レイドと最後の決断⑭
魔王が迫り来る中で、俺はマジックポーションを飲み干しつつ皆に向かい作戦を簡単に説明する。
先ほど一人で落下していた中で、仲間が居れば取れる方法として思いついていたものだ。
(俺一人だと道連れが精々だった……だけど皆が協力してくれれば、きっと全員で生き残れるはずだっ!!)
尤も相手が相手だけに命がけの作戦であることは変わりがない……特に中核となるアイダの担う役割は危険極まりない。
それでも俺は皆を信じようと決めたのだ……仲間達となら絶対に上手くやれると。
「……と、これが俺の思い付いた全員で生き残れる魔王打倒の策です」
「た、確かに上手く行けば……だが幾ら何でもそれは……っ」
「む、無茶だそんなんっ!? アイダが危険すぎるじゃねぇかっ!?」
それでも作戦を聞き終えた皆の視線はどこか困惑気味であり、否定的な声すら聞こえてくる。
しかし無理もない話だ……何せ俺の作戦はアイダに最前線へと出て貰う必要がある上に、最後の最後には単独で事を為さなければならないのだから。
(今までもアイダが前線に出ることはあったけど、それは俺やアリシアの背中に守られた状態だった……だけど今回は最後にほんの僅かな時間とは言えたった一人で行動しないといけない……しかも相手はあの魔王だ……誰だって心配になるのは当然だ……)
俺自身も不安を覚えないわけではない……それでも俺はアイダをまっすぐ見つめて口を開いた。
「勿論、アイダの危険性は重々承知している……だからアイダが無理だと思うなら違う方法を考えるけど俺は……」
「……ううん、大丈夫だよ」
「あ、アイダちゃんっ!?」
そんな俺をアイダもまっすぐ見つめ返しながらはっきりと頷いてくれた。
「レイドがそう言うってことは僕ならできるって思ってくれてるんだよね……信じてくれてるってことだもんね……だったら絶対できるよっ!! 僕もレイドの判断を信じてるからっ!!」
「そうか……ありがとうアイダ……」
「し、しかし幾ら何でも……アリシア殿やパパドラ殿ですら一人で立ち向かうには厳しい相手だというのに……」
「いや、レイドがこういうのならば大丈夫だと私も信じられる……何よりアイダがやる気なのだから私はその意思を指示したいっ!!」
それでもまだ不安そうにしている皆に対して、アリシアもまた俺たちの決定を受け入れて力強く頷いて見せてくれた。
「……えへへ、ありがとうアリシア……僕頑張るから……皆も信じてよ僕を……ううん、レイドの判断をっ!!」
「あのレイドが出来るというのだ、皆も信じてあげてほしい……私もギリギリまでアイダを守るから……」
「……そう……二人が……いやあのレイドも含めて三人がそこまで言うなら……」
「そ、そうですねぇ……あのレイドさんが人に無茶を押し付けるわけありませんし……大丈夫に決まってますよねぇっ!!」
「うむっ!! その通りであるなっ!! レイド殿がそこまで言うのならば妾達も信じようではないかっ!!」
果たしてそんな彼女たちの態度を見て、他の皆もようやく納得してくれたようだ。
「レイド様がそうおっしゃるのでしたら異論はございません……私は自分の役割を果たすと致しましょう……」
「わかったよレイドお兄ちゃん、私達も協力するよぉ~」
「良いだろうっ!! 我もまた全力を尽くそうぞっ!! 貴様も己の役割を果たすがよいっ!!」
「ありがとう皆……じゃあ早速始めようっ!!」
改めて全員を見回してそう宣言した俺は、早速パパドラの背中に立ち上がった。
途端に暴風が身体を包み飛ばされそうになるが、そんな俺をアリシアとアイダを除く皆が掴んで支えてくれる。
それでもまだ危ういがあえて俺は胸を張ると、チラリと下を見て上がってくるドドドラゴンの位置を確認してから魔王へと向き直った。
(さて、まずは俺がどれだけ魔王を引き付けられるかだ……)
はっきり言って幾ら魔王が傷付いているとはいえ、真っ向から戦っても勝ち目はない。
だからこそ隙を付いて一撃で倒す必要があるのだが、前は隙を作るのも止めの一撃も全て俺一人でやろうとしていた。
(今思えば格上の敵を相手にして無茶がすぎる……いや、無理に決まってたんだ……そりゃあ失敗するよな……)
仲間達のためと言って一人で全て抱えこんで……それで失敗したら何の意味もない。
そんなどうしようもない俺を皆はいつだってフォローしてくれていたことに今更ながらに気が付く。
(ずっと一人で頑張ってる気になって……だけどもう大丈夫、皆を信じられる……皆もそんな俺を信じてくれてる……だから俺は俺に出来ることをやりきるんだっ!!)
