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昇格試験と世界に忍び寄る黒い影①

 朝日が昇る前に目を覚まし、俺は身体を軽く解してから静かに宿を抜け出し町の外へと向かう。

 そして魔物よけの祝福が成されている道を越えて未開拓地帯へ向かい、剣を構えて素振りを始める。

 この町に来てから二週間が経過したが、身体が鈍らないように少し前から修業を再開することにしたのだ。


(うん、やっぱり少しでも睡眠すると全然違う……アイダ先輩の言う通りだ……)


 尤も睡眠時間を挟んでる都合上、どうしても前よりは修行時間が短くなるけれどあくまでも目的は現状の維持だ。

 だから街にいた頃のような苛烈なものにならない程度に抑えながら素振りを終わらせ、次いで体力を鍛えるため剣を持ったまま今度は道なき道を走り出す。


「シャァアアっ!!」

「おはようございます、砂蜥蜴(サンドリザード)さん」


 途中で大地の中を砂に変えて泳ぐ砂蜥蜴が飛び掛かるのを躱し、挨拶をしながら通り過ぎる。

 後ろから着いてくる気配を捕らえながらもまっすぐ走っていくと、正面から体長一メートルほどの殺人蜂(キラービー)が飛んでくる。


「キキキキキキっ!!」

「おはようございます、殺人蜂(キラービー)さん」


 移動速度を落とすことなく、向こうの針を突き出した一撃を半身だけずらすことで躱してそのまま走り続ける。

 すると少しして後ろから砂蜥蜴と殺人蜂が争う音が聞こえてきた。

 どちらも夜行性の魔物なのにこんなギリギリの時間まで活動していたと言うことは、恐らく獲物を探し損ねていたのだろう。


(やっぱり何か変だよなぁ……夜行性のこいつらは下手な魔物より強いのにどっちも獲物を捕れないでいたなんて……やっぱりあいつらのせいなのか……?)


 心当たりはある、前にアイダと共に出会ったこの辺りにいるはずもない強力な魔物だ。

 あのレベルの魔物がうろついていては、先に獲物を取られるしそいつらに襲い掛かるわけにもいかないから食い逸れるのも無理はない。


「クケェエエエっ!!」

「シャァアアアアっ!!」

「……竜鶏蛇(コカトリス)毒蛇王(バジリスク)


 噂をすれば何とやら……新たに視界へ入ってきたのは、尻尾が細長く胴体には翼が生え顔からは竜のように毒のブレスを吐く竜鶏蛇と細長い巨体をくねらせながら岩をも解かす毒の牙を持つ毒蛇王だ。

 どちらも凶暴で国の軍隊が総がかりでようやく倒せるかもしれないという危険すぎる魔物だった。

 もちろん生息域はこんな場所ではなく、同じぐらい強力な魔物がひしめく魔界や山奥といった過酷な場所で暮らしているからこそこのような強さを得たと言われている。


(なのにどうしてこんな場所に……いやそれ以上に何より不思議なのが、人間に襲い掛かるほど飢えているはずなのにどうして同士討ちしないのだろうか?)


 基本的に魔物と言えど生き物である以上、空腹でもなければ命がけで獲物を狙ったりはしないはずだ。

 しかし空腹ならばそれこそ隣に居る魔物を襲わないのはおかしい……そのために強くなっているはずなのだから。


(そう言えば前に見た魔牙虎と黒角馬も仲良く野菜を齧っていた……しかも魔牙虎は肉食だと聞いているのに……一体何がどうなって……っ!?)


