あの曲だけ聴けない! サブスク「不完全」解禁なアーティストさん達
※この文章は2020年に書いたものなので割と時事的な表現があちこちに見られます。あらかじめご了承ください。(2022.12.7 追記)
去年はいわばサブスクの年だった。これまでほぼ見向きもされなかったサブスク市場がテレビなどの最先端に疎い人々でも見るようなメディアでも取り上げられるようになり、あのジャニーズまでサブスクに介入する事態となった。ついでに音楽以外でもサブスクという概念が進出する謎のサブスクブームが起きたりもした。
そうして一気にサブスクが世間に浸透していった2019年。じゃあ次の2020年には誰がサブスクを解禁したか。
今年に入ってサブスクを解禁し話題になったアーティストといえば、まずベストアルバムの値段を大幅に下げてまでサブスクに抵抗を示していたはずのaikoがいる。彼女の解禁は少なくとも新聞記事の一面を飾り、ニュース番組に取り上げられるぐらいの衝撃はあった。そう取り上げられてたから絶対そうだ。
それと、陰キャ御用達バンド(だった)RADWIMPSもここにきてサブスクを全曲解禁した。ライブを開くたびに独自のプレイリストをサブスクに放り込んでた時期があったので、全曲が聴けないという状況ではなかったが、「前前前世」や「愛にできることはまだあるかい」といった映画主題歌とか、突如歌詞が炎上して表題曲より話題になってしまったカップリング曲「HINOMARU」、あの過激な歌詞で悪名高き「五月の蝿」といった曲はここで初めてサブスク解禁となる。
さらにさらに、この小説(?)を投稿して数ヶ月後に「ネット出身だから最先端が好きそうなのに全然サブスクに興味を持ってくれなかったアーティスト」代表こと米津玄師までもがサブスク解禁に手を出している。
ここでようやく令和の時代を生きる若者が聴いているような人気アーティストたちの音楽がほぼサブスクに出揃ったことになる。多分。
その他、レキシや湘南乃風、Hi-STANDARDや久保田利伸などのニッチな層に人気なアーティストも続々サブスク解禁に踏み切っている。
では、もうほとんどのアーティストはサブスク解禁に積極的かというとそうでもない。例えば山下達郎やTHE BLUE HEARTSをはじめ、未だサブスク解禁に踏みきらないアーティストもまだ少なくない。「サブスク 未解禁」で検索すればすぐにそんな人たちを特集した記事がわんさか出てくる。
しかし、ここで取り上げるのは、サブスク解禁してはいるが、全ての曲を聴けるわけではないアーティスト達だ。
大々的に「全曲解禁!」とか宣っておいて実はCDじゃないと聴けません、みたいな曲がポツポツと点在することもよくある話。
この一部未解禁パターンは先述した完全未解禁アーティストに隠れやすく、また未解禁の曲がクソマニアックな曲だったり、その範囲に代表曲が含まれていなかったりするのであまり揶揄されることもなかった。
でもたった今僕は「こんな特集ってなくね?」って思ったのでやります。
まずこういう時に真っ先に槍玉に挙げられるのが、「インディーズ時代の曲だけ解禁しない」というパターンだ。
「サブスク全曲解禁!」と大っぴらに報道してもよ〜く見ると本文にしれっと「メジャーデビューから最新作までの」とか書いてることはザラにある。
インディーズ時代なんて黒歴史も同然なんだからいいじゃん、なんて声もあるかもしれないが、公式サイトのディスコグラフィを見てみると意外にちゃんと載ってたりするのでやはりモヤモヤする。
上に記したRADWIMPSもこのパターン。メジャーデビュー後に出した「RADWIMPS 3~無人島に持っていき忘れた一枚~」以降のアルバムは全て解禁されているがインディーズ時代の「RADWIMPS」「RADWIMPS 2〜発展途上〜」は解禁されていない。この当時メンバーは10代だったのもあって解禁してもしょうがないと言えるクオリティではあるが、やはり1と2がなくていきなり3から配信が始まるのはなんか気持ち悪い。
このパターンで他に有名なのが森山直太朗、たま、King Gnu(Srv.Vinci名義の作品は全て未解禁)、くるり(2枚あるうち片方は解禁しているがもう片方は未解禁)など。
そして次によく見受けられるのが「事務所移籍の影響で特定の時期の曲だけ聴けない」パターンだ。
いくら本人がサブスクに前向きでも、事務所が承諾しなければ意味がない。今の事務所はサブスクに明るいから新曲をサブスクで出すことはできるけど昔いた事務所がサブスクに慎重だからそこにいた頃の曲は解禁できない、みたいな事例もこの世にはよくある。例えばチューリップなど、わりかし古い時代に最盛期を迎えたアーティストはこのパターンに陥りやすい。
