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終わりの始まり⑧

 憤慨した様子でヲ・リダを睨み続けるドラコのお父さんだが、どちらの言い分も嘘を言っているようには思えなかった。


「え、ええとつまりお二人の言葉をまとめますと……ヲ・リダさん達の知らない所でア・リダと言う方が既にドラゴンを捕らえて何かしていたということでしょうか?」

「い、いやそんな筈は……私たちの間に実力の差は殆どありませんでしたから、それこそ内密に動いていたとしても単独でドラゴンをどうにかする力などあるわけが……」

「け、けどドラコがテレパシーとやらで誘い込まれるのを親父さんも含めてドラゴンはみんな知ってるんだろ? じゃあやっぱりア・リダとやらが何かしてたんじゃねぇのか?」

「そうとしか考えられないよなぁ……」


 俺の言葉にヲ・リダはやはり首を横に振って見せるが、トルテもまたドラゴのお父さんよりの発言をしていて、ミーアたちもそれに賛同するように頷いている。


「うぅん……ドラコのおとーさん、その最後の一人のドラゴンさんはどんな人……というか方なの?」

「先ほども述べた通り、魔獣共の卑劣な行いにより既に原型を失いつつあるようでな……仕方なく能力を使い、常に今の我のような姿形を取っておる……おまけに恐らくは我が子の身体の一部や、それこそ我が身から取られたであろう一部も混ぜられておるらしく反応も多少変わってしまっており大元がどのような個体であったかはもはや判別がつかんのだ…」

「っ!!?」


 それを聞いたヲ・リダは何やら目を見開き口をパクパク動かしたが、結局何も言うことなくそのまま何ごとか考えこんでしまう。


「だけどドラコも貴方も言葉を話せる……恐らくそいつも話せるはず……事情を聞けば少しはわかるのでは?」

「残念だが当の本人も弄られ過ぎて記憶が曖昧になっておるようで身の上に関しては未だに分からぬままだ……尤も貴様らが魔界と呼ぶ我らの住処へと戻り事情を聞いて回ればすぐにでもわかるとは思うが……」


 代わりにマナが訊ね返すとドラコのお父さんは憐れむような口調で呟いた後で、その部屋の外へと視線を投げかけ深くため息をついた。


「偉大なる我らが他種族ごときに良いようにされたことがよほど気になっておるようでな……せめて身体を元に戻すまではと、ここに残り魔獣と言う屑共が残した資料を漁って何事か研究しておる……そのついでに我の子供を再現しようとしているようだがな……」

「も、元にですか……しかしそんなことが出来るのでしょうか?」

「……」

「お、おいヲ・リダ?」


 俺達の問いかけに顔を伏せてしまったヲ・リダは反応することなく、真剣な様子で何事かを考え続けていた。


「ふん、そんな奴の意見を聞く必要はあるまい……仮に魔獣如きが出来ぬと断言したとしても我らならば可能かもしれぬのだか……」

「……済みませんが、二つほど質問させていただいてもよろしいでしょうか?」


 そこで不意に頭を上げたヲ・リダがドラコのお父さんの言葉を遮る様にして口を開く。


「はっ!! 何故我が貴様のような屑の言うことに……」

「その方には本当に貴方様の身体の一部が混ざっているのですか?」 

「我の言葉を無視するとは良い度胸だなっ!!」

「ちょ、ちょっとどうしたんですかヲ・リダさんっ!?」

「ま、待てよヲ・リダよぉっ!! お、落ち着けって、なっ!?」


 こちらの言葉を一切聞かずに口を動かし続けるヲ・リダにドラコの父親は、今にも飛び掛からんとばかりに怒りを露わにし始めた。

 流石に不味いと思い俺達も咎めるような声をかけるが、それでもヲ・リダは喋ることを止めなかった。


「失礼でしたらすみませんが私の想像が確かならば一刻を争う事態なのです、改めて聞きますがその方は本当に……ドラゴンでしたか?」

「っ!!?」


 次いで訊ねたヲ・リダの問いかけに、今度は俺達が固まってしまう。


(ど、ドラゴンじゃないっ!? い、いやでも多混竜もそうだけどドラゴンの一部が混ざっていればドラコもお父さんも多分感知して誤認する可能性はあるけれど……それこそ元の姿がわからないって言ってるぐらいだし……)


