昇格試験と世界に忍び寄る黒い影②
走り終えて町に戻った俺は、一旦部屋に戻ると少し前に購入した箒と塵取りを持って町の中の掃除を始める。
あくまで軽く履いて石畳の砂埃を取るぐらいだが、こうして表面だけでも綺麗にしておくとかかっている魔物よけの祝福の効果がより良くなると何かで読んだような記憶があったのだ。
確か大気中に含まれる微量な魔力が反応するだとか何だとか……詳しくは覚えていないけれど。
(あんな危険な魔物が居るんだ……安全のためにも少しでも効力を増しておかないと俺は元より、この優しい町の人たちが……)
そう思って自発的に始めたのだが、こうして自分が住む町を綺麗にするのは思っていたよりも気持ちがいい。
「おはようございます」
「おはようレイドさん、いつもご苦労様だねぇ」
「いえいえ、これぐらい大したことではありませんよ」
既に朝日は昇っている、だから少しずつすれ違う人々も増えてくるが俺が挨拶をすると誰もが笑顔で返事をしてくれる。
それが本当に嬉しくて仕方がない……あの街では一人を除いて誰もが嘲笑うか無視して陰口を叩くかだったから猶更だ。
だからついつい、町中をぐるりと一周してあちこち細かいところまで掃き掃除してしまう。
「レイドさん、おはようございますっ!!」
「おはようございますフローラさん、相変わらずお早いですね」
「あはは、レイドさんには敵いませんよぉ……いつもお掃除ご苦労様です」
「これぐらい大したことありませんよ……何より好きでしていることですからね」
道具屋の前に差し掛かったところで、ちょうどお店の看板を持って出てきたフローラが微笑みながら話しかけてくれる。
だから俺も掃除の手を止めると笑顔で言葉を返した。
「ふふ、レイドさんって本当に真面目なんですねぇ……お店に来る人達の間でも評判いいですよ」
「それはそれはありがたいことです……期待を裏切らないように頑張……続けていかないといけませんね」
「あんまり無理しちゃ駄目ですよぉ~……といいつつ、また依頼出しちゃいましたけど……」
「いいえ、むしろ実入りが良くてこっちも助かってますよ……けれどそんなに特薬草の売れ行きはいいんですか?」
あれから二週間しかたっていないのに、既に特薬草の納入は十回以上もこなしている。
そのたびにかなりの額を頂いていて、文無しだった俺が使い道に困ってしまうほどお金が貯まってしまっているほどだ。
こんなに沢山報酬を払って問題ないのか不安になるけれど、むしろフローラは俺のことをありがたい存在のように拝むのだった。
「もう売れ行きがいいどころじゃないですよぉっ!! 納品即完売っ!! しかもうちだけ儲かってるわけじゃなくて、あちこちから仕入れ業者が来てるおかげで宿屋を含めるこの町の施設全体が盛況だし……もう感謝感謝ですっ!! むしろ報酬が少なすぎて申し訳ないとすら思ってるんですよぉ……いずれこのお礼はしますからねっ!!」
「いや、皆さんが喜んでくれるなら何よりですよ……それにフローラさん達が冒険者ギルドに無料で薬とかを融通してくれているって聞きますし、こちらこそお礼を言わせていただきます」
そんなフローラにむしろこっちが頭を下げる……何せ彼女たちがそうやって薬をギルドに融通してくれるおかげで今では依頼を受ける際に誰でも支援物資としてソレを持ち出せるようになっているのだから。
おかげでアイダもトルテもミーアも、皆がやりやすくなったと喜んでくれているのだ。
(あの人たち良い人過ぎて、支度金って言っても俺のお金とか絶対に受け取らないもんなぁ……それに俺がまだランクアップできてないからギルドの評価自体は上がってないし……フローラさんが進んで寄付してくれて本当に助かってるんだよなぁ)
「そんなの大したことじゃないですよぉ……大体あれだけ融通したって全然儲けが出てるんですから……本当にいずれちゃんとお礼しますからね」
「本当に大丈夫ですよ、そんなことしなくても……じゃあ俺はまだ掃除する場所が残ってますのでそろそろ失礼しますね」