大事なのは自分に出来ることをやりきることであり……全てを俺一人でやりきる必要はないのだ。
前々から自分に言い聞かせてはいたが、ようやく本当の意味でそれを理解した俺は今自分が担うべき仕事に全力を尽くそうとする。
(魔王は俺を……俺だけを全力で警戒しているっ!! 特にさっきの捨て身の攻撃で余計に印象付けられたはずだっ!! だから俺がどんな攻撃をしようと見過ごすことなく注視していて、それじゃあどんな攻撃だって決められるわけがなかったんだっ!!)
しかしそれは逆に言えば魔王は俺から意識を反らすことができないということでもある。
ならば俺が思わせぶりな行動を取れば必然的に魔王はそちらを全力で警戒して……他所には隙を曝け出すことになるだろう。
(そうさ、隙を作るのと攻撃を同時にやるのが無理なら……俺が囮になって隙を作ってやればいいだけだっ!!)
本当に単純なそれだけのことに気付くのにこれほど時間が掛ってしまった。
実際に元ビター王国内で魔獣と戦った際にもアリシアを信じて同じような戦術を取っていたというのに、どうしてこんな簡単なことを忘れてしまっていたのだろうか。
(自分に出来ないことは仲間に頼る……仲間に出来ないことを俺がやる……それだけで一人でやるよりずっと簡単に事が運ぶって言うのに……)
ひょっとしたら俺はアリシアやアイダに……愛する女性たちに格好良いところを見せたかったのかもしれない。
彼女達には俺がヘタレなせいで色々と情けない面ばかり見せている気がしたから、釣り合いを取りたくて無茶をして格好つけていただけなのかもしれない。
(その辺りも……信じるべきだったんだな……何だかんだ言ってあの二人が少しぐらい俺の情けないところを見たってその程度で嫌ったりしないって……そう信じられないほうがずっと情けなかったのにな……)
故郷で培われた人間不信が影響していたのかはわからないが、最後の最後まで俺は仲間達との関係が崩れるのを恐れて頼ることが……信じるという行為が出来なかったようだ。
だけどもう大丈夫……こんな危険な場所に来てまで俺を支えてくれようとしている仲間達を……俺を愛してまた俺が愛する女性たちの想いを信じられないわけがない。
だからこそ俺は絶対に上手く行くと自信をもった上で、未だ遥か頭上に居る魔王に向けてただの剣を突きつけると大声で叫ぶ。
「おいっ!! そこのボロボロでグダグダでどうしようもない雑魚のくせに神を自称している身の程知らずっ!! 聞いてるかっ!?」
「「「「「ーーーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」
距離があってなおはっきり伝わるほどの殺意を込めて、声なき声を洩らしながら俺を見下す魔王。
そのプレッシャーをあえて無視して俺はニヤリと笑いつつ宣言する。
「今度こそお前に止めを刺してやるよっ!! そこで待ってろっ!!」
「「「「「ーーーーーーーーーーーーっ!?」」」」」
それを聞いて一瞬だけ魔王の身体がびくりと震え、ほんの僅かに移動速度が落ちる。
(ここだっ!! ここでやるしかないっ!!)
