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縁は忌なもの

作者: ポストマン

人はどこでどうつながっているかわからないもの。

皆さんも縁は大切に。


「頼みたいことがある」


ある日会社で上司でもある叔父にそう言われたのは、叔父が入院する一週間前だった。

顔を見ると、なんとも不健康そうな顔色だったことを覚えている。

そして退社して叔父の家に行くと、叔父と最近結婚した奥さんがいくつかの書類と一緒に待っていた。

「すまんな、呼び出して」

「いえ、それはかまいません。でも、頼みたいことって何ですか?」

緊張していると、叔父は黙って一枚の書類を差し出してきた。

書類は叔父の診断書で、『癌が全身に転移しており余命三ヶ月も無い』ということが書いてあった。

俺は内心を顔に出さないようにしながら、叔父の話を聞く。

「見てもらったとおり、俺は癌でもう余命幾許も無い。そこでお前に妻の、詩織の後見人になってもらいたい」

叔父の話によると、奥さんには身寄りが誰もいない。

そのため彼女の後見人を俺にしてもらいたいらしい。

「お前以外の親戚には全員拒否されてしまってな。何とか引き受けてもらえないか?このとおりだ」

そう言って頭を下げる叔父に俺は、

「・・・わかりました。お引き受けします」

その話を引き受けることにした。

「助かるよ、ありがとう」

「ありがとうございます」

若干白髪が混じり始めた頭を下げた叔父を、俺はただただ見つめることしかできなかった。




あれから四ヶ月、診断より若干長生きした叔父はとうとう亡くなった。

うちの親を含めた親戚連中は詩織に『若い嫁をもらったのに』『あれでは取り殺されたようなもの』等と騒いでいたが、そういった連中も葬式が終わると潮がひく様にいなくなった。

「終わったな」

「ええ、これで私たちの間に障害は無いわ」

俺は叔父の奥さん、いや恋人の詩織の腰に手を回して引き寄せる。

「ホント笑っちゃうわよね。妻の不倫相手に『妻を頼む』なんて」

「そう言うなよ。俺も笑いをこらえるので精一杯だったけどな」

そう、俺と彼女は不倫していたのだ。

そもそも彼女が叔父と結婚したのは俺の手引きによるものだ。

叔父の家族は全員死んでおり、同時に親兄弟を含めた親戚とも縁遠いと知っていた。

そして、莫大な資産があることも。

「夫を亡くしたばかりの未亡人と、それを支える故人の部下にして甥。更には故人の遺言もある。結ばれたとしても文句言うやつはいない」

「ええ、あなたには感謝してるわ。あなたが居なかったらこんな生活できなかったから」

その日、俺たちは熱い夜を過ごすことになった。




「馬鹿な二人だ」

その様子を家の外から見られていたことに、俺達は気づくことはなかった。




「どういうことだ!」

思わず目の前に居る人物に怒鳴ってしまう。

「いえいえ、あなた方は確かに返済の義務がありますから」

その返答に目の前が暗くなる。

叔父の葬儀後、俺たちは半年して入籍した。

それからしばらくは叔父の遺産で悠々自適の生活をしてきたが、やがて叔父の借金が発覚した。

その額は八千万。

最初は遺産から支払おうと思ったが、すでに遺産は底をついていたのだ。

そのため支払いを拒否したが、そうは問屋がおろさなかった。

「とにかく、支払いは確実にしていただきます。期間は三ヶ月です」

「そんな!」

そういい残して借金取りは帰っていった。

俺はすぐに遺産のことを調べると、叔父の死亡時には遺産は本来の額に比べてほとんど残っていなかった。

「どういうことだ!何で!」

そう詩織に怒鳴り散らしていると、不意にチャイムが鳴る。

また借金取りか、とも思ったがそこにいたのは叔父の友人と名乗る男だった。

「ああすまない、実はあいつから手紙を預かっていてね」

男はそういい残すと、手紙を俺に押し付けて帰っていってしまった。

「何が書かれているの?」

妻に言われて呼んだ手紙には、絶望が書かれていた。

叔父は、すべてを知っていたのだ。

俺が財産目的で彼女を差し向けたこと。

詩織との不倫関係。

俺の会社での横領。

それらを知ったのとほぼ同時期に自分が余命わずかという宣告をされた。

そのため、復讐のために当面の生活費として八千万を借りたこと。

更にはその八千万を含めた自分のほぼ全財産を生前贈与として先妻の弟に譲り渡した。

そして最後に、

《騙した相手に踊らされた気分はどうだ?いかに自分が惨めで滑稽かわかるだろう?私はもう十分味わった。今度はお前らが味わうといい》

そう、締めくくられていた。

「知ってた?全部?俺の、計画が・・・」

「ね、ねえ、これからどうするの?お金は?ねえって!」

耳元でうるさいことをわめきたてる詩織に構うことなく、俺は寝室を目指してよろよろと歩く。

これは悪い夢だと、自分に言い聞かせながら。




「社長、いいんですか?三ヶ月も時間を与えたら高飛びでもされませんか?」

車の中でそう聞いてくる部下に、俺は口元を吊り上げながら

「そのあたりは心配いらねえ。あの二人には監視が付けてあるからな」

「そんなもん付けてるんすか?経費がかかりますよ?」

「なに、おれ自身の身銭だ。気にすんな」

そう、あいつらを徹底的に追い詰めるのはおれ自身の復讐のためだ。

「最悪あいつらが死んでも構わねえ。三ヶ月たったら徹底的に追い込め」


あいつらは、俺の娘を自殺に追いやった。

娘が大学四年のとき、やつらは同じ大学にいた。

当時俺は妻と離婚していたが、それでも娘とは時々会っていたりした。

その事をやつらは見たのだろうが、やつらはそれを援助交際だと決め付け、娘を脅迫した。

それ自体は断ったが、やつらはその事を大学全体に言いふらしたのだ。

結果当時の娘の恋人は娘と別れ、決まっていた就職内定も取り消された。

さらにはそのうわさを鵜呑みにした男たちに乱暴され、娘は絶望のままマンションの屋上から・・・

以来俺は闇金を経営しながら仇たちを探し回った。

男たちはすぐ特定できたが、やつらを特定するのは一年ほど前だった。

しかしまさか、やつらの片割れが義兄の再婚相手だったとはな。

まあ、おかげで難なくやつらを破滅させることができたわけだが。

「因果応報、だな」

娘の遺影の前で酒を呷ると、仕事に戻ることにした。

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