「クケェエエエっ!!」

「シャァアアアアっ!!」

「……などと考えている場合ではありませんねっ!!」


 距離が迫ってきた二体が、同時に口を開くと毒霧のブレスと毒液の塊を噴出してくる。

 当然その最中は隙だらけで、相手が一体ならば解毒呪文を唱えながら強引に突っ切って剣で切り裂いてやりたい。

 しかし流石に二匹いる状態では片方を切り裂いている間に、残る一体が別の攻撃を仕掛けてきたらよけれない可能性が高い。


「我が魔力よ、この手に集いて炎と化し我が敵を焼き払え……ファイアーボールっ!!」


 仕方なく脚を止めて後ろに飛び下がりながら、火球を飛ばし毒に引火させて爆発を起こさせる。

 これで毒が燃え尽きればよし、そうでなくても爆風で散らされた毒は直接浴びるよりは効力が落ちるだろう。


「我が魔力よ、風の防壁となりて敵の攻撃を防ぎたまえ……バリアウインド」

「コケェエエエエっ!!」

「っ!?」


 それでも念のため風の防壁をまとい万が一にも毒を浴びないようにしたところで、爆炎を引き裂きながら竜鶏蛇が飛び掛かってきた。

 翼を広げて空から急襲するように鋭い爪を立てて俺を切り裂こうとする竜鶏蛇の攻撃を咄嗟に剣の腹で受け止めつつ、もう一体の動向に注目する。


「シャァアアアっ!!」


(こっちは脚がないからまだここに来るまで時間がかかる……今のうちにっ!!)


 仮に遠距離攻撃をされてもこちらに攻撃が届くまで僅かな時間がある、この隙に竜鶏蛇を撃破しなければならない。

 本当はこの爪の一撃を受け止める際に剣の刃を向けられていれば切り裂けたのだが、余りの速さ故に防ぐのが限界だった……凡人でしかない俺にはそこまでする余裕がなかったのだ。


「コケェエエエエっ!!」


 足の爪での攻撃を防がれた竜鶏蛇は、そのまま剣の腹の上に乗っかるようにしてこちらに牙を突き立てようと顔を伸ばす。

 その前に剣の柄から片手を離し、相手が開いた口の中に指先を突き付けて魔法を唱える。


「我が魔力よ、雷の矢となりて我が敵を貫け……ライトニングボルトっ!!」

「ケェエエっ!!?」


 果たして俺の魔法が先に相手の口内に突き刺さり、体内を巡り竜鶏蛇の身体を痺れさせる。

 動きが止まったその瞬間に、すかさず剣の上に乗っている竜鶏蛇をお手玉するように軽く跳ね上げると同時に刃を翻し全力で切り上げた。


「ェエエエ……っ!?」


 剣の切れ味の前に竜鶏蛇は空中で真っ二つになるが、それを見る余裕もなく俺は残る毒蛇王へと注意を向けた。


「シャァアアアっ!!」


 大地を這いながら口を開いた毒蛇王が再度、牙から抽出した毒を唾液で固めて吐き出してくる。

 しかし何も問題がない……残りが一体ならば話は早い。


「我が魔力よ、体内に生まれし異常を正常なる形へと導け……」

「シャァアア……っ!!」


 俺は状態異常回復用の魔法を唱えながら正面から突っ込むと、毒液ごと剣でその口内を貫き頭部を跳ね飛ばした。


「ぐぅうううっ!? り、解呪(リフレッシュ)っ!!」


 剣で切り裂かれた毒はさらに魔法の防壁で弾かれて、しかし残り僅かに体表へ付着した毒液が凄まじい激痛を引き起こす。

 その激痛を押さえながら唱えていた魔法で即座に解毒するが、それでもすぐには回復しきらない。


(さ、流石に凄い毒だ……殺人蜂ぐらいの毒なら一瞬で回復するのに……だけど死にさえしなければ何とかなる……)


「……ふぅ」


 少ししてようやく毒を治療し終えた俺は軽く嘆息すると、二体が死んでいるのをしっかり確認して改めて日課のトレーニングの続きへと戻るのだった。


(しかし前評判の割には俺なんかにあっさり倒されるなんて……幾らこの剣の切れ味が凄いからって……やっぱり噂倒れってことなのか……それともひょっとして俺って意外と強……いやまさかなぁ……)

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― 新着の感想 ―
[一言] 少しずつ、もしかしたら、と思いつつも。まだ自信は万全には程遠く。 しかし、彼がいない他の土地では強い魔物が襲ってきて大変なことになっているのです…
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