「あ……そ、そうですか……じゃあまた後程ギルドでっ!!」
少しだけ寂しそうにしながら俺に手を振るフローラに再度頭を下げてから、俺は町の掃除を再開させる。
その後もすれ違った一人一人とあいさつを交わし、時には軽く世間話をしながら掃除を終わらせ宿屋まで戻ってくると箒と塵取りを片付けてから隣にあるアイダの部屋へと向かう。
「アイダ先輩、起きてください……そろそろ朝食を食べてギルドに行きましょう」
「んにゃぁ……」
何度もノックして声をかけて、ようやくドア越しに眠そうな声が聞こえてきた。
そしてごそごそと中で着替える音がしたと思うと、質素な布の服を身に纏った寝ぼけ眼のアイダが顔を出してきた。
「おはようございますアイダ先輩」
「おはよーレイドぉ……むにゃむにゃ……いつも早起きだ……んぅ……」
寝ぼけているらしいアイダの手を引いて、宿屋の一階にある食事処の椅子に腰を下ろす。
「ほらアイダ先輩、今日は何食べますか?」
「んぅ……お金あんま無いから具無しサンドイッチぃ……」
「もう、それでは力が出ませんよ……すみません、じゃあサンドイッチとA定食をお願いします」
店員さんに頼んで一番安いサンドイッチと、パンとお椀にはいったスープに目玉焼きとハムが付いた定食を出してもらう。
そのうち卵とハムを半分に切って、アイダのサンドイッチに挟み込んであげる。
「ほら、いただきましょう」
「はぁい……はむぅ……んんぅ……おいひぃ……いふもありはほぉれいほぉ……」
「口の中に食べ物を入れたまま喋ってはお行儀が悪いですよ……ああ、黄身が垂れてる……」
アイダの口から垂れる黄身をハンカチで拭いながら、俺もまた朝食を食べ始める。
「むぐむぐ……はぁ、美味しかったぁ……レイドぉ、スープを一口だけちょーだい?」
「もちろん良いですよ、こちら側は俺が口をつけてるから反対側から……あっ!?」
「んくんくっ……ふぅ……お腹いっぱい……あ……えへへ、間違えてレイドと同じところから……き、気にしなくていいからね」
俺が口をつけたところからスープを飲んだアイダは、ようやく目が覚めてきたのか恥ずかしそうに顔を少し赤らめながらも微笑んでいる。
「ええ、アイダ先輩が気にしないのなら良いのですが……ずず……ふぅ……ご馳走様……」
「……何で反対側から飲むの?」
「え……い、いやそれは……」
アイダと間接キスにならないよう、お椀の反対側からスープを飲み干した俺だが何故だかジト目で睨まれる羽目になる。
(な、何で間接キスにならないよう気を付けた俺が睨まれてるんだろう……アイダ先輩が何を考えてるか全く分からない……)
尤も二週間程度の付き合いでそこまでわかるようになるのがおかしいのだが……とにかくアイダは少しの間不満そうに俺を見つめた後何やら諦めたようにため息をついた。
「はぁ……まぁいーけどねぇ……全くレイドのにぶちん……」
「は、はは……よくわからないけどすみません」
「謝らないの、もうレイドはほんとぉに真面目なんだからぁ……まあそーいうところも良いんだけどさぁ……それよりギルド行こっか?」
「そうですね、トルテ先輩やミーア先輩が来てるかもしれませんしフローラさんの依頼も早めに終わらせたいですからね……ご馳走様、美味しかったです」
アイダと共に立ち上がると、食器を片付けて宿屋の店員に挨拶してから早速ギルドへと向かって歩き出した。
「また依頼来てるんだぁ……レイドはすっごいなぁ……だけど何か最近フローラと仲良くない?」
「うぅん、確かに町の方々とは少しずつ仲良くなれているとは思いますけれど……」
「いやそーじゃなくてぇ……前は依頼のほーしゅうとかおっちゃんが持って来てたのにフローラばっかり来るようになったし、そのたびに楽しそーに話してるしさぁ……」
「そう言われましても、俺がここにきてからまだ二週間程度ですからねぇ……たまたま道具屋の店主さんがお忙しいだけなのでは? 最近特薬草の売れ行きが良くて大変みたいですし……」
俺の言葉に、アイダはやれやれと言わんばかりに肩をすくめて見せる。
