人たちが皆笑顔でお礼を言ってくれるからそこまで辛いとは感じなかった。


「お役に立てたならば何よりですが……しかしどうして急に不安を抱えている人が増えたのでしょうね?」

「やはり町の近くで危険な魔物が暴れていることが大きいのでしょう……それに皆さまどこから聞きつけたのか、正規兵の方々が負けてしまったという話も出ていまして……それで不安を感じられているようです」

「そうですか……」


 皆から懺悔を聞いていた神父の言葉は妙に説得力があった。


(そうだよなぁ……あのウロウロしている魔物たちはそこそこ強い、はずの俺ですらこの剣がないと苦戦するんだ……まして魔法も武装も無い一般の方々なんかじゃ手も足も出ない……いつ襲われるか不安になっても仕方ないよなぁ……)


 幾ら魔物よけの祝福がなされているとはいえ、確実に襲撃を防ぎきれるわけではない。

 実際に今日までの歴史の中で、いくつもの村や町が滅ぼされているのだから。


「ええ……ですから実は皆様の心のケアにもレイド様の名前を使わせてもらっているほどで……本当に感謝しております」

「えっ? そ、そうなのですか?」

「はい……万が一襲われてもこの町にはレイド様がおられますからと……実際に強い魔物を倒していらっしゃるのだと聞いておりますよ? ですからいざとなればレイド様が守ってくださるとお伝えして安心していただいておりまして……勝手に名前を使わせてもらって申し訳ありません」

「い、いやそれで皆さんが安心できるのなら構わないのですが……あまり期待されても……」


 予想外の言葉に驚きながらも、俺の脳裏には昨日戦ったばかりの強敵の姿が思い浮かんでいた。


(もしもまたあれぐらいの強敵が現れたら……あの時だって経験の差を活かして無理やり勝利をもぎ取っただけで、本来なら俺一人で勝てる相手じゃなかった……そんな弱い……い、いやそこそこの強さしかない俺を信じられても……信じてくれているんだよな、この町の人たちは……)


「わかっておりますよ、レイド様でも勝ち目のない相手がいることも……それでもレイド様ならと皆信頼しているのですよ……それが心の支えになっているのも事実なのです……いや負担を押し付けてばかりで申し訳ありませんけれど……」


 目の前で本当に申し訳なさそうに頭を下げる神父の姿に、今日俺にお礼を言っていた患者の人たち……特に子供たちの何か眩しいものを見るような眼差しを思い出す。

 あれはひょっとしてそう言う……自分たちを守るヒーロー像のようなものを見ていたのではないだろうか。


(……どっちにしてもこの町の人たちを……優しく俺を受け入れてくれた人たちの期待は裏切りたくないな……恩返しの意味も込めて守り抜きたいと思う……だけど実力の差だけはなぁ……)


 あの時と違って自分が弱いなどとは思わないし、まして無詠唱魔法も使えるようになって強さも増しているとは思う。

 だけどこれ以上劇的に強くなるのは難しいだろう……何せあれだけ努力して鍛え上げた結果が今の俺なのだ。

 これ以上鍛えようにも、一朝一夕で実力が劇的に伸びることは流石にあり得ないだろう。


「……とにかく皆さんの期待を裏切らない程度には頑張ろうと思いますよ」

「すみませんレイド様……一応町の皆さんも各々対策を考えているとは思いますけれど……私も教会のトップである聖女様により強力な祝福の使い方を学ぶために声をおかけしましたが、あのお方も忙しいので……」

「そうでしたか……まあこちらも何か考えておきます……俺もこの町を守りたいという気持ちはありますから……」

「ありがとうございますレイド様……それでは本日の報酬を……少なくて申し訳ありませんがほんのお気持ちです」

「いいえ、助かります……では今日のところはこれで失礼します」


 本日、患者から頂いたお布施の一部を報酬として分けて貰ったところで俺は頭を下げて教会を後にした。

 本当ならばギルドの成果報告書に一筆を書いてもらわなければいけない所だが、同じ町内からの依頼なので後でマスターか神父のどちらかが直接会って話してくれるはずだ。


(だけど一応ギルドに戻って報告は入れておこう……しかし魔物対策かぁ……何かいい方法があればなぁ……)