あと、槇原敬之のように移籍に移籍を重ねたせいで乱発されたベスト盤がサブスクでは一部聴けない、という珍しいパターンもある。ベスト盤にしか入っていない貴重なバージョン違いとかもあるなか、逮捕されたせいで余計にそれらのベスト盤のサブスク解禁が絶望的になるのが個人的に残念だ。
あと、「著作権の都合で特定の曲だけ配信できない」パターンなんてのもある。
特に昔は著作権に対する意識がユルユルで、無許可でサンプリングが当たり前だった時代があったため、今改めてサブスクで配信するとなるとその辺の問題の処理がめちゃめちゃめんどくさくなってしまう作品がいくつかあるのだ。
例えば電気グルーヴのような往年のテクノグループはこういう問題に直面して過去の作品が丸ごと配信不可、なんてケースもある。
この他で言うと渋谷系の始祖であるピチカート・ファイヴ、フリッパーズ・ギターの両名はそれぞれ無許可サンプリングを含む曲をアルバムに収録しているため一部の作品は未だサブスク未進出。フリッパーズ・ギターに至っては無許可サンプリングが多すぎてCDの再発すら出来ない作品があるという。
その他、めちゃくちゃ見当たるのが「初回限定版・期間限定盤にだけ入っている曲はサブスク解禁しない」パターン。
初回盤や期間限定盤にしか入れないような曲なんて大抵おまけみたいな物だからどうでもいいが、嵐なんかはこのパターンを採用したせいでジャニーズファンの間で「隠れた名曲」として名高い曲「虹」をサブスクで聴けない状態なのが悩ましい。(…とコメントしてはや一年、まさかの追加配信によってその「虹」がサブスクで聴けるようになりました。皆聴こうね)
他の例も、GReeeeN、平井堅、スピッツ、ポルノグラフィティ、ゆず、クリープハイプ、スキマスイッチなどなど、実に多岐にわたる。
そして「理由はわからないがとにかく聴けない」パターンもある。
前衛芸術の擬人化こと平沢進率いるP-MODELも、なぜか一部を除くほとんどのアルバムはサブスクで聴けない。インターネットを使っていろいろ実験やってる割にはサブスクには消極的だ。
あと、先ほど取り上げた森山直太朗も、インディーズ時代の作品だけでなく、なぜかメジャーデビュー後間もない頃に出した「いくつもの川を越えて生まれた言葉たち」というミニアルバムまでもがサブスクで聴けない。別にこの作品をめぐる権利関係の問題があったわけでもないし、ミニアルバムだから聴けないのか、と言われればそうでもなく別のミニアルバムは全て普通にサブスクで聴けるしで、今回取り上げられた中で一番解禁されない理由が謎なアルバムだ。
さらに「アルバムは解禁するけどシングルは解禁しない」(井上陽水やスピッツ、UNISON SQUARE GARDENが該当する。)
「逆にシングルは解禁するけどアルバムは解禁しない」(中島みゆきが該当。なぜ?)
「最新作だけ解禁しない・発売から解禁までタイムラグがある」(back numberや宇多田ヒカル、Mr.Childrenが該当。)
「隠しトラックだけ未解禁」(言わずもがなBUMP OF CHICKEN。わざわざそんなことする奴いねーだろと思うかもしれないが星野源やORANGE RANGEはきちんと解禁してたりする。)
などなど、パターンを上げ続けていてはもうキリがない。
そういうことで最後に、少数ながら存在する「作者本人の意向で特定の曲だけ解禁しない」というパターン。
その数少ない例がDREAMS COME TRUE。ボーカル・吉田美和氏が前夫と死別した際にその前夫に向けて作られた「AND I LOVE YOU」という曲が本人の意向で配信にもサブスクにも出されておらず、この曲を聴くにはCDを買うしかない。
作者の意向で一部がサブスク市場に出ないというのはよくありそうで意外に稀な例だ。
ということで、サブスクの「全曲解禁」といういかに都合よく使えてしまう言葉であるかがここまでの例で伺っていただけたと思う。
もちろんジャニーズや山下達郎などのサブスク完全未解禁なアーティスト達がサブスクの世界に足を踏み入れることほど喜ばしいことはそうそうないが、こういうサブスクの流れに取り残される曲を作らない細やかな対応も地味に嬉しかったりする。
CDにも一定の価値があるとは言え、聴く媒体による格差も避けて欲しいもの。せめて有料プランでないと聴けないみたいな対応でもいいから解禁して欲しい。
そんな個人的な欲を提示したところでそろそろ収集がつかなくなってきたので今回は終わろうと思う。ごめんね、尻切れトンボで。