 しかしもしそうだとすれば、最後の一体はいったい何者なのか全くわからなくなってしまう。


「なっ!? 貴様は我が謀りを口にしてるとほざく気かっ!?」

「いえ、そうではありません……ただその方は反応も見た目も大元とはかけ離れてしまっているのですよね? その上で貴方様の身体の一部が混ざっているとなるとこれは……その正体は魔獣の可能性が非常に強くなります」

「はっ!? ど、どういうことだよヲ・リダっ!?」


 しかし逆にヲ・リダがどこか確信めいた口調で呟き、俺たちはもう何度目になるかわからない驚きに囚われてしまう。


「なっ!? あやつが貴様らと同じ魔獣だとっ!? 戯けたことをっ!! どこまで我らを侮辱すれば気が済むのだっ!?」

「……我々は成体のドラゴンの力を身に着けるためだけに動いて来ました……ですから貴方様の身体から取られたほんの僅かな素材はまさに念願の代物でして、誰もが自分のモノにしようと狙っておりました……それこそ培養器で増やす前に手を付けようとする輩も居るぐらいで、だからこそ我々は幹部間で互いに見張り合って他の誰かが手を付けないように厳重に保管していたのです」

「えっ!? じゃ、じゃあやっぱり魔獣には混ざってないってことにならないのそれ?」

「ええ、私の知る限り魔獣の中にはドラゴンの素材と融合した存在はいないはずでした……ドラコさんの素材だけならば誰かが勝手に試みた可能性はありますが……しかしそれも全て成体のドラゴンがここへと乗り込み、片っ端から魔獣を取り込み始める前までの話です……あれで結果的に本部を破棄した我々はその素材を持って逃げる余裕もなくなりましたから、そうして監視が外れた隙に誰かが……」

「……待て、貴様は今何と言った?」


 そこで今度はドラコのお父さんがヲ・リダの発言を止めて訪ねて来た。


「ですから魔獣に化けた貴方様が本部に乗り込んできて、転移魔法で片っ端から魔獣をその身に取り込……あっ!?」

「戯言もそれぐらいにしろっ!! 確かに我は娘を探すために屈辱を堪えて貴様らのような醜き哀れな生き物に化けてはいたが、だからと言って貴様らなど取り込むものかっ!! そんな必要がどこにあるっ!?」


 再び不快そうに叫び出すドラコのお父さんだが、ヲ・リダ自身も自分で言っている最中にその事実に気が付いたようだ。

 そしてそれは、あらかじめヲ・リダからその話を聞いていた俺達も同様だった。


(そ、そうだよっ!! 自らの種族に誇りを持っているプライドの高いドラコのお父さんが毛嫌いしている魔獣に化けるだけならともかく、取り込んだりするはずないじゃないかっ!?)


 娘を探し出すために仕方なく魔獣に化けて侵入したことですらこれほど不快そうに話しているドラコのお父さんが、向こうから転移魔法で無理やりくっ付いてくるならばともかく自らの意志で魔獣をわざわざ取り込んで回るわけがない。

 しかしヲ・リダの言葉からして誰かが自発的に魔獣を取り込んで回ったこと自体は事実のようで、彼は呆然としながらぶつぶつと言葉を呟き続けた。


「そ、それは……しかし確かにあの時……我が子を返せと言いつつ片っ端から魔獣を取り込んで回って……あ、あれは一体……?」

「そのようなこと知るものかっ!! 我はただ我が娘の反応を追っていただけだっ!! しかしその反応が急に増え始めていたからこそ、仕方なく戦闘中に勝手にくっついてきた屑共の記憶を辿り娘の居場所を知り忍び込んだだけの話だっ!!」

「お、おいおい……じゃあ何か? 魔獣の誰かがドラコのお父さんの真似をして仲間を取り込んで回ったってことかっ!?」

「し、しかし生きている者同士での合成はドラゴン以外では不可能のはず……なのにどうやって……」

「そ、その通りです……それを戦闘中に知っていた私たちは、だからこそああして生きている魔獣を取り込んでなお平然と動いているあれを成体のドラゴンだと判別していたのですが……」