「あのねぇ、だったら尚更フローラがこっち来てる暇ないでしょ? 前みたいにマスターが直接道具屋に持っていけばいいんだからさぁ……」
「そう言えばそうですね……何ででしょう?」
「……レイドってさぁ……はぁ……そんなんだから僕は……」
「アイダ先輩?」
「なぁんでもなぁい……ほら、ギルド見えてきたよ」
アイダの言う通り冒険者ギルドの入り口が見えてきて、俺たちは並んで中へと入っていく。
「おはよー……ってあれ? 誰も居ない?」
「来るのが早すぎましたかねぇ……ですけど鍵が開いていると言うことはマスターはもう来てるはずですよね?」
不思議に思いながらも、いつも通りの習慣でギルド内の片隅に立てかけてある箒を手に取り室内の掃除を始める俺。
「れ、レイドぉ……何度も言うけどそれはギルド内で働く人の仕事であって冒険者はやらなくていいんだってばぁ……」
「それはそうかもしれませんけど、ここで働いているギルドの人員はマスターお一人ですからね……少しは労わって差し上げたいのですよ……何より俺は新入りですし、こういう形でも少しはお役に立ちたいのですよ」
「もぉじゅーぶん役立ってるからねレイドは……むしろそんなことされたらこっちが申し訳なくなるよぉ……」
「いえ、まだギルドランクも……あっ!?」
困ったように呟いたアイダがこちらに近づいてきたかと思うと、俺から箒を取り上げて代わりに掃除をし始めてしまう。
「良いからレイドは休んでなよ、またこの後忙しくなるんだからさ……」
「いえ、新人の俺がそうやって休むわけには……」
仕方なく代わりに雑巾とバケツを取ってくると、床の汚れているところを掃除していくことにする。
「もぉレイドったらぁ……」
「よぉ、相変わらず早いなお前ら……って何してんだレイド?」
「また掃除かよ……お前朝も町中掃いて回ってたくせにまだ飽きないのか?」
そこへトルテとミーアがやってきて、掃除している俺たちを見て何やら呆れたようにため息をついた。
「おはようございますトルテ先輩、ミーア先輩……これも好きでやっていることですから気にしないでください」
「だから先輩って呼ぶの止めろよぉ……そんな風に呼ばれて喜ぶのアイダぐらいだぞ……」
「たく、本当にレイドはクソ真面目だなぁ……お前少しは遊び覚えろっての……何ならあたしが手ほどきして……」
「二人とも余計なこと言わないでっ!! それよりもほら、レイドがここまでしてくれてるんだから二人も手伝ってよっ!!」
「「へいへい……」」
そして二人もまた、掃除道具を手にギルド内の清掃に加わる。
「すみません、なんか強要してしまったようで……」
「まあ、考えてみれば俺たちが利用する施設なんだからな……掃除して綺麗にしておくのも悪くねぇよ……」
「そういうこった……めんどーだけどたまにはこう言うこともしねぇとなぁ……」
(たまにはと言いながら、何だかんだ言って毎朝掃除に付き合ってくれるんだよなぁ……ありがたいというか申し訳ないというか……)
四人掛かりで掃除し始めたことで、ギルド内の掃除はあっさりと片が付いた。
そこへ外から慌てた様子でマスターが戻ってきた。
「おおっ!! 今日も掃除してくれたのかっ!! すまんなぁ、助かるぞっ!!」
「おそぉいマスタぁ~……鍵も開けっ放しでどこ行ってたのぉ~?」
「はぁ? お前ら留守番任されてたわけじゃないのか?」
「おいおいマスターよぉ……レイドが来る前ならともかく今は結構支援物資とかあるんだから防犯には気をつけろよ……」
「いやぁ本当にすまんっ!! だが町長から緊急の呼び出しを受けてしまってなぁ……ちょっと集まってくれっ!!」
そう言って頭を掻きながら、マスターはカウンターの内部に入ると俺たちを呼び寄せてくる。
「なんだなんだぁ? 最近レイドの活躍が目覚ましいから特別ボーナスでも出たとか?」
「いや残念だが違う……確かに褒められはしたけどな……良いかよく聞けよ、最近この付近の未開拓地帯に強力な魔物がうろついているのは知っているな?」
「ええ、知っていますよ……今朝も竜鶏蛇と毒蛇王がうろついていましたからね」