 歩きながら色々と考えてみるが、結局ギルドに到着しても何も思い浮かばなかった。


「どうも戻りました……ミーアさんだけですか?」

「よぉレイド……いやアイダとマスターなら奥にいるぞ……なんかいっぱい書類か何かを送り付けられてていそがしーんだと……んでやることねーアイダがお小遣い貰って手伝ってんだとよ……」

「あらら、それはそれは……なら報告は終わるまで待つとしましょうか……ミーアさんもですか?」

「いいや、あたしはあんたに用があってね……」


 カウンターに座っていたミーアの隣に腰掛けると、向こうは自前の武器であるナイフを弄りながらこっちをじっと見つめてきた。

 また揶揄われるのかと思って身構えてしまうが、ミーアは珍しく妙に真剣な様子で口を動かし始めた。


「なあレイド……今夜、時間があったらあたしにつきあってくれねぇか?」

「今夜、ですか……まあ構いませんけれど……何かするつもりなんですか?」

「……ちょっと、修行をな……レイドにあたしを鍛えてほしいんだよ」

「修行……ですか?」


 尋ね返した俺の言葉に、ミーアさんははっきりと頷いて見せた。


「ああ……昨日の昇格依頼覚えてるだろ?」

「ええ……」

「あんときあたしもトルテもあんたの邪魔にならないつもりで着いてったのに、結局足手まといになっちまった……そんな自分が情けなくてなぁ……」

「いえそんなことありませんよ……むしろ皆さんが居てくれなければ俺は多分……自分の力に自信が持てなくて、どこかしらで選択肢を誤って……殺されていましたよ……」

「そんなことねーって……レイドは多分一人なら逃げることだってできただろうし、最後だって結局あたしらは棒立ちで見てることしかできなかった……仮にも仲間のつもりだったのにあんな化け物じみた強敵をあんた一人に押し付けちまって……もしもまたあんなことになった時にまた足手まといになりたくねーんだよ……だから、少しでも……強くなりたいんだよ」


 そう言ってミーアは俺に深々と、頭を下げてきた。


「急な話でめーわくだとは思うが、頼むよレイド……この通りだ……」

「い、いえ迷惑などとは思いませんから頭を上げてくださいっ!!」

「済まねぇレイド……助かるよ……」

「それはこちらの言葉ですよ……正直俺としてもあの強力な魔物ともう一度戦いになったらどうしようか悩んでいましたから、ミーアさんがそう言ってくださるのは本当に嬉しいですよ……ありがとうございます」


 心の底からそう思い、俺も頭を下げ返す。


(また教えられてしまった……そうだよ、俺一人で勝つのが難しいなら仲間に手伝ってもらえばいいだけじゃないか……そして自分からこういってくれるなんてありがたいかぎりだ……むしろ俺が感謝する側じゃないか……)


「んなことねーっての……仲間として助け合うのは当然だから……助け合えるようにならねぇと……だけど、あれだ……アイダやトルテには内緒にしといてくれよ」

「まあ構いませんけれど……何故ですか?」

「恥ずかしい……ってのもあるけどよぉ……」


 ミーアは軽くギルドの奥と入り口へと視線を向けて、誰も来ないことを確認してから声を潜めて話し始めた。


「あいつらのことだからこんな話聞いたら自分もって言いだすだろうけど……アイダは魔物にはトラウマがあるみたいだから戦わせたくねぇし……トルテの奴は……あいつはすぐ無茶する奴だから……昔っからそうなんだよ……」

「……ミーアさんはトルテさんとそんな古くからの付き合いなのですか?」

「ああ……そうかレイドには言ってなかったか……あたしらは、その……色々あってガキの頃から二人で生きてきたんだよ……正直兄貴みたいに思ってる……あいつには絶対に言うなよ?」

「……二人で、ということは……その……」

「家族だろ……まあ、多分レイドの想像通りだ……」


 そしてミーアは儚げに笑いながら、言葉を続けた。


「あいつは男だからって、色々と身体張ってあたしの分まで傷付いて……成長するまでずっとそうして無茶して……困った奴なんだよ本当に……だからあんまり巻き込みたくねぇんだよ……強くなったらなったでまた身体を張って無茶をするだろうからな……」

「心配してるんですねぇトルテさんのこと……」

「まぁな……あたしが曲がりなりにも今日まで生き延びてこれたのもあいつが居たからだしなぁ……いい加減良い女と結婚でもして安全な仕事にでもついてもらいてぇけどなぁ……あいつもあんま才能ねぇからなぁ……」