 急に不穏な空気が流れてきて、俺は何やら嫌な予感を覚え始めていた。


「け、結局どういうことだよっ!? 最後の一人は魔獣なのかドラゴンなのかっ!?」

「や、やっぱりドラゴンで……その人が取り込んで回ったって考えれば納得がいくけどぉ……」

「ありえんな、あやつの言葉からしても誇り高き我らがそのような方法を取るはずがない……」


 アイダの言葉を否定するドラコのお父さんだが、その言い方からは彼もまた少しだけこの状況に不穏なものを感じているように見えた。


「だ、だとするとやっぱりそいつはドラゴンのふりをした魔獣? け、けどそれなら合成に耐えられるはずが……ど、どうなってんだっ!?」

「……百聞は一見にしかず……ここで話し合うより、直接本人に確認したほうが早い……」

「あっ!? そ、それもそうですね……す、済みませんドラコのお父さん……もしよろしければその方がいる場所へ案内してもらえないでしょうか?」

「ふん、良かろう……ただし妙な真似はするでないぞ……お前もついてこい……暴れられるかもしれんぞ?」

「「「ドゥルルル……」」」


 混迷を極める中でマナの淡々とした言葉でようやく状況が進展する。

 ドラコのお父さんが三つ首の子に指示を出し、俺たちの前に立って進み始めた。


(なるほどな……アリシアの実力を知っているからこそ、万が一俺たちが騙そうとしていても対抗できるようにあの子も連れて行くわけか……最悪は三体同時に相手にする羽目になるのか……)


 家宝の剣を持っているアリシアでようやくギリギリドラコのお父さん一人とやり合えうことが出来ていた。

 しかし結局傷らしい傷は殆ど与えられていないし、俺と二人掛かりで何とか抑え込むことに成功しただけだった。

 だからこの状態でもしもドラコの父親と同等クラスの敵を三体相手にするとなると、苦戦どころか敗北は免れないだろう。


 それでもドラコのお父さんが一応は中立に近い立場でいてくれている、この機会を逃すわけにはいかなかった。


(大丈夫だ……ヲ・リダさんは嘘を言っているわけじゃないし、俺達もドラゴン自体を敵視はしていない……仮に争うような事態になるとしたら向こうから襲ってくるぐらいだ……だけどドラコのお父さんがこの調子ならよほどのことがない限り間に入ってくれるはずだ……)


「ドゥルルルルっ!!」

「どぅるるる?」

「どぉるる~っ!!」


 部屋から出たところですぐにドラコそっくりな個体が駆け寄ってくるが、その誰もが俺達を睨みつつもドラコのお父さんへとすり寄っていく。


「おお、よしよし……良い子だから我らに道を開けてくれるな?」

「ドゥルルル~っ!!」


 そんな子達にドラコのお父さんが優しく頭を撫でつつお願いすると、あっさり左右に分かれて道を作ってくれる。


(この調子じゃこの人と和解できなかったら間違いなく戦闘になってただろうな……やっぱりドラコのお父さんが居る今しかここを探索する余地はない……今のうちに出来る限りのことをやっておかないと……)


「な、なんかすっごいなぁ……」

「うぅん……そりゃあ凄いことは凄いけどよぉ……」

「幼い全裸に近い子が立ち並んでる光景って……なんつーか、犯罪染みてるっていうか……」

「エメラなら間違いなく大騒ぎしてる……ううん、興奮しすぎて気絶してるかも……はぁ……これだからエルフは……」


 呆れたように呟くマナの言葉に、俺も内心で頷きつつエメラと……ル・リダの姿を思い出してしまう。


(ああ、そうだ……いい加減に聞いておかないと……)


「……移動中に済みませんが、一つだけ聞いてもいいでしょうか?」

「さっきからそればかりだな……まあ我が娘を保護し居場所も伝えた貴様なら構わん、好きなだけ聞くがいい」

「あ、ありがとうございます……そ、その実はこの施設からドラコを助け出した離反した魔獣なのですが……ル・リダと言うのですが、その方はファリス王国で暴れていたそちらの三つ首の化け物から俺たちを庇うために転移魔法で共にこの場所へ飛んでくれたのです……な、何か心当たりはありませんか?」

「何? あやつがか? ふむ……確かに考えてみればこの場へきてこの子達を見てドラコと呼んでいたような……そうであったのか……それは悪い事をしたな」

「っ!!?」


 ドラコのお父さんの言い方から、やはりもうこの世にはいないのだと思われて俺の心の中に悔しさと苦しみが生まれてくる。

 それでも状況が状況だからか、危惧していたような怒りや憎しみといった感情は湧いてこなかった。


(俺は現金な奴だな……仲間の命が失われたってのに……だけど今は怒ってもしかたないし、それにドラコのお父さんを傷つけたりしたらドラコも悲しむ……済みませんル・リダさん……)


