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プロローグ

 一目見た時から、俺ことレイドは曾祖父が決めた婚約者であるアリシアのことを愛していた。


「初めまして、貴方が私の婚約者様でございますか?」


 当時まだ幼い俺など言葉を覚えたばかりだというのに、同じ年齢のはずの彼女は優雅に頭を下げて挨拶して見せた。

 その仕草に綺麗な声、何よりも美しい顔立ち……俺は一発で恋に落ちた。

 こんな女性が婚約者である幸運を幼心ながらに理解した俺は、この縁を運んできてくれた顔も知らない曾祖父に感謝したほどだ。


「この度のお誘い、心より感謝申し上げます」


 少しだけ成長して、だけどまだまだ子供だった俺は周りの言葉も聞かずに毎日のように彼女の元へと通った。

 まるでお城のような大きさの家は普通に入ったら迷子になるから、彼女の部屋の窓に隣接している木を登って声をかけたものだ。

 お祭りのようなイベントがある時もここから誘って、そして彼女の隣を婚約者として自慢げに歩いたものだ。


「レイド、また遊びの誘いか? 毎日毎日よく飽きないものだな」


 また少しだけ成長した俺たちは別々の学校へ通うようになった。

 彼女は貴族様が経営するエリートばかり集めた優秀な学校、そして俺は貧乏人でも通える義務教育の範疇の学校だ。

 この頃から現実が見えてきた俺は、周りからよく思われていないことが分かってきた。


 何せアリシアはこの王国における公爵家の血を引く一人娘で、さらに言えば俺の住んでいる地域の支配者でもある。

 それに対して俺の家は一般人であり、釣り合いなど最初から取れていなかった。

 ただ単に曾祖父が過去に公爵家の当主を助けたことがあり、その縁での婚姻だと聞いている。


 だけどそんなこと関係なく俺はアリシアが好きだったから、毎日のように時間さえあれば彼女の元へと通った。


「レイド……成績が落ちていると聞くが、遊んでいる暇などあるのか?」


 更に成長したアリシアはさらに気高くなり、果ては天才的な才能を開花させてありありと見せつけていた。

 貴族学校で一番の成績を誇るどころか、実際に管轄領内に現れた魔物の群れを実際に一掃して見せるほどだ。

 その美貌と相まって国内中から憧れの的となっており、だからこそ過去の縁だけで無理やり婚約者という立場にいる俺は恨み妬みの格好の的となった。


 嫌がらせもたくさん受けた、おまけにこの国の第二王子とやらも彼女に惚れているらしく圧力のようなものをかけられて家族からも疎まれるようになった。

 だけど俺は本当にアリシアのことが好きだった、本当に愛していた。

 最初は見た目の美しさに囚われていたけれど、今は厳しくも凛々しく成長していく彼女の内面にも心底惚れていた。


 だから彼女に追いつこうと必死になって努力した。

 剣術も魔法も、座学だって手を抜かなかった。

 それでも俺は彼女に追いつくどころか、自分の学校で一番を取ることすら敵わなかった。


 この頃から、彼女は俺が幾ら誘ってもお出かけには付き合ってくれなくなった。


「レイド、わかっているな……私の婚約者たる以上はこの程度の試練は乗り越えて見せろ」


 義務教育を終えた彼女は公爵家の人間として働きながらも、更に自らを磨くために軍学校へと進学することを決めた。

 労働と勉学を両立させる覚悟があるようで、そして彼女は平民でも入れるその学校へ俺も入学するように強く進めてきた。

 もちろん必死に頑張った、周りから嫌がらせを受けながら誰からも理解を得られないまま……入学試験に必要だからと彼女から貰った剣を支えに睡眠時間すら削って頑張ったのだ。


『不許可』


 だけど結果は無残なものだった。

 俺は受かることができなかった。

 学科も実技も最低限はこなせたはずだけれども、何が駄目だったかすら説明もされずただ不合格を告げる一枚の紙だけが送られてきた。

 

 周りの奴らは俺を見下し嘲笑った……お前には彼女の婚約者は似つかわしくないと撤回を求めてきた。

 俺の両親も周囲の目に屈して俺に婚約破棄するように迫ってきた。

 最初から乗り気でなかったらしい彼女の両親も俺を汚物を見るような目で見下し、婚約破棄するように迫ってきた。


 それでも俺は彼女を愛していた、だから昔のように木に登ってアリシアの元へと向かった。


「……もういい、お前を信じた私が愚かだった」


 そんな俺をアリシアは……彼女も見下し冷たい口調で呟いた。

 何だかんだ言って彼女だけは俺にそんな目を見せなかった。

 いつだって厳しいことを言うけれど、それは自他ともに厳しいからで俺にだけ特別だったわけではないと思っていた。


「真面目にやれば受からないはずがなかったのだ……どうせ遊び惚けていたのだろう……そんなことでよく今まで私の婚約者などと戯言を口にしたものだな」


 だけど違ったのだ……アリシアもまた俺のことを嫌っていて、邪魔だと思っていたのだ。

 アリシアは確かに厳しいけれど、結果を出せなくとも努力し続けてきた人間にこんなことを言う人じゃないのだから。

 今更それに気づいた俺は、全ての支えを失った俺は……心がぽきりと折れた。


「……わかったよアリシア、今までごめん」

「謝罪などいらん、行動で示せ」

「ああ、そうだね……その通りだ……」


 俺はアリシアへと微笑みかけるとその場を後にして、その足で公爵家の正面へと回った。

 そして今まで迷惑をかけてしまった分、せめて最後ぐらいは彼女の為になることをしようと中へ入り彼女の両親へと頭を下げてはっきりと告げるのだった。


「婚約を……破棄してください」


 果たしてその日から街中大騒ぎになった。

 俺との婚約破棄と同時にアリシアと第二王子との婚姻が発表されたからだ。

 王族と縁が結ばれたことで、この国とそれを管理する公爵家はより一層発展していくだろう。


「レイド……お前はアリシア様にとっての唯一の汚点だ……新たにやってくる本物の婚約者様の気分を害さぬうちに今すぐこの街を出ていけ」


 それを邪魔していた俺は街中の人々から貶され、追い詰められ……家族すら自分たちの生活のために俺を犠牲にした。

 もうこの街に俺の居場所はなかった。


(いや、最初から無かったのかもな……だけどそれでも俺は……アリシア、君を愛していたから……)


 彼女と一緒に居たかったから頑張ってここにしがみ付いていた、だけどその彼女にすら邪魔に思われているのならばもう頑張っても仕方がない。

 何もかもがどうでも良くなって、俺は着の身着のまま……だけどどうしても手放せなかった彼女から貰えた唯一の剣だけを手に生まれ故郷を後にしたのだった。

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