「おぉっ!? 良く知ってるなレイドっ!! そうだその強力な二体がこの町のすぐ近くで発見されたんだっ!!」
俺とマスターの発言に、残る三人が驚愕の表情で叫び声をあげる。
「は、はぁああっ!? あのクソ有名なバケモンが何でこんなところにっ!?」
「た、確かどっちかは北の果てにある山に隣してる王国の領内を単独で荒し尽くした奴だろっ!? 最終的にBランクの冒険者パーティが何とか退治したっていうとんでもねぇ奴っ!!」
「れ、レイドそんなのと出会っちゃったのっ!? よく無事だったねぇっ!! というか何で朝っぱらから未開拓地帯を歩いてたのっ!?」
「いや、朝の修行がてらに少しランニングをしていまして……まあ結構ギリギリでしたけど何とか解毒が間に合いましたからね、この通り健在ですよ」
「お、おいおい気を付けてくれよっ!! お前さんに今倒れられたらせっかくの町の活気が台無しになるし、何より悲しむ奴がいっぱいいるんだからなっ!!」
マスターの言葉を証明するかのように心配するように見つめてくる皆……その想いがありがたくて素直に頭を下げた。
「すみません……重々気を付けたいと思います」
「そうだよぉ……レイドったらすぐ無茶しようとするんだから……駄目だからね、危ないことしちゃっ!!」
「心配してくださってありがとうございますアイダ先輩……おっしゃる通り身の安全を第一に考えて行動していきます」
尤もいざ実戦となると長年の習慣故に、ついつい勝ち目を見出したら危険性も何も考えず突っ込んでしまう。
今言ったように治そうとは思っているのだが、これがなかなか難しい。
(だけどかつてとは違って、今は俺が死んだら悲しんでくれる人が居るんだ……本当に気を付けないとなぁ……)
「そうしてくれ……話を戻すけどな、とにかくそう言った危険な魔物の目撃例が特にここ数日、あちこちで相次いでるんだ……だから少しの間、未開拓地帯への立ち入りを禁止しようって話になってなぁ……」
「そ、そりゃぁなぁ……そんな強力な魔物に襲われたらひとたまりもねぇし……襲われた奴が下手に町に逃げ込んでそのまま襲撃されたらたまったもんじゃねぇからなぁ……」
「けどよぉ……そこに入れなきゃ冒険者としての仕事なんか殆ど無くなっちまうぞ……特にあたしやトルテはまだしもアイダは……」
「うぅ……ほんとぉだよぉ……はぁ……生活費どうやって稼ごう……」
困ったように呟くアイダ、何せ彼女は基本的に薬草の納入しかできないのだから無理もない。
(力がないからトルテさんみたいに下水に降りてネズミ型の魔物と戦うのも難しいし、体力がないからミーアさんみたいに素早い身のこなしで荷物を村々へ届けるのも厳しいみたいだからなぁ……)
「安心しろ、町長から最近の冒険者ギルドの働きが認められて補助金が出ることになったからそれで少しの間なら食い繋げるはずだ……そしてこの件の解決には既にルルク王国が本腰を入れて動き始めてる……何せ前にドラゴンが飛んでたぐらいだからな」
「なるほど……では正規兵の方々が未開拓地帯の調査と危険生物の駆除を行うと言うことですか?」
「そう言うことだ、まあドラゴンが残ってたら無理だろうけれどあいつは別のところへ飛んでいった……あれ以下ならば恐らく正規兵なら何とか出来るだろう……それに領内にいるBランク以上の冒険者にも同じような依頼が国から直接出ているからな」
「へぇ……ならまあ、時間さえかかるけど何とかなりそうだなぁ……」
「なぁんだ……ならよかったぁ……」
マスターの説明にようやくギルド内の皆が安堵したように胸を撫でおろした。
「ならしばらくの間、冒険者としての活動は休止ですね」
「レイドかわいそー……まだ二週間しかかつどーしてないのにねぇ」
「あはは……まあ仕方ありませんよ」
「本当に悪い時期に冒険者になったなぁお前……向いてるんだか向いてないんだか……」
「まあとにかく働けないんじゃぁ仕方ねぇ……こうなったらまた派手に酒でも飲んで寝て過ごそうぜレイド君よぉ~」
