呆然として 立つ
呆然として 立つ
手元には 一枚の手紙
少し 力が入ったのだとわかる 強い宛名
ぷいと そっぽを向いて貼られた切手に
覆いかぶさるように 押されている消印
つい
昨日のこと
これが本当なら
けれど 俄かには 信じられず
僕より 背の低い君
揶揄って 遊んだ日
君のその背
受け継ぐ子 遺し
なぜ 神様は こうして
人を驚かせては 笑うのか
握りつぶした手紙には
君の無念と辛苦
最後に 添えられた 文字が一層 力強く歪む
悔しい
そうだろう
君は
相当 悔しかったのだと思う
僕だって
こんなにも 悔しくて たまらないのだから
そうか
もう君には 会えないのかと
呆然として 立つ
それは 寒い冬を 越してもなお
曇天を 見上げながら
ああ春はもう そこなのにと 立ち尽くしているような 感覚に似る
なくしてから 知るのは
誰ひとりとして
なくしたくない ということ
けれど その日は いつか必ずきて
僕も そうだろうから
だから 灰になるその いつかの日
君に会えるのかもなと
考える 今日という日
そうして
もし 会えたのなら
たとえば 道ですれ違ったり
たとえば 川の対岸であったりしても
笑いながら手を振る
君の柔らかい笑顔を 見たいと思う
それに応えて
僕も 手を振るよ
大きく大きく
身体を 揺らして
だから どうか
どうか それまで
安らかでいてくれないか
僕が おういおういと
手を振る日まで