仕事終わりに出会いました。
初めましての方は初めまして。知ってる人はこんにちは人形 菟戯です。
この度はPixivに掲載していたものをこちらで書かせていただくことにしました。
勝手ながらPixivのほうはもう更新しない、もしくは偶に更新するかもしれません、何卒ご理解ください。
ここではクローリク・クークラでやらせていただきますのでそこら辺の御理解もお願いいたします。
カラカラと風車が回るように、人が死んだら魂が回っていく。それを見守り、「罪」を裁き、回すか、止めるかを決めていく。
それは神様の仕事だと思われているようだが、その仕事をしているのは人のような、神のようなその中間に位置する者が担っていたりする
「こいつは、回すこいつは、止める.......」
真っ白いカップに注がれた対照的な色のブラックコーヒーを啜りながら目の前に浮かぶ青い半透明のパネルの上で軽やかに指を躍らせながらぶつぶつとつぶやくロシア軍服のようなものを着た長身ですらりとした体躯の男が一人用のソファーに座っている。
陶磁器のように白い肌に似合わない深く刻まれた隈がどれほど過酷な状況かを物語っているが男はパネルの上で踊らせている指を一切止めようとしない。この指が少しでも止まったら今後の業務に支障が出ることをよく知るからなのか、それともただのワーカーホリックなのか分からないが、線が細い指は狂った人形が躍り続けるかのように動き続けていく。
4時間ほどたったころに指が糸が切れてしまったかのように、もしくは人が死んでしまうかのように動きを止めた。男が深く息を吐きながらソファーに腰を深く預けていく。
「やっと終わった........」
艶かしく薄い唇にコーヒーが注がれていき、喉ぼとけが上下を繰り返していく。カップのに並々と注がれていたはずのコーヒーを飲み切り、飲み切ったカップをダークオーク調のデスクにコトリと優しく置く。
「しばらくは、仕事がないな」
右と左で色の違う目を少し伏せながら呟く。
このまま寝室に戻って寝てしまおうか、と思っていると遠くもないばしょから扉の開く音が響く。
男は困惑した。
この館に入れるのはごく少数の、それも自身の部下のみであるが、その部下たちはみな出払っていてしばらくは帰ってこない。そんな中で扉が開くということはナニカが侵入してきたということだ。
「折角の休みが潰れてしまうな」なんてことを考えながら机のうえに置きっぱなしになっているロシア軍帽を模した帽子を被り、執務室の扉を開き、階段を下っていくと白い質素なワイシャツとスラックスに身を包み、雪のように白い色をした細い腕や指、髪をハーフバックにし片目を隠すようにしてある金糸のような金髪をした細い青年を見つける。
青年は男を見るや否や少し驚いたのかに片目が隠された美しいアイスブルーの目を見開く。
無理もないだろうこの場所館は普段は部下がせわしなく動いているがここ最近は部下たちが出払っているせいで男しか居なかった。
誰もいないと思われるのも無理ない。
男は疲れからか、もしくは最初から思いつかなかったのか、そこまで頭が回らなかったらしい。
そのままふらふらとしそうな足を動かしながら青年に近づく。
そして、いまだに驚きと困惑の混ざったような表情をした青年の目線に合わせるようにすこし屈む。
これでも背は高い方なのだ。
「あ~・・・青年、なぜこのような館にいるんだ?」
自身の持つ低く唸るようなバリトンボイスからどうにか青年を怖がらせないようにと優しい声色で言ってみるが青年は言っていることが理解できないのか、それともただ返答に困っているのかはわからないが、少しキョトンとしたような、なんとも間抜けな顔になる。
そして何拍か置くと、表情は先ほどの間抜け顔などなかったかのように凛々しい顔つきになり、自身と少し似た、けれども少し高いくらいのバリトンボイスで言葉をその薄い唇から紡ぐ
「少し、道に迷ってしまっただけだ」
その一言で男は理解した。
この青年は彷徨ってこの館まで来てしまった魂だということを。
この様なことは珍しくもないがこんなにも純粋な魂がこの館まで来ることは珍しい。
殆どは悪意や憎悪といった負の感情、邪な感情を抱えた魂がうめき声や呪詛とともにやってくる。
「そうか、迷ってしまったのか。元居た場所に帰りたいか?」
「嫌だ。」
即答だ。
男が言う「元居た場所」、それはここに来る前に通るであろう、審議の門のことを言っている。
そこに戻りたくないということは門を通る前に何か吹き込まれた、もしくは、何か問題があったのだろう。
だとすれば
「なら、しばらくここに泊まるかい?」
男は友人でも招くかのように、今までの部下たちを招き入れた時のように問う。
少年は少し考えこみ始めるが男はどんどんと頭が回らなくなってきている。
無理もない。
ここ4週間の睡眠不足や徹夜、極端な食生活のせいで体力、疲労とともに限界なのだ。
少しづつぶれていく視界に鞭を打ちながら青年の返答を待つ。
もう少し待つことになるかと思っていたら唇に当てていた指を離し言葉がまた紡がれる。
「なら、世話になろう。」
ここで世話になることが今のところの最善策ということが分かったのだろう。
男はその返答を聞き入れかがめていた背をピンっと伸ばし青年に右手を差し出し、男は自身の名を名乗る
「なら、これからよろしく頼むよ、自分はゼーレ・オーペルと言う君は?」
「来蔽、来蔽冬楽だ。」
青年は差し出された手を握る。
男と青年、いや、ゼーレと冬楽の初めての会話で在り、苦楽の時間を過ごす相手との最初の握手だった