「マナさんお願いしますっ!!」
「わかったっ!! みんな密着してっ!! 転移魔法っ!!」
「「「「「ーーーーーーーーーーーーっ!?」」」」」
その困惑した隙を逃さず即座にしゃがみこみパパドラに手を付けた俺は、マナの魔法によりパパドラも含めてくっ付いている全員で魔王のすぐ傍へと移動した。
ただでさえ俺の宣言で困惑していたにも関わらず、転移魔法による一瞬の移動で俺の姿が見えなくなったことで魔王はどんな感情を抱いたのか、更に身体を震わせると全力で移動を制止してまで警戒を強め始めた。
そして表面についている無数の目をグリグリと動かし、すぐ傍へと移動した俺たちを見つけると慌てて距離を取ろうとする。
しかしマナを始めとした皆が盾や鞄を前面に構えているせいで、その中心にしゃがみこんでいる俺の姿を見つけられず、全ての目を見開きながら更に周囲を見回し始める。
(やっぱり目の前に来ている集団すら無視して俺だけを警戒してるか……なら後は……っ!!)
「これでも……喰らえっ!!」
「「「「「ーーーーーーーーーーーーっ!?」」」」」
そこで俺はあえてパパドラの背中から飛び上がると、空中に隙だらけの身体を晒しながら全力でその手に持った剣を投げつけた。
果たして魔王はそんな行動をとった俺だけを注視しながら俺の投げつけた剣を避けることだけに全力を尽くし、身体を捻ると身体中の全ての手を振り回し強引に払いのけようとした。
(はは……こういうところも魔獣そっくりだよ……やっぱりお前は神には程遠いよ……)
それでも或いは仲間が居れば誰かが魔王の不備を補うなり、指摘するなりしたはずだった。
だけど魔王はそう言う存在全てを切り捨てて、一人で全てをやろうとした……まるでさっきの俺みたいに。
だからこそ、必然的に魔王もまた……致命的なミスを犯すことになる。
「行けっ!! アイダっ!!」
「うぅ……我が魔力よ……万物と交わりて……我が同胞に等しく効果をもたらしたまえ……っ!!」
「「「「「ーーーーーーーーーーーーっ!?」」」」」
そこへ背後からそんな叫び声が聞こえても……魔法を唱えながら猛スピードで迫るアイダに気付いても、反応が追い付かない。
何故なら同時に迫る剣の方を……俺が投げた何の変哲もない武器を弾く方に全力を費やしてしまったから。
(皆が盾やら鞄やらを構えてるから気づかなかっただろっ!! あの二人だけは一緒にこっちへ飛んでこなかったことになっ!!)
あの瞬間、二人はそっとパパドラの背中から飛び降りてドドドラゴンの背中に着地した後で、俺が魔王の注意を引くのを確認してからアリシアの転移魔法でもって反対側に現れていたのだ。
そして俺の攻撃に合わせて魔王が反応して、致命的な隙を晒した瞬間にアリシアが全力でもってしてアイダを魔王めがけて投げつけた。
魔王の身体にぶつかったアイダだが、その一瞬の交錯のうちにドドドラゴンの身体に貼りついているオリハルコンの装甲の一部を足場にして魔王の身体に着地しつつ近くにあった手にしがみ付いた。
そこで何か危機を覚えたのか反射的にアイダを振り落とそうとする魔王。
それでも未だに無防備に身体を空中へ飛び出した俺から目を離せないこともあり、また全ての神経を俺の投げた剣を弾くことに専念していたがために出来ることは身体を揺さぶるぐらいだった。
しかし今までアリシアの背中に貼りつき続けてきたアイダは、その程度で振り落とせるほど軟弱ではなかった。
俺が新しい魔法を開発したりして成長する中で、アイダもまた地道に成長していたのだ。
(そうさ、アイダはいつだって頑張ってた……自分に出来ることをやりきろうと……それこそ弱々しいけど魔法だって使えるようになった……だからこそ決め手に成れるっ!!)