 内心で彼女に謝罪しつつ、せめて遺体を回収しようと更に訊ねようとしたところでドラコのお父さんはちらりとヲ・リダへと視線を投げかけつつ先に口を開いて言葉を続けてきた。


「ならばあの者だけは特別に許してやるとするか……まだ生きてはいるであろうからな……そっちの貴様と引き換えならばあやつも文句はないであろうし……」

「えっ!? そ、それはどういうことですかっ!?」

「ふむ、それはだな……最初は飛んで来たこの子が暴れようとしていたから眼中に無くそちらを収めるのを優先してな……その後に足元に居たそやつに気が付き始末しよう、としたところで三つ首のこの子の反応に引かれて出てきた子らを見て気絶しおったのだ……そこへあやつも姿を現し、無力化している魔獣を見て何かの実験の予備として使えるから取っておくと言って連れて行ったのだ」

「っ!!?」


 ル・リダの現状は余りよろしくはないようだが、それでも彼女が生きていてくれただけで俺は物凄く嬉しくなってしまう。


(ル・リダさんが生きてたっ!? 間に合ったのかっ!! ドラコっ!! ル・リダさん生きてるってさっ!! すぐにでも連れて帰るから待っててくれっ!!)


「じ、実験の予備って……な、なんかその人ほんとぉに不気味っていうか……な、何考えてるんだろう?」

「魔獣を実験に……予備……大量に合成された魔獣……そこにドラゴンの素材も混ざって……」

「……ヲ・リダ考え過ぎ……向こうに着いて正体を判別してから悩めばいいのに……そう言う所ばっかりマキナにそっくり……困った奴……」

「確かになぁ……でもリダも似たよなところあったからなぁ……」

「ああ、なんつーか理想に燃えてるっていうか先のこと考え過ぎてるっていうか……まあでも頭はよかったからなぁ……」


 改めてこの移動時間に何か考えているヲ・リダを見て、マナ達は呆れたような声を洩らす。


「へぇ~、そうなんだぁ……じゃあヲ・リダさんはやっぱりマキナさんのお弟子さんとリダさんの特徴を両ほー持ってる感じなんだねぇ……そのル・リダさんって人もそんな感じだったの?」

「うぅん……あの人はマリア様、と言うかエルフの影響が強すぎるみたいで何とも……いや、もしかしてリダって人は子供好きだったりしたんですか?」

「まあ子供が好きってのはその通りだけど、エルフとは違って保護対象として守ろうとする感じだったなぁ……」

「そうそう、貧民街で飢えてて犯罪に手を染めるしかないって思ってた俺らのことを身銭切って保護した上で他の国へ逃がしてくれてなぁ……いつかこんな生まれや才能だけで全てが決まる社会を変えてやるって……散々語られたっけなぁ……」


 何処か遠い目をしながらヲ・リダを眺めるトルテとミーア。


(そっか、この二人がドーガ帝国から離れて曲がりなりにも冒険者として生きて行けるようになったのはリダさんの……命の恩人みたいなものだもんあぁ……通りで面影を感じるヲ・リダさんを庇ってたわけだよ……)


『それよりレイド 今のうちに魔獣製造の設備を壊しておきたい 話しておくべきでは?』

「あ……そ、そうだったね……」


 そこへアリシアがそっとメモを差し出してきて、忘れかけていた俺達の目的の一つを思い出した。


(余りにもドラコのお父さんとの邂逅が上手く行きすぎて……何より残る一体の正体が不気味過ぎてそっちに気を取られ過ぎてたけど、魔獣対策も大切だもんな……)


「す、済みません……あともう一つ、俺たちはここへもう二度と魔獣が産み出されないよう設備を壊しに来たのですがどこにあるかわかりますか?」

「そんなことはそこの奴の方が詳しいであろう……尤も恐らくはこれから向かう先だろうがな……あやつが実験に使っておるのがそうであろうからな……何、気にせずとも我らがこの場を飛び立つ際には何もかも跡形も残さず吹き飛ばしてやるつもりだから安心するがよい」

「そ、そうですか……それならまあその点だけは安心、かなぁ?」


 三つ首の子が起こした爆発を思い返した俺は、不安を抱きつつも確かにあれなら何もかもいっぺんに吹き飛ばせると確信するのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] やはり、パパドラゴンは魔獣を取り込んだりはしていないのですね。 三番目はまだ本拠地に居るみたいだけれど、はたして邂逅して無事に済むのか。結局は、おおもとの黒幕みたいなので。
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