「あはは……ですがトルテさんが結婚して隠居されたら寂しくなりそうですけど……ミーアさんは平気なんですか?」

「どういう意図で言ってんのかは知らねぇけど……さっきも言ったがあたしからしたらあいつは口うるせぇ兄貴みたいなもんだ……恋愛感情とかねぇし、うっせぇのが居なくなって清々するだけだってぇの……」


 やれやれと言わんばかりに首をすくめて見せるミーア、多分色んな人にトルテとの仲について言われているのだろう。


(いつでも一緒にいるし、俺の目からしても滅茶苦茶息が合ってるもんなぁ……だけどそう言う理由だったのか……)


「とにかくそう言うわけだから、悪いけど協力してくれよレイド……絶対お前の力になって見せるからよぉ……ちなみにお礼も考えてあるんだぜぇ~、男の子のレェイド君が喜べそうな奴を……くししっ」

「そ、そんな妖しい笑顔で言われても困るのですが……まあ分かりました、早速今夜からミーアさんの修行の手助けをさせてもらいますよ」

「サンキュ、レイド……本当に急な話で悪かったよ……本当は今朝にでも隙を見て伝える気だったんだが……トルテの馬鹿があんな女に引っかかるからよぉ……」

「エメラさんですね……本当にあれは大変でしたよ……また来るでしょうけど……はぁ……」


 今朝のハイテンションな彼女の様子を思い出した俺は、自然とため息をついてしまう。


「悪かったなレイド……たく、あいつはすぐ胸のデケェ奴に引っかかりやがる……男って奴は……けどレイドは意外と冷静だったなぁ……フローラんときもそうだけど、お前実は貧乳派か? だからアイダと……」