俺の新しい作戦は最初に魔王を倒そうとしていたやり方と殆ど変わらない。
ただ隙を作る係と止めを刺す係に分担して……その止めをアイダに任せただけのものだ。
何故ならば……彼女の魔法量ならば魔王の傍で俺達が意識を引いていても、他の誰を巻き添えにすることもないのだから。
「後は任せた、アイダっ!!」
「そして体内に眠りし魔力よ……その全てを形無きまま解き放て……オールアウトバーンっ!!」
「「「「「ーーーーーーーーーーーーっ!?」」」」」
果たしてアイダは俺の期待に応えるべく魔王の身体にくっついたまま、俺の当て損なった魔法を見事に唱えあげた。
途端に彼女の身体を中心としてほんの僅かな光の帯が走り抜ける。
もちろんそれは密着している魔王にしか触れることはない本当に小さな効果範囲だったけれど……だからこそ理想的な効果をもたらした。
「あぐぅうううっ!? い、いったぁあああ……っ!?」
「「「「「ーーーーーーーーーーーーっ!?」」」」」
アイダの痛みに悶える悲鳴と共に、魔王の全身が一気に膨れ上がり苦悶の表情を浮かべ始める。
そして今まで以上に激しく身体を揺り動かしてアイダを吹き飛ばすが、その時点で魔王の全身にはひび割れが走り始めていた。
「アイダっ!!」
「うぅぅ……あ、アリシアぁっ!!」
「「「「「ーーーーーーーーーーーーっ!?」」」」」
吹き飛ばされたアイダを転移魔法を駆使して何とかキャッチしたアリシア。
それに対して魔王はその身体を更に膨らませ、ひび割れが全身にくまなく広がったかと思うと、先に切り落としていた下の方の断面からボロボロとただの土塊のように崩れ落ちていく。
もはやその部分に癒しの光が発生することも無い……全ての魔力が暴発して体内のあらゆるところを傷つけて回った結果だった。
「「「「「ーーーーーーーーーーーーっ!?」」」」」
「あっ!? れ、レイドぉっ!?」
「れ、レイドっ!? 危ないっ!!」
それでもなお魔王は最後の抵抗とばかりにまだ崩れ落ちていない一部の手を強引に引きちぎり振り回すと、俺にめがけて投げつけて来る。
(なるほどなぁ……アイダへの抵抗がおざなりだったのは、それを無視してでも俺を倒したかったから……剣を弾きつつそのまま俺に攻撃を加えようと狙い定めていたからかっ!!)
予めそう決めていなければ幾ら執念が籠っていたとしても、頭や心臓を壊された状態で身体を動かすような真似が出来るはずがない。
逆に言えばそこまでして……どう考えても何か企みのあるアイダ達を放置してまで俺を殺したいほど憎かったようだ。
(凄まじいスピードだな……何より比較的崩れ落ちてない箇所だから硬さも十分……これが直撃したら俺なんかは即死だろうなぁ……だけど残念、そんな攻撃じゃ俺はやれねぇよっ!!)
先ほどとは逆で暴発の反動で身体が傷付き、また魔力が尽きている魔王にはこれが精いっぱいの攻撃だったのだろう。
それに対して俺はすでに魔力が補充されきっているから幾らでも取れる手段はある。
何より魔王の行動を警戒していたのは俺も同じで……だからこそ向こうの反撃を見た時点で無詠唱でもって魔法を発動させていた。
「転移魔法っ!!」
「「「「「ーーーーーーーーーーーーっ!?」」」」」
「あっ!?」
果たして俺の転移魔法により魔王の投げつけた手はそのまま、速度を保ったまま魔王の背後へと飛ばされる。
そして崩れ落ちている自分の身体に激しくぶち当たり、それが最後の一押しとなった。
「「「「「ーーーーーーーーーーーー……………っ!?」」」」」
身体の中心に当たった魔王の手は、ひび割れていた身体をあっさりと貫きその全身をバラバラにした。
そして今度こそ意思も何も持たぬただの土塊のような固まりと化した元魔王の身体は、重力に引かれるままに大地へとばら撒かれていった。
(これで今度こそ終わりだ……魔獣事件も世界の危機も何もかも……いや違うか、俺にとって一番大切なことがまだ残ってる……大事なのはこれからか……ここから全てが始まるんだ……)