アイダとトルテが同情するように呟く中、ミーアは俺の肩を抱くと強引にテーブル席へと連れ込もうとする。
「ちょ、ちょっとミーア先……さんっ!? うぅ……ま、また当たって……っ」
「あぁっ!? だ、駄目だったらぁっ!!」
「おいおい、流石に朝っぱらから酒飲むはどうかと思うぞ?」
「良ーんだよ、やることねーんだから……それに先輩として初心なレーイド君には色々と教えてあげたいことがわんさとあるんだ……くくく、悪いよーにはしないからおねーさんに任せておきなって」
「やれやれ……悪いが俺は付き合わんぞ、本部から転送されてくる書類の整理があるからな……まあ場所は提供してやるから好きにしててくれ」
わちゃわちゃしている俺たちを見て呆れたように呟いたマスターは、そのまま奥の部屋へと入って行った……かと思うとすぐに血相を変えて戻ってきた。
「お、おいレイドっ!! お前宛てに昇格試験のお知らせが来てるぞっ!!」
「えっ!? ほ、本当ですかっ!?」
慌ててカウンターへと戻る俺、その後ろから皆もぞろぞろと付いてくる。
そしてカウンターの上に張り出された依頼書形式の書面を確認する。
『納入依頼:ライフの町の近辺にある未開拓地帯の探索を行い特薬草を二十本納入すること……之の達成によりCランクへの昇格を認める』
「えぇっ!? これで良いのっ!? レイドなら簡単じゃんっ!!」
「本部にレイドの成績を伝える際に特薬草を納入したって書いたら驚いちまってなぁ……もし本当にそんなことができるならって言ってたからそれを試す意味でこういう試験になったんだろうなぁ」
「はぁあ……俺らの時は指定された魔物を規定数見つけ出して退治することだったのに……しかし本当にこんな早く昇格試験が来るなんてなぁ……しかもいきなりCランクって……やっぱすげぇなあレイドは……」
「けどこの時期にやんのか? 未開拓地帯には立ち入り禁止なんだろ?」
「確かにタイミングが悪すぎたな、何せ立ち入り禁止令が出たのは今朝だから本部も気づきようがなかったんだろ……おまけに昇格試験はタイムリミット付きだからなぁ……」
言われて細かい条件を見ると、この依頼書が届いてから一週間以内に終わらせないと認定失格となるらしい。
そしてそうなった場合、再試験まで半年以上経験を積み直さないといけないようだ。
「うぅん、これは困りましたねぇ……アイダ先輩の言う通り少し外に出れば簡単に集まるのですが……」
「しかもここでやんなきゃ半年も無駄な時間を過ごすことになるからなぁ……」
「でもレイドはもう十分金貯まってんだろ? だったら別に無理してランク上げることに固執しなくてもいいんじゃねぇか?」
「そ、そうだよレイド……危険なんだから無理してやろうとしちゃ駄目だよっ!!」
皆は俺を気遣ってそう言ってくれるが、ここで俺がランクを上げればギルドの評価が上がって皆に恩恵をもたらすことができる。
それを考えると、せっかくのこの機会を逃す気にはなれない。
(それに確かにあの魔物たちは危険だけれども、この剣の切れ味があれば倒せないことはない……きっと特薬草を探すぐらいなら何とでもなるはずだ)
「皆さんのお気持ちはありがたいですが、やっぱり挑戦してみたいです……マスター、一時的な物でいいので未開拓地帯に立ち入る許可を取ってきていただけませんか?」
「お、おいレイド……本当にやる気なのかっ!?」
「あ、危ないってばレイドっ!! 無茶しないでよぉっ!!」
「大丈夫ですよ、今日だってこうして生きて帰れましたし……アイダ先輩と一緒の時に何匹も出会いましたけどちゃんと逃げきれたじゃないですか……」
「そ、それはそうだけどぉ……」
心配そうに見つめるアイダを安心させるために微笑みかけてから、俺は改めてマスターに頭を下げるのだった。
「お願いしますマスター……俺はこの機会を逃したくないんですっ!! 試練を受けさせてくださいっ!!」
「……絶対に無理をしないって約束するならな……一応町長と話してみるよ」
「は、はいっ!! ありがとうございますっ!!」
「れ、レイドぉ……うぅ……」