「違いますぅ……正直そう言う目で女性を見る余裕がないんですよ…………失恋したばかりですから……」


 少し言うべきか悩んだけれど、ミーアも過去の話を少し聞かせてくれたのだから俺も話しておこうと思った……名前までは口に出来なかったけれど。


「へぇ……意外だねぇ……そんだけ何でもできるレイドがフラれるなんて……」

「……あの子からしたら俺なんかただの道端の雑草みたいなものでしたよ」

「いや、特薬草みたいなもんだろ……雑草に見えても全然違ぇよレイドは……勿体ねぇなぁそいつ……あたしな……」

「はぅぅ……やっと終わったぁ……あっ!? レイド戻ってたのぉっ!?」

「ご苦労さんアイダ……はぁ……面倒だったなぁ……おおっ!? 良く戻ったなレイドっ!! 仕事はどうだった?」


 そこへ奥からアイダとマスターが顔を出してきて俺に話しかけてくる。


「ええ、何とか無事に終えられました……ミーアさん今何を……」

「いや何でもねぇ……じゃああたしはそろそろ帰って休むかなぁ……じゃあまた後で部屋に行くからな、レイド」


 ポンと俺の肩を叩くと、耳元でそう囁いてからギルドを後にするミーア。


「じゃあねぇミーアっ!! また明日ぁっ!!」

「珍しいな、あいつが酒を飲まないで帰るだなんて……何か用事でもあるのかな?」

「……かもしれませんねぇ」


 無邪気に挨拶するアイダに対して少し首をかしげるマスターだったが、ミーアに内緒だと言われている俺はあえてはぐらかすのだった。


「ふぃぃ……疲れたぁ……おお、レイドも戻ってたかぁ……」

「おおぅっ!! トルテもおかえりぃっ!! さっき丁度ミーアが帰ったところだよっ!!」

「知ってるよ、すれ違ったからなぁ……ふぅ、マジで疲れた……」

「ご苦労様ですトルテさん……」


 疲れた様子で戻ってきたトルテは、俺の隣に座るとべたりとカウンターに身体をよりかけて倒れてしまう。


「だ、大丈夫かトルテ?」

「ああ、まあ何とかなぁ……ちょいと大ネズミが多くて苦戦しただけだからなぁ」

「いつもより多かったのですか? ひょっとして外にいる魔物と何か関連が……」

「いや流石にたまたまだろ……前にも似たような数と戦ったことあるからなぁ……嫌だけどマジで疲れたわ……」

「大変だねぇトルテも……ポーションでも飲む?」


 アイダは冒険者支援用の箱からポーションを取り出してトルテへと差し出すが、首を横に振って断れてしまう。


「ありがてぇけどいいよ……薬草を取りに行けない現状で、疲労回復のために使うのは勿体ねぇ気がするからなぁ……」

「そ、そっかぁ……今はまだ在庫があるからいいけど、薬草をとれなきゃポーションも作れなくなっちゃうもんねぇ……」

「そうそう、そう言うのは危険な任務するときの為に取っておこうぜ……何せ今もまだ未開拓地帯じゃ危険な魔物がウロウロしてんだろうからなぁ……」

「そーいえばエメラさんがそんなこと言ってたねぇ……昨日会ったみたいな魔物もあれだけじゃないみたいだし……はぁ……おっかないなぁ……」


 困ったように呟くアイダだが、それは俺も懸念していることだった。

 あの非常に強かった化け物が一体だけならばともかく、もしも複数匹同時に襲い掛かってきたりしたら絶対に俺一人では……仮にミーアが修行して強くなったとしてもやはり二人では勝つのは厳しいだろう。


「それに関して冒険者ギルドからも連絡が来ているんだが、何でもBランクの有名なパーティが壊滅したとかで大騒ぎだ……おかげで書類が飛び交ってて大変なんだが……」

「そぉそ~……だからこそそれを退治しちゃったことになってるレイドが居るここにあちこちの支部や本部からまで詳細を求めるないよーの書類が飛んできててさぁ……もぉ大変だったよぉ……」

「そ、そうだったんですか……何かすみません……」

「いやまあ、滅茶苦茶評判が上がってるからいいんだが……最初は眉唾だったがどうも今日ルルク王国の首都に正規兵の二人が報告を入れたみたいでな……そのせいで余計に騒ぎになってて……まあ嬉しい悲鳴って奴だな」


 マスターはそう言ってくれるが、俺としてはむしろBランクのパーティが壊滅したという話の方が引っかかっていた。


(それほどの実力者揃いでも勝てないなんて……いやまあ俺もこの剣が有ってなお、正面からやってたら確実に負けてただろうけど……本当に厄介な相手だなぁ……)


「つぅことは……白馬新聞社にも情報は行ってそうだな……」

「あぁ……つまりまたあのおっぱ……エメラさんがレイドのところに……うぅ……」

「そ、そう言うことになりそうですね……うぅ……」


 しかし次いで放たれたトルテの羨ましそうな声と、何やら悔しそうというか辛そうに俺を見つめるアイダの言葉に違う意味で脅威を覚える俺。


(ま、またあの人と相対するのか……別に嫌いじゃないけど、あのハイテンションと……揺れを前に冷静さを保てるだろうか……滅茶苦茶疲れそうだなぁ……うぅ……)


「羨ましいなぁレイド……またあの胸で思いっきり抱擁を受けれる可能性があるのかぁ……」

「いいなぁ……気持ち良かっただろあれ?」

「……それ以前に死ぬかと思いましたよ……何なら代わってください」

「れ、レイドはあんまりそーいうの興味ないんだね……よ、よかったぁ……」

「いえ、だから全く良くないんですよ……本当に息苦しかったんですからね……」


 はっきりそう言いながらも頭の中でさっき実際にされていた時の苦しみを思い返し……少しだけ顔に当たった柔らかさまで思い出しそうになって慌てて首を振って思考を切り替えた。


「あははっ!! まあそれは冗談としてもだ、これから先お前さんの噂はどんどん広まるだろうし……真面目に色んな奴にモテ始めると思うぞ?」

「そうだろうなぁ……マジでお前女に耐性つけておいた方がいいと思うぞ?」

「だ、大丈夫っ!! 僕が先輩として変な女のゆーわくからしっかりレイドを守るからねっ!!」

「ありがとうございますアイダ先輩……まあ今はそんなこと考えられませんから大丈夫だと思いますけど……」


 アリシアのことが色んな意味で胸に引っかかっている今、女性をそう言う目で見れるとはとても思えない。

 そんな俺をアイダは安堵したような、それでいてどこか心配そうな視線を向けてくるのだった。


「だけど向こうからガンガン来たらレイドじゃ……そう言えばお前さんに書いてほしい書類があったんだ……上のランクになる際の書類が……ちょっと待っててくれ」


 そこで何か思い出したように奥の部屋に戻ったマスターだが、すぐに助けを求めるような声を出した。


「お、おいアイダっ!? あの書類どこへ置いたっけっ!?」

「えぇっ!? あれならマスターに渡したじゃんっ!! 何でこんなすぐ無くすのぉっ!?」


 アイダもまた困ったように叫びながら奥の部屋へと入っていく。


「やれやれ騒がしいなぁ……だけどまあ丁度良かった……レイド話がある」

「えっ? は、話しとは?」


 そうしてトルテと二人きりになったタイミングで、何やら彼は真剣な様子で話しかけてくる。

 妙に既視感を抱きながらも尋ね返した俺に、トルテもまた頭を下げてくるのだった。


「俺に修行をつけてほしいんだ……レイドの仲間として力に成れるよう……足手まといにならないよう強くなりたいんだ」

「それはありがたい限りですし、喜んで協力させていただきますけれど……そのミーアさん達には……」

「済まねぇがあいつらには内緒にしてやってくれ……男女差別って言われるかもしれねぇけど、あいつらは女だからなぁ……あんまり危険なことをさせたくねぇんだよ……」


 予想通りというか、やはりミーアと同じ様なことを言い出したトルテ。


「いや、ですがその……」

「わかってる、レイドは真面目だからあいつらに隠し事するのが辛いんだろう……だけどアイダの奴はただでさえ魔物を苦手にしてるのにこれ以上無理はさせたくねぇんだ……それにミーアの奴にも……あいつはすぐ無理をする奴だから……昔っからそうなんだよ……」


 そう言って儚く笑うトルテ……やっぱりミーアと兄妹同然に育っただけあってとても良く似ているように思えてしまう。


「レイドにはまだ言ってなかったが、俺たちは色々あって小さいころから二人きりで寄り添って生きてきた……家族すらいない俺にとってあいつは……本人には絶対に言うなよ……正直、姉みたいに思ってる」

「姉……ですか……?」

「ああ……二人きりで保護者もなく生きてきて……あいつは女だから多分俺以上に辛い目にあっていたと思う……だけど泣き言一つ言わないで、俺たちが成長するまで色々と頑張って……だからもうこれ以上苦労してほしくないんだよ……下手に修行して強くなったらまた無理するだろうからな……」

「……本当にミーアさんが大事なんですねぇ」


 ミーアを心配するような言葉を口にするトルテだが、俺の言葉を聞いて複雑そうな表情を浮かべた。


「どういう意図で言ってんのかは知らねぇが……俺たちは姉弟みたいなもんだからなぁ……恋愛感情とかはねぇよ……ただ幸せになってほしいとは思うけどな……良い男とでも結婚して隠居でもしてくれれば少しは気が楽になるんだけどなぁ……」


 本当にミーアと同じ様なことばかり口にするトルテを見て、俺は何やら可笑しくなってしまうのだった。


(やれやれ、この二人は……本当に優しい良い人たちだなぁ……幸せになってほしいものだけど俺に何か手伝えることは……というかその前に、どうしようこれ?)


 トルテからもミーアからも内緒に修行をつけてくれてと言われた俺は、どうやってスケジュールを合わせるか悩んでしまうのだった。


「まあそれはともかく、悪いけど協力してくれよレイド……お礼と言っちゃなんだが可愛い姉ちゃんと遊べる場所を紹介して……」

「すみませんトルテさん、俺は失恋したばかりですのでそう言うのはちょっと……」

「そうなのか? いやならだからこそ少しは女に慣れておくべきだってっ!! じゃないとお前、失恋した直後なんてそれこそ簡単に誘惑されて……」

「はいはーいっ!! そんなことしなくてもちゃんと僕が守るからだいじょーぶなのぉっ!! よけーな心配しなくていいからぁあっ!! もぉ隙を見せたらすぐレイドを変な道に誘い出そうとするんだからぁっ!! そうだよねレイドっ!! ほら書類持ってきたから書いて書いてっ!!」

「あ、あはは……じゃあそう言うことでよろしくお願いしますアイダ先輩……ええと、ここに名前を書けば……」

「やれやれ、言う傍から女に引っかかってやられっぱなしじゃねぇか……まあお子様アイダなら間違いなんか起こるわけねーからいいけどよぉ……」

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― 新着の感想 ―
[一言] 随分注目集めてますねぇ これでまた近いうち彼女が再来するのか... レイドが窒息死しないよう祈ってます
[一言] 似たもの夫婦、だ/w どちらも結局は引かないんだろうから、両方いっぺんに稽古つけるしかないのでは。 そして噂も広まって、おっぱいの再来襲。その後スクープが。アリシアのような立場だと、本当は…
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